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むかしむかしあるところに、一人の淋しい王様がおりました。
王様は小さい頃から哀しい思いを沢山経験したために、
人を信用しないようになってしまいました。
王様がとりわけ嫌ったのは嘘でした。嘘をついた者はどんな些細な嘘でも罪とし牢にいれ、国中に嘘を禁止するお触れをだしました。
嘘を心の底から憎んだ王は、嘘をはぐくむもとになるとして、作り話を禁じました。
そこで国中の全ての作り話、おとぎ話や物語の本が集められ燃やされてしまいました。
瞬く間に王の国からは物語が姿を消してしまいました。
王の死後もずっと、嘘を禁ずる掟が姿を消した後でさえおとぎ話は蘇ることはなく、
人々はおとぎ話を忘れ去ってしまったのでした。
※ ※ ※
少年が部屋に入ってきた物音に、少女は目を覚ましました。
「起こしてしまったのかな。すまないね」
少年は少女の枕もとの椅子に腰掛け、少女の額にそっと手をあてました。
「今日は随分いいのよ。」
と、少女はかすかな微笑を浮かべました。
「今年の聖夜には何が欲しいのかい?今年も何かとても特別なものを贈りたいんだ。
去年は何か暖かいものというリクエストだったね」
少女は枕元のぬいぐるみを抱き寄せ、夢見るような調子で答えました。
「去年のこのぬいぐるみがどれだけわたしの救いになったか。
あなたがこれを選んでくれたその暖かさが今でも感じられるのよ。ありがとう。
実はね、この前からぼんやりと思ってるのだけどまた欲しいものがあるのよ。
うまく言葉にならないのだけれど。
なんと言ったらいいのかしら。そうね、希望のようなものなの。希望のようなものが欲しいの」
少女の言葉に少年は少し考え込んで言いました。
「それは…、朝起きてみると開きかけている薔薇の蕾のようなものかな」
「そう、それにとっても近いわ。
優しく開きかけている薔薇の蕾のようなもの。
雨上がりの空にかかる、薄くてでも大きな虹にも似ているわ、きっと」
「わかったよ、捜してみよう。待っていてくれる?」
少女はまた少し微笑んで、静かに頷きました。
「捜してみよう」というその言葉は、少年の口から放たれた途端、とても重い約束となりました。
少女の願いを叶えることは彼の喜びでしたが、いかんせん何の当てもなかったのですから。
戸惑いと不安な気持ちを抱えて、少年は町へ出ました。