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スレ主がダンジョンアタックする話  作者: ゲスト047562


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第100話 金メッキの青春3

「ごめん」


DAGのフィールドホールで型稽古をしていた数多を見つけ、伽藍堂はすぐさま頭を下げた。


「……急に何だよー。オメー何かしたっけー?」


「DAGの幹部の人から聞いてきたんだ。今回の騒動の発端を……本当にごめん、僕の為に動いてくれたのに」


「……別にオメーの為じゃねー。《《唯の憂さ晴らし》》に決まってんだろー」


「すぐにでも公表された内容を修正させる。羽場さんも君を信じて「止めろ」……は?」


「俺はオメーの《《弱点》》になった覚えはねー」


「………は」


数多にそう言われ、ようやくある可能性に気付く。

数多は破天荒な言動に見合わず、非常に頭が切れる。周囲に手合わせを申し込んでも、必ず相手に怪我をさせない配慮をする。ソロでは危険とされるダンジョンに武器と身一つで潜って行けば、DAGの調達リストに載っている素材を持ち帰ってくる。場合によっては、DAGで騒ぎを起こした事を詫びる様に、無償で素材を置いて帰る事すらままある。


そんな彼を、伽藍堂結城の看板を守る為とはいえ、大事な部分を隠して大勢に公表する理由は?


「………本当の狙いは、僕だって言いたいのかな?」


「分かってんじゃーん。俺への悪感情を持った奴らに、オメーが俺を庇う事をしてみなー?奴らは結局、《《俺がユウにそう言わせる様に脅した》》って勝手に解釈すんだろー」


「かと言って、上に僕が直接掛け合えば……『伽藍堂結城が数多洸の為に動いた』と言われ、君に《《利用価値》》が生まれる」


「今回やった奴は、どうせトカゲの尻尾。それにオメーが動けば、無駄に事がデカくなっちまうからなー。《《伽藍堂結城がDAGの上層部を排除した》》。その理由があれば、コレを切っ掛けに『GWがDAGへ不当な圧力をかけた』って大義が生まれんだろー?」


そうなれば、今の二社の協力関係に大きなヒビが生まれてしまう。それだけで済めばまだマシで、最悪の場合DAGがGWとの関係解消、素材の供給が出来ず武器すら作れないGWはDAGの傘下に入るしか無くなる。伽藍堂の祖父母の時代に作られたブランドが、全て吸収されてしまう。


自分の行動一つで、そこまでの可能性が生まれてしまう事に、《《人間》》伽藍堂結城は、己が打ち立てた金看板の重さを、ようやく理解して……自分が友を救えない事を、察してしまった。


《《数多洸と羽場焔那が弱点となってはいけない。伽藍堂結城には、己の命にも等しい妹がいるから》》。

彼は友情と愛情、どちらがメリットになるかを天秤にかけてしまった。

そしてーー


「気にすんなってー。どーせ7割は自業自得だしよー。次は……そーだなー………《《次は、間違えねー》》からよー」


「…………君は、本当にそれで良いのか?僕を動かす餌にされたんだよ?愚痴の一つぐらい……」


「くどい。自分の事喋ろうとしねーオメーが、わざわざ腹を割って教えてくれたじゃねーか。《《譲れねーモン》》があんだろー?そんで、それは俺じゃねー」


『気付いてないとでも思ったか』。数多は言外にそう言って、伽藍堂の手を拒絶する。

既に埋める事が出来ない見えない溝が、二人の距離を大きく空けていた。

それを理解し、伽藍堂は思考を切り替える。


「はぁ……分かったよ。君がそう言うなら、仕方ないね」


「……ほーん、オメーもそんな顔すんのかー」


「は?」


この日初めて、数多は伽藍堂へ振り向いた。しかし、伽藍堂は彼の顔を直視出来なかった。


「……なーユウ。喧嘩、しようぜ」


「……悪いけど、そんな気分じゃないんだ。それに、今僕と手合わせなんてすれば、それこそ君の印象は地に落ちる」










「……………ヒ」


彼は。彼の顔はーー。


「だよなー」


絶望と喪失でぐちゃぐちゃに塗り潰され、笑えてなかった。





=====


「……今、何と言った?もう一度言ってみろ」


「コウが動くなってさ。今動けば、僕達の名を利用したがる連中に餌を与えるだけだって。僕も同意見だったから、君を止めにきたんだ」


生まれて初めて、羽場に本気で殴られた。といっても、彼等の間には大きな差がある。例え殴られた時の衝撃と風圧が伽藍堂の背後にあった全てを蹴散らそうと、彼自身は巨樹の如く静かに佇んだままである。寧ろ彼を殴った羽場の方が、大きなダメージを負っている。


しかし、それを微塵も感じさせないまま、彼女は無事な方の手で伽藍堂の襟首を掴んだ。


「ふざけるな!!そんなふざけた話があってたまるか!!!」


「ふざけてなんかないさ。上層部に巣食っている問題は根深い。今の僕達では把握仕切れない程多くの権力、金、感情が渦巻いている」


「だからどうした!それが友を救えない理由になるか!上の連中のご機嫌伺いなんかの為に、奴の名誉回復の機会を失くす?違うだろ!!お前がそれを……《《オレ達だけはっ》》、それを言ったら駄目だろうが!!!」


「でも、ユウがそうしろって言ったのは本当さ。彼もこの状況を理解している。それに、僕を巻き込みたがっている奴等を少しではあるけど炙り出せたんだ。これはチャンスだ。《《どちらも》》泳がせておいて、上で腐っている連中を一掃するチャンスを得たと考えなきゃ」


羽場から怒りの色が消え、自分への失望が浮かび上がってくる。

襟首を掴んでいた手から力が抜け、ダラリと垂れ下がる。羽場は悔しそうに嗤い、伽藍堂を睨み付けた。


「はっ、そうか……そういう事か。ずっと疑問だった。何故お前が、第三世代でもない、よく分からんぽっと出の男なんかといるのか。最初から、《《この為》》だった訳だ」


「………」


「自分というブランドがそんなに大事か?それとも会社同士の更なる癒着か?周りに見せつける様な友人関係は、全部……全部ッ!!DAGにいる不穏分子を根絶やしにする為だったのか!!答えろッッ伽藍堂結城!!!」


伽藍堂は答えない。応えられない。

ここで彼女に歩み寄る訳にはいかなかった。《《羽場が自分の弱点になってしまうから》》。


「……もう、良い。お前に僅かでも情があると期待したオレが馬鹿だった。そんな本性(かお)を持っていたなんて、知りたくもなかった」


お前の顔など、もう二度と見たくない。そう吐き捨てて、彼女はフィールドホールから出て行った。

伽藍堂は唯立ち尽くし、彼女の背が見えなくなって以降も、その場から動けなかった。


「……」


かつて、手にしていた筈の黄金。

しかし、それは唯のまやかしで、自分という存在を見えなくする虚飾に過ぎなかった。


妹を守る為に力を付けてきた。

しかし、その力は友を救うには大き過ぎた。


気付けば、黄金だったモノはボロボロと剥がれて落ちて、中から黒い石ころが見えてきた。

それは、かつて自分が『必要無い』と切り捨ててきた、友情の残り滓だった。

その価値を貶めたのは、他でも無い自分自身だった。


「………」


初めて、自分の無力を呪った。

同時に、DAGにいる腐った上層部に、必ず報復する事を誓う。

見殺しにしてしまった二人の友に、今度こそ正面から謝罪する為に。











数日後、数多洸が崎棚(さきたな)のダンジョンでスタンピードに遭って死んだ。


そして、彼は《《いつもの調子で》》答えた。











「へえ、そうなんだ」





=====


「………」


電子音のアラームが耳を刺激し、それを止める為に体を起こす。


「……久しぶりだね、悪夢は」


戸張君に彼の事を話したからかな、そんな独り言を呟きながら、彼は洗面台に向かう。


(DAGやGWにのさばっている連中のリストは出来ている。後は言い逃れ出来ない決定的な証拠……悪巧みに長けているだけあって、証拠は殆ど見つかってない。それさえ見つければ……)


あれから、伽藍堂は更に多くを積み上げてきた。

コミニュケーション力は、傍目には分からない程内外に細かく根回しされたネットワークへ。

鉄仮面の笑顔は、以前よりも強固に固められ周囲を丸ごと抱き込むカリスマへ。

人を見抜かんとする洞察力は、深層心理に芽吹こうとする悪意を根刮ぎ掘り起こす超人的な視野へ。

皮肉にも、あの時の経験から伽藍堂は更に目と耳を増やし、その影響力を揺るぎないものとする事が出来た。


全ては、妹を自分と同じ様な目に遭わせない為に。それが、友を犠牲に妹の未来を取ってしまった伽藍堂の、せめてもの償いだった。


そして伽藍堂は洗面台に辿り着き、鏡で自身を視る。


「………はは」


初めて数多に会った時、彼から見えていた謎の感情。

それを自分の顔に見た時、思わず自嘲してしまった。







「自分で壊しておいて『寂しい』だなんて、思う資格無いのにね」







伽藍堂結城は、鏡が嫌いである。


(……あの時。どうすれば正解だったのかな)


「君なら分かるのかな?戸張君」


先日会った少年を思い出す。

戸張照真。D災の生存者にして、唯一の生還者。

妹フィルターを通さず視れば、彼は伽藍堂とはまるで正反対の男だった。よく笑い、よく泣き、嘘が下手で、敵意を持った人間に対する純真な心を持っていた。


だからこそ気になった。彼ならば、数多を救えたのではないかと。あの時、伽藍堂が取れなかった選択を出来たんじゃないかと。

あの日の後悔を二度としない。そう誓った伽藍堂にとって、自身とは真逆の性質を持つ戸張照真という人間は、まさに『理想のサンプル』だった。


それに、彼を観察する理由はもう一つ。


(彼と会った時、どうも初対面とは思えない違和感があった。だが、彼と会話した記憶は無い。戸張君も、反応からして僕と初対面だったのは間違いない。さて、何処で……)


伽藍堂は記憶を遡る。そして……。


「…………あ」


伽藍堂がD災にて、《《元凶となったモンスターを殺した時》》、中から救出した人間。あの時助けた少年の姿と、今の戸張の姿がようやく重なった。


「そうか。彼はあの時の……」


伽藍堂のスマホが震える。

戸張を観察する上で、彼の動向は常にチェックしていた。その中でも特に彼が顔を出しやすいdチャンネルというネットの掲示板のスレッド。そこで戸張が、新たにスレッドを立てたらしい。





【朗報】ワイ将、ダンジョンアタックの許可下りるwww【DAG】







「………彼は自分の価値が分かってない程、頭が悪いのかな?」


正解。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、これは羽場の方がちょっと頭悪いぞ。まぁあまりにもスペックが違い過ぎて同じ人間と信じきれなかったのかも知らんが、それでも間違ってるのは羽場の方だと思う。結城側にこれと言った落ち度はない。…
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