第132話 終末点ターミナル駅・2駅目
電車から降りると、電車はすぐさま上を目指して消えて行った。
代わりに、目の前には既に新たな電車が鎮座している。
「うわ、見て下さい。中は既に満員ですよ」
“きっしょ”
“中の影全部敵なのキツいな”
“きもE”
“ラッシュ時の山辺線みたいだぁ”
「因みにこっちの電車に乗ると入口に帰れます。
この敵を全部倒さないと駄目ですけど」
話している内に、中から影がズルリとのたうちながら這い出て…。
「いやデッカ!?これシャドウミストスライムだ!」
黒い霧の様な体躯の中にコアを二つ持つコアモンスター、シャドウミストスライム。
他のモンスターを押し退ける程の巨体だが、守るべきコアが丸見えの為、強さはそれほどでもない。
コイツもそうだけど、ゴースト系のモンスターは全部、身体を一部分だけ実体化させる特性を持っているから、スキルの合間に実体化した身体を差し込まれたら面倒だ、な…っ!?
「うおぉぉおおっ!?」
シャドウミストスライムに押し退けられていた他のモンスター達が次々とホームに降りてきて、濁流の様に俺をホームから押し流そうとしてきた。
通常は実体が殆ど無いと言っても、モンスターはモンスター。反射的に距離を置こうとして、気付けばホームの端、断崖絶壁にまで追い込まれていた。
「ふんっ…!!」
雪崩の如く押し寄せるアーストゥワイルシャドウ。ソイツ等の服に指を引っ掛け、纏めて《《沈める》》。
「とうっ!」
その背後から飛んできた黒く小さな針の雨、シャドウミストスライムの『スピットレイン』をジャンプしてかわす。
“いやコッワ”
“おい押すなって!”
“え、これ試練型だよな?迷宮型じゃなくて”
“降りますって言ってるだろうが!”
“出口前に突っ立ってんじゃねえ!!”
“スマホ見てねえではよ降りろやカス!”
“人出てる時に乗ろうとしてくんなボケェ!!”
“社畜ニキ魂の怨嗟”
“スイッチの心配は?ww”
“割とガチの恨み言で草生えますよ”
着地した地面が、急に黒く固まって俺を捕える。
ホームに身体を這わせたシャドウミストスライムが、その巨躯を実体化させて、他のモンスター諸共俺を体内に取り込もうとしていた。
更に、俺を取り囲む多数の影が、マジックスキルを連射してくる。
“アカン(アカン”
“四つ星ってこんなやべーの?”
“ボケてる場合じゃなくて草。いや草じゃないが”
“怖すぎる…”
「シッ…!!」
手に持つ新たな武器で、俺を呑み込む霧を打ち払い、マジックスキルを叩き落とす。
「強くなる為のその一!力加減を覚える!」
ブンブンと振り回している新武器……ヌンチャクを見せつける様に担ぐ。
そのまま『纏魔気鱗』を発動してヌンチャクまで纏わせ、シャドウミストスライムへ突っ込む。
「ハイイイイィッ!!」
霧が実体化するより早く、コアを打ち砕く。
シャドウミストスライムは身体を縮小させ、アーストゥワイルシャドウの群れの中に逃げて行くのを見届け、改めてヌンチャクを構える。
最初の戦いでは、鈍ってないかの確認だけだったからな。今度は、自分の力を少しずつ制御しながら進んでいこう。
“ヌンチャク!?w”
“唐突に何か出て来たw”
“まーた違うOWだよ”
“壊すなよー?w”
“どんだけあんだマジで…”
それに『武芸十八般』というコモンスキル。何となくその武器の使い方が分かるだけじゃ、全然駄目だ。自分で色んな武器を使って、長所や弱点を見極めなきゃ、今以上に先は無い。
円を作る様にヌンチャクを回し、マジックスキルを次々と振り払う。返す刀でヌンチャクにマナを送り、棍棒の部分を長く伸ばし、敵のコアを打ち抜いていく。
「はい!ガーランド・ウェポンズ最新作、オーバードウェポン、間も無く発売!多分!!」
“おおおおおおおおお”
“凄え。ちゃんと武器だ”
“ダイマも忘れないダンジョンアタッカーの鑑”
“多分かよw”
“そこは具体的に言ってくれ”
“はよ戦え”
“冒頭で四つ星ダンジョンの危険を説明してなかったかこいつ”
“スイッチだから”
ヌンチャクを壊さない様慎重に、しかし敵には容赦なく、コアを狙っていく。
「ちっ……!難しいな、鎖で繋がれてる先が揺れる!」
しかし、鎖が揺れるせいで微妙に狙いがズレる。
うーん、振り回し過ぎても壊れそうだな。いっそ、また『飛刃』で一掃して……いやそれじゃ練習にならねえだろ。でもこの数は流石に多いよな。こんなコアモンスターがウジャウジャいる光景はまるでアレを──
「──……………?」
ストン、と。膝が崩れ落ちた。
“お?”
“何してんww”
“見えない攻撃でも避けた?”
“何もないとこで転けてて草”
“ん?”
“何転んでんだよww”
あれ?何だ?今何を考えようとしたんだ?俺は……。
「……ッ『飛刃』!!」
目の前に突然現れた影。力の抜けた全身に無理矢理力を込めて、斬撃を飛ばす。
影が消し飛び、辺りの景色が鮮明になる。赤黒い空に、ボロボロのホーム……。
「……ブハッ!!ゴホッ、ゴホ…!」
“ん?”
“何だ?”
“急になんやねん”
“苦戦アピやめてね”
“また飛刃かな芸がないぞ”
“ネタかガチか分からん”
“スイッチはダンジョンアタッカー芸人じゃねえよ!w”
“スイッチなら苦戦する事に苦戦するレベルだろ”
「……は、はは。いやー危なかったですねー」
いつの間にか止まっていた呼吸を再開し、膝に付いた埃を叩いて落とし、崩れていた体勢を戻す。
視界に沢山いたコアモンスター達は消えている。横にあった電車も……。
「……あ」
上下に分断され、ガラガラと崩れながら下の地面に沈んでいった。
“草”
“自分で退路壊したwww”
“さ、先行こうかw”
“何かおかしくなかったか?”
“スイッチだしな”
“↑混乱するからやめーやww”
「……いや、まあまあまあ。元々先に進むつもりだったし?じゃあ電車の中でスキルカード見ていきましょうねー」
うーん?何だったんだ一体?何か、変な違和感みたいなのが……けど身体に傷は無いしな……。
“お、魔晶あるぞ”
“魔晶出てるやんけ!”
“素材ガチャ当たりじゃんwww”
“めっちゃ素材あるなー”
“お、鋼生糸だ。調達クエストにあった奴”
“調達クエに載ってるのも出てるからウハウハだな”
“鋼生糸ここで出るのか”
「あ、ホントだ。鋼生糸と……霧の体液も調達クエストで懸賞が懸けられてた奴ですねー」
“魔晶は?”
“うめー”
“霧なのに体液…?”
“魔晶どうぞ”
“魔晶も落ちてるんですけど?”
「何で魔晶食うの前提なんだよ。食べるとしても、これを食べるのはマナドローン君です」
周囲を見渡し、他に落ちている素材が無いか確認する。
………うん、特に何も無いな。毒や幻系のマジックスキルが使われた形跡もしない。唯気が抜けただけか?
「んー、まあ良いか。じゃあ久しぶりにスキルカード見ていきましょう!何かレベルアップしてないか楽しみですねー」
“wktk”
“トンチキエクストラ期待してるぞ”
“魔晶食わないの?”
“純度は中ぐらいだがスイッチ的には美味しそうじゃないのか”
“食ったらまたギルマスに怒られるからじゃね?”
“そういや魔晶食ったの怒られたんだったかww”
“もっと四つ星ダンジョンの危険度を実感しろ”
“スイッチだしな”
“全部↑ので解決させるな”
“↑↑スイッチ直伝のパワープレイやめてもろて”
《《握りしめたままだったヌンチャクを仕舞い》》、俺は新たにやって来た先に進む電車に乗り込んだ。




