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恋が始まらない《本家》  作者: 北斗白
夏〜Summer〜
16/37

16話〜戦さの始まり

「恋が始まらない」は毎週水曜日21時更新です。

 「あー、疲れたなぁ」


 一回戦を終えた冬馬は、グラウンドを抜けて校庭の隅にある水飲み場に来ていた。

 先程の試合の結果は5ー0の快勝。そのうち冬馬は3得点と、ハットトリックを収めることとなった。


 (……次の試合は1時間後か)


 競技開始までは十分に時間がある。だが純はクラスメイトに捕まってどっかに行ってしまったし、一緒に話して暇を潰す友達がいない。

 まあしょうがないか。純……敵のシュートを顔面でナイスセーブしたし。その好プレーでチームメイトに囲まれるのもわかる。

 冬馬は少し傾斜がある緑の丘で、寝っ転がって体を休めることにした。


 「あー、 落ち着く」


 芝生に直に触れてるためか、そよ風に揺れて葉の擦れる音が鼓膜の中に流れ込んでくる。

 おまけに目先に広がる空は青が澄み渡っていて、一閃に突き刺してくる太陽の光がぽかぽかして気持ちがいい。

 こんな日向ぼっこが最適な空間が他にあるだろうか。


 (やばい……瞼が重くなってきた)


 瞼にかかる重力が嵩を増して、瞬きすらできないほどに睡魔が侵入してくる。

 身体が宙に浮く感覚、もう少し……もう少しで眠り……


 「あ!水城!」

 「ん、え、うぉ?」


 びくり、と体を震わせる。せっかく心地よさに身を任せて眠りにつこうと思っていたのに。

 眠りを妨げるのは誰だ、と身体を起こそうとしたが、この声は……うん、絶対そうだ。


 「花園……どうしてここに……」

 「どうしてって……応援に来たからだよ。ていうか、水城はここで何してたの?」


 本当に応援に来てくれたんだ。もう少し早く来てくれなかったのは残念だが、来てくれただけでもありがたい。

 中学時代誰からも応援されることなく、むしろ影に潜んで学校生活を送ってきた冬馬にとっては、本気で身に染みて嬉しいことなのである。


 「俺は一回戦終わったから休みがてらに日向ぼっこしてた」

 「ふふっ、何それ、あ、一回戦どうだった?」

 「勝ったよ、結構圧勝」

 「水城点数決めたの?」

 「うん、三点ね。って言っても大したことないけど」

 「え!ハットトリックっていうやつじゃん!本当に運動苦手じゃなかったんだね!」


 一気に瞳を輝かせた花園を見て、しょぼしょぼしていた瞼が一気に目覚めたような気がする。


 「うん、ただ体育は面倒いから少し手抜いてただけだよ」

 「へぇー、先生に言っちゃおうかなぁ?」

 「え、ちょ、すいませんやめて下さい」


 こんなことが先生に知られたら、今まで4をキープしていた冬馬の体育の成績が一気に奈落の底へと急降下するだろう。


 「言うわけないじゃん、てか次の試合何時?」

 「あと1時間後って言ってた。花園は?」

 「私もバスケ勝ってきたからあと1時間半後。じゃあ時間あるから応援しにくるよ」


 学園一位のお姫様が応援しにきてくれるなんて、チームメイトもさぞかし喜ぶことだろう。

 勢いに乗ったBチームの逆襲。勝利の女神が付いてくれてる以上これは優勝も、もしかするともしかするかもしれない。


 「ありがとう、俺も試合終わったら応援しに行くよ。頑張ってね」

 「本当!? 絶対に来てね、勝つから!」

 「お、おお。ところで花園時間大丈夫なの?」

 「あ、これから綾乃たちと作戦会議するんだ!ごめんねまた後で!」


 冬馬は「うん、またね」と手を振った後、再び空を見上げて流れて行く雲を目で追った。


 (……作戦会議か)


 一回戦目は同学年のBチームだったので勢いだけで勝利を掴んだが、騒いでたチームメイトからの情報によると、次の相手は同学年の隣のクラスのAチームらしい。

 なかでも、うちのクラスで顔が整っていると評判の伊建と仲が良い、サッカー部員の御岳が中心人物で、一回戦も相当目立っていたらしい。


 「柄じゃないけど、俺もみんなの所に行って喋ってみるか……」


 天下の花園様が来ると知ったらチームメイトも親身に話し合ってくれるだろう。

 冬馬は服についている草をはらって、グラウンドの隅のチームメイトがたむろしている場所へと足を進めた。



 「お前ら……ちょっと落ち着け」

 「だ、だって……あの花園様がくるんやで!」

 「そうだぞ冬馬、俺さっきから首の左右運動が止まらねえよ!」


 はぁー、と長い溜め息を吐く。冬馬がチームメイトに花園応援情報を伝えた時から、試合開始五分前になってもずっとこうだ。

 向こうのチームは味方同士で肩を叩いたり、準備運動に励んだりして互いに士気を高めあっている。

 これはどうしたものか……何とかこのそわそわした状態を一気に勝利へと繋げる方法はないものか。


 (あ……そうか、そわそわをやる気に変えれば全部解決じゃん)


 冬馬の推測では、チームメイトたちは花園にかっこ悪いところを見られて嫌われるのが嫌だとびびっているだけだ。

 ならば対偶をとって、かっこいいところを見せて好きになって貰えばいいとやる気を底上げすればいいだけの話だ。


 「俺らが勝ったら、花園も凄く喜ぶんじゃないかな。皆も花園の悲しむ顔は見たくないでしょ、ならとことんやって頑張ろうぜ」

 「冬馬……そうだ、何で俺たちは縮こまってたんだ」

 「花園様にかっこいいところを見せるためにも、絶対にあいつらをぶっ潰さなくちゃならねぇ!」

 「うぉぉぉおおお!」


 単純な奴らだな……と冬馬は再び肩をすくめた。

 心配だったが、やる気になってくれてよかった。これでチーム全体やる気が最大限まで充電された状態で心置き無く戦える。

 冬馬も花園に応援されている以上、ここにいるチームメイトと同じ思いを背負っている。


 「ピー!これより第2試合を始めます!両クラスは集まってください!」


 両クラスの選手が入場して、自分たちのピッチの中央で肩を組む。

 両隣りに腕を回して、目でぐるりと仲間を見渡したが、チームメイト全員の眼が血走っていた。


 「よっしゃー!絶対に勝つぞー!」

 「おぉー!」


 恐らく今日のエンジンの中で一番迫力があっただろう。普段喋らないで勉強ばかりしているやつも、アイドルや二次元にのめり込んでいるやつも、一心同体となって遠吠えを上げた。

 一斉に各ポジションに散らばったところで、試合開始を告げるホイッスルの音がフィールドに響いた。

お読みいただきありがとうございます。そしてあけましておめでとうございます。今年も読者様の心を動かすような小説を執筆していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧下さい。

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