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始まりの時間

 時間の経過というものはとても不思議なものだ。

 あっという間に時間が過ぎてしまったり。かと思うと、とても長く感じたりする。

 どうして、時間は先にしか進まないのだろう。少しは戻ったりしてもいいのに。


 そんなことを考えながら、授業を受ける。

 ちなみに今はとても退屈だし、時間を長く感じる。楽しい時はあっという間だったりするのに、退屈なときほど長く感じる。時間はなんだか理不尽だ。

 先生が黒板にひたすら何かを書き込んでいく。それを生徒がただ写していくだけの作業。こんな行為に一体何の意味があるのだろう。もしも時間が売れるのだとしたら、私はこの時間を売りたい。



 退屈な授業の時間が終わり、放課後になった。


希帆きほ、一緒に帰ろー」


 自分の席で帰る準備をしていると、友達の桃香ももかに声をかけられた。笑顔が可愛い小柄の女の子だ。


「うん、帰ろ」


 桃香と一緒に教室を出て、廊下を歩く。窓ガラスから覗く夕日が、辺りを赤く染めている。


「帰りに本屋に寄って行ってもいい?」


 そんなふうに尋ねてくる彼女に答える。


「いいけど、何買うの?」

「いつも買ってる漫画の新刊が出たから買って帰ろうかなって」

「そうなんだ。それ面白いの?」

「すっごく面白いから。そいえば、希帆あんまり漫画読まないよね。今度貸してあげようか?」

「ありがと。読んでみたい」

「なら、明日持ってきてあげる」


 私達は学校を出て、駅前の本屋に向かって、桃香はお目当ての漫画を買った。2人で他愛のない話をしながら。


 本屋を出た後、駅前の交差点で桃香と別れることにした。私と桃香の家の方向が違うからだ。


「それじゃ、また明日ね」

「うん、また明日」


 笑顔で手を振る彼女は信号が青になると、身体の向きを変えて交差点を渡って行った。

 私はその後ろ姿をなんとなく眺めていた。


 そして彼女の身体は空を舞った。信号を無視して突っ込んできた車に吹き飛ばされて。


 その後のことはあまり覚えていない。



 どうして、時間は先にしか進まないのだろう。彼女のお葬式でそんなことを思う。

 私は冷たくなった彼女の顔に触れる。ついさっきまであんなに元気だった彼女がどうして。もしも、私があの時彼女を引き止めていたなら。もしも、もう少し本屋で時間を潰していれば。彼女は今も生きていたのだろうか。

 そんなことを考えても、時間は無情にも先にしか進まない。もう、彼女は帰ってこない。


 その後の学校での生活は灰色なものだった。彼女のいない教室。彼女のいない放課後。大切なものが無くなってしまったのだと思い知らされた。


 だから、私は願った。彼女のお墓の前で。叶うはずもない、願いを。


「お願い、神様。どうか桃香を返してください。お願いです。彼女のいない世界なんて意味がないんです。どうか」


 そして、私の意識は暗転した。深い深い暗闇に落ちていった。

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