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スレ主がダンジョンアタックする話  作者: ゲスト047562


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108/159

第108話 vs一号の牙

今にも噴き出し爆発しそうな殺意を抑え、相手を見据える。痛みで少しだけ冷静になった頭で、改めて一号の動きを注視する。


一号は槍と刀を装備したものの、未だ無防備……に見える。だが、小柄なのに俺の攻撃を正面から受け止めた事から、力を上げるコモンスキルでもあるのか?

それに、さっきの一撃。武器によるものじゃなく、柔らかい筈なのに硬い……そんな鈍器を打ち込まれた様な痛みだった。マジックスキルとは違う気がするが、それを一々判断出来る余裕はない。


「……戦況分析は終わったかー?」


「……!余裕のつもりか、よッ…!?」


嘘だろ!?距離があった筈なのに何で目の前にいるんだよ!?マジで気配が分からねえ!

咄嗟にウェポンリングに収納されていた刀を出現させ振るう。


「ッ!?」


その一撃を、いつ抜いたか分からない刀で止められる。


「くっ……!」


下がりながら、幾度も斬り結ぶ。いや、《《結ばされる》》。

距離を取りたいのに、一号は俺にピッタリ張り付いて離れない。刀を振っても、俺の全力が乗り切る前に止められる。


「このッ……!!」


刀を止められた瞬間、自分の刀を蹴って更に力を加える。

空を切る感覚と共に、やっと一号が放れる。


俺の胸に向けて気を飛ばしながら。


「くっ…!?」


咄嗟に横に逃げた瞬間、十字槍が俺の脇を掠めていった。


「!」


「ハァ……ハァ…!」


強い。

力やスピードなど、単純なスペック差では俺が勝ってる筈。さっき刀を蹴った時、俺の全力を嫌がる様に後ろに逃げていた。それに刀での斬り合いだって、俺の全力が出せない様な位置とタイミングで受けられていた。さっき言っていた『気が読める』というのは、嘘じゃないだろう。


唯、『気付いたらそこにいる』のが分からない。そこまで速い動きじゃないのに……まるで《《俺の意識の隙間を縫って動いてる》》みたいな、変な感じだ。


そういうコモンスキル……だよな?そんな事が出来るなんて、人間業とは思えないんだけど。

だが、気が読まれるというなら、読まれても関係なくすれば良いだけだ。


「極光星鎧!」


オレンジのオーラを身に纏い、地を割る程の踏み込みで突進する。


「!」


衝突直前に、横にズレてかわされた。が、明らかに俺のスピードに反応が遅れていた。チャンス!


「『飛刃』!」


横薙ぎの『飛刃』を飛ばす。スマホを壊してしまうのは嫌だが、コイツに殺されるよりはマシだ。


「…グヒ」


「!?」


下手くそな笑いが聞こえたと思ったら、一号の動きが突然加速し、俺の飛刃をかわされた。

グヒ?そういえば、俺の攻撃を受け止めた時も聞こえたような……。


「シッ!」


「舐めんなぁ!!」


凄まじい速度の槍の刺突を弾き、遅れて飛んでくる刀の横薙ぎをしゃがんでかわす。しゃがむと同時に放った蹴りを刀の柄で受けられ、威力を逃す様に吹き飛んで距離が離れる。

間合いを見切り合うように睨み合い、左の刀の鯉口が切られ……いや本命は槍!咄嗟に後ろに飛ぶ事で、《《不可視の槍》》の射程から逃れる。槍を引く動作も見えないままに抜かれた刀を受け止め、再び遠くへ弾き飛ばす。


「ふぅぅううう……!」


「……見えてたなー?動体視力も上がるのかー」


間違いない。今、《《俺の意識が変わる瞬間》》を狙われた。『極光星鎧』と、《《また》》俺の胸……心臓に飛んできた気が無ければ終わってたかもしれない。

……おかしくないか?何で、《《確実に死ぬであろう攻撃だけ》》は気が飛んでくるんだ?他の攻撃は気が視えないのに。


「……アンタ、『殺し屋』なんて嘘だろ」


「!おーすげ。狙ったのはたった二回だけなのに、感じ取れるようになったかー。『適応力』だなー?そこまで爆速で適応出来る奴なんていねーとは思ってたけどさー」


もしかしてとは思ったけど、当たったか。コイツ……この人、やっぱり悪い人じゃない。

俺を知らなかったって事は、D災の件についても今知ったばかりだろう。この人は関係無い。言動からしても、裏でコソコソするタイプじゃなさそうだ。俺がホントに殺したい奴等とは違う。


「あーでも嘘でもないよー。俺は結局、《《間違えた》》人間だからねー。落ちて堕ちて……人殺しになったロクデナシだよー」


「……何で」


「これ以上はいーだろー。後は《《コイツ》》で語ろーぜー。グヒ」


俺の言葉を遮る様に会話を打ち切り、また変な笑いをして動きが加速する。

肉体を強化するコモンスキル?何回も使ってる事、俺へのカウンター・初動の加速にしか使ってない事から考えると、持続時間が短い条件付きスキルか?《《この程度なら脅威にはならないな》》。


「シッ!」


「ふっ!」


厄介なのはやっぱり、いつ来るか分からない攻撃の数々。槍と刀、そして拳。間合いの異なる三つの武器を器用に使いこなしている上に、殺す気が無い攻撃であっても必殺の威力を持っているモノばかりだ。


こっちには『極光星鎧』っていう肉体強化があるのに……!どれだけ速く動いても常に嫌なポジショニングをされるせいで力を乗せきれない!もっと感覚を研ぎ澄ませろ!さっき言われたように、眼以外からも情報を手繰り寄せるんだ!


神経を研ぎ澄ませている間に、一号が静かに踏み込んでいた。いつの間にか納められていた刀からチキ、と鯉口を切る音が聞こえる。

左手で居合!ここだ!


「『飛刃』!」


ゼロ距離で『飛刃』を放つが、既に一号はいない。だが、回避する為に移動する場所は限られている。


「そこっ!!」


予想通り、後ろで刀の抜刀しようとしている一号の刀の予測進路へ、自身の日本刀を振り下ろす。


「!?」


刀を抜い……て、ない!?俺の振り下ろしが空を切る。

抜刀の勢いをそのままに振り抜かれた拳の一撃。刀から手を放し、咄嗟に掌でそれを受け止m--


「ぉあ……ッ」











分かる。


「マジかよ……」


伝わってしまった。

後ろに吹き飛び、地面を転がりながら、先程の拳の感触を反芻する。


拳から感じ取ったのは、彼の強さや想いではなく……











彼の、《《手の小ささ》》。


「あ……」


視界が広がる。

目の前には、一号がいた。《《普通の男性より小さな骨格》》に肉付けされた手には、《《柄の細い》》槍と刀が握られていた。


「はぁぁああああ!!!」


脇差も呼び出し、二刀流で立ち向かう。彼の真似をする様に、間合いをずらしながら刃を差し込もうとする。


「ハッ!」


一号が十字槍を回して、俺の二刀を絡めとる。《《余計な力みや予備動作の無い、次に繋げる為の動きから》》刀が飛んでくる。


「ふっ…!」


「!」


一歩前に出て、刀の間合いを潰す。それの気付いた一号が槍と刀を手放し、更にこちらへ踏み込む。必然、闘いは徒手へ移る。


「シッ…!」


「おおおおおおおお!!」


拳をぶつけ合う。《《柔らかい筈なのに硬い拳》》が、的確に急所を突いてくる。俺の攻撃気を先読みして芯を僅かにずらし、打たれる箇所を気で守り、力を受け流して次の動作に繋げていく。それを超高速な戦闘の中で行っていた。


闘えば闘う程、理解出来る。

この人の強さの根源。それはスキルなんかじゃなくて、もっと純粋な……常人には分からない程小さく、細かい『武』の集合体。

技術や理合と呼ばれる見えない力の積み重ねが、フィジカルで圧倒的に優位に立っている筈の俺を圧倒してみせていた。


「すげえ……」


それに気付いた時、思わず見惚れてしまった。極限まで洗練され尽くした彼の身体の使い方に。


「はっ!」


両手による掌打で、俺の身体が吹き飛ぶ。『極光星鎧』越しでも伝わる衝撃が身体の内側に浸透して、呼吸が苦しくなる。

だが、怒りは無い。既に彼への怒りは消え、その武術に対する姿勢に尊敬が芽生えていた。


……この一撃を放つ為に、どれだけの努力を重ねたんだろうか。その小さな骨格にどれだけの武術を詰め込めば、化け物達と渡り合う事が出来るんだろう。気の遠くなるほどの反復を繰り返し、その技術を身体に染み付かせる為に、どれ程……。


「凄え……」


「……んー?」


「分かったぞ。アンタの言ってた事が」


これが武術……前に会った四つ星の人とは全く違う、純粋な技術の結晶。一つの極点。スキルによって得られた(にわか)仕込みの武器術じゃ、通用しないのも当然だ。

今一度反省して、一号……一号さんとしっかり向き合う。


「アンタの言う通りだった。俺は何も視えてなかった。魔眼から獲得出来る情報に慢心して、他を視ようとしてなかった。スキルに頼ってばかりで、スキルに昇華された武術の凄さなんて全然分かってなかった」


「……何だー?急に」


「ここまで武術を愛せる人が、悪人なわけないから。勘違いで殺そうとしてすいませんでした」










「……………………………………………は?」


何故か一号さんが、まるで英語で話しかけられた時の俺みたいに固まった。

確かに今は敵同士。いきなり敵から褒められるなんて思ってなかっただろう。

けど俺にとっては、もう殺し合う為の闘いじゃない。これは、『次に進む為』の闘いへと変化したんだ。


「何でアンタがこんな事をしてるのかは聞かない。アンタの命もいらない。代わりに、俺が勝ったらその武術を教えてくれよ」


「…………な、んだよ。い、今更…」


一号さんの動揺が大きくなり、気が乱れる。その隙に、落ちていた刀を回収して突っ込む。


「っ!くっ……!」


上段切りを鍔の部分に拳を当て、力を地面に流される。それを予測して、すぐさま切り上げ……をスウェイで逃げ、自身の刀を拾い上げる。


「はは!!」


「くっ……!」


刃を打ち付け、いなされる。脚を振り抜こうと、出足を抑えられる。動揺している所を狙ったのに、身体に染み付いた技術によって攻撃が弾かれる。


凄い楽しい。闘いが楽しいと思うなんて初めてだ。打てば響く、寄せては返す様に幾度も剣舞が織りなされる。

だが、俺の楽しさに反比例して一号さんの顔が苦しそうに歪んでいく。俺の攻撃を防ぐ事に手一杯になり、徐々に勢いが無くなっていく。


「《《そんな目で見んじゃねー》》…!武に愛だとか……あるわきゃねーだろ!」


「嘘つけぇ!じゃあ何で必死に武術を磨いてきたんだ!」


「!それ、は……」


「《《気が乱れてるぜ》》」


拳と刃を交え続けて何十合。初めて一号さんに大きな隙が生まれた。


「隙ありぃ!!」


今までマトモに当てられなかった分の渾身のボディブロー。


やっと……やっと!俺の攻撃をマトモに当てる事が出来た。けどまだ浅い。さあ、俺達の闘いはこれからだ!!

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