第9話 最上くんは新しいことがやりたい
「最上くん、大丈夫?」
日が延びて、午後五時をすぎても日差しはまだ強かった。
蘆毛フミカは日焼け止めクリームを塗りたくっていたが、連日の部活練習のため肌は小麦色に焼けていた。
「……大丈夫……だよ……なんで?」
フミカの隣で自転車を押しながら歩く最上ガモンは、げっそりとして辛そうだ。
「なんか、具合悪そうだよ」
「夏バテ気味で……暑いのがちょっと苦手なんだ」
「そう。気をつけてね」
最上の顔色は、フミカとは対照的に、青白かった。
「そういえば最上くんって部活、入らないの?」
「ああ……まだ検討中」
(検討中って……もうすぐ夏休みになっちゃうけど)フミカはおもった。
「小さいときとか中学生のとき、なんかやってなかったの」
「えーと、いろいろとやったよ。たとえば──野球、サッカー、バスケ、剣道、柔道、ボクシング、相撲、水泳、書道、そろばん、ピアノ、絵画、手芸、フラワーアレンジメント……うーん、あとなんだろ? ちょっといま思い出せないけど、それ以外にもいろいろ」
「そ、そうなんだ。すごいね」
「なにか新しいことやりたいんだけど、なかなかなくて」
「……だろうね」
──最上くんはやっぱり人生三周目なのかもしれない。