第1話
シャラン・・・・・
シャラン・・・・・
街中を歩いている1人の者がいた
足枷についている小さな鉄棒がぶつかり合って音を鳴らす
その人物は真っ赤な麻布を被って全身を覆っていた
誰かが言った
「首刈りだ・・・・」
「そういえば今日は・・・・処刑の日だったな」
シャラン・・・・・
シャラン・・・・・
足枷の音が悲しく街中に響き渡る
今日は・・・処刑の日
同時刻、同じ街の本屋「ノツマBOOK」に1人の少女が居た
「ハイ、これお釣りね」
店の主であるおばあさんが買い物客の少女にお釣りを手渡した
お釣りを貰った少女は買った本を抱きしめて満面の笑みを浮かべる
「でもねぇマリーちゃん、いくら本が大好きだからって・・・」
おばあさんは少女、マリーの抱えた本を見た
『習俗研究』クロックランゼ著
表紙にそう書かれた本はとても分厚かった
「その本はマリーちゃんには難しいんじゃないかなぁ」
確かにそうだった
『習俗研究』と言うタイトルと辞書並みの分厚さ
まだ8歳の少女には速すぎる本だと言える
「この前来たときからずっと欲しかったの、解らない所はちゃんと辞書で調べるもん!」
マリーはおばあさんに笑顔を向けて言った
「じゃあまた来るね!」
カランカラン
走って店を飛び出したマリー
早く帰って本を読みたい気持ちが抑えられなかった
マリーが帰った後、おばあさんは関心していた
「大したもんだわ、大人でも嫌がる分厚い本を・・・・」
そしてとても大事なことを思い出した
「あら、いけない・・今日は・・・・夕方過ぎるまで引き止めれば良かったわ」
パタパタと道を走って家に急ぐマリー
しかし走っている最中にいつもと違う異変に気付いた
(あれぇ?何か街の人が誰もいない・・・・・?)
辺りを見回しても人っ子一人いなかった
家の窓は全て締め切られていて、とても静かだった
そして周囲に気を取られていると・・
ガッ
「きゃっ」
道の小石に躓いてマリーは派手に倒れてしまった
持っていた本もその衝撃で飛んで行ってしまった
そしてその本は真っ赤な麻布を被った者の前に落ちた
「いたぁ・・・・」
シャラン・・・・・
麻布の隙間から覗いている目が落ちた本を見つめる
そこでマリーは本が飛んでいったことに気付いた
「本が・・・・・」
本のことを案じるマリーの前に黙って本が差し出される
その本を持っていたのは知らない人だった
こんな真っ赤な人は見たことが無い、マリーはそう思っていた
「あ・・・・ありがとう」
そっと本を受け取ったマリー
麻布の中の目と目があった
麻布の者はマリーを一瞥し
この街に来たときと同じように足枷の音を響かせながら歩いて行った
シャラン・・・・・
シャラン・・・・・
「マリー!!!!!」
家に帰ったマリーに待っていたのは母親からの説教だった
「今日だけはダメって言ったでしょ!何でママの言うことが聞けないの!パパも天国で泣いてるわよ」
「ごめんなさいっ」
マリーは本を盾にしてママの説教を防御する
「もしマリーに何かあったら・・・・ママは・・・・ママは・・・」
ママはテーブルに肘をついて顔を覆った
いかにも大げさな反応かと思うかもしれないが、ここでは別におかしいことではなかった
「ちょっと心配しすぎだってば・・・・」
「今日は特別なの!街で変な人に会ったりしてないでしょうね?」
変な人
マリーは真っ赤な人を思い出した
本を拾ってくれた優しい人
「おうちに帰るときほっかむりしてる赤い服の人なら見たけど・・・・・?」
何気ない一言だった
ガタッ
ママは凄い勢いでイスから立ち上がった
この反応は尋常ではなかった
「く・・・・首刈りを見たの!?」
初めて聞く言葉だった
「くびかり・・・?」
ママはマリーの傍に来てマリーの肩を強く掴んだ
「見ただけなの!?触ったり目をあわせたりしてないわよね!!」
マリーの目に映ったママは今までとは全然違った
必死の形相で訴えかけてくるママ
「どうなの!?マリー!!」
その勢いに負けてしまった
「・・・ううん、見ただけよ」
私はあの人と目を合わせてなんかいない
マリーは自分の心の中でそう思い込んだ
「そう・・・あぁ良かった!」
ママはマリーを強く抱きしめた
そして頭をなでてこういった
「じゃあ今から体をキレイにするから、その本お部屋に置いてきなさい」
「ママ、くびかりって何?」
それはマリーのさりげない質問だった
いつも優しいママがこんなになった理由を少しでも知りたかった
「人の魂を吸い取って生きている恐ろしい悪魔のことよ」
その時のママの目は「首狩り」を蔑むような目だった
まだ子供のマリーにはその意味がまだよくわからなかった
「念のために明日は教会でお払いしてもらいましょう、マリーが悪霊に取り付かれたら大変だわ!」
ママはあたふたしたようすで部屋をグルグル回っていた
マリーにはあの本を拾ってくれた人が
そんな悪い人には見えなかった
「恐ろしい悪魔・・・・・」