2
町の市場は人で賑わっておりありとあらゆるものが並んでいました。
隅のほうで不思議な模様の衣を身にまとった旅人がござを広げてアクセサリーを売っていました。
ひときわ目をひく美しい白い貝のネックレスに、少年は心惹かれました。
手に取ると壊れてしまいそうな繊細なネックレス。
でも、よく見ているとただの冷たい貝でしかないように思えてくるのでした。
一人の老人が、大通りで素晴らしい手つきでアメ細工を仕上げていました。
老人の手馴れた技を見ようと人々が群り、固唾を呑んで見守っていました。
つやつやした黄金色の見事なアメ細工は沈んだ少年の心も浮き立たせるほど輝いて見えました。
ですが、それにもまた、よく考えてみた時、口に入れれば溶けて消えてしまうような虚しさをおぼえるのでした。
花売りの美しい少女が薦める珍しい高原の青い花も、恰幅のいい商人が広げてみせる豪華絢爛な織物も、古びた店の片隅に置かれた精巧な銀細工も、少女の望んだ希望とは何か違っているような気がするのでした。
少年は「希望」を求めてあてもなく彷徨い歩きました。
あてもなく歩きまわった少年は疲れ果て、大きな木の下に座り込みました。
丁度、馬に飼い葉を食べさせている旅人に気づいた少年は、ふと、「希望」について聞いてみようと思いつきました。
「あの…」
おずおずと少年は旅人に向かって口を開きました。
「僕は『希望』を探しているのです。どこにいけば見つけることができるでしょうか?」
旅人は驚いたように少年をまじまじと見ました。そしてしばらく考え込んだあと、こう言いました。
「わたしの『希望』はちょうど我が家で待っているところだ。
赤ん坊が産まれたという知らせが届いて商談を切り上げて急ぎ帰るところなのだ。私の『希望』は産まれたばかりの赤ん坊だよ」
少年はなるほどそれは希望に似ていると思いました。
ただ、それは少女が求めているものとは違うことはわかっていました。
そして、赤ん坊の誕生を祝福し旅人に別れを告げると、また歩き始めました。




