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第26話 風紀委員の鷹宮さんは、休日の努力も惜しまない①


 日曜日。


 僕は約束通り、あやと一緒にショッピングモールへと足を運んでいた。


 今日は、僕と綾で父の日のプレゼントを買う予定だ。


「う~ん、ネクタイかぁ。定番といえば定番だけど、流石にもうちょっと捻りが欲しいかも」


 そして、紳士服売り場へやって来た僕たちは、色々と商品を見て回っている。


 しかし、綾としてはいまいちしっくり来ないらしい。


「それじゃあ、ベルトとかにするか? 父さん、最近太ったみたいで今の持ってるやつだと苦しいって言ってたし」


「ええー。それはそれで、なんか嫌味っぽくない? っていうか、お父さん、また太ったの?」


「うん。このところ、帰りも遅くなって、外食やコンビニで済ますことが多いんだって」


「嘘!? 私には、ちゃんと料理もしてるって言ってたのに」


 もう~、と頬を膨らませて呆れる綾。


 やはり、自分の父親が肥満気味になっていくのは許せないらしい。


 ちなみに、父さんはよく出張に行くので、家に帰ってくることが少ない。


 大手商品メーカーの営業を担当しており、色々な取引先に出向かといけないので、そのまま地方で泊まることがよくある。


 そして、母さんも雑誌編集者という仕事の為、帰りが遅い上に、繁忙期の時なんかは会社に泊まり込みになってしまうことだってあるくらいだ。


 しかし、かといって両親たちの仲が悪いのかと言われれば、そういう訳でもなくて、家族のグループラインなんかでは、息子や娘の僕たちさえ、見ているのが恥ずかしいくらいのやり取りをしていることがある。


「そういえば、母さんって、今日も父さんのところに泊まるんだっけ?」


「うん。それで、明日はそのままお父さんのところから会社に行くんだってさ。本当、お母さんもよくやるよね。わざわざ自分の休みにお父さんのところまで会いに行くなんてさ」


 いやいや、ホント、仲が宜しいようで何よりだ。


 というより、父さんは仕事以外のところはだらしがないところがあるので、しっかり者の母さんが世話をしているという部分もある。


 そういうところは、もしかしたら息子と娘にも遺伝してしまっているのかもしれない。


「……あっ、お兄ちゃん。これなんていいんじゃない?」


 すると、そんなしっかり者の妹が手に取ったのは、革製のパスケースだった。


「この前見たとき、お父さんが使ってるやつ、結構ボロボロだったからさ。これなら、実用性もあっていいと思うんだけど?」


「そうだな……うん、いいんじゃないか?」


 これなら、予算通りの値段だしプレゼントとしては悪くないと思う。


 本当は、綾が気にしていた実用性という面では、このパスケースもきっと父さんの綾からのプレゼントコレクションに追加される可能性が高いのだが、それは言わないでおこう。


「あの、すみません。これ、プレゼント用に包装できたりしますか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 そして、近くにいた店員さんに綾が声をかけると、微笑ましい顔で応対してくれた。


 もしかしたら、僕たちの会話を聞いていたのかもしれない。


 とりあえず、これで用事はひとまず終わったということになる。


 しかし、スマホの時計を見ると、まだお昼を回ったくらいだった。


「綾、これからどうする? 何か食べていくか?」


 幸い、ショッピングモールということもあって、飲食店はそれなりに充実している。


「う~ん、そうだなぁ……。お兄ちゃんは何か用事ないの?」


 一応、何かあったっけ? と考えては見たものの、これといった用事はない。


「ホントに? ゲームセンターとか行かなくていいの? 昔はよくお母さんたちに連れて行くようにせがんでたじゃない?」


「あのなぁ……一体、いつの話をしてるんだよ……」


 僕は呆れながら、妹に返答する。


 綾の話は、もう何年も昔の話で、それこそ、僕がまだ小学生くらいの時のことだ。


「僕はもう、そこまで子供じゃないよ」


 ここのゲームセンターは、いわゆるファミリー向けの娯楽施設になっているので、設置されている機械もお菓子が取れるUFOキャッチャーだったり、バスケットボールでひたすらシュートするゲームだったりするので、今の僕の食指が伸びるようなものは置いていないのだ。


「そっかぁ。お兄ちゃんも大人になったねぇ」


 何故か、おじいちゃんみたいな口調で、そんな感想を呟く綾。


「じゃあ、ちょっと私の買い物に付き合ってもらおうかな」


「なんだよ、自分の用事があるなら言ってくれれば良かったのに」


「まぁ、今日は私が誘ってお兄ちゃんに付き合ってもらったわけだし、少しは家族サービスしないとなぁって思ってさ」


「家族サービスって……」


「ま、冗談はともかく、お兄ちゃんが良いっていうなら、甘えちゃおっかなぁ~」


 そういうと、綾はわざとらしく、僕に腕を絡めて来た。


 これが、三枝が相手だったら僕も動揺しただろうけど、さすがに妹相手だと照れも何もない。


「……全く」


「じゃ、行こっか、お兄ちゃん」


 ふふっ、笑った綾は、家にいるときよりもテンションが高いように感じる。


 もしかしたら、僕が相手とはいえ、お出かけというイベントに気分も高揚しているのかもしれない。


 そう思ったら、しっかりしている妹もまだまだ子供なんだなと感じつつ、僕は今日1日、綾の我が儘に付き合おうと、ひそかに決意したのだった。


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