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最上くんは3周目  作者: 伊福部ゴラス
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第18話 最上くんは隠している

 私の名前は、本郷ほんごうツバサ。


 去年大学を卒業し、とある出版社に就職した。小説雑誌の編集者として働きはじめて一年、ついに独り立ちを許され一人の作家を担当することになった。


 私が担当するのは新進気鋭の若手作家──日下部くさかべカラス。


 その新人らしからぬ豊かな文章表現、繊細な心理描写、純文学ともサイエンスフィクションともとれる奇抜なスタイル、奇想天外なプロット──などがディープな層に受け、カルトなファンがつきはじめている。


 かくいう私もその〈カルトなファン〉のうちの一人だった。


 しかし〝日下部カラス〟の素性については謎につつまれていて、ネット界隈では──日下部カラスは定年退職後に遅咲きデビューした初老の作家なのでは? ──という憶測が飛び交っていた。たしかに、あの文才や人間観察力をみればそうおもうのも無理はないだろう。


 日下部カラスの担当が決まった日、私は(素顔をみることができる)と狂喜したものだった。


 浮かれた私をみかねた先輩がこう忠告してきた。


「日下部カラスの本名性別年齢などの情報の公表は契約上堅く禁じられている。もし口外でもしたら高額な違約金が発生することになるから気をつけろよ」




 どこにでもあるワンルームマンションの一室──そこに日下部カラスは住んでいた。


 先輩に連れられていった日下部カラスとの初対面の日、


(いったいどんな枯れオジが出てくるのかしら)


 と私は興奮していた。


 先輩がインターフォンを押しながら「本郷。本人に会っても〝日下部カラス〟って名前を口にするなよ。以前ほかの出版社の奴が外で偶然本人をみかけたとき、ペンネームを叫んじまって身バレしそうになったらしい。それ以来本人をペンネームで呼ぶこともNGになっている」と私に釘を刺した。


「じゃあ、なんて呼べば──」


 ドアが開いた。中から出てきたのは、まだ学生のような若い男性だった。


「え?」渋い枯れオジを期待していた私の脳味噌は、目の前の現実を処理できず混乱した。


「先生、今日は新しい担当者を連れてきました」先輩がいう。


(先生? 彼が? 先生の孫とかじゃなくて?)


「あの……その〝先生〟っていうのやめてください」少年はいった。


「あ、すいません。つい……しかしペンネームで呼ぶわけにもいかないですし……」


「本名でいいですよ」


「承知しました。えっと、それで新しい担当の本郷です。ほら本郷、あいさつ」


 先輩にせかされて私はやっと我にかえった。


「あ……本郷ツバサと申します」


「どうも、がみガモンといいます。よろしくお願いします」

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