解けない謎
おまけ的な短めです
「ねぇねぇ。紗愛ちゃんにも解けない謎ってないの?」
「――私をなんだと思っているんですか。ふつうにありますよ」
柳さんがいきなり変なことを言ってきたので、紗愛は少しむっとして答えた。
ちょっとした相談事に答えているだけなのに、名探偵扱いされたらたまらない。先日もそれで、探偵サークルの西園寺さんがやってきたし。
「じゃあどんなのがある? あ、リーマン予想みたいなのはダメだよ」
「そんなのただの高校生に分かるわけありません。それでは、どうしても解けない謎を一つ」
そう前置きをして、紗愛は語り出した。
☆☆☆
とある休日。紗愛は自宅でお菓子づくりをしていた。
「へぇ。紗愛ちゃん、お菓子づくりの趣味があるんだ。女の子っぽいね」
「そうですか。ほとんど自分で食べるためですよ。たまに弟にもあげますが」
「あ、そういえば弟くんがいるんだっけ。元気?」
「続けていいですか」
柳さんの度重なる相づちを遮るようにして、紗愛は話を続けた。
その日作っていたのは、シンプルなカラメルプリンである。
お菓子のレシピを把握してなくても、レシピ本などを見て、その通りに作ればいいのだ。難しいことはない。
だが紗愛はそのレシピを見て愕然とした。
「え、砂糖ってこんなに入れるの?」
そこに記されていた数量に、紗愛はおののいた。カラメルも含めて計算すると50グラムになった。カップに入れると砂糖の山が出来た。これは危険だ。できあがっても自分は一口だけ食べて、後は全部弟に食わせてやろう。
紗愛はそう決心した。
「けれど、ダメだったんです。出来上がったプリン、気づいたらすべて自分で食べていて……」
「紗愛ちゃん」
柳さんの瞳は、自白した犯人を見るような哀れ目だった。
「大丈夫よ。紗愛ちゃん!」
「西園寺さん?」
そこに現れたのは、探偵サークルの部長、西園寺美夏だった。
この前会ったときも自信に満ち溢れた感じの女性だったが、今日は一段と輝いていて本物の名探偵のように見えた。
救いを求めるかのように見上げる紗愛を前にして、西園寺さんは堂々と言い切った。
「そのミステリーには巧妙なトリックが隠されているのよ!」
「それは……?」
紗愛にも分からない巧妙なトリックとはいったい。
「砂糖は糖分。それは本来なら必要な栄養素だわ。そもそもふだんの生活でも、人は知らずうちに糖分を摂取しているのよ」
西園寺さんの言葉に紗愛はうなずく。確かにその通りだ。
「さて問題。ご飯お茶碗一杯の糖分を、角砂糖に変換したらどれくらいになると思う?」
「そうですね。一個か二個ぐらいでしょうか」
紗愛の答えに、西園寺さんはにやりと笑った。
「いいえ。おおよそ15個くらいよ」
「えー。そんなにっ」
横で聞いていた柳さんも同じように驚いた様子だ。
「さっき紗愛ちゃんが言っていた砂糖量だと、プリンだと2個くらいかしら。糖質の違いがあるから単純に比較は出来ないけれど、ご飯お茶碗一杯分とだいたい同じね」
「そうだったんですか」
砂糖量を実際に見てしまうとためらってしまうが、ご飯お茶碗一杯分と言われると意外といけそうな気がする。
感心している紗愛に、西園寺さんがとどめの言葉を告げた。
「夜食にお菓子やカップラーメンを食べていると太るってイメージがあるでしょ。けど、それがおにぎり一個だとしたら? それはまるで、深夜まで勉強に励む受験生の姿そのもの。そこにカロリー過剰でメタボなイメージは全くないわっ」
「確かに!」
「つまり、ご飯もプリンも、実質カロリーはゼロなのよ!」
「はいっ。素晴らしい理論です、西園寺さん!」
紗愛は目を輝かして、西園寺さんの両手を掴んだ。
そんな女二人のやり取りを、柳さんは一歩引いた感じで見つめていた。
「……なんだかなぁ」
見事にトリックが解明されたというのに、柳さんはなぜか釈然としない様子で、嘆息していた。