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少年は夢をみました。
今まで見たこともないようなきらびやかなそして鮮やかな夢でした。
大きな木に実る黄金のりんごと空を駆けるせむしの子馬、
茨に囲まれた城に眠る美しいお姫様、
海の底の不思議な城と自由に泳ぎまわる尾ひれのついた少女たち、
怪鳥に乗った少年、夜空の星を描いたドレスをまとった少女。
恐ろしい魔女、優しい妖精、悪戯な子鬼たち、物言う小鳥に踊るりんご、
不思議な池で泳ぐ色とりどりの魚たち、古ぼけた魔法のランプ、
マントをたなびかす無口な隊商たち、見事な細工の施された孔雀石の小箱…
はっと目覚めた少年は、慌てて飛び起き、賢者に礼を言うと大急ぎで家に戻り、
一つとして忘れることがないように、夢で見たすべての物語を次々と紙に書きしるしました。
茨で囲まれた城で眠るお姫様を王子様が助けにくるお話、
孔雀石に魅せられた細工師に山の女王がみせる幻のお話、
海蛇との約束を果たすことができなかったお姫様のお話に、
海に投げ込まれた王子と王女の冒険のお話…。
すべてを記し終わると、少年は少女の部屋の扉を優しくノックしました。
ぬいぐるみを抱えたままの少女は眠っているようで返事はありませんでしたので、
起きるまで待とうと枕元の椅子にそっと腰を下ろしました。
少年が腰を下ろすと同時に少女は薄っすらと目を開け、そして優しい声で言いました。
「見つけることができたのかしら」
「とっても素敵な『希望』をみつけたんだ」
「あぁ、なんて素晴らしいのかしら。胸がドキドキしてきたわ」
少女の紅潮した頬と輝く瞳を見て少年は心から嬉しく思いました。
「では、はじめるよ、いいかい?」
少女は小さく頷きました。
「むかし、むかしあるところに…」