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真夜中の摂理(壁虎)
部屋の主が寝静まった夜。
カチッ、カチッ、と壁掛けの黒い時計が音を立てて動いている。
すると天井のすき間から何かが這い出てきた。
黒くテカテカとした身体に六本の脚、長い触角。
ゴキブリだ。世の人はその名を呼ぶのも嫌がってGなどと呼んだりする。
とにもかくにも嫌われ者のゴキブリ一匹が、壁を伝って机に降り立つ。
彼が見つけたのは食べかけのビスケット。
小さく細かい欠片がバターの匂いを漂わせて、ゴキブリの食欲を揺さぶる。
割れたビスケットの周辺に散らばる顆粒を、ゴキブリは口にした。
普段は人の髪の毛や垢で腹を膨らませているゴキブリにとって、このビスケットはまたとないご馳走。
夢中になってビスケットを食すゴキブリの近くで、壁を這うように接近する影。
ピョンッ。
それは一瞬のことだった。食事に夢中で警戒を怠ったゴキブリが、家に住み着く一匹のヤモリに捕まったのだ。
何の余韻もなくゴキブリを飲み込んだヤモリは、ビスケットには目もくれず寝床に戻る。
カチッ、カチッ。時計の音が木霊する夜の部屋にも自然の摂理は存在するのだ。