発見
俺たちはしばらく動くことが出来なかった。
だが、化け物は俺たちの様子に構わず近づいてきた。
「う、うわああああ!」
望が近くにあった消火器をぶん投げた。
奇跡的にそれは命中した。
化け物がひるんでいる隙に、俺たちは逃げた。
俺はなんとかシャベルを掴んで教室を出た。
俺たちは屋上に逃げた。
「なんで屋上の鍵が開いてたんだろう? 私入ったの初めて」
小花が少し声を弾ませながら言った。
「ああ、それ俺のせいだわ。一人になりたいときに来れるように、こっそり鍵を開けておいたんだ」
健也があっけらかんと答えた。
屋上にはフェンスがついていたが、腰くらいの高さで安全とは言い難い。
立ち入り禁止になっていたわけだ。
「というか、なんで屋上に逃げちゃったんだろうね、私達!
追い詰められちゃうじゃん!」
春花がしまった!といった口調で言った。
その言葉通り、俺たちは追い詰められていた。
屋上の扉が開き、化け物が来る。
俺たちは一斉に逃げた。
「あーー……あ、うあ……」
化け物は言葉にならない言葉を発しながら追いかけてきた。頭と腰が大きいせいで、ぐらぐらと左右に揺れながら追いかけてくる。
俺たちはとにかく逃げた。シャベルで戦えるほど、立派な精神は持っていなかった。
しばらくは逃げられていた。だが、普段から運動してない俺は、体力
がなかった。
足がよろける。もうとっくに限界を超えていたのだ。
俺は前に倒れた。
化け物が見逃してくれるはずもなく。
俺は化け物に馬乗りされた。
あ、俺、死ぬんだな。
冷静に理解する自分がいた。
皆が何か叫んでいるけど、なんて言ってるのかよく分からないや。
思い返せば、ろくでもない人生だった。
俺の唯一失いたくなかった母さんは、きっと化け物になって、『救世主』に食べられてしまったんだろう。
そしたらもう、生きてる意味なんてないや。
そう思った途端、力が抜けた。何の抵抗もしなくなった。
化け物が口を開けた。俺は目を閉じる。
急に体になんの負荷もかからなくなった。
目を開けると、化け物は急に俺への興味がなくなったように別の場所に行っていた。
「大丈夫!?」
春花が駆け寄ってきてくれた。
なんで俺は殺されなかったんだ……?
俺は殺される気でいたのに……そうか。
「皆! 抵抗をしたらだめだ! 抵抗をするやつを、生きる意志があるやつをそいつは狙ってくる!」
「何だって!?」
望が叫んだ。
「俺を信じてくれ!」
俺はありったけの声で叫んだ。
「いいぜ。その案に乗ってやるよ。元々死にたい人生だからな」
健也は走るのを止めた。化け物は健也に近づいていく。健也の表情は強ばる。
化け物は健也の脇を通りすぎて行った。
その様子を見て、他の皆も同じようにした。
しばらくすると、化け物は何もなかったかのように、屋上を後にした。