終点の駅
俺は途中で意識がなくなり、列車の中で眠りこけていた。
起きたのは駅員に体を揺すられたからだった。
「終点ですよ。もう始発まで列車はありません」
「えっ? ここどこ……」
「U野原です」
いや、待て、そんなところに終電が行くだろうか?
「う、U野原!」
どんな時間帯に電車にのると、深夜のU野原に着くのだろう。
俺は駅員が差し出す端末に、交通系ICカードを当てて精算する。
サービスディなら映画が見れるような値段だ。
「とにかく駅から出てください。命に責任持てないんで」
いや、夏だし駅の椅子で寝てても風邪ひくかもしれないが、死にはしないだろう。
もう少し優しい言葉をかけてくれてもいいのに、と俺は思った。
しかし、駅員に追い立てられるように改札の外に出ると、そのまま駅の外まで押し出された。俺が出てしまうと、駅員はすぐに駅のシャッターを閉めた。
「し始発は?」
「六時半です」
俺は時計を見た。
始発が動くまで、あと六時間ある。
「……」
駅を見回すと、タクシー乗り場があった。
二人ぐらい待っていて、今、まさにタクシーがやってきた。
ここからタクシーで自宅に帰ったらいくらかかるのかな、と考えながらタクシーの列に並ぶ。
待っていた人の一人が乗り込むと、行き先を告げる声が聞こえてくる。
ここから都心まで戻ろうとしている。
「俺も途中まで乗せて」
バタッと扉が閉まって行ってしまう。
「私も相乗りは嫌ですからね」
待っている一人も、俺に向かってそう言った。
永遠にも思える二十分が経過すると、次のタクシーが来た。
前に並んでいる人が乗り込むと、俺は念の為、声をかけた。
「お願いしますよ、俺も途中まで一緒なんで」
「お断りです」
バタッと車の扉が閉まった。
「……」
タクシーが出ていくと、俺は駅で一人きりになった。
タクシーを待っているのは俺一人。
また同じぐらいだけ待てはくるだろうか、と思ったが、流石に待てない。
タクシー会社に連絡してみよう、と乗り場の立て札に書いてある電話番号を見ながら、俺はスマフォを見た。
「えっ?」
掛からない。画面が圏外表示になっている。
「まさか、携帯会社をRに変えたせい?」
いや、Rの携帯はローミングが出来るはずだ。だから、Aの携帯会社の設備を使うことが出来るはずなのだ。それが圏外なんて……
俺は駅を振り返った。
駅員がバカで駅にある携帯電話の中継機の電源まで切って帰った、ってことはないだろうな。
Rの携帯会社に文句が言いたいが、電話もネットも繋がらないからどうにもならない。
タクシーの立て札の先に、バス乗り場の立て札があった。
U野原は遠すぎる。バスでは流石に帰れまい、と思っているとバスが到着した。
そのバスは電気系統が故障しているのか、車内の明かりも行き先表示も光っていなかった。
だが、よく見てみると、行き先は、自分が帰りたい地元の駅に向かうバスだった。
光っていないのに行き先が『見える』のは不思議だが、バスは昔のように行き先をフィルムに書いて内側のライトで照らすタイプなのだ。つまり、かなり古いバスだと言える。
バスがバス停に停まると、排気音して扉が開いた。
明かりがついていないから、回送なのだろうかと思っていたが、扉が開くということは運行しているのだろうか?
俺は近づいていって、中に向かって声をかける。
「乗ってもいいですか?」
曖昧な音が返ってくる。
整理券が飛び出ているから、取ってみる。
すると、次の整理券が飛び出てきた。
「……H王子に行きますか?」
また曖昧な音が返ってくる。
乗れないなら、もっとはっきり言ってくるだろう。
バスの方が安いし、H王子まで行けずとも近づければタクシーの数も増えるだろう。
俺は、そんな曖昧な判断のままバスに乗り込んだ。
後ろの座席に座って待っていると、エンジンが掛かった。
駅を出るまでは起きていたが、駅を出たで安心し、俺はまた座席で寝てしまった。