第23話 風紀委員の鷹宮さんは、生徒の誰とも馴染まない③
「……藤野くん」
だが、鷹宮さんが菓子パンを口に運ぶ手を止めると、ぽつりと僕の名前を呼び、こう告げる。
「どうして、今日も私と一緒にご飯を食べようと思ったのですか?」
「えっ、それは……」
「昨日の私のように、三枝さんの指示……というわけではないですよね?」
鷹宮さんの視線が、僕の心情を探るようにじっと見つめられる。
ただ、急に言われてしまったので、僕もどう言ったらいいのか分からず、黙ったままになってしまう。
「……いえ、こういう聞き方は、少し意地悪でした」
しかし、僕が沈黙してしまったことに対して悪いと思ってしまったのか、鷹宮さんは視線を外して、僕に言った。
「藤野くんが声を掛けてくれたのは、朝の出来事があったからですよね?」
「い、いや……!」
図星だったものの、認めるのかどうか判断できなかった僕は、曖昧な返事だけをしてしまう。
しかし、鷹宮さんからすれば、それだけで十分だったらしい。
「やはり、そうですか」
鷹宮さんの顔は、どこか呆れたような表情を浮かべていた。
「もしかして、藤野くんはあのお二人……古賀さんと新田さんが仰っていたことを、私が気にしていると思ったんじゃないですか?」
彼女はまるで僕の考えが分かっているように質問してくる。
そして、それはドンピシャで当たっていた。
つまり、僕が思っていた通り、鷹宮さんは僕とあの女子生徒2人(古賀さんと新田さんという名前なのだと初めて知った)が話していた内容を、聞いてしまっていたということだ。
「……ごめん」
「藤野くんが謝ることではないでしょう」
思わず謝ってしまった僕だったが、鷹宮さんは少し困ったようにため息を吐いた。
「ただ、今後ああいうことがあっても、藤野くんはなるべく首を突っ込まないで下さい」
そう言った鷹宮さんの声は、いつも風紀委員として活動しているときのような、厳しい口調だった。
そして、鷹宮さんはそれだけ伝えたかったようで、また持っていた菓子パンを口に運ぼうとする。
それは、鷹宮さんとしては、僕に気を遣ってくれたのだと思う。
僕が自分のことで嫌な思いをして欲しくないという、優しさの表れ。
「……鷹宮さん」
だから、鷹宮さんとしては、言葉通りの意味で、僕に関わらないようにと忠告してくれた。
「それは……多分、約束できないと思う」
「えっ?」
僕から意外な返事が返ってきたからなのか、目を丸くする彼女。
だけど、僕はそんな彼女に構わず、話を続けた。
「だって、鷹宮さんは正しいことをやっているはずなのに、それで悪いように言われるのは耐えられないよ」
僕は、包み隠すことなく、自分の心情を吐露した。
「だから、ごめん……」
そして、もう一度、謝罪の言葉を口にした。
「……謝らないでください」
すると、鷹宮さんはか細い声で、僕にそう告げる。
それでも、彼女の顔を見ると、どこか穏やかな印象を受けた。
「本当に……困った人ですね」
「困った人……?」
えっと、どういう意味だろう?
もしかして、迷惑だって言われてしまったのだろうか?
「それは、ちゃんと文脈を読み取ってください。藤野くんは、お話を書く人なのでしょう?」
しかし、鷹宮さんからは、そんな風に言われて誤魔化されてしまった。
そう言われてしまっては、僕も迂闊に答えを聞けない。
ただ、そのときに浮かべた笑顔が、少しだけ意地悪な笑みにみえて。
それは、僕をからかうときの三枝の表情に似ていたのだった。




