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第18話 風紀委員の鷹宮さんは、無理難題には屈しない⑥


 コン、コン、と三枝さえぐさが指で奏でる一定のリズムは、その後もしばらく続いた。


 しかし、その音も、突如ピタッと止まる。


「……先輩」


 そして、三枝に呼ばれると同時に、自然と背筋がビシッと伸びる。


 果たして、三枝の評価はというと――。



「エロが足りん」



「おいっ!」


 思わず、ズッコケそうになってしまうのを何とか堪えた。


 三枝、悪いけど僕、結構本気で書いたから、ちゃんとした評価が欲しいところなんですけど……。


「いやいや、これが結構真面目な解答というか……いや、真面目なのは先輩なんですけど……」


 何やら、三枝は言葉を選んでいるようで、何度も宙に視線を向ける。


「えっとですね、多分、このお話も悪い出来じゃないと思うんです。それなり上手く話はまとまってますし、先輩らしいといえば先輩らしい話なんですが……」


 そして、三枝は頭の後ろに手をまわして、呟く。


「お行儀が良すぎるんですよねー。いかにも優等生って感じで」


「優等生……」


 そう言われても、僕の中ではいまいちピンと来ないというのが正直なところだった。


「いや、さっきははっきり言いましたけど、別にエロじゃなくてもいいんですけど」


 そして、三枝は僕に向かって、はっきりと告げる。


「先輩って、どこか他人に作品を見せることを恥ずかしがってませんか?」


「そ、それは……!」


「だって、先輩だって『エンロマ』が好きなんでしょ? あれって、やっぱりウリは少年誌ギリギリを攻めたエロ表現なんですよ。そこは、先輩も否定しませんよね?」


 確かに、エロ表現は『エンロマ』の中の魅力の1つだし、僕だって嫌いなわけじゃないし……というか、ちょっと毎回期待だってしている。


 そして、三枝から言われたことは、図星だったところもあった。


「出来れば、先輩にはそういう羞恥心っていうんですか? そういうのを取っ払ってもらいたいんですよ。別に今更、先輩の変態な性癖を知ったところで、アタシも引いたりしませんから」


 いや、さすがにおかしい性癖なんてないとは思うけど……。


「えっ、ないんですか? 先輩、いつもアタシに弄られて喜んでたから、てっきりMの趣味があるのかと……」


「喜んでないし、そんな趣味は持ってない!」


 えっ? じゃあ、今まで僕が喜んでると思って、そんな態度を取ってたの?


 だったら、すぐに態度を改めてほしい。


「まぁ、そこまでいかなくても、例えばですけど、あの風紀委員さんに着てもらいたいコスプレとか想像してみてくださいよ? そういうのを、ちゃんと想像して、どう興奮するのか自分でも確認してみてください」


「たっ、鷹宮さんにコスプレしてもらうなんて、そんなこと……!」



 すぐに否定の言葉を口にした僕だったが、それと同時に、脳裏には次々と色々な衣装を身に纏った鷹宮さんの姿が思い浮かんでしまう。


 彼女のイメージに一番近かったのは、スーツ姿やCAといった、働く人の姿で。


 笑みは浮かべていないものの、すらりとした足が黒いストッキングで纏われているのも、なんとも魅力的だと思う。


 しかし、あえてチャイナドレスやチアガールといった、普段からは想像できない衣装も、きっと鷹宮さんには似合うんじゃ……。



「あっ、ちゃんと想像はできたみたいですね♪」


「うっ! し、してないよ、そんなこと!!」


 誤魔化そうとはしたものの、三枝の様子をみると、全て見透かされているようだった。


「でも、そういうのも大事ですからね。人の願望を疑似体験させることだって、ストーリーテラーのお仕事ですよ」


 そして、最後はそれっぽいことを言う三枝だったが、


「……よし。これなら、もうちょっとだけ後押ししてあげましょうかね」


 パソコンを見ながら、そう呟く三枝。


 後押しって、一体何のことかと質問をする前に、彼女はいつのまにか自分の手に持っていた紙を僕に渡してきた。


 それは、よく授業中とかに他の人が回してくるような、綺麗に折りたたまれた紙片だった。


「開けていいですよ。そこに、アタシから先輩への宿題が書いていますから」


「宿題……ね……」


 嫌な予感だと思いつつも、僕は恐る恐る、手渡された紙を確認する。


「三枝……これって……!」


 そして、僕はそこに書かれていた内容を確認しようと、三枝に視線を戻すと、彼女はまた、いつものように含みのある笑みを浮かべながら、僕に告げる。



「はい、アタシが用意してあげた次のイベントですよ」



 先輩の気弱な性格を直す特訓です、と。


 三枝は、わざとらしくアイドルのようなウィンクをしてくるのだった。



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