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【書籍1巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話  作者: ゲスト047562


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第148話 羽場焔那は〇〇だった

『……今、何と言った?もう一度言ってみろ』


『コウが動くなってさ。今動けば、僕達の名を利用したがる連中に餌を与えるだけだって。僕も同意見だったから、君を止めにきたんだ』


気付けば、伽藍堂を殴っていた。怒りが止めどなく噴き出し、烈火の如く彼に詰め寄る。

彼は《《いつもの仮面》》を取り、無表情で淡々と現状を説明する。

ずっと嫌っていた、DAGの政治家としての側面。それが再び彼女の前に立ちはだかり、彼等を分断していた。

しかしそれでも彼女は、伽藍堂ならば数多を救う事に手を貸してくれると、あの地獄を友に味わせる様な事はしないと、そう信じていた。


『それが友を救えない理由になるか!上の連中のご機嫌伺いなんかの為に、奴の名誉回復の機会を失くす?違うだろ!!お前がそれを……《《オレ達だけはっ》》、それを言ったら駄目だろうが!!!』


だからこそ、友を売ったとも捉えられる様な彼の発言に、彼女は深い絶望と拒絶と感じた。


『……もう、良い。お前に僅かでも情があると期待したオレが馬鹿だった。そんな本性(かお)を持っていたなんて、知りたくもなかった』


違う。

こんな事を言いたい訳じゃなかった。


『お前の顔など、もう二度と見たくない』


本当に言いたかった言葉は。


『……何で、いつもオレを置いていくんだ』


一人にしないでくれと。唯それだけを言う強さが、彼女にはもう失われていた。

羽場焔那は、無力だった。






『ハァ……ハァ……クソッ』


四つ星ダンジョン。一瞬の気の迷いで容易く命を落とす場所。

三つ星となった焔那は、何かを振り払う様に独りでひたすら戦っていた。


(そうだ、オレは強くなる為にダンジョンアタッカーになったんだ。伽藍堂結城に勝つ為、クソ親父を超えた怪物になる為。馴れ合う為に一緒にいた訳じゃないだろ。《《最初に戻った》》だけだ!)


自分に言い聞かせる様に、大剣を振るう。しかしその切先は鈍く、手に馴染んだ感触は酷く重い。

結局、数多は救えなかった。気付いた時には、彼は埼棚(さきたな)のダンジョンで死んだという一報だけが齎された。


『……ッ!アアッ!!』


振るう。振るう。振るう。

ガムシャラに武器を振るい、スキルを放ち、地形を砕く。

しかし、彼女の中の残像は消えない。どれだけ必死に言い訳しても、無理矢理自分を納得させようとしても、自分を打ちのめす言葉がチラつく。

何故これ程までに弱いのか。


(……黙れ)


父の実験体としても役に立たないとは。


(黙れ)


伽藍堂結城が、自分と数多を《《見限った》》のも当然だ。あの二人がいたから、自分は《《まだ怪物でいられ》》……


『黙れッ……!?』


夢から覚める様に、鋭い痛みが顔に走る。

顔を上げると、コアを破壊し切れなかったコアモンスターが、身体を再生させ彼女を見下ろしていた。


『……クソ』


何に対するものか分からない苛立ちと共に、全身に力を込める。

どちらのモノかも判別出来ない咆哮がこだまし、限界を迎えそうな肉体を更に酷使する。

潰し切られ斬り折り殴られ砕かれ……唯の暴力の嵐となって、自分を見下す全てを破壊する。


『ハァ……ハッ……!』


『おい!大丈夫か!?』


時間の感覚も分からなくなる程に敵を屠り、気付けば救助に来た『至強』の仲間達が焔那を保護していた。

焔那は、三日間も不眠不休で戦い続けたらしい。そんな彼女を、仲間達は怪物を見る様な目付きで見てくる。

しかし、自分の中に棲みついた怪物達は消えず、今もまだ目の前で嘲笑するかの如く立ち続けている。

悔しくて泣きそうになるのをぐっと堪え、誰にも言えなくなった弱音が、つい零れてしまう。


(何故だ。何故……)


『オレはいつから、こんなに弱くなったんだ……』


羽場焔那は、孤独だった。





最近、変な青年に出会った。


『…………羽場さん!?』


父が後見人になったというその青年は、あの男が送り込んできた刺客にしては、あまりに頭が弱そうだった。


『……俺は殺されても文句は言いません。唯、俺は父さんと母さんに顔向け出来ない様な真似は断じてしていません。それだけは、どうか信じて下さい』


しかし、それ以上に強い信念を伽藍堂相手に貫き通すその姿勢に、思わず目を見開いた。

moveでダンジョンアタックの配信をしている事は知っていた。かなりの強さを持っているらしいという事も。

そんな積み重ねられた言葉が霞んでしまう程の、魂の輝きとでも呼ぶべき心の強さに、一瞬目を奪われてしまった。


『……何故』


何故、人の為にそんな簡単に命を捨てられる?そう聞いてしまいそうになったところを、伽藍堂が中断する。

結局、その答えは聞けなかった。だが、仕事で彼と過ごしている内に、そんな問答は些細に感じるようになってきていた。


『羽場さん、家事は何が得意ですか?……はい?一人暮らしですよね?どうやって生活してきたんですか?』


あまりに真っ直ぐで。


『だーかーら!缶ビール六缶セットは一つに入りません!一日で飲んで良い量じゃないでしょうが!冷蔵庫を無駄に圧迫するだけです!』


あまりに図々しく。


『つまみと酒だけじゃ、ダンジョンアタッカーといえどいつか体を壊しますよ。ちゃんと野菜も摂って下さい。はい、ちゃんと羽場さんの好きな肉も入ってて食べやすいですから』


それでいて、甘い果実の如く人を惹きつける魅力を持っていた。

性格良し。器量良し。顔良し。そんな彼に世話を焼かれながら、監視という名目で共に過ごす日々に、優越感を感じずにはいられない程、彼女の心は死んでいなかった。


「いただきます」


「今日の夕飯はカレーですよ」


「そうか」


「おいコラ朝から酒を開けるな。手癖悪過ぎでしょ」


「チッ。今日は遅くなるかもしれん、先に食ってて構わんぞ」


「分かりました。それじゃあ照真君、また夕飯もご馳走になるよ」


「うん、またというか今朝も呼んでないんですけどね?先輩が最近よく来るから多めに作り置き出来るメニューにしてるんですからね?」


「私の為にそこまで……」


「そういう意味じゃないんですよ」


「食費を払ってるんだから良いだろう」


「……あっ!身に覚えの無い酒増えてると思ったら、そういうことか!先輩に買収されましたね!?」


監視体制が緩み、共同生活を解消して構わない旨が記されたメールが送られた今も、彼女はこの居心地の良い場所にいる。以前からは考えられなかった、あの日に似た賑やかさが、暗い静寂に包まれていた彼女の生活を優しく照らしていた。

そして、自らが招いた闖入者に対して、子供じみた嫉妬を抱いて困惑するなど、思ってもみなかった。


「……ハッ。まさかな」


存外、羽場焔那は乙女だった。

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