表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋が始まらない《本家》  作者: 北斗白
夏〜Summer〜
22/37

22話~冬馬の誓い

「恋が始まらない」は毎週水曜日21時更新です。

 「止めろー! 純!」


 冬馬たちBチームのディフェンスラインを突破した相手チームのフォワードの選手が、フリーの状態でゴールに向かってボールを飛ばす。

 飛んで行ったボールは純の頭の上を越していったが、間一髪ゴールには入らずにクロスバーに当たってラインを割っていった。


 「……危ないな」


 試合開始のホイッスルが鳴ってからまだ三分も経ってない頃だろう。あっさりとボールを奪われてしまった冬馬たちBチームは、大波の様な勢いで襲い掛かってくる相手チームの攻撃に耐え切れず、先制点を取られてもおかしくはない決定的な場面を相手に与えてしまった。

 しかも冬馬はその攻撃に苦しんでいる仲間をセンターサークルでただ立って見ているだけで、肝心な軒に助けてあげられないという苦痛さを味わっていた。


 (……やっぱり、俺も守備に参加した方がいいんじゃないか……?)


 まだ試合は始まったばかりだが、明らかにサッカーのテクニックの面では、相手チームの方が遥かに上回っている。ただ相手の攻め方として特徴的なのが、サッカー部に所属している三人が中心となって……というかほぼその人たちだけでサッカーをしているような感じだ。

 相手チームのサッカー部以外の人はボールに関わる回数を最低限まで減らして、チームに迷惑をかけない程度にプレーをしているように見える。


 「あ……あれは」


 相手チームの観察をしていると、視界の隅に見覚えのある女子二人組が映った。そして皆もそれに気づいたのか、チームメイト全員がお互いの顔を見合わせて笑った。


 「よっしゃあー! 燃えてきたぜー!」

 「こっからだー! ぜってぇ点は入れさせねぇぞ!」


 最初のプレーでいきなり相手にシュートを打たれたことでチームの士気が下がったかと思えば、ここぞとばかりのナイスタイミングで花園が来てくれた。

  

 「反撃だー! 皆攻めろー!」


 純のゴールキックから試合が再開し、チームメイトたちが絶対にボールを奪われまいと身体を張ってボールを繋ぐ。パス回しの途中でボールを奪われたら必死になってボールを取り返しに行く。

 もうすでに前半の半分を経過しているが、この時点でのユニフォームの汚れの違いは一目瞭然だった。


 「ディフェンス! 一人相手フリーだぞ!」

 

 冬馬たちのチームがカウンターを仕掛けようとした瞬間、味方の致命的なパスミスから相手にとって絶好の位置でボールを奪われてしまった。


 (……皆!)


 相手の巧みなパス回しで駆け回された冬馬のチームメイトたちは見るからに疲労が溜まっている。それもそのはず、この試合の前に二試合もフルで走り回っているんだ。

 運動部が多い相手のAチームは慣れていてこれくらいの疲労は疲労にも感じていないかもしれないが冬馬たちBチームは違う。簡単に言うならインドア系男子の集まりで運動は体育の授業以外絶対にしない。

 一般的な観点で考えてみれば、走れているだけでも凄いと言ったくらいだ。それなのに自分だけ味方の言葉に甘えて、一生懸命戦っている戦士たちの顔を仲間なのにもかかわらず同じフィールドで眺めているなんて都合がよすぎるのではないか?

 様々な思考と葛藤を繰り返しているうちに、相手の選手が冬馬のチームの中盤を切り崩してゴール付近に近づこうとしていた。


 (……ああ言ってくれたけど皆ごめん。やっぱり仲間が苦しんでいるのは見てられないよ)


 冬馬は遂にセンターサークルから足を踏み出そうとした、そのときだ。


 「冬馬ぁぁぁ! 点は入れさせないからぁぁぁ! 戻ってこないでよぉぉぉ!」


 この試合何本ものシュートに飛びついて幾多ものピンチを救ってくれた純が、肝試しの時に聞いた大声よりも遥かに大きな声で叫んだ。

 その瞬間耐え凌いでいた冬馬のチームのディフェンスラインが崩され、抜け出した相手の選手はすぐさまボールをゴールに向かって蹴り飛ばした。


 「……純!」


 蹴られたボールは綺麗な放物線を描いてゴールの右上隅へと向かって行く。シンプルな言葉で言えば、滅多に止める事ができない神コースだ。

 だが今日の純は普段甘いものを食べてばかりいていつもニコニコしている純ではないことは確かだ。なぜなら球技大会が始まる前、純は冬馬に普段の表情からは想像もできない真剣な表情である事を告げた。


 (……今日は頑張らなくちゃいけない日なんだよね)


 それに、今の試合が始まる前も「身体を張って止める」と言ってくれた。

 だから今日の純は……いつもと違うんだ。


 「うぉぉぉ!」

 

 助走をつけた純が懸命に腕を伸ばして斜め上に飛んだ。


 「……純!」


 次の瞬間、懸命に伸ばされた純の腕に阻まれ、ゴールネットに収まるはずだったボールは軌道を変えてゴールポストの外側を通過し、そのままラインを割っていった。


 「ピピー!」


 そして、前半終了を告げるホイッスルが響いた。 


 「純! ナイスキーパー!」

 「良くやったー! ありがとうー!」

 

 ホイッスルと同時に冬馬のチームメイトたちが今日一のナイスセーブを見せた純の元へ駆け寄っていく。ここではっと周りを見渡すと、この試合を見に来ていた全然関係のない学年やクラスの生徒たちも皆、純に向けて拍手をしていた。

 冬馬もチームメイトに混じって純の元へ急いだ。


 「いててて……腰打った」

 「大丈夫か純?」

 「うん何とか大丈夫……それよりも冬馬、次は冬馬の番だよ」

 「ああ……そうだね」


 純を囲んでいるチームメイトたちのユニフォームはどれも土褐色を帯びていて、本当に自分たちの言った通り無失点で前半を終わらせることができた。

 多分何人かは普段の日常の数倍走っているので後半は全然走れないだろう。だが、皆が走り回ってくれたおかげで、相手にも相当な疲労を与えているはずだ。ここまでは自分たちの描いたシナリオ通り。

 あとは……皆が繋げてくれた想いを自分が点を取って証明するだけだ。


 「よし! 後半も死ぬ気で頑張るぞ!」

 「おー!!」


 絶対みんなの努力は無駄にはしない。自分が点数を取ってこの試合に勝つんだ。

 冬馬は心に固く誓って後半戦に向けての準備に移った。

お読みいただきありがとうございます。今回は今のところ人気ナンバーワンキャラの純が大活躍しましたね。この展開には熱狂する純ファンの方が一人はいるのではないでしょうか……。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ