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恋が始まらない《本家》  作者: 北斗白
夏〜Summer〜
28/37

28話~ひとりぼっち

「恋が始まらない」は現在、月・水・土曜日の三日更新で21時更新です。

ですが本日は文字数の都合上、21時に28話、22時に29話更新の二話更新となります。

 心にぽっかりと穴が開いてしまったような虚無感に襲われ、おぼつかない足取りになりながらも何とか喫茶店へと辿り着く事が出来た。

 校門を出た辺りは、冬馬のことを周りの友達とあざけ笑っていた花園に腹を立てていた。だが歩いている途中、教室の外で聞いていた重たい言葉が何度も脳内で繰り返され、怒りの感情が落胆に変わっていた。


 「冬馬、今日は二つ話したいことがあったんだ。まず一つ、この子を紹介したかったんだ」


 純に連れられて奥の方の席へと行くと、純が指した席には青葉地区にある有名な女子高校の制服を着た女の子が一人でちょこんと座っていた。

 その女の子は冬馬と目が合うと、せわしなく席を立って純の隣へと移動した。


 「あ、あの! 初めまして! 純ちゃんの彼女の秋野あきの胡桃くるみと申します!」

 「……ほぇ?」


 今まで冬馬を包み込んでいた負の感情が一瞬にして困惑へと移り変わり、頭の中がパンクして何も声を発せなくなってしまった。

 そんな冬馬の気持ちをよそに、純の彼女を名乗る秋野がさらに続けた。


 「純ちゃんからお話は常々聞かされております、あの……冬馬さんですよね?」

 「あ……はい」

 「冬馬、急でごめんね。もっと前に冬馬に言いたかったんだけど、球技大会の日に病院に連れてかれちゃったから言えなくて……」


 そこまで喋った純が事を思い出したかのように「とりあえず座ろう」と、冬馬の向かい側に純と秋野が座ると言った形で長椅子に腰を下ろした。

 まさか、女の影が見当たらなかった純に彼女がいるとはこれっぽちも想像が出来なかった。それも毎日押しキャラとやらを可愛いと褒め続けて、三次元の女性には興味がないと思っていたが、どうやらそれは冬馬の思い込みだったようだ。


 「いつから……」

 「この前のスプリングフェスタっていうアニメ関係のお祭りに参加した時に初めて話して、それから偶に会って付き合ったって感じなんだ」


 スプリングフェスタは、春初めの勉強合宿で純に誘われていたが、結局勉強で忙しいとなってやむを得ずに誘いを断ってしまった。

 スプリングフェスタから帰ってきた純は、その日からほぼ永遠とそのイベントの事を楽しそうに話すものだから、冬馬もついて行けばよかったと後悔していた。


 「純ちゃん、私みたいな人にも凄く優しくて。何回かデートするたびに仕草とか、何気ない気配りとか、知らない内に見入ってて気づいたら惚れちゃってました」

 「私みたいな人って……胡桃ちゃん十分可愛いよ!」

 「純ちゃん……ありがと」


 純の言った通り、冬馬から見てもふわふわとしたショートカットに丸くて大きい瞳が特徴で、それに加えて背が小さく小動物みたいな見た目をしている、いわゆる癒し系で可愛らしい女の子だ。

 喫茶店に入って数分もしない内に蚊帳の外に追い出されてしまったような気もするが、二人が真っ直ぐに見つめ合ってるのをみて、お互いがお互いに惹かれ合っていてラブラブなカップルだと分かる。

 だが大事な親友を他の人に取られてしまったような気もして少し寂しく感じる。秋野の言う通り純は人並み以上に優しい人間なので、素直に二人で幸せになって欲しいものだ。


 「まず彼女を紹介したかったっていうのが一つ目ね。それでもう一つなんだけど……」

 「多分……というか確実に見当はつくよ」

 

 純が言いたいのは球技大会が終わってからの、冬馬に対するクラスメイト達の態度の事だろう。球技大会以来久しぶりに顔を合わせた、共に戦ったBチームの仲間たちでさえ誰一人冬馬に話しかけてこない時点でおかしいと疑問に思うのは当たり前だ。


 「学校内では冬馬が先輩三人を自宅謹慎にしたっていうデマが回っているみたいなんだ。それでその発信源とされてるのが同じクラスの伊達ってやつなんだよ」

 

 薄々勘付いてはいたが、やはり昼食を食べている時に冬馬の頭に冷水をかけたあの男が犯人だったのかと納得した。

 変なデマを流して何が面白いのか分からないが、かなりと言っていいほどの迷惑行為だ。そのお陰で自分はこんな気持ちになってしまっているのが腹立たしくてしょうがなかった。

 

 「それと、Bチームのみんなが冬馬に話しかけたくても話せないのが、冬馬と関わって伊達に何をされるか分からないからなんだ」

 「……そっか」


 だがこれで決意は決まった。冬馬と関わらなければBチームの仲間たちに何も危害が及ばないのであれば、それはそれでいいような気がする。本心で言うと自分だってチームメイトと会話をしたいが、それによっていじめを受けるのであれば俄然自分と話さないで静かな学校生活を過ごした方がいいに決まっている。

 いじめられて出来る傷の痛みは経験者の冬馬が一番よくわかっている。だから自分が原因で誰かがいじめを受けるなんて死んでもごめんだ。それならば……。


 「純。色々とありがとう。俺もそろそろ一人で過ごしたいと思ってたから……純も俺に関わらないでくれ」

 「な……何でそうなるんだよ! 僕は冬馬を……」

 

 大きな声を出した純がテーブルを叩いて立ち上がった。

 

 (……ずっと隣で見てきた分。純が良いやつで、優しすぎるということは誰よりも知っている)


 冷静に考えてみればすぐにわかる事だ。冬馬と一番仲良くしているのはBチームの仲間達でもなく、純だ。そうなるといじめの標的にされるのは純が一番の候補となるだろう。

 だからこそ、親友を危険な目にさらしたくない。絶対に純を傷つけるようなことはしたくない。自分が嫌な思いをする覚悟で切実にそう思っている。


 「ごめん純。今まで俺の親友でいてくれてありがとう。一緒に居た時間は凄く楽しかった。だから、もし学校で俺を見かけても絶対に話しかけてこないで」

 「冬馬……」

 「じゃあ、もう帰るね」


 秋野が何も言わずに茫然と動けずじまいになっている中、冬馬は自分の近くにあった荷物を持って喫茶店を出た。

 そして真っ直ぐに駅に向かい、ホームに停車していた発車する寸前の汽車に滑り込んだ。

 ドアが閉まり、周囲を確認すると汽車の中は乗車している人が少なかったが、座席には座らずにすぐさま窓の方を向いて手すりにつかまった。


 (……何してんだろ俺)


 涙が出そうだった。

 今日一日だけで、大切な人を二人も失ってしまった。一人目を失ってしまった時に心に大きな穴が開いてしまい、二人目を失ったところで身体がバラバラになってしまうんじゃないかと本気で思った。

 次々に移り変わっていく街の風景に、冬馬の表情が映し出される。


 (……結局、一人か)


 今後の学校生活、花園と話すこともなければ純と笑い合う事すらできない。普段は純と一緒にいたが今度こそひとりぼっちだ。

 冬馬は汽車から降りるまで、窓に映し出される寂しげな表情をした自分から目を離す事が出来なかった。

お読みいただきありがとうございます。

前の27話~夏の終わりでの反響が小説家になろう・カクヨムのどちらのサイトでも大きくて、過去一番で感想が来てとても驚きました。その中に今後のストーリーの心配をしてくださったり、登場人物に対して思っていることを書いてくださったりと、ちゃんと読んでくれているんだなぁという思いに駆られました。

ただ一つ、必ずしも読者様の納得がいく形で物語が進んで行くとは限りませんが、最終的には私、北斗白が最高だと思えるような小説に仕上げたいと思っています。

今回カクヨムで恋愛小説ランキングに昇ったことや、様々な感想が来て反響を呼んだことに怯えて、後書きがこんなに長文になってしまいましたが、最後に、完結までこの小説を手に取ってくれるという読者様に向けて、まだまだ全力疾走中ですが、最後まで応援よろしくお願いします。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。


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