第6話 最上くんはあざとい
「フミカってさ、最上くんとどうなの?」
午前の授業が終わり教室で昼食を食べているときに、フミカの友人ヒナが出しぬけに訊いてきた。
「へ、なにが?」
「なにがって……すっとぼけんじゃないわよ! アンタ、このあいだコクられたでしょ!」
「ま、まあ……」
ヒナは、フミカとおなじ中学で、フミカの悪友の一人だ。
「そのあと、どういうお付き合いをしてるのかおしえなさいっつってんの。あたしたちにも幸せのお裾分けしなさいよ」
「うちは三次元には興味ないス」
もう一人の悪友ユズハも、フミカの中学からの友人だ。
「ふん。ユズハは二次元だけ愛してなさい」ヒナは吐き捨てるようにいった。
「は? 二次元を冒涜する気スか? そんなヒナこそ小蝿みたく他人の色恋にたかることしかできなくて可哀想スね」
「はああ!」
「まあまあ二人とも……」二人をなだめるのがフミカのいつもの役割だ。
「ったく……で、どうなの。フミカ」ヒナがしつこく訊いてきた。
「え? ああ……付き合ってはない、とおもうんだよね」
「ええ、なんでよ? 毎日仲良く帰ってるじゃない」
「うん。帰ってる……帰ってるだけ」
「どうゆうこと?」
「付き合ってとはいわれてないんだ。いっしょに帰ってほしいとだけで」
「なにそれ?」
「……」ユズハはなにやら考えこんでいた。「いや、もしかしたらそれ、なかなか狡猾な戦法かもしれないス」
「は? どこが?」ヒナが訊いた。
「たとえば」ユズハは人差し指を立てた。「『付き合ってください』といった場合、相手も真剣にこたえざるを得ず、難易度が爆上がってしまうス。なんなら『ごめんなさい』といわれる可能性のほうが高いス」
「まあ、そうかも」ヒナは同意した。
「しかし、『いっしょに帰ってください』の場合、『ごめんなさい』と返事する人間はあまりいないといえるス」
「なるほど」とヒナ。「『好きです』っていわれたあとに、『いっしょ帰りたい』ってお願いされたら断りづらいかも。帰るくらいならいいかってなる」
「そう。それが人情ってもんス。もし最上氏がそこまで計算してるとしたら相当老獪な人間スねえ」
「ろうかい? なにそれ?」
「人生経験豊富な人間の悪知恵みたいなことス。まあ、簡単にいうと『あざとい』って意味ス」
──やっぱり最上くんは人生三周目なのかもしれない。