休日の過ごし方とミステリーサークル??
何とか無事にサークルづくりのためのメンバーが集められた日の翌日。
今日は大学生活が始まってから初めての休日。そう土曜日だ。
起床してから特にこれといってやりたいことが思い浮かばなかったため僕は今、片手に持った携帯の画面とにらめっこ状態となっている。
具体的に言い表すと最近話題となっている動画を見たり、ゲームアプリにログインしたりといったことをしている。
そして<他に何かやることはないのか?もういっそのこと誰でもいいから僕をどこかへ連れ出してくれたりしないかな?>なんていう幽閉されたお姫様がいかにも考えつきそうなことを思っていた。
その時、僕の携帯に一通のメールが届く。
<誰からだろう?>そう思いながらメールの内容を確認する。
送ってきたのは夏南でそこには『今日、この後暇だったらどこかで昼食を食べたついでに遊びに行かないか?』と書かれていた。
確かに今どこかに連れ出してほしいとは思っていたが、こんなにも早く実現することになるとは。
全くもって予想していなかった。だが、このままダラダラすごして一日を無駄にしてしまうよりかは体を動かした方が良いだろうと思い『OK!』と返信した。
その後も何通かのやり取りをした。
『お昼のことなんだけど、そっちは何か食べたいものがあるのか?』と僕。
『輝が食べたいのでいいぞ、俺は。けど、しいて言えば四丁目の曲がり角の所にある最近気になってたラーメン屋だけど...』と長々とした文章が書き綴られていた。
<食べたいと思うものが初めからあったのなら遠慮せず素直に書いてくれても良かったのになぁ>と思いながら『なら、そこのラーメン屋にしよう!!』と送り返した。
午前十一時半頃、夏南が僕の家の前で待っていた。
「僕の家までどうやって来たんだよ?まだ住んでる場所の住所とかお前に教えてなかったよな!?」
「そうだ。だから輝が上京する前に住んでた家に電話した。そしたら丁寧に教えてくれたぞ、お前の妹が」
まさか夏南がこんな事をするとは想像もしていなかったとはいえ、高校に入学してから間もなかった頃にも似たようなことがあったけど。
それは別にいいとしても、問題は僕の妹だ。華江は僕が家に夏南を連れてくると毎回とても嬉しそうにしていたのだ。その意味をつい最近まで考えてみたものの結局模範解答と呼べるような答えはわからずじまいだった。
そこで今から一カ月前のこと、僕は思い切って妹に電話で直接聞いてみることにした。
すると「う~ん、私の作業が捗るからかな」というよくわからない答えが返ってきた。
それからその言葉の詳細、本当の意味を聞いてみると、なんと僕と夏南がモデルになった同人誌を書いていたという事が判明した。それも男同士のせつなくもちょっぴり甘い恋物語を。
そう、僕の妹は世間一般で言われる腐女子だったのだ。他人のことをどうこう言うつもりはないのだが、こればかりは血のつながった妹だと言われても少し引いてしまう。
だからこれまでに何度か「お兄ちゃん、夏南とは一体どういった関係なの?」とか「お互い、恋人はいるの?」などといった教えたところで僕にとって一切得をしない情報を聞いてきたのだろう。
今まで謎だったことが分かったのは嬉しくもあったが、その反面知らない方が良かったのではないかという複雑な心情となった。こんなこと夏南には是が非でも伝えられない。
妹の本性が知られたくないというより僕が伝えることに抵抗を感じるためだ。だって、僕と夏南の恋物語を妹が描いていたなんて恥ずかしすぎる。僕らは単なる男友達でやましい感情がお互い無いことくらい分かりきっているのだが...。
それからラーメン屋へと向かった。徒歩で約二〇分程の所にあった。
店の名前は『魚出汁亭』で、麺の命ともいえるスープは魚介をふんだんに使った濃厚とあっさりの中間くらいだった。全体的には普通に満足のいくものだったのだが、個人的にはもう少しスープの後味がマイルドな感じだったらよかったなと感じた。
昼食後、僕らは電車に乗って現在地の最寄駅から九つ先にある駅の近くにある大型ショッピングモールへと向かった。
理由は、そのショッピングモール内にあるゲームセンタ―に行ってみたいという話になったからだ。何故そうなったのかというとこっちに引っ越してくる前のこと、いつか行ってみたい場所の事を話し合った際、全国の中でも結構な数のクレーンゲームなどの設備があるらしいと分かりいつか時間ができたら行ってみようという話になっていたためだ。
夏南は上京してから高校の授業の復習などばかりしていたため家から遠くへは外出していなかったらしい。僕の場合も殆ど家におり、外出といっても近所の本屋に行ったりしただけだった。
そのため二人とも初めて行く場所だった。
電車に揺られること約四〇分、もうすぐで到着すると考えただけでワクワクしてきた。僕は植物だけでなくゲームも同様に好きで矛盾するかもしれないが、どちらも一番なのだから。
それから少し経ちショッピングモールに着いた。駐車場も店内も前に住んでいた所にあった地元のスーパーよりも広々としている。そりゃ当たり前のことなんだろうが感動していた。
驚きと興奮が冷め止まぬまま足早に三階のゲームセンタ―へと向かう。
━━ところが『本日は設備の点検と清掃のため休業とさせていただきます。また明後日以降のご利用お待ちしてます。』と書かれた紙が閉じたシャッターに貼ってあった。
今回は事前に確認してこなかった僕らが悪いのだが、あまりにもショックだった。
このことで今回の目的を失ってしまった僕らは来て早々に帰るというのもなんだということで約二時間、書店やコーヒーショップを回ったりして時間をつぶした。
「夏南、今日は誘ってくれてありがとな」
「おっ、俺の方こそ急に誘ったりなんかして悪かったよ。結局、UFOキャッチャーとかできなかったし」
「まあそうだったけど楽しめたから良くないか?」と僕。それに対し、彼も頷いた。
そうして楽しかったもののちょっぴり後味の苦いような気持ちを胸に帰宅した。
<今度は事前に調べてからだな...>とお互いに同じタイミングで思ったとか、そうじゃないとか。
翌日、目が覚めたのは午後の二時だった。昨夜、午前九時にセットしたはずの目覚ましはすでにスイッチが切れていた。ということは、あまり覚えてはいないものの一度スイッチを切るために起きた後、再び寝てしまったということだろう。つまり二度寝をしてしまったようだ。
しかしこんな時間に起きたはいいものの、これから特にやりたい事が思いつかない。
しいて言えば、大学に提出する書類が無いか確認するくらいだろう。
...一通り書類に目を通し、大事な要項のメモも取った。さて、本当にすることが無くなってしまった。
<やっぱり、携帯をいじるとでもしよう>そう思い携帯のホーム画面を開く。
またメールが送られてきていた。その内容は『写真をみてね、てる♡』といったもので母さんからだった。文章の最後にハートマークをつけるのはどんなにやめてくれと言ったことだろう。
だいぶ前から言い続けてきたのではないだろうか。とりあえず、その写真とやらを見てみることとしよう。それは一見普通のようで、でもどこかが異常だった。そしてついに分かった。
送られてきた写真には祖父が育てている人参畑と、その周辺の田んぼの様子が写っていた。
問題の箇所はというと、通常なら今の時期には実をつけていないはずの田んぼが黄金色に光っていた。そして、田んぼの稲が幾何学模様になぎ倒されれているのだ。
どういうことなのか気になった僕はいてもたってもいられなくなり、ついには電話をかけていた。
電話がつながったと思ったら、母ではなく妹が出た。まあそれは今、大したことではないのだが。
「もしもし、輝だけど。あの写真どういう事なんだ?」と僕。
「本当にお兄ちゃんですか?詐欺じゃないですよね。どっちでもいいですけど」と妹。
「どっちでもよくはないし、本当に本人だよ」と僕が言うと「そ~だよね。シスコンのお兄ちゃんちゃんだよね...」と言ってクスクス笑っていた。
妹の僕に対しての態度が悪いことはこの会話からもわかるだろう。そのくせ何かおねだりしたい事があるときはベタベタしてくる。妹というものがますます分からなくなっていく。
そして僕は深呼吸をした後、もう一度あの写真について尋ねてみた。
「あれね~お兄ちゃんは何だと思います?」と妹から突然のクエスチョン。
送られたきた写真について分からないから聞いたというのに、とりあえず答えてみるしかないだろう。
「宇宙人でもやってきたのか?」と馬鹿げた回答をしてみた。
「ぶっぶ~お兄ちゃんって本当に馬鹿なの?猿でもわかることだと思うけど、田んぼの幾何学模様に気づかなかったの?だとしたら、眼科行った方が良いよ」と妹に罵られた。
その幾何学模様についてもそうだが、それらについて教えてもらいたかったために電話をしたというのに。僕の聞き方が悪かったのだろうか。今度は赤ん坊でも理解できるように言ってみよう。
「もう一度聞きたいんだけどさ~あの写真に写っていた田んぼの稲が独特な倒され方してたじゃん」
「そうだけど、それがどうしたの?」と妹。
「だからね、四月なのにもう稲穂が実ってるのとあの幾何学模様は何なのかが聞きたいんだよ」
「だったら始めからそうやって言ってください。本当にお兄ちゃんの話はわかりづらいわ」と妹。
僕の話はまとまりが無いのかもしれないけど、そこまで言わなくてもいいじゃないか。妹の話し方は傷つくというより挑発されたような気分になる。いつかは、直してほしいものだ。
ともかく、これで相手に聞きたいことは伝わったはずだ。
気を取り直して「で、結局のところ写真のあの模様とかは何なの?」と聞いてみた。
「あれは画像を合成したりしたもので実際、田んぼは青々としてるけど。だから、あの幾何学模様とかもフェイクよ。あの写真に写っているのは全部偽物ってこと。じゃあ、お母さんに電話代わるね」
そうして、妹が電話口からいなくなった。母さんとの電話も久しぶりだったからまあ良いけど。
それから、三〇分程親子での電話をした。内容は僕がちゃんと自炊できてるかとか、体調は大丈夫かとかというごく普通の会話だった。そして母さんからもあの写真についての話を聞かされた。
妹が今朝、家の二階から撮った何の変哲もない写真をパソコンを用いて加工して母さんの携帯を通して送信してきたらしい。何故そんなことをしたのかというと、母さんが言うには僕との話のきっかけがほしかったんじゃないのかとのことだった。
「普通に妹が自分の携帯から送ってきてくれても良かったのに」といった僕の質問に対しては直接僕の携帯に送るのが恥ずかしかったんじゃないかとも言っていた。
母さんの言ったことが本当なら、少し嬉しい。妹に嫌われてるのかなとか考えたりもした事があったのだから。
こうしてミステリーサークルのような写真が送られてきた件は解決した。それにしても写真が画像を合成したものだったと知り驚いている。本当に精巧な作りだったのだから。
いつから妹が今回のような事ができるようになったのかは知らないが誇らしいとも思った。
<いつか妹が僕に対して冷たい態度をとらないようになってくれたらな>と思う一日だった。