第3話 最上くんは即答する
蘆毛フミカは、電車に揺られていた。車窓の外は、もう日が沈みかけようとしている。
(はあ、今日も部活で遅くなっちゃったな。フトシが一人で待ってるだろうから早く帰ってあげないと。とりあえずメールしとこ)
フミカは弟のフトシにメールを送った。
〈いま電車。買い物して帰ります。夕飯はなにがいい?〉
──駅を三つ過ぎても弟からの返信はまだこない。
(もう! あとからアレが食べたかったとかコレがよかったとかいう癖に!)フミカは苛立った。
ヴヴヴ──
スマートフォンが振動した。やっとフトシから返信がきたようだ。
メールを開くと〈なんでもいい〉とだけ──
「……」
(なんでもいいが一番困るんですけど……はあ、献立なんにしよ)
電車を降り駅を出ると、フミカは家の近所にあるスーパーマーケットへ向かった。
フミカは、毎日毎日夕食の献立を考えるのが苦痛になってきていた。いくつかある料理のレパートリーを順々にローテーションさせているわけだが、それも「ワンパターン」と弟に文句をいわれている。
(もうネタがない)
フミカは考えることを放棄した。
思考を放棄したことによって、脳内にスペースが空いた。そしてその空いたスペースにひとつの天啓が降ってきた。
〝献立は最上ガモンに訊ねなさい〟と──
(そうよ……人生三周目の最上くんならこの難問にもきっと答えられるはず。最上くんはなんでもそつなくこなす男よ)
フミカは最上にメールをした。
〈急にゴメンね。夕飯の献立のアイデアあったらおしえてください。献立考えるのむずかしくて。おねかいします〉
送信したあと、(さすがにね)とフミカはおもいなおした。
(さすがに高一男子が献立のアイデアなんか答えられるはずがな──)
ヴヴヴ──
最上から返信がきた。
「はやっ」
あまりの返信の早さにおもわず声に出てしまった。
〈参考なればいいけど、今日は鮭のホイル焼きをつくろうとおもってます。ちなみにレシピは──〉
そのあとに鮭のホイル焼きについてのレシピがこと細かく記されていた。
「……すご」
(え? 最上くんは料理もできるの? え? ほんとに人生三周目なの?)