30話~秋晴れと太陽
「恋が始まらない」は現在、月・水・土曜日の三日更新で21時更新です。
あの日から三か月くらいが経ち、冬馬が通っている青葉高校は学校祭ムードに盛り上がっていた。そんな中冬馬は休み時間は読書をしたり、放課後は出来るだけ早く帰宅をして小説サークルの課題に取り掛かったりして、気を紛らわしながら過ごしていた。
……そうでもしないと、あの時の光景がフラッシュバックして気が滅入ってしまうような気がしてならないからだ。
だがあれ以来、冬馬が心配していたいじめは起こらず、周囲の生徒にもそう言った被害が及んでいないのを耳に挟んで安心していた。
(……明後日、学校祭かぁ)
現在は学校祭準備期間という事で、昼休みが終了してからの残りの二時間は、クラスの出し物や神輿の制作に時間を費やすことが出来る事となっている。
冬馬は教室内の装飾担当という簡単な仕事を担当しているが、もうすでに完成してしまっているので、昼休み後の残りの二時間は作業せずに家に帰るようにしていた。
あれ以来、純とも話していない。何度か純がいつもの癖で冬馬に近寄ってくるようなことがあったが、心の中で何度も謝って避けていた。それにいつもクラスの中心だった彼女の笑い声も聞かなくなってしまった。元気がないような、どこか寂し気な……。
(何考えてんだろう……)
頭の中を必死に振り払って、私物を鞄に詰めて教室をあとにする。今回の冬馬のクラスは定番のお化け屋敷をするらしく、教室から洩れた笑い声が廊下に響いていた。
それから同じような毎日を繰り返し、学校祭当日。教室内装飾の最終調整という事で、冬馬は何時もより早めに家を出て、始発の汽車に乗り込んで学校へと向かった。
流石にもう学校についている人はいないだろうと思いながら下駄箱を見てみると、何人かの生徒は冬馬の予想に反して学校に来ており、冬馬と同じように最終調整を進めているらしかった。
丁度目線上にある下駄箱の中から上靴を取り出す。すると、上靴の中に入り込んでいた紙切れが玄関の鼠色のタイルの上にひらひらと舞い落ちた。
(……なんだこれ)
一瞬、新手のいじめかと思ったが、危険そうな感じは一切見当たらない。
冬馬は恐る恐る紙を開いて見てみると、女の子特有の可愛らしい文字で「十二時くらいに、屋上に来て下さい」とだけ書いており、差出人などは記名されていなかった。
……これは屋上に行くべきなのであろうか。約三か月間いじめがなかったとしても、水城はそろそろ事を忘れているだろうと油断させておいて、屋上から突き落とすなどといった悪質な行為などをされるのではないだろうか。
かと言って現状冬馬に話しかけにくいときに、何かしらの急用もしくは頼みごとがあって、教室だと話しかけにくいから屋上に来て欲しいという要件だった場合に申し訳がなくなる。
(どうしようかなぁ……)
結局その時点では答えが出せず、冬馬は軽い人間不信の思考になりながらも、ひとまずその手紙を鞄の中に詰めて教室へと向かった。
この青葉地区が人口の多い地域で、なおかつ交通の便が立つという利点を交えているからか、学校祭が始まってからどんどん人が集まって、時刻は正午を差し掛かろうとしていた時だった。
(……とりあえず屋上に来てみたけど)
一番上まで階段を上り、冬馬の目の前には屋上へとつながる扉が待ち構えていた。
……もし、扉の向こうを覗き見して、伊達みたいな怖い男子生徒が見えたら速攻扉を閉めて階段を駆け下りよう。
冬馬は意を決して、音が立たないように扉を開けていくと、そこにいたのは慄然していた伊達のような怖い男子生徒でもなく、冬馬を侮辱した花園でもなく、どこか見覚えのあるような一年生の女子生徒二名だった。
(……確か、球技大会で)
思い出した。確か球技大会の時に、三年生がふざけて蹴り飛ばしたボールから冬馬が守った女の子たちだ。何も怪我がなくて良かったなと胸を撫でおろしたときに意識を失ってしまったので、その後話すこともなく今に至ると言った感じだ。
差向き安堵した冬馬は扉を開けて屋上へと出ると、そこにいた女子のうち一人が、もう一人の女子の肩をポンと叩き、冬馬に会釈をしてその場から立ち去ってしまった。
この状況が上手く理解できずに何も言えなくなっていると、先に目の前にいる女の子が口を開いた。
「……あの、球技大会の日、助けていただいて本当にありがとうございました。それとお礼もずっと言えなくてごめんなさい」
「あー、怪我無くて安心したよ」
第一に、久しぶりに家族以外の人と話したような気がする。それに本当にこの子に怪我がなくてよかったと心から思う。
「それで……大したものじゃないんですけど、これ受け取ってください」
女の子が歩み寄ってきて、手に持っていた紙袋を冬馬に差し出してきた。ぱっと中身を見ると、そこには綺麗にラッピングされた箱が目に入った。
「そんな、俺そこまでのことしてないのに……」
「いえ、あの時もし水城先輩が助けてくれなければ、もっと大怪我になっていました。だから、どうか受け取ってください」
確かに階段から転がり落ちたのが男子ではなく、目の前の小さい女の子でだったら骨折と打撲だけでは済まされないのは分かりきっている。冬馬は女の子の押しに負けて差し出された紙袋を受け取った。
「それから……」
まだ何かあるのだろうかと困惑の表情を浮かべていると、女の子は俯いたまま両手でスカートを握りしめ、か細い声で喉から絞り出した。
「……私と、お付き合いしてください」
「……へ?」
「……水城先輩の事が好きなんです」
お読みいただきありがとうございます。
はい、今回から秋編という事で、読者の皆さんの心情もはっきりとしない季節がやってくると思いきや、秋編第一話は快晴でしたね。
続きはまた土曜日で!
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