無題(しゅん)
彼は時間にルーズだ。
デートの待ち合わせにはいつも遅れて来て、時には3時間も待たされたことだってある。なぜなら彼がつけてる腕時計は古臭く、とっくに壊れている。
言い訳はいつも決まって「困ってる人を見ると放っておけなくてさぁ〜。」
正直呆れるが、それ以外は優しくて面白く、そして男らしい。
そんな彼に誕生日の時に腕時計をあげた。手先が割と器用な私は、腕時計に細工をした。
それは、12時、1時、2時というように区切りのいい時間の時に青色に光るようにしてあげた。そうする事で、デートの待ち合わせ時間を区切りのいい時間にしておけば腕時計が光るため、否が応でも時間を目にするという仕組みだ。これで彼が大幅に遅刻することはないだろう。
だが次のデートの時、1時間待っても彼はこなかった。不機嫌にスマホを触るとニュースアプリに速報が流れてきた。
「先程、ひき逃げ事故がありました。事故にあったのは若い男性とみられ、道路に飛び出した女児をかばうような形で引かれたと目撃情報がありました。車はその後逃走しーーー」
同時に流れてきた写真に青色に光る腕時計が見えた。
咄嗟にスマホの電源を落とす。少しずつ動悸が早くなり、呼吸しづらくなる。
大丈夫、彼は遅れてるだけだ。
きっといつものように‥‥。