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【書籍1巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話  作者: ゲスト047562


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145/168

第145話 かけるモノ・かけられるモノ

(結局、護衛()の追加は間に合わずか……所詮、ロクデナシの寄せ集めか)


とある料亭で、苛立ちを隠す様に水を飲む男がいた。

男……金城聡が、約束の時間より三十分も早く着き、こうして水を飲んでいるのには訳がある。

久しい人物からの、何十年振りの連絡。その名前に驚き、そのタイミングに慄いた彼は、まず真っ先に《《その人物を疑った》》。

経歴を一年前から遡り、『自分の趣味』に関与していないか洗い、周りに不審な点が無いか探る。

同時に、自身の伝手から信頼出来る者に《《施し》》を与え、人目の付きにくい料亭を貸切にしてもらったのだ。


「お連れの方がいらっしゃいました」


「!ああ……分かった」


緊張を察せられぬよう、居住まいを正す。

最大の警戒と、奥底に隠している侮蔑。これから会う人物に、決して会話の手綱を握られぬように。

何故なら……。


「……久しぶりだな」


「お久しぶりです、『先輩』」


その相手は、『人生こそ最高のギャンブル』と吹聴する第一世代ダンジョンアタッカーの元軍人であり、その類稀なるセンスと観察眼で数々の死戦を潜り抜けてきた、イカれたギャンブル狂いなのだから。

金城の対面に男が座る。金城の記憶より老けた顔。髪は全て白に染まり、痩けた頬と痩せた体躯が年月という衰えを感じさせる。しかし、その枯れ木の様な身に纏う空気は刃の如く研ぎ澄まされ、空気さえ凍り付く様な気配を漂わせている。


「……先輩はよせ。今は、唯の伝承者(はなしずき)だ」


「はな、しずき……?先輩が、ですか」


「……生きていれば色々ある。儂も、それだけ歳を重ねたというだけだ」


(冗談じゃない。一体どんな重ね方をすれば、そんな殺気に近い空気を纏えるんだ。怪物め……)


老いて尚、否それ以上に凄まじいオーラを醸す伝承者(はなしずき)。見た目とは裏腹な老醜を感じさせない飄々さを苦々しい思いで見ながら、まずは再会を祝して乾杯する。


「……ふむ。良い酒だ、久しぶりに飲んだ」


「ここは政治家も御用達の名店ですので。中でも《《ハム》》が有名なんですよ」


「……ほう」


「良ければ先輩にも、『特別なハム』をご用意しますが」


「……いや、いい。あの時、工作班で後方支援をしていたお主が、ここまで偉くなるとはの」


「先輩方のご活躍あってこそですよ。それに当時は、私の様な裏方は地味な活動ばかりで……それがようやく実を結んだ形になったのが、つい最近というだけです」


言葉ばかりの謙遜。

当然だろう。伝承者はDAG発足当初より、最前線で戦っていた第一世代ダンジョンアタッカー。後方支援に徹していた金城は、彼等の輝かしい戦歴に隠れ、栄誉とはついぞ無縁であった。

しかし、それも昔の話。第一世代の大半は殉職し、残った殆どは勇退という形で隠居、もしくは大きな傷で活動が制限され、別の職を握り細々と生活している。

対して自分は、後方支援で培った観察能力とコミュニケーション能力で、あらゆる機関と連携し、己の地位をここまで高めるに至ったのだ。


(前線で突っ込むしか脳の無かった第一世代より、私の方が有能なのは誰が見ても明らか。目の前にいるのがどんな怪物だろうと、最早恐るるに値しない)


そう自分に言い聞かせ、心にも無い美辞麗句を重ね合う。互いに言葉を交わしながら、表面上は和やかに会食は進む。

見下している部分があるとはいえ、場所は違えど地獄の中で支え合ってきた同志。彼にはそれなりの尊敬を持っている。彼の直感には幾度も窮地を救ってもらったし、無口で無愛想ではあるが情に厚い人間性の持ち主である事は理解しているからだ。

そして当然知っている。目の前に座す男が、何の用も無く連絡を寄越す筈がないという事も。

故に、多少酒が入ろうと関係なく、旧知の友人であろうと油断なく、金城は切り込む。


「それで……そろそろお聞かせいただいても?何故急に連絡をしてきたのか」


「……ああ、単刀直入に言おう。金城、お主の下で暫しバイトをしたくてな」


「バイト……ですか?先輩が?」


「……最近、随分と羽振りが良いらしいの。なに、金の無心ではない。今のダンジョンアタッカー共と同じ場に戦う気にはならんでの。《《金を持つ者の私的な用心棒》》にでもなれんかと思ってな」


内心で舌打ちし、確信する。

金とは大河の源流だ。誰かがその流れを操れば、必ず支流が生まれる。そうして人間の欲望と共に、少しずつ幾千幾万の支流が、更なる大河に続いていくのだ。

金城のやってきた事もまた同じ。しかし、隠密や隠蔽工作には必ず巨大な金が、その支流の中から汲み上げられる。その量は、その辺の会社の不祥事とは比べ物にならない。

今まで一定量流れていた金の量が突然少なくなれば、それを汲み上げた『誰か』がいるのを疑われるは必然だろう。


(この人ならば《《やりかねない》》。どこで知ったかは分からないが、『牙』はこの人に消されたのだ。自らがその座に収まる為に……そして)


次は自分、その考えに至り、燃え上がる様な憤怒が湧き上がる。

ふざけるな。長年かけて築き上げてきたこの位地を、横から掠め取られてなるものか。

自分がどれだけ他者を蹴落としてきたのか、その下に埋もれる数多の屍を見ようともせず、金城は己の金を奪いに来た外敵を睨む。

しかし……。


(この人が最初からその気ならば、既に私は消されていた。だが、護衛に付けていた牙だけを消し、こうして単身で私が用意した罠へ足を踏み入れている。い、今ならば、その油断につけ込める……!)


頭を回す。伝承者に首輪を付ける為、そしてあわよくば消えてもらう為……金城は言葉を探す。


「な、るほど……それは願ってもないことで。しかし、いくら大恩ある先輩とはいえ、いきなり仕事を任せるのはちょっと……」


「……担保か?」


「いえいえいえ!そういう訳では!」


既に、この男が差し出せる物など、殆ど残っていない。ギャンブルで大きく負けたのかは不明だが、終活の如く家財を売り払った後、ひたすら家に引き篭もり、《《外部の者と接触すらしていない》》事は、調べが付いている。

そんな男が差し出せるモノとなれば、それはその身に宿す力以外にないという事も。故に金城は口を開く。


「そうだ。一つ、賭けでもしませんか?先輩が好きな」


「……ほう?」


「先輩の勘が錆び付いてない事を証明出来れば、《《良い仕事》》を斡旋させていただきます。勿論、私に勝てればですが」


「……それは困る。お主に見返りが無い」


「それでは、シンプルですが『負けた方は一つ相手の言う事を聞く』という賭けでもどうです?私が勝てば先輩を顎で使えますし、先輩が勝てばバイトの斡旋に協力しましょう」


「……お主が良いなら、その賭けに乗らせてもらおう」


勝った。金城は確信した。

この為に準備してきたのだ。例えこの男が無実であろうと、己の意のままに飼い殺しにする為に。相手の願う行動をチラつかせ、リアクションを誘発する。それだけで、簡単に相手は地獄への道を歩いてくれた。

現在の状況は、全て金城の掌である。


(誰が運に依存するギャンブルなどするか。欲しいならば、イカサマでも何でもして、全て奪い取ってしまえば良いのだ)

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