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時計と死者(貝人)
私の時計の針は動かない、ずっと同じ時間を指している。私は動かないこの時計を外さない。
「私があそこから帰ってきてからもう一年経ったのか・・・」
私達は一年前、登山中に古い祠を見つけた。
彼は興味本位で祠に触れてしまった。
瞬きをした瞬間世界が変わった。
現世とは違い、死者が暮らす世界に私達は迷い込んでしまった。
彼は死者に魅入られ、死者の世界の住人になってしまった。
私は現世に帰りたかった。
私は必死で死者の世界を駆けずり回った。
私が現世に戻ると一年の時が経っていた。
彼と私の時間はこの時計の指し示す時間に止まってしまった。
「会えない、悔しい、寂しい、彼が居ないのが悲しい」
私は時計を見つめながら静かに涙を流した。
私より、現世より死者の世界を選んだ彼を恨みながら。
彼を魅入った死者を呪いながら、私は生きていく、私の時間が止まるまで。