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遺失物横領(手袋)

 「どういうつもりだ!!」


 決闘当日、灰のいない偉助、相賀、帳の3人パーティーを見て憤慨する京。


 「俺達に言われてもなぁ」


 病欠らしいぞ?と伝えてもまず間違いなく仮病だ。


 気になって朝に電話をかけると元気な様子で電話に出たからだ。


 最初、──あぁ、俺だ。なんて少し低い声でふざけた事を抜かしていたから間違いないだろう。


 その後、慌てたようにいつもの口調になっていたから何かごっこ遊びでもしていやがったのかもしれない。


 おまけに電話の向こうから女の声がしやがった。


 と偉助は青春と程遠い自分の環境と比べて額に青筋が浮き上がる。


 最近帳から妙な好意を受ける灰に、更に女の影があると分かればこれは拷──詰問をしなければならない。


 偉助はそんな朝の事を思い出しながら眼の前のイケメンを宥める。


 お前だって周りにそんなに女がいんだから満足しろよと文句を言いたくなる。


 「凛!こんなパーティーに入っても仕方ないだろう!戻ってこい!」


 帳の方を向いて声を張り上げる京に周りがヒソヒソと話し始めた。


 これは後から厄介なことになりそうだと偉助は目元をほぐした。


 「それはもう十分話し合ったはずだ。私はこのパーティーでやっていく。それに変わりはない」


 毅然として態度を改めない帳に京はぐっと堪えたように声を抑えて言葉を続ける。


 「っ……あいつはお前を賭けた決闘から逃げたんだぞ……!なんでそんな奴のいるパーティーにお前がいる必要がある」


 「そもそもなぜ勝手に私を賭けの対象にしているんだ。それで勝った方に私が靡くとでも思っているのか?私を見くびるな」


 ご尤もな意見に偉助は感心した。


 やっぱこいつカッケー、と内心で口笛を吹いていた。


 「な、だがっ、どう考えてもあいつより俺のほうが強いだろう!お前だって俺達のパーティーに居たほうがそのスキルを活かせる筈だ!ユニークスキル持ちがそんな雑魚たちと一緒にいたって宝の持ち腐れだ!」


 偉助が顔を伺うと、そこには静かに怒りを孕んだ表情の帳がいた。


 「私はな、お前のその態度が前々から気に入らなかったんだ」


 突然の告白に面を食らう京。


 大分ショックを受けたようでたじろんでいた。


 「生死の分かれる戦いを共にした仲間を悪く言う者と肩を並べようとは私は思わない」


 「くっ……」


 この言葉は第一として上がった帳の本音だが、スキルだけを見ているような発言にも帳は嫌厭していた。


 そこは口には出さなかったため、京は気づいていないだろう。

 

 どうもあの戦い以降、スキルよりも、帳一刀流の技をより磨いて行こうという気持ちが強くなっており、そこを見てくれる人の近くで技を奮いたいと帳は考えていた。


 口に出さずとも、修練場で必死に剣を振っている姿を見ている偉助はそれを何となく察していた。


 「ちょっと、そっちの都合で抜けるって言い始めたんだからもう少し言い方って言うのがあるんじゃないの?」


 苛立ちを込めて割って入ってきたのは、後ろで黙って聞いていた三人の内の一人、中衛を務める《大狩人》犬飼(いぬかい) 優美(ゆみ)だった。


 「そうね、貴女が突然抜けたら私達のパーティーは前衛が将暉一人になってしまうのよ。それだけの被害を私達パーティーに与えているって自覚はある?」


 それに続く《大魔術師》判田(はんだ) 麗奈(れな)の言葉は至極最もであった。


 「それについても話し合ったはずだ。お前達のパーティーは既に卒業の為の成績も残しているし、10階層以降でも戦力としては十分だと」


 「私としては別に居なくなってくれてもいいけど、どうしてそっちがそんなに上から目線なのって話じゃない?」


 興味なさ気な口調の少女、《聖女》滝尾(たきお) 摩耶華(まやか)はふわふわとした表情ではあるが棘を隠そうとはしていない。


 そして相変わらず長杖を胸で挟んで抱えた姿はあまりにあざとい。その強調された部位に偉助の目が引き摺られた。


 「きっも」


 視線に気づいた犬飼 優美が侮蔑の籠もった目で

偉助を睨みつけた。


 女子四人の視線が痛い。


 帳、お前もか。


 「ねぇ、滝虎くんがその決闘から逃げてるから京くんは怒ってるんでしょ?」


 三人の女子同様に黙っていた相賀が割って入る。


 しかし相賀は話を持ちかけるタイミングを図っていたようだ。


 「あ?お前が?」


 京も相賀の事は知っている。


 しかし印象としては多少強くなった程度で、帳が倒した未発見種を前にのされた印象しかない。


 滝虎 灰が無事だった相手に負けている時点で、相賀周成に対する京 将暉の興味は皆無だった。


 「そうだよ。僕が帳さんを賭けて勝負してあげるって言ってるんだ」


 「おい、周成……」


 その無茶な相賀の判断に偉助は止めようと声を掛けるが京は鼻で笑うとそれを受け入れた。


 「まぁ、いいか。あいつが居なくて苛ついてたけど、お前が相手してくれるなら丁度いい発散になるだろ」


 「……私を景品にするなと言っているんだがな」


 話を聞かない男どもに嘆息する帳。


 京は相賀が敵だとは思っていない。


 ストレス発散の為の消化試合、と言ったところだろうか。


 その心の内を隠そうとしない京に、嫌な笑みを浮かべて賭けの提案を持ちかけた。


 「この勝負僕が勝っても僕にメリットは無いよね?だって最初から帳さんが僕たちのパーティーに加入することは本人の意志で決まってるんだから」


 「あん?何が言いたいんだよ」


 「フェアにいこうよって話だよ」


 「何かほしいってことか?なら金にするか?そこそこの額用意してやるよ。ま、払う結果にはならないだろうがな」


 「人を賭けてるんだから、そっちも賭けるなら人でしょ?」


 「相賀お前まさか……」


 下卑た感情を感じ取った帳は、相賀が何を要求しているのかを察した。


 「そっちのパーティー、京くん以外全員こっちに頂戴よ」


 「周成、お前それは流石にないんじゃないか?」


 「良いじゃないかいっくん。彼女たちが僕たちのパーティーに加われば丁度6人だし、バランスも良い」


 愕然とする提案だった。


 確かに人数が増えればそのまま戦力になるし、バランスも悪くない構成になる。


 しかしいきなりな上、彼女達と上手くやれる気がしない偉助はどつしても乗り気になれなかった。


 そして無意識なのか、それとも意図的は分からないが、一人、計算に入れられていない事が偉助にとって小さくないショックだった。


 「なんであんたみたいなチー牛のいるパーティーに行かなくちゃならないのよ!」


 当然、怒りを露わにする三人の女性だったが、京がそれを片手で遮る。


 「どうしたの?もしかして負けるのが怖い?僕のハーレムパーティー盗らないでって?」


 相賀がニヤニヤとした顔で京を煽る。


 煽られた当の本人の表情は侮りを捨てて、真剣な表情だ。


 相当に怒りを堪えているのが分かる。


 「舐めやがって。いいだろう、賭けてやるよ」 


 そう言い切る京に三人は少し焦ったような反応を見せた。


 「勝てば良いんだ。それとも俺がこんな奴に負けるってか?」


 よっぽど煽り文句が堪えたのか、振り返った京の表情を見て三人が固まった。


 「それだけ啖呵を切れるんだったら、10階層まで来い。その階層はその特性上湧きが少ない。俺が先に行って粗方間引いてきてやるから邪魔をされない環境で思う存分やり合おうぜ」


 「いいの?疲れてたから負けましたなんて言いわけで無しにならないからね?」


 「丁度良いハンデだろ」


 実習開始と共にバチバチに睨み合った二人は離れ、1番手の京パーティーが入口へと向かう。


 その途中京が振り返った。


 「早く来いよ。せっかく間引いたのにまた湧くような事になったら二度手間だ」


 そう言ってダンジョンへと姿を消した。


 「周成、お前な。いきなり無茶な事するなよな。せっかく灰が休んで有耶無耶にできそうだったのによ」


 相賀に詰め寄る偉助は呆れたような表情で友人を咎めた。


 「全くだ。女を物のように扱うその魂胆は称賛されたものではないな」


 静かな面持ちの帳は言葉の割にはあまり怒った様子はない。


 「良いのかよ。このままこんな茶番に付き合って」


 「なに、どんな結果であろうも私の意見は変わらんからな。無駄だ」


 茶番に付き合ってもその結果にまでは付き合うつもりはないようだ。


 「とことん、我が道を行くだな。剣姫様は」


 「それに、甲斐性なし(バカ)と比べれば幾分か男としては見所があるのは間違いない」


 腕組みをしてムッスリとする帳。


 「怒ってんの?灰が自分のために闘わなくて?」


 「そ、そんなことはない!私は景品のように扱われるのは好かないといっているだろう!……全く、突然何を」


 顔を逸らす帳の頬は少し赤いような気がした。


 分かりやすい帳の表情を見て、この場に居ない仮病に苦しむ仲間を想う。


 「お前は何を考えてるんだよ、灰……」


 面倒事を持ってきた筈の張本人がこの茶番におらず、電話の向こうで女といるというのだからその考えが分からない。実は遊び人なのだろうかと疑いたくなった。


 しかしそれ以上に、幼少から共に過ごした友人の変わりように、内心の動揺が隠せない。


 引っ込み思案だった弱気な少年が自信を付けたというのなら聞こえは良いだろう。


 しかしこの変化はそれとは違う。


 偉助は親友の変化に不安を抱いた。


 まるで別の誰かになったようなそんな不安を。


 一行が順番を待つ中、偉助と帳を見る相賀は、二人の頭の中にいる人物に暗い感情を向けていた。


 

ちょっと聞いてくださいよ。

X(旧Twitter)の方でも喜び勇んだのですが、先日ポイントが増えていないかと無意識に画面のリロード連打してたら平均評価が3から4に上がってたんですよ。

一人にしかもらってなかったから二人目が5をくれたんだと思ってたのですが、よく見たらポイント自体は2しか増えてなかったんですね?なんでだろうと考えてたら、3評価だった人が4に上げてくれてたって気づいた瞬間舞い上がってしまいまして。ガラにもなく、Twitterの方にもあげちゃったんですよ。

普通に新しく5の評価をくれるのも勿論嬉しいですが引き続き読んでくれて評価を上げてくれるっていうのも目茶苦茶嬉しくないですか?私は嬉しいです。


 引き続き読んでいただきありがとうございます。

評価くれた人の見方とかわからないのでここで感謝申し上げます。


ありがとう


誤字指摘してくれる方も大変助かっています。 

いつもすみません。

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