第2話 最上くんは待っている
蘆毛フミカの右隣を、最上ガモンが自転車を押しながら歩いていた。
(たかだか十六年間の人生で読む本がなくなるなんて、ほんとにあるのかな? ……いや、そんなことあるわけないか。最上くんの冗談か。でも……)フミカはおもう。(最上くんて、十六歳にしては大人っぽいというか、落ち着きすぎな感じがあるんだよなあ。もう人生三周くらいしてそうな雰囲気あるもん。人生三周目なら読む本もなくなるかもしれないし……)
フミカが最上の横顔をみようとするが、西陽とかさなり眩しくてよくみえない。
学校から最寄りの駅までは数百メートルの距離しかないから十分弱くらいで駅に着いてしまう。
「じゃあ、蘆毛さん。また明日」
フミカの家と最上の家は逆方向だったし、フミカは電車通学、最上は自転車通学だった。
「あの……最上くん、毎日待ってくれなくてもいいよ」
「え? どうして? あ、もしかして迷惑だった?」
「いやいやいや、そんなことはなくて! ただ、わたしの部活が終わるまで最上くんを何時間も待たせちゃうし。いっしょに帰るっていっても十分くらいだし」
「十分でもいいんだ」
「でも……無理させてるかなって」
「無理なんかしてないよ。大丈夫」
「……」
「心配してくれてありがとう。でも、蘆毛さんを待ってる時間も好きなんだ、俺。蘆毛さんがいやじゃなければ、また明日も待ってたいんだけど。いいかな?」
「……うん」
フミカが改札をぬけ振り向くと、最上が手を振っていた。フミカも手を振る。
(たぶん今日も、わたしの姿がみえなくなるまで最上くんは見送ってくれるんだろうな)
もう一度振り返ると、やっぱり最上はまだそこにいて手を振っていた。
(十六歳の男の子ってまだ子どものイメージあるけど、こんなに辛抱強いひともいるのかな? こんなに物わかりがいいものなのかな?)
フミカは、──やっぱり最上くんは人生三周目なんじゃ──と、うたがっていた。