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第7話 風紀委員の鷹宮さんは、風紀の乱れを許さない⑥


鷹宮たかみやさんは……お茶とジュース、どっちがいいかな?」


「……では、お茶を頂きます。料金も、後でちゃんと支払いますので」


「えっ!? い、いいよ。そんなの別に……」


「そうですよ、鷹宮先輩。先輩が奢ってくれるって言ってるんですから、貰っちゃってくださいよ~。あっ、先輩。アタシにはちゃんといつものミルクティー買ってきてくれましたよね?」


「ちゃんとあるよ。はい」


「ありがとうございま~す。先輩、大好き愛してる~」


 わーい、と子供のようにはしゃぐ三枝の前に、午後に飲む紅茶的なものを置き、鷹宮さんには緑茶が入ったペットボトルを渡す。


 現在、僕たちは同好会で使っている教室に戻って来ていた。


 そして、鷹宮さんが一緒にいるのも、当然、三枝からの話を聞く為だった。


 先ほど、三枝が風紀委員会の会議室で鷹宮さんに言った台詞。



 ――鷹宮先輩に、我が同好会を救って欲しいんです。



 あの言葉の真意を、僕たちはまだ三枝から何も聞いていない。


 一方、三枝は「まぁ、詳しいことは別室で話しましょう」とのことで、鷹宮さんまで連れて戻ってきたというわけだ。


「さて、鷹宮先輩。先輩がパシ……買い物から戻って来てくれましたし、本題に入りましょうか」


 そして、三枝は向かい合うように座っている鷹宮さんに切り出す。


「鷹宮先輩。あなたが委員会活動中に、あろうことか先輩から没収したエッチな漫画を読んでいたという事実は認めますね?」


「なっ! なんですか、改まって、そんなこと……ッ!」


「いえ、単なる確認ですよ。それで、さっきは虚勢を張っていましたけど、そんな姿を、アタシと先輩以外には知られたくない、というのは事実でしょう?」


「そ、それは……ッ!」


 鷹宮さんの顔に、焦りの表情が浮かぶ。


 しかし、すぐに呼吸を整えると、彼女は真っ向から三枝と対峙する。


「先ほども言いましたが、それを脅しの材料にして、私の風紀委員の仕事を蔑ろにさせようというのなら……」


「あー、はいはい。それは諦めました。正直、そっちのほうも期待してたんですけど、どうやら頑固な鷹宮先輩には通じないっぽいんで諦めます」


 やれやれ、とわざとらしく首を振る三枝。


「た・だ・し♪ それって、鷹宮先輩の理念、っていうんですか? そういうのに触れさえしなければ、アタシたちの交渉に応じてくれる可能性があるってことですよね?」


「それは……」


 一度、鷹宮さんがスカートの上に置いていた自分の拳をぎゅっと握ったのを、僕は見逃さなかった。


「三枝、だから、そういうのは……」


 思わず、僕は間に入ろうとしたのだが……。


「先輩の言いたいことは分かってますよ。ですけど、アタシだって、本当はこんなことしたくないんです。でも、これも先輩の為なんです……」


「僕の、ため……?」


 そして、三枝は珍しく顔に翳りをみせながら僕に言う。


「ええ。ですから、アタシは先輩の為なら、悪魔だろうが魔王だろうが、なんだってなってあげますよ」


 そう僕に告げた三枝の目は、本気だった。


 場の空気が、一瞬で重苦しいものになる。


 えっ? そんなシリアスな展開に発展するの?


 思わず、僕も生唾を飲み込んでしまい、そのまま何も言えなくなってしまう。


「一体、どういうことですか? 藤野くんの為というのは?」


 しかし、僕の代わりに鷹宮さんが質問をする。


「そうですね……じゃあ、端的に言いますと……」


 すぅ~、と、息を吸い込んだのち、三枝は鷹宮さんに告げる。



「鷹宮先輩。今日からあなたが、先輩のカノジョになってください」



 …………。

 ……………………はい?


「というわけで、良かったですね、先輩♪ 彼女が出来るなんてリア充の仲間入りですよ。今日はお赤飯ですね~」


 パチパチパチ~と、満面の笑みを浮かべて拍手をする三枝。


 いやいやいやいや。

 待て待て待て待て待て!


「なんですか、その文句のありそうな顔は。そんな態度を取ってたら鷹宮先輩に失礼じゃないですか。折角、先輩みたいな人のカノジョになってくれるって言ってくれてるんですから」


「ちょ、ちょっと待ってください!!」


 しかし、僕より先に鷹宮さんが勢いよく立ち上がる。


「か、か、彼女って、どういうことですか!?」


 いつもの冷静さを失い、顔が真っ赤になっている鷹宮さんだったが、そんなことは全く気付いていないという感じで三枝が答える。


「えっ? 彼女は彼女ですよ。手を繋いで登下校したり、2人きりになったらチューしたり?まぁ、場合によってはその先のこともしちゃったりする仲のことですけど?」


「な、な、なッ!!」


 わなわなと震えだす鷹宮さん。


「で、先輩と鷹宮先輩のお二人には、これからそういう関係になってもらいます。あっ、アタシもちゃんと責任を持ってサポートしますからご安心ください」


「か、か……! カノジョだなんて、そんなことできるわけないでしょ!! そ、そういうのはちゃんとお互い了承した上での関係であって……」


 いつものようにはっきりとした口調ではなく、最後は口ごもるように言ってしまう鷹宮さん。


「大体、何故私が藤野くんの……!」


 ちらり、と鷹宮さんがこちらを見る。


 だが、丁度、僕も鷹宮さんのほうを向いていたので、視線がお互いに重なってしまう。


 そして、三枝の発言のせいで、互いに変な意識を向けてしまっていたのだろう。


 多分、ほぼ同時に視線を逸らす為に、首を捻った。


「あはは~。本当に初心な反応ですね。まぁ、なんとなく予想はついてましたが、鷹宮先輩って先輩と同じくらい、異性との経験ないんじゃないですか?」


「なっ!? また、そんな不純なことを……!」


「いや、まぁ、そうですね。面倒くさいですけど、順を追って説明させていただきますね」


 しかし、三枝も自分で説明責任があると判断したのか、「1」と指で数えながら、僕たちに告げる。


「まず、第一の理由ですが、その前に、アタシと先輩が所属するこの同好会については、おそらく鷹宮先輩は何も知らないんじゃないですか?」


「……いえ、一応、存在は知っています。各委員会が集まる報告会では、必ず新しく設立された部活や同好会の名前が上がるので」


「ふ~ん、そうなんっすね」


 大した興味もなさそうに、三枝は相槌を打つ。


「なら、この『文化研究同好会』が真新しく出来た部活動であることは、ご存じってわけですか」


「……はい。ですが、それが何か?」


「いえ、そこが結構重要でして。この同好会、立ち上げたのはいいんですけど、ぶっちゃけ人が集まってないんですよね~、困ったことに」


 確かに、三枝の言う通り、殆ど三枝の発案で僕が名前だけの会長になって発足された同好会だが、現状は定員2人という『同好会』とすら名乗っていいのか危うい組織となってしまっていた。


「で、今はまぁ、大目には見て貰ってるんですけど、同好会の設立には本来5人は所属していないといけないらしくて、何とかアタシが先生たちと交渉して、その期間を1学期までにしてほしいという話をさせてもらったんです」


 ちなみに、この交渉も三枝がいつの間にかやってくれていたことで、僕は事後報告だけだったし、なんなら、同好会を作ったのも事後報告だった。


「なので、アタシと先輩以外に、あと3人、メンバーが必要なんですよ。だから、どこかにアタシたちの味方になってくれる、頼もしい方を探していたんですよねぇ~」


 最後は猫撫で声で、甘えるように鷹宮さんに向かってそう言い放つ三枝。


 ここまであからさまだと、さすがに感の鈍い僕でも、三枝が何を言いたいのか分かってしまった。


「成程……。つまり、私もこの同好会に入れということですか?」


「その通りです。但し、メンバーっていっても幽霊部員で構いませんよ。ぶっちゃけ名前を貸してくれるだけで、実際に放課後に来てもらったりはしなくていいです」


 なので、あなたの大好きな風紀委員としてのお仕事を全うしてください、と、三枝は鷹宮さんに伝えた。


「だったら……」


「おっと、鷹宮先輩。可愛い後輩の話は最後まで聞かなきゃ駄目ですよ」


 そう言いながら、前に出していた三枝の指の本数が、1から2へと増える。


「第2の条件。正直、こっちが本命です。何故なら、この問題こそが、今アタシたちが抱えている一番の問題ですから」


 一瞬、僕をちらりと横目で見る三枝。


 その瞬間、なぜだか分からないが、悪寒のようなものが僕の全身を駆け巡った。


 しかし、すぐに鷹宮さんのほうへと視線を戻した三枝は、彼女に言った。



「鷹宮先輩。あなたの力で、藤野先輩に面白いシナリオを書かせてください」



拝読していただき、ありがとうございました!

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