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第28話 風紀委員の鷹宮さんは、休日の努力も惜しまない③


あやさん、それに藤野ふじのくんも、今日はお付き合い頂いてありがとうございました」


「いえいえ! とんでもないですよ。私も凄く楽しかったですから」


 ぺこりと頭を下げた鷹宮さんだったが、僕の隣に座っていた綾が両手を振りながら応対する。


「っていうか、むしろ私が楽しんじゃってた気がするんですけど……」


 あはは、と恥ずかしそうに頬をかきながら、綾は鷹宮さんの隣の席に置いている買い物袋に視線を向ける。


 その買い物袋には、綾が選んだ調理器具たちが詰め込まれていた。


「ですが、おかげで必要なものは一式揃えることができました。やっぱり、詳しい方に聞くのが一番ですね」


「いやぁ、それほどでもないです」


 そう言った綾だったが、まんざらでもなさそうに笑顔を浮かべていた。


 僕としても、妹の知識が鷹宮さんの手助けになったのなら、と少し嬉しく思う。


 それに、買い物をしている間は、2人とも楽しそうに会話をしていたので、時間もあっという間に過ぎてしまった。


 僕は蚊帳の外だったけれど、2人が仲睦ましくしている様子を見れただけでも役得だった気がする。


 そして、少し時間が遅くなってしまったのだが、今はこうしてフードコートで昼食を食べているところだ。


 僕はカレーライスを、綾と鷹宮さんはパスタを注文して、それぞれ選んだ昼食を食べながら、雑談を交わす。


「あの、藤野くんと綾さんは、よくお2人で買い物に出かけるのですか?」


「いえ、今日はたまたまですよ。父の日のプレゼントを一緒に買いに行こうって話になったんです」


「お父様の……。ご家族も仲が良いのですね」


「ええ、普通だと思いますけど……そうだよね、お兄ちゃん?」


「まぁ、そうだな……。母さんと父さんの仲は凄く良いけど……」


 こんな感じで、主に鷹宮さんからの質問を僕たち兄妹で答えるという会話が続いた。


 ただ、自分たちばかりの話になってしまって、鷹宮さんが退屈するんじゃないかと心配になったのだが、時折、僕たちのやり取りをみて頬を緩ませてくれているので、その心配はなさそうだった。


 しかし、同じような空気を悟っていたのか、今度は綾から鷹宮さんへ質問を向ける。


「ところで、鷹宮さんはどうして料理を始めようとしたんですか?」


「えっ!?」


 そういえば、鷹宮さんが調理器具を揃えようと思った理由を、まだ聞いていなかったことを思い出す。


「えっと、それは……」


 だが、鷹宮さんは答えに窮しているように身体を縮こまらせてしまう。


「お恥ずかしいのですが、この年でまともに料理も作ったことがなくて……だから、出来るようになりたいと思ったんです……」


 照れ臭いのを隠すように、鷹宮さんは視線を僕たちから外しながらそう答える。


 ただ、おそらくその動機を与えてしまったのは、おそらく僕や三枝だろう。


 そして、もし料理ができないことをコンプレックスに思ってしまったのだとしたら、なんだか悪いことをしてしまったような気がして申し訳ない。


「……それに」


 だが、僕がそんな罪悪感を覚えたところで、鷹宮さんがぽつりと呟く。



「……私の作った料理で、美味しいと言って欲しい人がいるんです」



 ――その台詞を聞いた瞬間、思わずドキリと心臓が高鳴った。



「えっ、それってもしかして、鷹宮さんの彼氏とかですか?」


 すると、至って冷静な調子で綾が問い返した。


「か、彼氏!?」


「えっ、違うんですか? 私、鷹宮さんみたいな人なら、そういう人もいるのかなぁって思ったんですけど」


「ち、違います! はっ、母です! いつも帰りが遅いので……その、私がご飯を作って待っているのもいいのではないかと思って……」


 純粋な綾の質問だったが、鷹宮さんは慌てて否定する。


 ……なんだ。そうだよな。


 まさか、料理を食べさせたい相手と言うのが僕だと思ってしまったことは、流石に驕りだったようだ。


「そうなんですね。両親が仕事で忙しいのは、ウチと同じなんですね」


「はい。看護師をやっていますので、今日も夜勤で仕事なんです……。私が帰るころには、もう仕事に出掛けてるかも……」


「なるほど……」


 すると、何やら考えこむような仕草をみせる綾。


「……うん、わかった」


 そして、綾は決意をした目を鷹宮さんに向けて、彼女に告げる。



「鷹宮さん、今日、ウチに来ませんか?」



 綾がそう口にした瞬間、僕と鷹宮さんは同時に「えっ?」と声を発したのだった。


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