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ゲートを抜けた先

作者: 卅日 丰

ジョニーはかつてウェイトリフティングの王者だった。過去形で語っているのはつまり、今はそうではないということだ。いつ頃からだったか勝てない相手が現れ、後進にすら追い抜かれるようになった。

いくら努力をすれども花開かず、万年敗者とまで呼ばれた彼は次第に腐っていった。持ち前の膂力や腕力で人を脅かす荒くれにまで落ちぶれたのである。弱者に絡んでは金品を強請り、換金した金で酒を浴びるように呑むような碌でなし。文句をつける奴は暴力を持って黙らせていた。


そんな日々を過ごしていたジョニーは、ある日ついに一線を越える。酔いの所為もあり引き際を見失って、殺人を犯してしまったのだ。こうなれば見逃しておかれる筈もなく御用。余罪を洗えばボロボロ出てきて、極刑を言い渡されてしまった。

ジョニーは自暴自棄ではあったが、それでも自分の身は可愛かった。猶予期間として刑務所に入れられてからも、どうにか生き長らえる術はないものかと刑務官などから情報収集していた。アンテナを高くした甲斐があり、2日も経つとジョニーに耳寄りな話が回ってきた。

何とかという博士が空間を飛び越えるワープゲートを発明したらしい。


理論は聞いてもよく分からないが確かなものなのだという。

しかし、ゲートをくぐった先の調整はできず、どこに繋がっているのかも分からないという。勿論、無人機などを送って調査をしようとしたが、どういう理由かなんのデータも持ち帰ってこれなかった。ゲートをくぐる前からあったデータも消えていることから、電子機器を初期化してしまう効果があるのだと仮説が立てられた。

ならば生物はどうなのだろうという話になり、先ずはネズミを送ったらしい。このネズミには、着けている者を指定座標にワープさせる機能のついた金輪を装備させて送り出した(ワープゲートを作ったときの副産物として出来たらしい)。指定座標の初期設定はワープゲートを作り出した研究所であるため、金輪の機能が問題なく作動しネズミは帰ってきた。直ぐ様そのネズミの健康状態を調べたところ、別段異常もなかったという。同じような金輪をつけて、鳩を送ったり犬を送ったりしたところ、問題は起きなかった。しかし映像データなどがないため向こうの様子など一向に分からず、やはり人が言って確認するべきであろうという結論に至る。

ただ、未知へと進み出ようとする者は誰もいない。誰も己が身は可愛いのである。

そのうち誰かが、死刑囚を使ってみてはどうかと提案したらしい。どうせ死ぬ人間に確認させて報告させたらどうだろうと。もし人間が通っても安全だと証明したなら、恩赦として死刑を免除することを餌にしようと。人権問題的にどうなのかは知らないが、ジョニーにはどうでもよかった。生き長らえる可能性があるならばと被検体に立候補した。そしてそれは間もなく承認された。


たくさんの研究者が見ている前で、金輪を着けたジョニーはワープゲートをくぐった。直前まで研究所の中、つまり室内にいたジョニーは一瞬のうちに青空の下へと移動していた。回りを見れば摩天楼が立ち並んでいて、東洋人と覚しき人間が多数行き交っていた。そのうちの一人を捕まえて、言語の違いに悪戦苦闘しながら現在地を訊くと、「高輪、日本、東京」と返ってくる。

ワープゲートが安全な場所に繋がっていることを確かに確認したジョニーは、恩赦を目前にしてほくそ笑んでいた。

金輪によって呼び戻されたジョニーは記憶の一切を失っていた。ワープゲートの向こうの情報だけでなく、彼自身に関する記憶まで全てだ。検証結果として喜ばしくはない事実が判明し、科学者たちは騒然となった。

また、安全だと証明したなら出るはずだった恩赦は一旦有耶無耶になりかけたが、記憶喪失が演技でもなんでもないことが数々の心理検査によって確かめられ、罪に問うことも難しくなり当初の想定とは異なる形で与えられた。

その後ワープゲートが封印されたのはいうまでもない。

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