第150話 本来の目的
そもそもの話。
何故、俺が山櫛から東城にやって来たのか。
俺自身も忘れてたけど、青嵐高校に入学する為じゃないんだよな。
「スイッチ、一緒にパーティどう?別に正式加入じゃなくて良いからさ。お安くしとくよ?」
「あはは、ありがとうございます。けど、伽藍堂先輩やあまにゃんさんのお誘いも断ってますし、そこで他の人のパーティに入るのは裏切るみたいで……」
「スイッチ、この前の配信観てたぞ!凄え面白かった!」
「あ、ありがとうございます!これからもよろしくお願いします」
休日のDAG極東本部。そこの談話スペースで、俺を知ってる人が声をかけてくれる。
ネットに常駐しているスレ民じゃないみたいだけど、高校以外でも友達が沢山出来て普通に嬉しい。
こうなるなんて、前までは考えられなかったなぁ。初めて来た時はいきなり喧嘩を売られたから、東城のダンジョンアタッカーは皆あんな感じなのかと疑ってたし。
そんな事を考えながら、スマホで時間を確認する。
「……そろそろだよな?」
先日、DAGから俺に届いたメール。
謝罪から始まり、検査の日程に関する内容を見て、本来の目的を思い出した。
そう、俺はスキルと身体の検査の為に東城に来ていたのだ!
東城に来てから、色々あったからなぁ。命狙われたり、喧嘩売られたり、命狙われたり……ロクな目に遭ってねえな。修羅の国かよ。
「失礼致します。戸張照真様、でございますか?」
「あ、はい。そうで、す……?」
約束の時間ピッタリに話しかけられ、振り向く。
メイドさんがいた。
……??
「初めまして。本日ご案内を担当させていただく、亜継と申します。以後お見知りおきを」
「……あ、はい」
DAGに出入りする人の服装は、それぞれ個性的だ。ダンジョンアタックに挑む為、自分のジョブに合った装備を付け、ドロップで得た装備や装飾品は強さを証明する一つのバロメーターにもなるからだ。
だが、目の前にいるメイドさんは明らかに異質だった。上品なしつらえのクラシカルなメイド服はとても戦闘には向かず、しかし内包するマナは高ランクのダンジョンアタッカーと遜色無い。丁寧な言葉遣いと嫋やかな仕草ではあるが、今ここで戦いが起きてもすぐに対応出来そうな程隙がない。
強さと見た目がチグハグだ。こんな人、初めて見た……。
「……様。戸張様?お身体の調子がよろしくないので?」
「うぇっ!?あ、はいすいません。ちょっと見惚れてました」
「まあ。光栄にございます」
柔らかい笑みを浮かべ、その場で優雅にクルリと回ってみせる。映画みたいにロングスカートが大きく膨らむ
「ぉおお〜……凄え……!」
「戸張様の緊張が解れたようで、何よりにございます。それでは、こちらへお願い致します」
メイド……亜継さんに連れられ、DAGの中へ進んでいく。目的地はこの階ではないようで、エレベーターホールでエレベーターを待つこととなった。
けど、ホントにデカい建物だな。外からじゃ全然分からないくらいに奥行きがあるし、エレベーターが十基以上ある。これが都会か……。
基本的に素材の換金の時しかDAGに来ないからなぁ。強くはなりたいけど、また変なのに絡まれるのは嫌だし……フィールドホールも、あの四つ星のダンジョンアタッカーの人との戦い以降は行ってないしなぁ。
あ、エレベーター来た。いや中も広いな!?こんな広いエレベーター初めて乗ったぞ!?
亜継さんに促されて入ったエレベーターの大きさに驚きながら、背中を扉の反対側の壁に軽く預ける。
エレベーターが閉まったその時。
「……」
「……」
全力で、目の前の女性に警戒を向けた。
「……ダンジョンや許可された場所以外での、スキルの使用は禁止されてますよね?」
「……」
「初めて会った時から今も、ずっとマナを消費し続けてますね。サモンスキル……あまにゃんさんが使っているのを見た事がありますけど、彼女とサモンされたモンスターはマナを共有してました。今の貴方みたいに」
ビリビリと空気が震える。俺が言葉を発する度に空気が重くなり、ダンジョンの素材で出来ている筈のエレベーターがカタカタ揺れる。
師匠の襲撃以来、俺はDAGをあまり信用していない。勿論、全員が『牙』の様な、組織の裏側の存在まで知ってるとは思わない。だが、一定以上の強さを持つ人、DAGの中でそれなりの地位を持つ者は、金なり権力なりで仲間や強者を従えて俺を狙ってくる可能性を考えていた。
目の前の人物は、正にその要警戒対象の枠に収まっていた。
「そもそも、サモンスキルはダンジョン内でしか使用出来ないデメリットがあった筈。何で使えてるんですか?それとも、その前提条件が間違ってたとか?……《《お前等》》は、まだ何か隠してるみたいだな。『牙』みたいに」
俺に向けられていた気が乱れるのを見て、確信する。
コイツ、《《知っている》》人間だ。
やっと見つけた、D災の真実を握っている可能性のある人間。沸々と湧き上がる怒りを抑えながら、俺に背を向ける情報源を逃さぬ様に扉に手を当て壁際に追い込む。
「お前が知ってるD災の全て、全部教えろ。
潰すぞ」
「……戸張様」
俺に詰められてから初めて、メイドが口を開いた。
「誤解なさらないで下さいまし。私は、貴方の思う方々の僕ではございません」
「あ?」
「逆にございます。私……我々は、『彼等の敵』なのです」
敵?あいつ等の?
何だ?どういう事だ。まだ他にも、色々企んでる組織があるって事か?権力争いってのは、どこまで人を弄べば……!
「戸張様の感じる怒りは尤もでございます。そして、それは我々も同じ。D災の様な悲劇を二度と繰り返さぬ為尽力する、唯の名も無き集団にございます」
「……そんな戯言を言えば、信じてもらえるとでも思ったか。D災がどれだけ多くの命や物を奪ってきた。あんな事が無ければ……!!」
「その資料が、数多様から託された物だとしても?」
「…………は?」
師匠?師匠が託した?アレを?何で?
思考を停止させた俺に畳みかける様に、メイドが続ける。
「ご主人様は、数多様からその資料を受け取り、この国に巣食う蛆を見つけました。故に、私の様な義憤に駆られた者を集められたのです」
「ご主人様?」
チーン、とエレベーターが目的の階層に到着した事を告げるベルが鳴り、手を付いていた扉が動く。
「はい。我々の主人──」
「やあ、久しぶりだね」
「伽藍堂結城様にございます」
……え。
「えええええええええええええええ!?」
「そんなに驚くことだったかな?」
「師匠の友達が俺の倒すべき相手!?」
「まだ混乱してるみたいだね。少し落ち着いて」
「じゃあ亜継さんがメイド服なのも!?」
「こちらは(私の)趣味です」
「(伽藍堂さんの)趣味なんですか!?」
「……ここに来るまでに、何を話してたのかな?」
その後、なんやかんや敵だという誤解は解けました。
しかし、亜継さんが何故サモンスキルを発動し続けていたのか。それだけは全然教えてくれなかった。何で?
 




