第13話 風紀委員の鷹宮さんは、無理難題には屈しない①
「…………藤野くん」
翌日のお昼休み。
4時限目の授業のチャイムが鳴り終わり、先ほどまで授業をしていた先生が教室から退出したところで、僕は声をかけられる。
そして、相手は昨日と同じ、鷹宮さんだったのだが……。
なんというか、雰囲気が怖い。
いや、いつもの鷹宮さんも威厳があるというか、そういうオーラがあるのは確かなんだけど、今日の鷹宮さんは、そのオーラがより一層増幅されているような気がする。
その証拠に、腕を組みながら僕を見下ろす視線には沸々と煮えたぎる感情が混じっているような気がした。
「……このあと、時間、ありますよね?」
そして、これまた昨日と似たような誘い文句であったが、やっぱり文面のところどころに棘がある。
「……では、付いてきてください」
こうして、有無をいわせない形で、僕は鷹宮さんに従うことになった。
「あいつ……また鷹宮に呼び出されてるぞ……一体なにしたんだよ……」
「ホントだ。ってか、あの男子、名前なんだっけ?」
「藤林だろ? お前、クラスの奴の名前間違えるとか、可哀想すぎww」
ごめんなさい、藤野です。
薄々は感じていたことだが、やっぱり僕はクラスメイトから目立たない奴だという認知らしい。
しかし、そんな目立たない奴が校則を重んじる風紀委員として有名な鷹宮さんから、2日連続で呼び出されているのだから、もしかしたら変な噂になっているかもしれない。
一方、鷹宮さんはクラスメイトたちの反応なんて全然気にしていないと言わんばかり、僕の前をスタスタと歩き、廊下を進んでいく。
その背中は、なんとなく話しかけづらい雰囲気があった。
ただ、少し気になることがあるとすれば、鷹宮さんが教室を出る前に、自分の学生鞄を手にしたことだった。
まさか、このあと僕と図書室かどこかで勉強会をする、なんてことはあるまい。
「…………ん?」
しかし、しばらくすると、僕はあることに気付く。
それは、既視感というか、普段から通い慣れているような道順を辿っているというような……。
「……着きましたね」
そして、その予想は的中する。
鷹宮さんが僕を連れて来た場所は、なんと『文化研究同好会』で使用している教室の前だった。
「藤野くん、開けてください。鍵はあなたが持っているとお聞きしています」
「えっ? あ、はい……」
言われるがまま、僕は教室の鍵を開錠する。
ちなみに、鍵は僕と三枝が持っているけれど、実は三枝が持っている鍵は、彼女が勝手に作った合鍵なので、先生にバレたら絶対に怒られるだろうし、なんなら鷹宮さんにバレても怒られてしまいそうだ。
ただ、今はそんなことより、何故、鷹宮さんはここに僕を呼びだしたのだろうか?
まさか、三枝には内緒で、鷹宮さんは僕たちの活動に探りを入れに来たとか?
えっと、その場合……僕はどちらの味方をすればいいんだろう……。
「どうしたのですか、藤野くん、そんなにキョロキョロとして?」
「い、いや、なんでもないけど……」
しかし、ここまで来たからには、そろそろ僕も質問してもいい頃のはずだ。
「どうして、鷹宮さんがここに僕を連れて来たのかなー、って思って……」
「…………はぁ」
すると、鷹宮さんは大きなため息を吐いたのち、僕に言った。
「……本当に、三枝さんからは何も聞いていないのですね」
「三枝から?」
僕が疑問を呈するより先に、鷹宮さんが答える。
「昨日、三枝さんから連絡があったんです。それで、今日、私にやってほしいことの指示があったんです」
そして、教室に入った後、長机の上に置いた鞄の中から、鷹宮さんがあるものを取り出す。
「これって……」
それは、赤と青の、色違いの巾着袋で、鷹宮さんはか細い声で、僕に告げる。
「私が作った……お弁当です。これを、藤野くんにも食べて貰います」
それは、まるで業務内容を伝えるような口調だったけれど。
目の前の鷹宮さんは、どこか恥ずかしそうにしながら、視線を彷徨わせていたのだった。




