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脅迫状と野球観戦



「ねぇねぇ紗愛ちゃん。脅迫状に興味はない?」

「それはすでに警察の仕事では?」


 いつものように突拍子もなく話を始める柳さんに対し、紗愛は冷たい視線を向けた。以前はもう少しうんちくを語ってから本題に入っていたけれど、最近は簡略化されてきたような気がする。


「いや。警察沙汰って程じゃないけど、やっぱり気になっているみたいだから」

「そう話すってことは、やはりまた探偵サークルがらみの話なんですね」

 紗愛は呆れた様子で尋ねた。

「うん。実は新井の友達からの相談なんだけど、何でも『野球観戦を中止しろ』みたいな脅迫状が届いたって……」

「何ですか! その卑劣な事件は。ぜひ詳しい話を聞かせてくださいっ」


「……えっと。もしかして紗愛ちゃん、野球好き?」

「地元なんですから当然ライオンズのファンです。当たり前じゃないですか。それよりまさか、ライオンズがらみの脅迫じゃないですよねっ?」

「え、えっと……どうなのかなぁ。僕もまだ新井から聞かされただけだから。その、一緒に当人に聞きに行ってみる?」

 柳さんが珍しく当惑した様子で引き気味に口にした。

 もちろん紗愛は力強くうなずくのであった。


  ☆☆☆


「まぁ、脅迫状って言っても、大したことないと思うんだけど」

 そう笑顔を見せながら語ってくれたのは、秋花学院大学三年生の金田一さん。名前は名探偵っぽいけれど、彼が脅迫状を受け取った、今回の被害者である。

 爽やかな笑顔が映えて、充実したキャンパスライフを送っている好青年といった印象だ。脅迫状を受け取るような恨みを買うイメージではないが、実際はどうなのだろうか。

 金田一さんは新井さんの知り合いで、脅迫状の話をしたところ、柳さんと紗愛を紹介されたという。

「それじゃあ、まずは状況を聞いてもいいですか?」

「うん。状況って言っても、単純だけど」


 金田一さんは、埼玉西武ドームで行われる試合のチケットを手に入れた。同じゼミを受けていて、ちょっと気がある女性、五十嵐さんを誘うのが目的だった。

 五十嵐さんは、女友達の間からは野球好きで大のライオンズファンだと知られており、それを聞きつけた金田一さんが、チケットを用意して誘ったのだ。

 彼の思惑通り、五十嵐さんを誘ったところ、OKをもらえることができた。

 ところがその翌日、金田一さんのメールアドレスに、奇妙なメールが届いた。


 件名 野球観戦を中止しろ 

 本文 さもないと悪いことが起きる

 

 金田一さんは不気味に思いつつもとりあえず無視をした。質の悪い悪戯だろうと判断したのだ。宛名もないし、もしかしたらアドレスを間違えたのかもしれないし。

 だが二日後。

 今度は彼が一人暮らしをしているアパートのポストに、メールと同じ文章が記された紙が投函されたのだ。

 ネットのメールならともかく、切手も貼られていない紙が投函されているということは、自分の住所を知っている人間が犯人ということだ。

 さすがに金田一さんは恐怖を感じた。


「と、まぁそんなわけ。何が『悪いこと』か分からないけど、不気味なんで野球観戦は取りやめて、西武園遊園地に行って来たんだ。五十嵐さんも楽しんでくれたし、俺的にはむしろ良かったかなって感じ。犯人から返事はなかったけど、野球観戦しなかったからか、『悪いこと』も起きなかったし」

 金田一さんがお気楽に笑った。

 危機感が薄かったのは、もう過去のことだったからのようだ。

「けどまぁ、やっぱり気になっていたし。で、それを新井に話したら、探偵サークルの君たちを紹介されたってわけ」

 うんうん、と柳さんが隣でうなずいている。

 ここまでは柳さんも周知のようだ。だから、警察沙汰というほどではない、と言ったわけだ。

「というわけだけど、紗愛ちゃん、どうする?」

「そうですね。まずは、脅迫のメールを見せてもらえますか?」

「あ、うん。ちょっと待ってね。えーと」

 紗愛の言葉を受けて、金田一さんはスマホを取り出して、それを紗愛たちに見せた。いわゆる一般的なフリーメールで、さきほど金田一さんが話した通りの内容が書かれていた。

「ねぇ、この差出人のメールアドレスから人物を特定できないの?」

「おそらく使い捨てのアドレスでしょうね。専門家ならたどり着けるかもしれませんが、私には無理ですね」

 柳さんの質問にあっさりと答えて、紗愛はスマホを金田一さんに返した。相手のメールアドレスの綴りにも、犯人の意図やその正体に繋がるようなものは見られなかった。

「投函されたという脅迫状の方はお持ちですか?」

「いや。不気味だからもう捨てちゃったよ。A4コピー用紙に、パソコンか何かでメールと同じ文字が書かれていただけで、特徴なかったし」

「金田一さんのメールアドレスをご存じの方は多いのですか?」

「連絡用で、ゼミのみんなは知っていると思うけど、それくらいかな。最近はラインで済ませちゃうことの方が多いし」

「そのゼミのメンバーに、メールが来る前、野球観戦の話をしましたか?」

 金田一さんは少し思い出すように考え込んで答える。

「話したって言うか、知っているのは千代田くらいかな。もともと五十嵐さんを野球に誘おうって言うのは、奴のアイディアだし」

 千代田というのは、金田一さんの友人の男性とのこと。

「では、金田一さんのご自宅を知っている方は周りにいらっしゃいますか?」

「いや。ほとんどいないね。本当につい最近一人暮らしを始めたばかりだから。家に呼んだのもまだ千代田くらいだし。あ、そういえば脅迫状が投函されていたのも、その日だったな」

「へぇ」

 柳さんが興味惹かれたようだ。その様子に金田一さんも気づいたようで、逆に提案してきた。

「なぁ、せっかくだし、あいつからも話聞いてみる? 連絡とるよ」

 紗愛と柳さんは顔を見合わせて、金田一さんの提案にうなずいた。


  ☆☆☆


 待ち合わせのカフェテリアに現れたのは、やはり金田一さんと似たような今どきのイケている感じの男子だった。

 千代田さんは何も注文せず、カバンから取り出したペットボトル飲料を机の上において、椅子に座った。

「あいつから話は聞いたよ。ずいぶん前の脅迫状のことを調べてるんだって?」

「うん。金田一さんの家に脅迫状が届いたとき、一緒にいたと聞いたので、詳しく話を聞かせてくれればなぁって」

 柳さんが言う。金田一さんのときもそうだったけど、相手が年上でもマイペースである。けれど、TPOをわきまえていないといった風には感じられず、自然な印象を受ける。得な性格である。

「別にいいけど、大したこと分かんないよ」

 そう前置きをして、千代田さんが語り始めた。



 先週のこと。

 金田一さんから、引っ越しが終わって落ち着いたから遊びに来ないかという話があった。金田一さんの新居の場所は事前に聞いていたので千代田さんも知っていた。ちなみに、金田一さんのメールに脅迫状が送られていることは、その時点では千代田さんは聞いていなかったという。

 千代田さんは特に断る理由もなく、金田一さんと一緒に大学を出て、彼のアパートに向かい、着いたのは、午後六時少し前だった。

 入口にある集合ボックスで金田一さんが郵便物を確認し、二人はエントランスに入った。けれどせっかくだから酒と何かツマミを買ってこようかという話が二人の間でどちらともなく起こって、二人はいったんアパートを後にして、近くのコンビニに向かった。

 それから十分ほどして、二人は再びアパートに戻ってきた。

 わずかな時間だったが、金田一さんは惰性でもう一度郵便受けを確認した。すると、例の脅迫状が入っていたのだという。



「で、俺も一緒にその脅迫状を見て、事情を知ったってわけ。ちなみに午後六時って言うのはちょうどコンビニで酒を買った時間ね。レシートを何となく取っておく性質だから、後で見て分かったんだけど」

「なるほど。ありがとうございます」


 なかなか興味深い状況である。

 いつどこからでも送れる電子メールとは違い、直接郵便受けに投函する方法は限られる。その時間帯が分かっているだけでも、犯人を絞りやすい。

 しかし金田一さんの話によれば、彼の自宅を知っているのは千代田さんのみということだ。ただし千代田さんは、金田一さんとコンビニまで一緒に着いて行っており、一人戻って郵便受けに投函することは不可能だ。


「千代田さんは、金田一さんや五十嵐さんとゼミで一緒なんですよね? 野球デートに誘うようにというのは、千代田さんの提案と聞きましたが」

「ああ。そう。いい案だと思ったんだけどなぁ」

 結果的には代わりの遊園地でいい雰囲気になったみたいだが、当初の野球案には妨害ともとれる脅迫が来てしまい、それなりに彼も気にしているようだ。

「ゼミのメンバーは他にいますか?」

「俺と金田一、五十嵐ちゃんと、百々瀬の四人」

「百々瀬さん?」

「ああ。五十嵐ちゃんの女友達。あ、実は百々瀬が金田一にひそかに恋していて、五十嵐ちゃんの恋路を妨害したとかないから。だって俺と百々瀬は付き合っているし」

「へぇ。そうなんですか」

 男二人女二人。片方が付き合っていて、もう片方もいい雰囲気。バランス的にはよく取れている。

「二人からも話を聞くことってできますか?」

「うーん。ま、いっか。呼んでみるよ。俺は講義があって席を外すけど、百々瀬を呼べば、五十嵐ちゃんも付いてくると思うよ」

 千代田さんは少し迷った様子だったけど、素直に受け入れてくれた。

 柳さん一人だったらともかく、女性の紗愛がいることでOKだったようだ。


  ☆☆☆


「どうも。千代田から例の話の件が聞きたいってことだったけど」

「すいません。わざわざお呼びしちゃいまして」

「ううん。いいの。金田一くんが気にしているのなら、力にならないと……」


 千代田さんが去り、カフェテリアの席で再び待つことしばらく。

 二人の女性が紗愛の制服姿を目印にしたような感じで近づいてきて、挨拶を交わした。

 さっぱりとしたショートカットに、動きやすそうなショートパンツ姿の女性が、千代田さんの彼女である百々瀬さん。

 そしてその陰に隠れるようにしている大人しそうな女性が五十嵐さん。こちらはロングヘアにワンピースという清楚系を絵に描いたような定番の組み合わせだ。

 紗愛はじっと五十嵐さんを値踏みするように見つめた。そして彼女の瞳を見つめたまま、問いかける。


「ライオンズファンとお聞きしましたが、骨と牙と言ったら――」

「栗山選手、中村選手、ですよね?」

 紗愛の問いかけが終わらないうちに、五十嵐さんがすかさず返した。容姿に合った可愛らしい声だった。

 そしてその調子のまま、今度は逆に紗愛に問い返すように言ってきた。

「山川選手・多和田選手・平良選手とくれば?」

「沖縄出身、です」

「地平を駆ける――」

「獅子を見た」

「ちなみにその歌詞で『ライオンズ』は何回出ているか分かる?」

「ちょっと待ってください……えっと……(小声で松崎しげるを熱唱中)。……27回、ですね」

 紗愛がきっぱりと答えた。

 そして二人は見つめあったまま、がっしりと握手を交わした。


「……えっと。今のはいったい?」

「さぁ……私にもさっぱり……」

 残された二人が戸惑い気味に言葉を交わしていた。

 紗愛は普段あまり見せないような笑顔を見せながら説明を加えた。

「すみません。ライオンズファンとお聞きしていたので、ちょっと質問させていただきました。『あたし野球好きなの。きゃは』っていう男受けを狙っただけの子もいますから。あ、もちろん、ライトなファンも大歓迎ですよっ」

「そうよねー。分かるっ、分かります、その気持ち! ところで紗愛ちゃんだっけ。誰のファン? やっぱり私は――」


 ずいっと顔を寄せてくる五十嵐さん。それを押しのけるようにして百々瀬さんが呆れた口調で言った。

「ごめんねー。この子ったら、ライオンズのことになると毎回こんな感じなのよ。今日は良いけど、試合に負けた次の日なんて、あからさまに不機嫌になってるし」

「ちょ、ちょっと。モモちゃん!」

 五十嵐さんが慌てて抗議をする。けれど否定はしなかった。

「それじゃ、野球観戦の件は残念だったねー」

 柳さんが言うと、二人は複雑そうな表情をしてみせた。

「話は聞いたけど、仕方ないんじゃない? 無理して行って、何か事件が起こってからじゃ遅いし」

 百々瀬さんの言葉に、五十嵐さんもこくこくと控えめにうなずいた。

「じゃあ脅迫状の件も知っていたんですね」

「ええ。金田一の家のポストに入っていたってやつでしょ。あ、言っておくけど、あたしといがちゃんにはアリバイがあるわよ。脅迫状が投函されたという時間、二人で池袋のカフェに行っていたから。まぁ、それ以前に、金田一の家を知らないけど」

 やはり五十嵐さんが、百々瀬さんの言葉にこくこくとうなずく。

 それを聞いた紗愛は、特にその件について聞き込むこともなく、別のことを五十嵐に尋ねた。

「結局、金田一さんとは遊園地に行ったそうですが、楽しかったですか?」

「えっ、あ、は、はい……」

 五十嵐さんはぽっと顔を赤く染めてうつむいてしまう。分かりやすすぎる反応だった。

「それで、金田一の方はどうなの? あなたたちがまだこうやって調べているってことは、やっぱり脅迫状のことをまだ気にしている感じ?」

「いえ。それほど気にした様子もなかったですよ」

 紗愛はそう言うと、少し考えた様子をみせてさらりと続けた。


「そうですね……特にこれ以上危険もなさそうですので、金田一さんが納得するような犯人を、適当にでっちあげて報告しておきますね」

 えっ? と柳さんが紗愛の言葉に反応する。

 だが紗愛はぺこりと五十嵐たちに頭を下げると、席を立った。



  ☆☆☆



「ねぇねぇ、紗愛ちゃん。これでいいの? 犯人はどうするの?」

 カフェテリアを出てキャンパス内を歩いているところを柳さんが慌てて追いかけて呼び止めた。

 紗愛は足を止めて柳さんへと振り返った。


「ええ。私はもう帰りますので、金田一さんには柳さんから説明しておいてくださいね。犯人はそうですね……新井さんにでもしておきましょうか。動機は羨ましかったから、つい出来心で。けど反省しているので、あえて私たちに調べさせることによって、真実を明らかにした、ってところでしょうか」

「えーと。それって、本当に新井がやったの?」

「いいえ。違いますよ。でもまぁ金田一さんもそれほど気にしていないようですので、別にいいでしょう。私からも今度会ったらフォローしておきますよ」

「それじゃあ、真犯人は? 紗愛ちゃんには分かってるの」

「ええ」

 紗愛がうなずくと、柳さんが驚いた様子をみせた。どうやら柳さんは分かっていないようだ。

「やっぱりゼミのメンバーなの? あの中の誰かってこと?」

「はい。誰かというより全員。つまり共犯ですね」

「へっ?」


「そもそも動機は、五十嵐さんの複雑な乙女心だったのです」

「……なにそれ」


 紗愛はゆっくり歩きだす。その横について歩く柳さんに向け、紗愛は順序立てて説明する。

「五十嵐さんの様子を見れば、金田一さんに惚れているのは丸わかりですよね。肝心の金田一さんが気づいているかはわかりませんが」

「うん。それは僕も思った」

「奥手の五十嵐さんに、ついに金田一さんからのアプローチがありました。しかも好きな野球観戦。彼女が了承するのは当然ですよね」

「うん。それを誰かが邪魔したわけだよね。……あれ? 共犯ってことは、五十嵐さんも犯人、ってこと?」

 紗愛はこくりとうなずいた。

「はい。そうです。デートを了承してから五十嵐さんは気づいてしまったのです。想いを寄せている人との初デート。それなのに西武ドームでライオンズの試合観戦はよろしくないと」

「え、なんで? 好きなんでしょ、野球」

 柳さんがきょとんとする。

「はい。彼女が熱狂的なファンなのは間違いないですね。それが問題だったのです」

「どういうこと?」

「例えば、おとなしげでかわいらしい彼女がいきなり『うっしゃー、ナイスバッティング!』とか、『ここで三振とか、しばくぞこら』とか隣で言い出したら、引きますよね?」

「え、えーと……多少は」

「そうですよね。そういうことです」

 紗愛はしたり顔でうなずいた。

「今のは言い過ぎとしても、おそらく試合に夢中になってデートどころではなくなる。仮に負けたりでもしたら不機嫌オーラが全開になってしまうでしょう。けれど野球好きの五十嵐さんのためにわざわざチケットを用意してくれたので今更断ることもできない。困った五十嵐さんは親友の百々瀬さんに相談したのだと思います」

「えっと……その前に聞きたいんだけど、紗愛ちゃんも野球好きみたいだけど、やっぱり野球観戦をしたらさっき言ったみたいに――」

「そこで事情を知った百々瀬さんが、まずあの脅迫メールを送り付けたというわけです」

 柳さんの問いかけはスルーして、紗愛は話を進める。


「しかし、のんきな金田一さんは警戒した様子をみせなかった。もしかすると五十嵐さん自身が先にメールを送って、その反応がなかったから百々瀬さんに相談したのかもしれません」

「……なるのかなぁって……。とそれはさておいて。じゃあ、二度目のポストに投函された脅迫状の方は?」

「メールの効果が無かったので、おそらく百々瀬さんが金田一さんの友人で自分の彼氏でもある千代田さんに相談したのだと思います。相談というより性格的に『なんで、いがちゃんを野球に誘おうなんて提案したのよっ』みたいに問い詰めた感じかもしれませんが。千代田さんも五十嵐さんの性格を知っているでしょうし、彼女から問い詰められて多少なりとも罪悪感があったのでしょう。ふたりの計画に協力します」

「でも千代田さんはポストに脅迫状を入れられないよね」

「はい。実際に入れたのは百々瀬さんだと思います。家の場所は千代田さんが教えれば問題ありません」

「二人は池袋に行っていた、って言っていたけど、アリバイは?」

「犯人同士が証言しているだけのアリバイなんて、無いようなものですよ」

 紗愛がさらりと言った。

 しっかりと問いただせば、おそらくいくらでもボロが出てきただろうけれど、当人たちが納得しているので、わざわざ犯人をあぶり出す必要もなかった。


「金田一さんは、このことに気付いていたのかなぁ」

「どうでしょう。あの様子ですと気づいていないと思いますが」

 まぁ真相にもあまり気にした様子でないので大丈夫でしょう、と紗愛は付け加えた。

 そしてそのまま校門を出ようとする紗愛を、柳さんが呼び止めた。


「ありがとう。紗愛ちゃん。おかげで助かったよ。あとは僕のほうでうまく金田一さんに報告しておくから」

「はい。お願いしますね」

 そう言った紗愛に、柳さんがどことなく聞きづらそうに口にする。

「――で、最後にひとつだけ。さっきの野球観戦の件だけど、紗愛ちゃんの場合はどうなのかなぁって?」


「さぁ? どうでしょう。秘密です」

 紗愛はにっこりと微笑みを返した。




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