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第43話 風紀委員の鷹宮さんは、僕に秘密のお願いをしたい④


「え? じゃあ、今日のお弁当って鷹宮たかみやさんが作ってくれたんだ」


「はい。と言っても、殆どはあやさんが作ったもので、私は飾り付けを手伝ったくらいですけど……」


 朝の登校中。


 普段なら1人で歩くだけの通学路を、僕は隣にいる鷹宮さんと談笑しながら進んでいく。


「私の分のお弁当も用意して貰って……本当に綾さんは優しい方ですね」


「うん。まぁ、しっかりしすぎてて、僕はよく怒られたりするんだけど……」


「それは、藤野ふじのくんのことを心配してくれてるんだと思いますよ」


 ふふっ、と笑みを零す鷹宮さん。


 そんな和やかな空気が続く中、僕はまだ聞けていなかったことを鷹宮さんに聞いてみることにした。


「ねえ、鷹宮さん。昨日の夜のことなんだけどさ。僕、いつの間にか寝ちゃってて……。『エンロマ』は、どこまで読んだの?」


「えっと……まだ1巻が読み終わったところです。藤野くんも寝てしまっていましたし、続けて読むのはご迷惑かと思いまして……」


「そっか……」


 どうやら、鷹宮さんは寝ている僕に遠慮して、続きが読めなかったらしい。


 そして、残念そうに呟くところを見ると、やっぱり先の展開が気になるみたいだ。



 ――なので、僕は勇気を出して、彼女に告げる。



「……だったら、また今度、ウチに来てよ」


「いいんですか?」


「うん……勿論、鷹宮さんが良かったらだけど……」


 最後のほうは、少し声が小さくなってしまった僕だったが、鷹宮さんは自分の髪を触りながら答える。


「……そうですね。お借りしたお弁当箱も返さなくてはいけませんし」


 そして、鷹宮さんも僕の誘いを了承してくれた。


 なんだか、こうして自然と話すことができているのが不思議な気分だ。


 でも、やっぱり2人きりで登校するのはちょっと恥ずかしい反面、特別な時間なように感じてしまう。


 学校までは、あと少しだけど、僕はこの時間がずっと続けばいいなと、そんな風に思ったところで……。



「ほう~、二人とも朝からアツアツですねぇ~。昨日の夜はお楽しみでしたかぁ?」



 後ろから女の人の声が聞こえて、僕たちは同時に勢いよく振り返る。


 ただ、反射的に動いてしまったとはいえ、相手はなんとなく分かっていた。


「おはようございます、先輩♪」


 そして、予想通り、僕たちの後輩の三枝さえぐさアリスが満面の笑みで立っていた。


「あれ? どうしました? 秘密の登校を誰かに見られちゃった~、とか心配しましたか?」


「いや、そういうわけじゃないけど……」


 三枝と、こうして登校時間が被ることなんて初めてだったので、ちょっと驚いたのだ。


「いやぁ、先輩たちがどうなったのか、アタシも気になっちゃいましたから、ずっと後ろから付いてきてたんですよ。気付きませんでした?」


「えっ、そうなの!?」


「ただ、ぜーんぜん普通の感じだったので、つまらないから乱入してやることにしました」


 そう言うと、三枝は鷹宮さんとは逆の位置に立ち、僕が真ん中に来るような形になる。


「ふふ~ん、こうしたら、ちょっとハーレム主人公っぽくないですか、先輩?」


 さらには、三枝は僕の腕を自分の腕に絡ませて、わざとらしく身体を近寄らせてくる。


 相変わらず、含み笑いを浮かべる三枝に困惑していると、そんな彼女に向かって鷹宮さんが告げた。


「三枝さん。藤野くんが困っているので止めてください」


「ええっ~、なんですか鷹宮先輩? もしかして、アタシに嫉妬しちゃったりしてます?」


 きっと、三枝としてはそう言われて慌てる鷹宮さんを楽しもうとしたのだろうが……。



「そうですね、嫉妬しているのかもしれません」



「えっ?」


 思わず回答に、三枝も僕も唖然としてしまう。


「三枝さん。藤野くんの恋人を演じろと命令したのはあなたですよ? なので、藤野くんと仲良くする三枝さんのことも、私は良くは思いません」


「え、えっと……鷹宮さん……?」


「ふふっ」


 固まってしまったままの僕たちを見て、鷹宮さんから笑みが漏れる。


「三枝さん。私だって、やられっぱなしというわけじゃないんですよ?」


 そう言って、鷹宮さんは僕たちを置いて軽い足取りで先へと進む。


「……先輩、鷹宮先輩と昨日の夜、ナニかありました?」


「い、いや……別に……」


 そう答える僕に、怪しい眼差しを向ける三枝だったが、これ以上追及しても仕方がないと思ったのか、絡めていた腕も話して鷹宮さんの背中を見つめる。


「鷹宮先輩……もしかして本当に……」


「三枝?」


「……いえ、なーんでもありません~♪」


 すると、三枝は軽い調子で答えて、鷹宮さんと同じように先へと歩く。


 結局、僕は三枝から何も聞けず、そのまま学校へと向かったのだった。


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