表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世主  作者: yurihana
6/7

歴史から

「助かったのか……?」

健也は床に寝っ転がった。

「そうだといいな」

望も床に寝っ転がった。

つられて俺も含めた他の全員が床に寝た。

俺たちは全員で空を見る形になった。

誰も何もしゃべらなかった。

しかし今回は気まずくはなかった。

むしろ心地よく感じた。

こうしてゆっくりと空を見たのはいつぶりだろうか。

「まさか抵抗する人を狙っていたなんて。よく気づいたね」

美久が言った。

「偶然だよ」

俺は答えた。

春花が本を読み出した。図書館から見つけてきた本だ。

次々とページをめくっていく。

「すごい。読むの早いね」

小花が尊敬するように言った。

「速読くらいしか特技がないからねー」

そういいながらどんどん読み進めていく。

「あっ! これ……」

春花がなにかに反応した。

「どうしたの?」

小花は起き上がって春花に近寄った。

「すっごく昔なんだけどね、この町でたくさんの人が亡くなってるの」

「ええ!?」

俺たちは思わず上体を起こした。

「僕たちそんなの学校で習ってないよね?」

望が不思議がって聞いた。

「ああ、俺たちは習っていない。そして、聞いたこともない」

「たくさんの人が死んでいるんだったら、昔のことでも、誰か一度は聞いたことがあってもいいはずなのに……」

健也と美久は、うーんと、うねった。

春花は読み進める。

「原因は隕石の落下。150年前、この地域に住んでいた人の9割が亡くなってる。

でも変なの。隕石が落ちてるなら、なおさら伝えられるべきことなのに!」

俺は頷く。

「もしかしたら、大人たちも知らないのかもしれない。俺の母さんを含め、誰もそのことを口にしなかった」

「なるほどな。

おい、春花。その本どこから持ってきた?」

「え? もちろん図書館だよ!」

「そうじゃなくて!」

健也は溜め息をついた。

「図書館のどこら辺の置いてあったのか聞いてんの!」

「ああ~、なるほどね。えっと……。確かね、図書館にある3つの扉のうち、正面にある扉のなかの金庫の中に入ってたような……」

「ねえ、そこって生徒立ち入り禁止の扉じゃないの! しかも金庫に入ってた? 絶対何かあるじゃん!」

美久が大声を出した。

「ねえ春花、どうやって金庫を開けたの?」

小花が聞いた。

「開けたっていうか、開いてた。壊されてはいなかったから、多分化け物になる前に誰かが開けたんでしょ」

春花はあっけらかんとして答えた。

「150年前……150年前……そうか。そういうことか……」

望はそう言った途端、声を上げて笑い出した。

「どうしたんだ!? 落ち着け!」

「これが笑わずにいられるか、健也!

人間は唯一、神を崇める生き物でありながら! 神に見捨てられたんだよ!」

「何を言っているの?」

美久は困惑している。

「春花、150年前、何があった?」

「なんで私!? 確かに歴史は得意だけど……。

分かんない! 本で調べちゃえ!

……あっ! 工場や車からでる排気ガスのせいで生き物がどんどん死んでいくのが社会問題になってる!」

「そうだ。僕の家は工場だから、その社会問題についてはよく知っている。

この地域は木が少なかったから、今までにない速度で汚染されていった。

草木は枯れ、生き物は死んだ。

そしてその後、人間が大量に死んだ」

「まさか……」

俺は声が漏れた。

「そうだ。150年前、『救世主』は一度来ている。大人達が知らなかったのは、ほとんどの人が死んでしまったのと、生き残った人が口に出すのを躊躇ったからだ。僕たちだって、皆が化け物になってしまった瞬間を語りたくはないだろ?

『救世主』は確かに救った。人間以外を。

つまり、神は人間を害だと見なしたんだ。他の生き物にとってね。

人間はいらないと、判断を下したんだ」

「そんな……」

小花は腰の力が抜けて、尻餅をついた。

「でも否定はできない。人間の勝手な判断で、木を切り倒したり、過剰に動物を狩っているんだから……」

美久がうつむきながら言った。

絶望的な状況だ。でも希望も残されていることは確かだ。

「でも昨日まで化け物はいなかった。つまり、誰かが150年前に『救世主』を追い払ったんだ」

「そんなことできるの?」

美久が言った。

「弱点はありそうだよね! 口を開けるときにちらっと見える赤黒いやつって、きっと心臓だし。脈打ってたもん!」

「それに、俺たちは化け物にされなかった。もしかして、人間を化け物にするには結構エネルギーが必要なんじゃないか?

それで、ほっとけば死にそうな俺たちは後回しにしたとか」

「そしたら、エネルギーがたまりきる前に、どうにかして殺してしまえば……!」

春花、健也、美久の表情が少し明るくなってきた。

「待ってよ皆!『救世主』は神が遣わしたものだよ。神に抵抗できると思ってるの?

万が一殺せたとしても、それからどうする?

どうやって生きていくんだ?」

そういえば望は神とか仏とか、かなり信じるタイプだった。

俺は望に近づいた。

「望」

「なんだよ?」

「俺はな、『救世主』とか神とか実はどうでもいい」

望の目が見開かれる。

「ただな、一つ分かっているのが、あのでかぶつが、俺の母さんを殺しやがったってことだ。

俺たちがあれを殺さなければ、この被害は広がっていくだろう。

だから……! 俺は同じ悲しみを抱える人が出ないように! そして、母さんの仇を討つために! あいつを殺す!」

俺は今どういう顔をしているのだろうか?

皆は俺を見て、とにかく驚いていた。

「匠、お前がそんな顔をするなんてな……。

俺もちょうど殺したいと思っていたところなんだ」

健也は、口の端を上げて、にやりと笑った。

他の皆も力強く頷いた。

「なんだよ皆……。皆がそんな顔すると、僕にも勇気が湧いてきちゃったじゃないか……」

望は拳を握りしめた。

俺たちは武器になりそうなものを手に取った。

俺たちの敵意を感知したのか、化け物が屋上になだれ込んできた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ