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救世主  作者: yurihana
7/7

抗い、そして結末へ

「喰らいやがれ!」

健也は近くにあった消火器を振り回し、時には噴射した。

春花はチョークの粉で化け物の目を潰し、他の皆で急所を狙った。

俺は一人、シャベルを持って屋上のフェンスを乗り越える。

屋上の端に立つと、化け物が入ってくる前の会話が思い出された。


***

「『救世主』は俺にやらせてくれ」

全員が一斉にこっちを見た。

「匠、なにか策はあるの?」

美久が心配そうに聞いた。

「ああ、でも一か八かだ。失敗したら死ぬ」

「そう……」

扉が開く。

化け物が来た。皆は武器をかまえる。

健也は振り返った。

「ここは俺たちで食い止める。だからお前は存分に『救世主』を狙え。

あと……」

***


死ぬなよ。

健也の声が頭に響いた。

俺は『救世主』にシャベルの先端の狙いを定める。

俺は勢いよく床を蹴った。

『救世主』に向かって、速度を上げながら落ちていく。

『救世主』の頭をシャベルで貫きながら、俺は『救世主』の心臓の中に入った。









心臓の中は真っ赤だったが、とても静かだった。

近くに、丸く光る玉があった。

おそらくこれが核というものなんだろう。

これを破壊すれば……。

でも……。

「母さん……」

その玉は母さんの胸の中にあった。

「匠、お母さんを殺すの?」

母さんがここにいるはずがない。

つまりこれは偽物だ。

「匠、お母さんとここで暮らそう。

あなたの大好きなシチューを作ってあげるからね」

母さんは俺の手を掴んだ。はっとして、俺は手を振り払う。

「どうして? 匠……。そんな物騒なものは早く捨てて、ここでゆっくりしましょうよ。

ほら、健人君もいるのよ」

早く殺さなければ……!

そう思うのに体が動かない。偽物とはいえ、母さんを殺すだなんて……!

「匠、さあ……」

母さんは俺に手をさしのべた。




「母さん、俺さ……。友達ができたんだ」

唐突に俺は話し始めた。

「立派っていえるようなやつらでもなくてさ、皆色々と抱えてるんだよ。

でもさ、そいつらのお陰で、俺は友情ってなんなのか、分かった気がするんだ」

母さんの表情は変わらない。

「父さんのせいでさ、俺たちは苦労して、色んな人間の悪意に触れて、俺……、死にたいって思ってたんだ」

声が震える。

「でも……、支えてくれる仲間がいてさ、生きたいって思えるようになったんだよ……!

だから……、母さん……!」

俺はシャベルで母さんの胸を貫く。

「安心して逝ってくれ……」

シャベルを抜いた。反動で母さんの体は俺にもたれかかった。

「良かった……」

耳元で母さんの声が聞こえた。

「母さん!?」

何度呼んでも、返事はなかった。




地面が震え、崩れ始めた。

俺はきっと『救世主』を倒すことができたんだろう。

俺は地面に投げ出された。

幸い化け物が下敷きになって怪我はしなかった。

「匠!」

皆が駆け寄ってきた。

「良かった! 無事で!」

俺は皆に抱きつかれた。俺は皆に体を預ける。立っているのもやっとな状態だった。

「俺たちは勝ったんだ!」

健也が叫んだ。

俺は目を閉じた。

辺りが明るくなった気がした。







俺が目を覚ましたのは、病院のベットの上だった。

「良かったー! 目が覚めて!」

春花がベットの傍らにいた。

「ちょっと待って! 皆を呼んでくるから!」

「あなた! 何度目ですか? うるさいですよ!」

「あはは、ごめんごめん!」

春花は看護婦さんに謝ると病室を出ていった。

ん?看護婦?

俺が首をかしげると、春花はニカッと笑った。


皆が口々に説明してくれた。

化け物になっていた人達は『救世主』の体が崩れると徐々に人の姿に戻っていった。だが、何が起きてきたのか分かっておらず、目を白黒させていたそうだ。

残念ながら、『救世主』に食べられた人たちは助からなかったらしい。

でも、それぞれが自分なりに立ち直り、町は復旧してきているそうだ。


1週間後、俺は誰もいない部屋で、制服に着替えた。

玄関の近くには仏壇がある。

「いってきます、母さん」

俺は玄関を飛び出した。






「遅い!」

美久は俺を見つけると叫んだ。

「悪い悪い。

あれ?春花は?」

「ごめーん!」

向こうからダッシュでかけてくるのが見えた。

「いやー、目覚まし時計は3個中2個鳴らないし、朝食のスクランブルエッグは焦がしちゃうしでめっちゃ遅れた!

あと、ワイシャツが見つからなかったり鍵が見つからなかったり……」

「あーはいはい、分かったから!」

健也が止めに入った。

その様子を見て、小花と望がくすくすと笑った。

「さて、行こうか」

健也が呼び掛ける。

俺たちは学校の校門をくぐった。


空には太陽が輝いていた。


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