畑のど真ん中
雀がなく声で、俺は目覚めた。
周囲は土で、俺の周りだけが濡れていた。
腕を上げてみると、ワイシャツは赤かった。
その赤さを見て、俺は夢から覚めたのではなく、赤い雪が現実だったと認識した。
ゆっくりと立ち上がる。
周りの土は帯状になっていた。
「畝だ」
つまり、畑だった。
俺は荒らさないように谷になった部分を選んで足を運んだ。
舗装された道路に出ると、車がやってきた。
俺は手をあげた。
タクシーだった。
上げた手と逆側でポケットを探った。
スマフォは消えていたが、財布と鍵が確認できた。
近づいてきたタクシーが止まった。
俺は徐に運転席に近づくと、ドアを開けた。
「てけり、り」
口の中は『真っ赤』だった。
俺はドライバーの『真白い』腕を引っ張り、車から引きづり下ろした。
そして畑に蹴り落とした。
急いで運転席にのり、扉を閉めると家に向けて車を走らせた。
ラジオからは奇妙な声で『酔っ払いが生き返る』歌詞の歌が流れていた。
ブザーが鳴った。
俺は仕事を止め、片付けを始めた。
「笹森飲みに行かないか、カナエちゃんもくるからさ」
「悪いけど、やめとくよ」
「どうした?」
「いや、どうもしないけど、この前の飲み会の帰りに酷い目にあったんだ」
「なら、余計に来いよ。その話を聞かせろよ」
「……」
俺は一瞬考えた。
「いや、やめとく」
「そうか、無理に誘うのはやめとくよ。また今度な」
「ああ」
本当は、飲み会に行き、俺が体験したことを話して『気が狂わなかった』こと、『酒を飲むと寿命が縮む』こと、その二つを証明して見せたかった。
だが、おそらく、俺があの日の帰りに見たことを話したら、信じるどころか、二人とも『引く』だろう。
それより、家に帰って『ポオ』や『ラブクラフト』を読み返そう。
きっと俺が見た『あれ』について理解が深まるに違いない。
気が狂う危険は同じかも知れないが、身体は安全な場所に置いていられる。
……はずだ。
おしまい