第126話 強者が煽るは自明の理、弱者が煽るは自滅の火
70 マスター
それなりに集まって来たようだね。改めて説明しよう。
政府非公式部隊『牙』が再び作られた。
しかし、1号によって30号までの牙全員が殺された後の緊急召集の為、その練度はお粗末なものだ。それでも、腕に覚えのある犯罪者達を呼び出したから、強さは最低でも三つ星クラスといったところだろう。
まずは『牙』の人事を担う男、鏑矢宗達を討ち、人員の供給を止める。同日、牙を一人消してもらいたい。
71 no name
やるやる!
72 no name
是非に
73 マスター
しかし、心して聞いて欲しい。
私は、君達の感情を利用し体良く人を殺してもらおうとしているに過ぎない。他者を使った身勝手な復讐と揶揄されても仕方ない。
これは、『私欲の為に共に国と喧嘩してくれ』と同義なのだ。
賛同してくれたのは嬉しいが、よく考えて欲しい
74 no name
今更か?
75 no name
そんな覚悟、あの文書読んだ時点で決まってるんだよなぁ!!
76 no name
謝るな。これはあんたやスイッチの事情とか関係無く、俺がしたくてやってる事だ
77 no name
ん?こんな巨悪を目の前に差し出されて、何もせず泣き寝入りしろってか?ふざけんな、そしてなめるな。他はともかく、俺は悪を殺す為に悪になる覚悟はとっくに出来てんだよ
78 no name
倫理:無し
躊躇:無し
忖度:無し
79 no name
殺意:有り
80 マスター
愚問だったみたいだね、すまない
81 no name
じゃあ皆で一気にやりに行く?いつでもいけるよ
82 no name
結構人数いそうだが大丈夫か?
83 マスター
では13号の牙を>>100に、鏑矢宗達を>>104にお願いしようかな
アンカーリンクというんだろう?
84 no name
はっ!?
85 no name
ここにきて安価かよぉ!!
86 no name
ガッツリ重い内容ぶつけて来た後の突然の安価で草
87 no name
13号とか1号って何?
87 マスター
『牙』における強さの序列だね。1号が最も強い牙だよ
88 no name
ほーん。数多って確か狂人だよな?アイツそんな強かったんか
89 no name
この資料見る限りかなり誤解あるやんけ…DAGホンマ(
90 no name
狂人に先越された感あるの悔しいな
91 no name
狂人1人で前の牙皆殺しにしたのヤバすぎで笑うしかない
92 no name
素手スキル無し縛りでも四つ星ダンジョンアタッカー共を一捻りに出来る奴だぞ
嫌いではあったけど、これ見るとな…
93 no name
そろそろか?
94 マスター
ああ、当たった者は分かりやすい様にハンドルネームを変えて欲しい
95 no name
無駄に消費させんな!!
96 no name
ここ!
97 no name
俺がバターまみれにしてやる
98 no name
(ʘ言ʘ╬)ノ
99 no name
あ
100 no name
今
101 no name
(ʘ言ʘ╬)ノ
102 no name
あああああああああああああ
103 no name
これ
104 no name
ノ
105 no name
ここだ!
106 no name
クソオオオオオオオオオオオ
107 no name
(ʘ言ʘ╬)ノ(ʘ言ʘ╬)ノ(ʘ言ʘ╬)ノ
108 マスター
ではよろしく。牙は既にダンジョンに誘導しているから、GPSを辿っていけば会敵出来るだろう。鏑矢の方は普通の人間だ、好きにしてくれて構わないよ
万が一の為、後詰には私が控えているから、安心してくれ
109 黒木
舐めんな。て訳で黒木行ってきまーす
110 亜継
畏まりました
=====
(反吐が出る)
例の掲示板で「黒木」を名乗った男は、内心で吐き捨てる。
その視線の先には、13号の牙。
「くっ…!『飛刃』!」
「『飛刃』」
互いにマジックスキルを飛ばし合う。
しかし、散漫な意識の中で放たれたものと、具体的なイメージを持って放たれたもの。勝つのは当然……
「ん、なっ…!?」
自身のマジックスキルだけが打ち消され、驚愕しながら逃げる牙に対し、その横腹に蹴りを叩き込む。
「げはっ…!ヴォエェェ……!!」
「努力が報われないのは別に良い。世の中は競争社会だしな」
黒木の言葉に聞く耳を持たず、転がりながら距離を取る牙。
「『ブレイズピラー』!!」
火柱が立ち上がり、黒木と牙を寸断する。
黒木は冷静に炎の奥を睨む。一歩下がって炎の柱から距離を取り、炎の影から現れる敵を迎え撃つ。
「ゴォアアア!」
横から飛び出してきたのは牙ではなく、戦いの音に誘われたヴェンディゴデッド。
黒木は動じず、デザートイーグルの銃口に鎌の刃を当て、引き金を引く。
「ガ、ギィィエエエエ!?」
銃弾が二つに切り分かれ、分裂する。その弾丸は、綺麗にヴェンディゴデッドの両目を穿ち、絶叫を上げさせる。
「チッ…!」
炎が消えると同時に振り下ろされた剣を鎌で受ける。
「でもな、誰かが必死こいてかき集めた努力を、お前達みたいな奴が掻っ攫って笑ってるのだけは、反吐が出る程ムカつくんだわ」
「はは!道徳の押し売りはやめろよ、鳥肌が立つぜ」
鎌の柄を蹴り、大きく横に飛ぶ。
目潰しから復活したヴェンディゴデッドが、怒りの雄叫びを上げながら黒木に向かっていくのを見て、牙は自分に再びツキが回ってくるのを感じていた。
「『飛刃』!」
黒木の意識がヴェンディゴデッドに行くのを見逃さず、『飛刃』を放つ。間をおかず、拳銃を取り出して連射する。
(モンスターとスキルの十字砲火だ!どっちに対処しても必ず致命傷を…)
牙が見たのは、大鎌をまるで居合の様に腰だめに構える黒木。そして……。
「『爆刃』」
振り抜かれた鎌から、巨大な熱エネルギーが放たれた。
小さな嵐はヴェンディゴデッドを呑み込み、牙の攻撃を打ち消した後、牙自身の腕をボロボロに炭化させた。
「………あ?」
あまりに突然の事態に、牙の思考が停止する。しかし、それも一瞬の事。黒く焼け爛れていく腕の痛みが、強制的に現実を突きつける。
「…あ、ぎっギャアアアアアアアアアアア!!!」
右腕を押さえてのたうち回る牙。そこに、巨大な分銅と鎖が蛇の様に巻き付き、動きを絡め取った。
「ギ、ぐ……!?」
身体の自由を奪われながらも、鎖の元を探ろうとする牙が見たのは、大鎌の石突があった部分から伸びている鎖。
(嘘だろ…!?アレは唯の鎌じゃねえ、《《巨大な鎖鎌》》だったのかよ!)
「『チェーンブラスト』」
付け根の鎖から、爆発が起きる。それは次の鎖、また次の鎖へと連鎖していき、徐々にその大きさを増していく。
「……おい。待て。分かった!降参だ!」
「あー?何だってー?聞こえねえなー」
伝わってくる振動から、自分がこの後どうなるかを察した牙。しかし、気付いた時にはもう遅かった。
「俺が知ってる事全部教える!!何ならお前の気に入らねえ奴の機密も抜く!!」
ヴェンディゴデッドが、身動きの取れない牙の肉に牙と爪を突き立て始める。
「ギッ、ヒィィイイイイイ!!全部アンタの言う通りにする!!死にたく無い!!」
爆発の衝撃が、地面を削ぎ始める。
「た、たs…」
末期の断末魔は、ひたすら続く爆発音に呑まれて消えた。
一際大きな爆発が地面を抉った後、そこには何も残ってはいなかった。
「……あ、やべ。もっと苦しめようと思ったのに。まあ良いか」
黒木が溜息を吐き、武器を振るう。分銅が意思を持つかの様に、ひとりでに元の位置に収まる。
「《《運が良かったな》》。この程度で死ねて」
悠然と踵を返す黒木に、言葉を返す者は存在しなかった。




