第30話 最上くんは暗躍する
「なんでステージでまともに演奏しないんだ」
──俺がパンクロッカーだからだよ。
「自分勝手すぎるぞ。トラブルばかり起こすな」
──それがパンクスの生き方だ。
「お前とはやってらんねえよ」
──こっちからごめんだぜ、バカ野郎!
また何度目かのクビ宣告。
狭く、薄暗く、空気の悪い場末のライブハウスの扉を抜け、地下から地上への階段を上がる。
一八〇センチを超える長身、スラリとのびた手足、背中にはベースギターの入ったソフトケースを背負っている。ライブで暴れたせいでポマードで固めたリーゼントは崩れ、端正な顔に前髪が垂れていた。
島崎タツヤが階段を上りきると、そこに男が待っていた。
「やあ。そろそろバンドをクビになるころかなと思って」
「……はあ? 誰だ、お前」
「最上ガモン。同じ高校の同じ一年なんだけど、見たことない?」そういって最上は自分の顔を指差した。
島崎は最上の顔を覗きこんだ。そういえば見覚えがある。
「……ああ、見たことあるな。で、俺になんか用か? いや、なんで俺がバンド辞めたこと知ってんだ?」
「え? ああ、そのことね。まあ、そんなことより話があって──」
× × ×
ギターを始めたころは左手の指先の皮が破けて血だらけになっていたが、いまでは皮膚も硬く厚くなり指が痛くなることもなくなった。
遠野ナギは、自分でバイトをしてはじめて買ったギター──フェンダージャズマスターをアンプに繋げ、真空管が温まるのを待つ。
中古で買ったこのジャズマスターは内部配線をいじってあるらしく、シングルコイルとは思えない図太い音を出した。
セッティングも終わり、まわりを見る。スタジオのなかにはナギを含めて四人。
バンドで音を合わせること自体が初体験のナギは緊張していた。ドラムセットの奥に座る豊田コウセイもナギと同様に緊張している様子だ。
それにひきかえ、最上と島崎は場慣れしていて落ち着いている。
(最上くんは、なんでわたしに声をかけたんだろう……)
あれは一週間前のこと──
元々人見知りでひっこみ思案な性格のナギだったが、高校入学時にそれをこじらせてしまい友人作りに失敗した。おかげで九月をすぎた今現在まで同級生たちと言葉を交わしたことがなかった。
そんなとき、他クラスの男子生徒に話しかけられた。
「いきなりごめんなさい。俺、一組の最上といいます。君、ギター弾けるよね」
頭が真っ白になるとはこのことか──ナギはおもった。
知らない人に──しかも男の子に突然声をかけられた。そしてだれも知るはずのない(だって学校のだれとも会話すらしたことがないのだから)、わたしがギターを弾くことを知っている!
「な、なんで……そのことを知ってるの」
「そのこと? ああ、君がギターを弾けることね。それは、ええっと……ほら、左手!」
そういって最上はナギの左手を指差した。
「君の左手の指の皮、硬くなってるでしょ。ギタリストはみんなそうだから。ほら、俺も」
最上は自分の左手をナギに見せた。たしかに指先の皮膚が厚くなっている。でも、それもよく見なければ気が付けない。
(最上くんはいつ私の左手を見たんだろう?)




