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第21話 風紀委員の鷹宮さんは、生徒の誰とも馴染まない①

 翌日、僕がいつも通りに学校へ登校していると、これまたいつも通り、鷹宮たかみやさんが校門の前で生徒たちの服装チェックをしていた。


 最初は、昨日の決意表明を実現するため、勇気を出して鷹宮さんに声をかけようとしたのだが、それは叶わなかった。


 というのも、鷹宮さんが他の生徒と話していたからだ。


 いや、あれは話していた、というよりも……。


「……いい加減にしてよ。なんであなたにそこまで言われないといけないわけ?」


「それが、この聖堂院せいどういん学園の校則だからです」


「だからって、ちょっとスカートが短かっただけじゃない」


「ですから、それを正して頂きたいと言っているだけです」


「だからって、言い方ってものが――」


 なにやら、他の生徒と揉めているような感じで、鷹宮さんも僕に気付いていないようだった。


 それに、注意されたであろう女子生徒の人も、なかなか食い下がらないようで、鷹宮さん以外の風紀委員の人たちも、心配そうな眼差しで二人の言い争いを見ているようだった。


「……うわぁ、またやってるよ。鷹宮、だっけ。あの風紀委員」


「ってか、あの子って確かまだ2年よね? 3年相手に口出しするなんて、恐れ知らずというか……」


 そして、登校する生徒たちもヒソヒソ声でその場を通り過ぎていく。



 しかし、その生徒の大半は……どこか呆れにも混じったような感情が滲んでいた。



「…………」


 僕は、そんな生徒たちの姿を見るのが嫌になって、逃げるように校舎へと向かっていった。


 ……それでも、僕の心に溜まったモヤモヤは、教室の席に着いてからも、なかなか消えることはなかった。


 それどころか、まるで少しずつ落ちていく水滴のように、そのモヤモヤは僕の心のなかに沈殿していく。



 一体、この気持ちはなんなんだろうか……。


 自分でも答えがわからないまま、僕はただじっと、席に座っているだけだった。



「ねえ、さっきの見た? 鷹宮さん、また揉めてたよねー」


「見た見た、本当懲りないよね。ぶっちゃけ、先生たちより厳しくない?」


 すると、クラスでも中心的な女子生徒の人たちが雑談を交わしていた。


 いつもなら、耳を傾けることすらしないのに。


 気が付けば、僕はその女子生徒たちの会話に集中してしまっていた。


「厳しいっていうか、あそこまでいけば、ぶっちゃけウザイってなるよねww」


「わかるー。ってか、鷹宮さんってああいう性格だから友達もいないんじゃない?」


「だよねぇ。ウチのクラスでも、鷹宮さんと口聞いたことある人、何人いるのって感じ~?」


 女子生徒たちは、顔に笑みを浮かべながら、鷹宮さんのことについて話していた。


 しかし、周りの人たちも僕と同じように女子生徒たちの会話が聞こえているのか、クスクスと笑い声を漏らす生徒もいた。


 きっと、今までもそんなことが何度もあったはずだ。


 それなのに、今の僕には、それが耐えられなかった。



 ――ガタッ。



 僕が椅子から立ち上がった音など、教室の喧騒にかき消されてしまう。


 それでも、気が付いたら僕は、先ほどまで鷹宮さんのことを話していた女子生徒たちの前へと、足を運んでいた。


「……あの、さ」


 そして、僕は女子生徒2人に向かって、声をかけていた。


「えっ、なに……?」


 いきなり声をかけられたからなのか、それとも、僕が一体誰なのか分からなかったからなのか、不思議そうな顔をこちらに向けてくる。


 しかし、僕はそんなことは構わずに、彼女たちに告げる。


「あまり……そういうことは……良くないんじゃない……かな?」


「……そういうことって、鷹宮さんのこと言ってんの?」


 すると、1人の女子生徒が察したのか、怪訝そうな目で僕を見てくる。


 それでも、僕は彼女たちに意見を言うのをやめなかった。


「……そう、だよ。鷹宮さんは、皆の為にやってくれているのに、そんな風に言われるのは嫌なんじゃないかなって……」


「いや、そんなこと、なんであなたに言われないといけないわけ?」


「その前に、あんた、誰だっけ?」


 しかし、僕の言葉など全く通じなかったように、彼女たちは首を傾げる。


「ってか、あなたってこの前、鷹宮さんに何か話しかけられてなかった?」


「えっ……いや……」


 そして、次々とぶつけられる質問に、思わずたじろいでしまう。


 その様子に、彼女たちも察したのだろう。


 わずかに漂っていた緊張感が抜け、彼女たちが僕に告げる。


「え? マジ? だったらなんで鷹宮さんのこと、庇うようなこと言うの? ウケる~」


「あっ、もしかして~、話しかけられて変に意識しちゃうようになった、とか?」


「うわっ、それってどんな勘違いなのww」


 彼女たちは、おかしな方向に想像を膨らませているのか、にやついた笑顔を浮かべていた。


「ってかさ~、鷹宮さんのどこがいいわけ?」


「そうそう、性格とか絶対キツそう……」


 だが、言葉が途切れたかと思うと、笑っていた彼女たちの顔が、どんどんと無表情になっていった。


 一体どうしたのだろうか……と、思ったその時、彼女たちの視線が僕の後ろに向いていることに気が付く。


 そして、僕もその視線に釣られるように振り向く。


「……あっ」


 そこには、鞄を持ったまま、こちらをじっと見つめる女子生徒がいた。


 そして、その女子生徒というのが……鷹宮さんだった。


「……鷹宮、さん」


 彼女は、いつもの無表情のまま立ち止まっている。


 教室にいた人たちも、不安げな様子で鷹宮さんを見ていた。


「…………」


 しかし、鷹宮さんはそんな視線を物ともせずに、自分の席まで歩いていく。


 そして、さっきまで面白おかしく話していた二人の女子生徒も、気まずそうに黙ったまま下を向いている。


 ……流石に、本人を前にして話を続けることはないようだ。


 それから、タイミングを見計らったかのように放送スピーカーからチャイムの音が流れてきた。


 その間も、鷹宮さんは何事もなかったかのように、1限目の授業の準備の為なのか鞄の中身を整理していた。


 そして、僕もそのまま、何もできずに自分の席へと戻ってしまう。



 結局、僕から鷹宮さんに挨拶をしようという計画は、これで破綻してしまったのだった。



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