Side-A 三枝アリスは自分の話を語らない③
「……えっと、つまり、しつこく声をかけてきた男たちから、鷹宮先輩が庇ってくれたってこと?」
話を聞き終えたアタシがそう告げると、葉子は首を縦に動かす。
まぁ、あの先輩なら絶対そういう行動を取るだろうけれど……。
あの人も、藤野先輩と同じで、この辺りに住んでいる人なのだろうか……。
いや、そんなことを考えるのは後でいい。
「……わかった。アタシが様子を見てくるから、葉子は心配しないで」
「えっ!? でも、それだとアリスちゃんが……!」
「大丈夫、アタシ、そういう奴らの相手は慣れてるし」
こういうのは警察の手を借りるのが手っ取り早いけど、変に大事にしてしまうのも、葉子は望んでいないだろう。
それに、非行少女時代には大変お世話になったので、個人的にお巡りさんは苦手だ。
「お嬢様」
すると、爺がアタシたちの会話を聞いていたのか、こちらにやって来る。
「爺、葉子を家まで送ってあげて。あと、色々と手配も宜しく」
「畏まりました」
あまり、葉子にはアタシの家について詳しく知られたくなかったので(もう手遅れかもしれないけれど)言葉少ない命令で済ませてしまったが、爺はしっかりと了承してくれる。
これで、例えアタシに危害が加わりそうになっても、ようやく仕事の出番が来たボディガードたちがなんとかしてくれるだろう。
こういうときだけは、アタシのことを信用していない母に感謝でもしておこう。
「仕方ないなぁ。それじゃあ、あの口うるさい風紀委員サマを助けてあげますか」
一応、アタシの友達を庇ってくれたので、それなりの手助けはしてあげよう。
それに、また恩を売っておけば、色々と楽しいことができるだろうし……。
「あっ、アリスちゃん! あのね……」
しかし、そんな余裕ぶっているアタシに、葉子はとんでもないことを口にする。
「鷹宮先輩、そのとき1人じゃなかったの。他にも、男の人も一緒で……」
男の人……?
しかも、鷹宮先輩と一緒にいる人なんて……。
「ねえ、葉子……。その男の人ってさ……」
アタシは、鞄の中に閉まっていたスマホを取り出して、画面を彼女にみせる。
「……こんな顔、してなかった?」
その画面には、アタシがこっそり写真を撮った、藤野先輩の顔が写っていた。
「……あっ! う、うん! この人だよ!」
そして、葉子は驚いたように声を上げる。
「あれ……? でも、どうしてアリスちゃんが、この人の写真……」
「ありがとう、葉子。それと、アタシがこの人の写真を持ってることは、絶対に内緒にしてね」
「えっ? あ、アリスちゃん!?」
アタシは、葉子からの返事を聞く前に、その場から走り出していた。




