回復しない回復職の俺は今日も追放されて金を得る
俺は回復魔術師だ。
ただ、他の回復魔術師と違った技能が1つだけある。
その魔法の名前は何てことない『ヒール』だ。
ヒールとは古来『完全無欠』という意味があるのだと、俺に魔法を教えてくれた爺さんは言っていた。
俺が爺さんの魔法を全て覚えると、翌朝ベッドで冷たい血と肉の塊になっていた。
寝る前の爺さんはとても満足そうな表情だったし、俺は良い事をしたのだと思っていた。
爺さんが死んだ時は、悲しみの涙をこぼしもした。
あれから何年だろう。
街の冒険者ギルドに入ってソロ用の仕事を探すと、死にやすい回復職はいつも声をかけられる。
回復職であるという証を胸に下げ『PTは組んでいませんソロですよ。レベルはいくつです』という表示をしなければいけないからだ。
ギルドのおせっかいにも困ったものだが、こうしないと依頼掲示板を見れないのだから仕方ない。
ソロの回復職は珍しい。
どこのギルドでも、断っても断っても声をかけられ続ける。
断るのが面倒になった俺は、いつしか同じ返事をするようになった。
「俺をPTから追放すると不幸な事が起きますよ。それで良ければ入れて下さい」
どの冒険者も決まって言う。
「蘇生魔法を使える高レベルで希少な回復職を、追放するなんてとんでもない!」
しかし、決まってこいつらは3日以内に俺をクビにする。
だが、そんな事は関係ない。
PT契約金と、PT契約から1週間以内に追放した際に発生する違約金が貰えれば、一週間は普通に暮らせる。
こいつらがどうなろうと、荒んだ心の俺には構わなかった。
今回の依頼現場は、地方の城を占拠した上位モンスター退治か。
こいつはラッキーだったな。
城に入る前にPT全員にヒールをかける。
「まだ俺達は傷1つ、ついちゃいないぜ?
緊張でもしちまったのか。ガハハ!」
「回復職の君の仕事は、俺達が傷が1つでもついたら癒やす事だ。
それだけでいいから頼んだぜ」
「でも、いいじゃないライゼ。
神の恵みがありますようにっていう、おまじないなのよきっと」
「ま、そんな事はどうでもいいさ。
さて仕事にかかるとしようぜ!」
俺の完全無欠が効いている仲間は、どうあがいても傷1つつかない。
だから俺の仕事は9割終わってる。
残りの1割は、収穫を待って同行する事だけだ。
「今日はまるでダメージを受けないな。
絶好調だぜー!」
「盾も壊れねぇしな。
こりゃ回復職を雇う必要もなかったかな。ガハハ!」
「アンタ、もうちょっと私を気遣うとかできないの?
何の仕事もしてない暇人なんだからさ」
お前らはさっき言ったはずだ。
『傷1つでもついたら、癒やすのが仕事だ』と。
俺はそれを忠実に守っている。
いつもいつも守り続けている。
そして、いつものようにボスを倒し、大量の金銀財宝が出る。
「おいおいなんだよ、結局ノーダメ討伐か。
ちょっとは苦戦するはずの依頼だったんだがな」
「ギルド評価のレベルが、私達の本当の実力より低すぎるのよ」
「じゃあ、回復職いらずみたいなもんだな。
これならレベル1のヒヨッコを連れても問題ねえ」
「と、いう訳だ。
雇った当日ですまないが、君は今日で追放にするよ」
ハァ……また予想通りか。
反論する気も出ない。
「俺は解約金さえ貰えれば文句はありませんよ。
貴重な経験をありがとうございました」
「は? 無敵の俺達がそんなもん払う訳がないだろ。
それに分前もやらねぇぞ、もう仲間でもなんでもないからな」
「いえ、文句を言う気はありません。
心置きなくアナタ方にかけた魔法を解除できますからね」
完全無欠を解除すると、効果時間中に受けたダメージがゆっくり、ゆっくりと体に刻みこまれる。
数発で死ねる虚弱な魔法職とは運がいい。
何が起こったのかと、前衛職は右往左往して俺に懇願する。
「なんだよこりゃあ……
おい、頼むよ回復してくれ。
さっきの追放を無かった事にするからよ」
「俺からも頼む……
回復を……回復魔法をかけてくれ」
「会った時に言いましたよ、追放したら不幸な事が起きるってね」
今回は目撃者がいない陸の孤島みたいな場所で助かった。
これでギャアギャアと騒ぎ立てるしぶとい前衛が、いなければ最高なんだけどな。
一度裏切った人は二度裏切る。
やはり可哀想だと生き返らせて、何度激昂されたかわからない。
約束も守れない傲慢なヤツは、見殺すに限る。
俺はマジックバックにボスのドロップを詰め込み、血と肉の塊になった奴らに金貨を1枚ずつ置いて城を後にする。
あんな惨めな死に方はしたくないな。
新しい仕事を求めて、次の街に向かった。