第106話 黄昏樹海・深層で待ち受けるモノ
切っ掛けは、さっきマントレントを使って『纏魔気鱗』で放った飛刃。
「分かったぁ!!」
モヤモヤしていた事に気付けた喜びで、思わず指パッチン。その衝撃でマントレントが砕け散った。
“ヒエ…”
“指パッチンでマントレント弾けて草ぁ!”
“あの、コアモンスターってそんな簡単にやれましたっけ…”
“武器は大事に扱え”
“やべえ笑いすぎて苦しいwww”
「今分かった事があるんですよ!ちょっとやりますね。『極光星鎧』」
オレンジ色のオーラを纏う。そして手を手刀の形にし、モンスターがひしめいている方へ向け……。
「飛刃!」
オレンジの光波が、前方を薙ぎ払った。木々は切株となり、モンスターは下半身らしき部位を残して消し飛んだ後、マナとなって俺に吸収されていく。
“お、おう”
“初期で得たスキルとは思えない威力だなww”
“これ進化したスキルじゃないってマ?”
“自慢か?ウザイぞ”
“草”
“これに対抗意識燃やせるだけ凄えよ”
「これが極光星鎧で放った飛刃です。次、『纏魔気鱗』からのー、飛刃!!」
今度は気とマナを纏い、同じように放つ。
ボッ!!
前方に見えていた物が全て消し飛んだ。『極光星鎧』の破壊痕を上書きするように、あたり一帯が根刮ぎ無くなっている。
“ファッ!?”
“同じ飛刃?今のが?”
“威力おかしくなーい?”
“えぐいえぐい”
“winner:なるほど。『纏魔気鱗』はマジックスキルを。『極光星鎧』は肉体の強度そのものを強化するスキルだったのか”
“サンキュー先輩!”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩!!”
“サンキュー先輩”
「ありがとうございます先輩。そうなんですよ。この前、イレギュラーさんにエアバレットで腹をぶち抜かれた事があって、不思議だったんですよね。何で俺の身体を貫通させれたのか」
“自分の身体に自信ニキ”
“超耐性のことかーーーーー!!”
“そういやそうだったな”
“単純にイレギュラーが強かっただけじゃなかったのかあれ”
“じゃあ腹筋見せて♡”
“待て。イレギュラーが天満麒麟持ってたってことか?”
“お前が弱かっただけじゃね?”
“まさかイレギュラーが纏魔気鱗持ってたのか?”
消し飛ばしたモンスターの素材を拾いながら、スレ民の皆さんのコメントを拾っていく。
敵が密集していた場所を狙ったおかげか、殺気はどこからも感じない。あ、魔晶みーっけ。
「多分そう。イレギュラーさんの牙に気とマナが強く巡ってたから、ずっと気になってたんですよね。今思えば、牙の部分だけ『纏魔気鱗』をしてたんでしょうね」
“ま?”
“マジックスキルを強化するコモンスキル!?”
“え。ガチで欲しい。やり方教えてくれ”
“そのイレギュラーとバチバチにやりあってたあまにゃんすげえな”
“ここであまにゃんの強さが際立つのやべえ”
“スイッチとあまにゃん星の数おかしいだろwww”
“『極光星鎧』を!くれーーーーー!!”
“流気眼がチートだろ。気とマナを見れるとか最強じゃん”
「そうですねー。イレギュラーさんと互角に戦えてたあまにゃんさんすご……いやマジで凄えなあの人。『纏魔気鱗』無しでイレギュラーさんと渡り合ってたのか。何で三つ星だったんだ?」
“草”
“スンッてなるの分かる”
“あまにゃんは強いぞー”
“この前四つ星に上がってたぞ”
“やっとあまにゃんの凄さに気付いたか”
“あまにゃんは有望株だってそれいち”
「お?」
抉られた道を辿っていくと、前方に開けた場所が見えてくる。
あれは俺が作った空間じゃない。このダンジョンで、木々が生えてない場所は一箇所だけ。つまり。
「ゴールだー!」
“winner:私の方が凄いが”
“sしょ将来の話dwすし”
“ヒエ”
“ステイ!先輩ステイ!”
“ナイス!”
“指ガックガクな奴いて草”
“あの…先輩はちょっと次元が違いますので…”
“ボスじゃあああああああああああ”
やっと窮屈な視界から解放される。そう思いながら、ボスのいる開けたエリアへ向かう。
「やっと終わりますねー。この森のせいでずっと薄暗かったので、明るく感じます」
“ゆうて1時間も経ってないぞ”
“いやクッソ早んだが?”
“2時間以上かかる時もあるからな”
“1日かけて踏破できなかったワイ涙目”
“ボスは何分もつかな?”
“winner:黄昏樹海のボスモンスターは、グロウイングドリアード。動けない代わりに周囲の木を操って攻撃してくる上に、自身の種子を大地に飛ばしすぐさま成長して増殖する。耐久力も高く、ダンジョンを彷徨い疲弊したダンジョンアタッカーに持久戦を仕掛けてくる”
“サンキュー先輩!”
“サンキュー先輩!!”
“サンキュー先輩!”
“マジで糞な理由の一つがボスも糞な点”
“あまりにクソすぎて擁護できん”
“解説はやっぱ頼りになるな”
先輩がすぐボスの解説をしてくれるお陰で、ストレス無く進めることが出来る。ホントに良い人だなぁ、たまに怖くなることを除けば。
「ありがとうございます先輩。では、行ってみましょう!」
黄昏樹海の最奥。このダンジョンで一番開けた場所の中心に、奴はいた。
静かに目を閉じた女性。しかし、その肌は樹皮で出来ており、下半身は木の幹となり大地と繋がっている。背中らしき部位から生えている枝葉は、自分を抱きしめる様に巻き付いている。
コイツは……。
「普通のグロウイングドリアードだな!ヨシ!じゃあな!!」
ボンッ!!
“ファーーーーwwww”
“ボス一瞬で消し飛ばしやがったww”
“いや力量差的にはそうだけどさぁww”
“もうちょっと見せ場とか考えてもろて”
“良しじゃないのよ良しじゃww”
“ひっでえwww”
「ふー、良かったーイレギュラーじゃなくて。俺、これからもダンジョンアタックして良いみたいですね」
正直、またイレギュラーが出てきてしまうんじゃないかとずっと怖かった。けど今回の検証で、俺の持つスキルは『イレギュラーを出現させる条件にはならない』という事が証明された。
それが知れただけで、肩の荷が一気に降りた気がするなる。『纏魔気鱗』と『極光星鎧』の事も相まって、凄い晴れやかな気持ちだ。
「スレ民の皆さん、ここまでありがとうございました。黄昏樹海、ダンジョンアタック成功しました!そしてー、これで俺も三つ星ダンジョンアタッカーでーす!」
“いええええええええい!!”
“おめ!”
“GG!”
“winner:おめでとう”
“おめでとー!!”
“おめでとうございます!”
「黄昏樹海はダンジョンアタッカーにとって最悪なダンジョンですけど、この配信と先輩のアドバイスを参考に攻略してみて下さいねー」
“は?”
“うん?”
“え”
“無理やろ”
“何でゴリラの生態観察が攻略に役立つと思ったんですか?”
“二つ星のダンジョンアタッカーにあの暴力を求められても困るんですが”
―――通信が切断されました。配信を終了します―――
「大丈夫です!皆さんなら出来ますよ!だから是非、ダンジョンアタッカーになって一緒に頑張りましょうねー……あれ?終わってる?」
「あーワリーワリー、ちょい早かったねー」
「え?」
「あ、ダンジョンアタックお疲れー」
「あ、ありがとうございます……えっと、どちら様でしょうか」
「いきなりワリーなー。俺はねー
『殺し屋』、って奴だよー」




