再会
どもです、お久しぶりです、狛太郎です!
皆さん覚えていますか?忘れていませんか?私のこと。ならいいのですけども。
さてと、研究所が今回で終わりますよ!お待たせしました!
最近読者さんも増えて、新人YouTuberの気分ですなー。
これからも末長くお願いしますねー!
戦闘が始めって数分。遊楽達の状況はあまりいいものとは言えなかった。むしろ劣性の状態だ。
「遊楽さん!このままじゃ埒が明きませんよ!」
「そう言われましても!こっちも手一杯ですから!」
遊楽だけでなく、全員が手一杯の状態で、助け合える状態ではなかった。
更に、現れた人影は一向に減らない。倒しているはずだがその数は全く減らない。むしろ増えている。
そんな中でもスシリはそれなりに笑っていた。しかし、その顔にも少しづつ焦りが見え始めていた。
「ちょっと遊!この状況どうにか出来ない?さっきみたいに機転を利かせてさ!」
「もうちょっとだけ待って!今考えてるから」
この時遊楽の焦りは少なかった。完全にないというわけではないが、幾つものゲームをやってきただけはあるのか、焦りによっての失敗を一番知っていた。そのため、できる限り焦りを抑え込んでいた。
「くっそ…。何か無いか?」
[マスター。その袋の中身を使えばいいのでは?]
「けど成功の確率がなぁ…。この際贅沢言ってられないしな!皆、僕より後ろに!」
遊楽の指示は何とか通り、悪戦苦闘しながら何とか遊楽より後ろに下がった。
いまだに座っていた男は残念そうとも、嬉しそうとも言えない顔で不機嫌そうに話した。
「所詮人間なんてその程度か。とんでもない見当違いだったな。」
「さて、それはどうかな?」
すると、遊楽は腰に手をまわし、袋を取った。そのまま投げると袋は元のサイズの10倍まで拡大した。
遊楽はロウガとの観光中に、役立つかもしれないと思いそっと購入していたものだ。
遊楽はその袋を惜しみながら風の魔法で切り裂いた。
中からは白く、細かい粒子の粉が降ってきた。遊楽を除く全員がそれを不思議そうに見ていた。
「全員防御して!」
遊楽の言葉にすぐさま対応できたのはスシリとロウガだけだったが、ロウガはルーイを、スシリはアリエスを庇った。自らを覆うように魔力の壁を作り防御の姿勢をとった。
その状態を確認することなく遊楽は粉に火の玉を飛ばし、着火した。そして両手に盾を造形し、身を守った。
粉は見事に爆発し、激しい閃光と爆音とともに相手を吹き飛ばし一掃した。粉塵爆発による爆発だ。粉塵爆発とは、ある一定の濃度の可燃性の粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で火花などにより引火して爆発を起こす現象だ。
遊楽は予想以上の風圧で飛ばされそうになったが、何とか吹き飛ばされずに済んだ。
光が落ち着き、全員が防御を解いた。遊楽陣営は幸いなことに誰一人怪我をしなかった。しかし、それと同様に真中に座っていた男も怪我を負っていなかった。火傷どころか擦り傷すら存在していなかった。だが、その理由はすぐに判明した。男の前には粘液のようなものが落ちていた。そしてその粘液が落ちている床は溶けている。
「さすがに今のはこの私も驚いたさ。一番の実験材料は君になりそうだ。」
「そりゃどうも。ただ、僕は生憎実験材料になる気はないんでね!」
「それは残念だ。だが結局、力づくで君は僕の実験材料になる。先に名乗っておこう。私の名前はブレイだ。」
「ご丁寧にどうも。僕は遊楽だ。冥土の土産に覚えておいてね。」
遊楽は身構えながらそう返答した。それに続き、アリエス達も再度身構えた。
ブレイも身構えると思い、遊楽は一番警戒していたが、予想の斜め上を行った。
その体は片手どころか全身丸々粘液に変わっていた。スライムに他ならない。その色は紫色に近いが、奥まで透けている。
「皆、行くよっ!」
「ハイっす!」
「がんばります!」
「回復なら任せてください!」
「派手に暴れまわりますかね~!」
こうして、遊楽は初のボス戦を開始した。
スライムとなったブレイの動きは決して速いわけではないが、遅いというわけでもない。どちらかと言えば速い方だ。さらにそこに酸性の粘液と来た。遊楽の緊張感は最高潮に達していた。ここまでの緊張は人生初のことだった。
「遊―!スライムに物理攻撃は利かないし、今回の場合は触って溶けたら私に直せるかわからないわ。それに、スライムに飲み込まれたら沼のようにどんどん足を取られて、最後は窒息死。飲み込まれないでねー!」
遊楽はここでなぜアリエスがスライム討伐を拒否していたか分かった。物理が利かないとなると自然と魔法攻撃になるが、アリエスは攻撃魔法をあまり取得していない。しかも、死に方でもかなり苦しい窒息となれば、行きたくなくなるのも当然だ。実際、既に遊楽は懲りていた。
ロウガはひたすら電気を放っていた。全体的に放つ時もあれば、一点に集中して高威力を放つこともあった。威力は高く、一時的にはブレイの体にも穴があいた。しかし、その穴は直ぐに塞がってしまった。
ロウガが再度穴あけに挑戦した。
「いい加減ぶっ飛べ!『一閃の雷』!」
その名の通り、強く光った雷がブレイの体を直撃し、その体を真っ二つに切り裂いた。しかし、その体はまたしても融合しようとしている。その隙を見逃さず、ルーイとスシリは左右に分裂した体に攻撃を仕掛けた。
ルーイは6匹の妖孤を前に出すと、魔法を発動させた。
『白く輝かしき神秘なる氷塊よ。今我が身を通し、従う者を通し、現出せよ!』
ルーイの作戦としては、凍らせる作戦らしい。6匹の妖孤の上には巨大な氷塊が出現した。その中には、冷の姿もあった。見事現れたその氷塊は分裂した体を貫き、所々を凍らせた。凍った個所は床に落ち、砕け散った。そのため、半身のサイズは一回り小さくなり、少し前進した。
一方スシリは内側から破裂させる考えらしく、鎖でつないだ造形の剣を半身の体内に差し込み、魔法を唱えた。
「さっさと終わらせたいんだよ!『電気暴発』!」
すると、突き刺さった剣が光、体内から暴発し、四方八方に粘液が飛び散った。すかさず遊楽は飛び散った粘液を燃やし、蒸発させた。一応は液体という分類なので、蒸発させることは可能である。
遊楽は数を減らすということと、アリエスの被害を減らすということを一緒に行っていた。
数は少しずつ減り、着々とサイズは小さくなっていた。しかし、それと同様に遊楽陣営も負傷を負っていた。アリエスの回復があるとはいえ、1人で4人分の治療を行うのは無理がある。そのため、ルーイはこまめにポーションを配っていたが、それも底をついてしまった。
「ちょっと兄貴…。これはやばくないっすか?」
「あぁ、やばいかも」
それを見たブレイは、笑いながら遊楽達を見下した。実際は表情が見えないため、声の調子で判断するしかないのだが。
「君たちは人間はやはりそこまでの様だね。所詮はその程度ってことさ。」
食い下がっていたルーイ達を見た遊楽は、手をぎゅっと握りしめ、思いのままに叫び、突進していった。
「人間舐めんなやぁぁぁ!」
「それでこそ兄貴っすよ!」
それに続くようにロウガも走りだし、スシリも続いた。ここからはルーイもバックアップに回り、全力で援助に徹することにした。
『大気の見えざる精霊、英霊たちよ。私の元に集い、彼の戦士達に力を与えたまえ』
ルーイの援護魔法だ。一瞬ルーイの体が光、そのまま3匹の妖孤に吸い込まれていった。吸い込まれていった光は、咆哮となり遊楽、ロウガ、スシリの元に届いた。効果は攻撃力上昇、防御力上昇、魔法攻撃力上昇の3つだ終わったと同時にルーイはその場に倒れこんだ。
倒れたルーイを、アリエスは魔法を行使しながらも寄り添った。
「大丈夫ですか!?」
「え、えぇ…。ちょっと魔力を使いすぎちゃったみたいです…。久しぶりに6匹全員で揃えました、か、ら…」
ルーイは何とか言葉を全て言い終えてから眠りについた。理由は分かっているため、アリエスは落ち着いてルーイを戦場から少し離し、守るように立ちながら援護をした。そこには冷もいたため、万が一のことがあっても、ある程度は対応できるようになっていた。
攻撃をしている3人はひたすら魔法を撃っていた。手順としては、ロウガとスシリがスライムの粘液を爆散させ、それを遊楽が燃やすとことにしていた。
だが、ブレイもそれを簡単に許す筈もなくなく、思いのほか素早い動きで避わしている。それでも、遊楽達は劣勢という状況からは少しづつ抜けだそうとしている。
「ロウガ、スシリさん、アリエス、あとどれくらい魔力残ってる?」
遊楽は戦闘を続けながら、全員に尋ねた。だがもちろんブレイも聞いている。それも考えた上で遊楽は尋ねた。
「俺はそろそろやばいっすね。まぁ根性っすね!」
「私はまだ少し余裕があるけど、援助が間に合わないかも…」
「私もロウガと同じでそろそろやばいかもね。遊楽君は?おっと、危ない危ない。」
スシリはギリギリ回避しながら答えた。攻撃の手を緩めるほどの甘さは当然の如く欠片もない。
「僕も正直やばいかもです。」
この時、遊楽はサイトとの会話を思い出した。
〔君も決して弱いわけではないみたいだから、よっぽどのことがない限り死ぬことはないよ。ピンチになることはあるかもしれないけど。〕
(思ったよりピンチ早くないか!?でもこの展開の速さだったら、ワンチャンあるかもな…)
遊楽は、ある事に希望を託し、賭けに出た。と言っても何か自分から行動するわけではなく、ただひたすらに魔法を打ち続けた。同じくロウガ、スシリも次々に攻撃魔法も繰り出していた。アリエスは後ろで援助をしながら、ルーイにも気を配っていた。
「クッソ!兄貴、母さん、下がってくれ!『電気砲』…あっやべ…」
ロウガの魔法は不発に終わった。それは魔力が枯渇している証拠だ。それに続いてスシリも魔法を打とうとしたが、詠唱が終わる前に手に持っていた造形による武器が消えた。これは故意消したものではなく、魔力の枯渇により起きた自然的な現象なため、魔力はスシリの体に戻ってはいなかった。
そしてさらにそれに続くように遊楽も魔法を行使しようとしたが、流れ的にもちろん発動しなかった。
[マスター。魔法発動に対する魔力が足りません。]
「ですよねー…。こりゃあ本当に賭けだな…。ロウガ、スシリさん、ちょっと下がってもらっていいですか。」
「でもそれじゃあ遊楽君は…」
「下がってください」
「…、分かったよ。」
遊楽の中で何かが弾けた。それと同時にその気持ちをスシリに伝わり、これ以上は何も言わずにおとなしく下がった。
「たった1人の人間が何ができる。魔力もない状態で。」
「さぁて。何でしょう」
遊楽はその場で動かず、直立不動の状態だった。そんな遊楽に容赦なくブレイは酸性の粘液を飛ばした。それを遊楽は避けなかった。
「ッッ!!」
その粘液は遊楽の腕を溶かし離した。腕の断面は溶けて出血していた。それと同時にその場に遊楽は倒れた。サイトに魔力を注ぎ込まれた以上の痛みを感じ、遊楽の意識はシャットアウトした。
しかしその直後、再度遊楽は立ち上がった。出血は止まっている。
「兄、貴…?」
ロウガの呼びかけに遊楽は反応しなかった。その代り、腕を横に突き出した。すると、溶けて落ちた腕の先が遊楽の体に引き寄せられ、接合された。
「……」
「貴様、本当に人間か?ますます興味深い」
遊楽の後ろ姿に変わりはない。強いて言えば溶かされた腕の箇所の服だけ破れているぐらいだ。
だが、後ろ姿だけではわからない変化が遊楽にはあった。1つ、魔力が完全にどころか、多めに回復していた。ポートが作成した魔力バーを大幅に超えている。もう1つ、今までの青い目が紫紺の瞳に変わっていた。その目には光が宿っているようには見えなった。
だが、遊楽が賭けていたことはある意味これである。夢で見た悪夢=闇落ちと考えていたが、実際それに適っている。しかし、自我が働く可能性はほんの僅かもないと考えていた。実際今の遊楽には自我がない。
殺気を感じたブレイは攻撃の手をより一層深めた。遊楽はそれを1つ残らず魔法で撃ち落とした。その状況にブレイだけでなく、ロウガ、スシリ、アリエスも驚いていた。それと同時に、恐怖、殺気、怖気、狂気、憎悪、それ以外にも様々な感情を感じていた。そして、誰一人として動ける者はいなかった。遊楽を除いて。
全身に炎を纏い、空中に幾つかの魔力の玉を出現させた。サイズはビー玉ぐらいの大きさだが、そこには魔力が圧縮されて詰まっている。一撃だけでもかなりの威力だ。
その状態で遊楽はブレイに突っ込んだ。先に玉が飛んでいき、爆発や、爆風を起こした。しかしそれには動ずることなく、進行の足は止まらなかった。そのまま遊楽はブレイの体の内部に自ら入って行った。
「何を考えてるかと思えばそんなことか。見かけ倒しだったようだ。…っなに!」
最初はブレイの体の回復能力に驚いていたロウガ達は、ブレイの言葉で体内に入って行った遊楽に目を向けた。中では遊楽は一向に溶けず、しっかりと人のシルエットが残っていた。また、体内でも変わらず魔法を連発している。やがて、ブレイの体が内側から爆ぜた。四方八方に飛び散った粘液を遊楽は見逃さず、1つ残らず燃やそうとしていた所、残りが5分の1程度になったところで、魔法を使う手が止んだ。それと同時に遊楽の目は紫紺の色から元の青色に戻っていた。しかしそれを確認できたのはほんの一瞬。目の色が戻った瞬間、意識がフッと消えたように、その場にうつ伏せの状態で遊楽は倒れこんだ。倒れた遊楽にアリエスとロウガ、冷は駆け寄った。スシリはルーイのこともあったので、その場に留まり、その場から見ていた。
ロウガは遊楽の肩をつかむとブンブンと乱暴に回した。
「兄貴っ!」
アリエスはその手を離すようにロウガに促した。しかしまったく耳に入っていないようで離そうとしない。そんなロウガの手をアリエスは已むを得ず振りほどいた。
「ちょっと遊!ちゃんと目覚ましてよね…!ロウガさんはさっきのスライムの残党見といてください。」
「あ、はい。了解っす」
スライムの散っていった欠片はいまだに生命活動を続けている。そして今、そのスライムは集合しようとしていた。しかし、魔力のない状態ではできることがないため、見張ることしかできていなかった。だが、攻撃が来るようなことはなかった。理由は、元のサイズに戻るには量が足らず、最初に会った時の人間の姿になっていたからだ。最初からスライムの姿になって戦闘を始めたところを見ると、人間姿では粘液を飛ばすことができないとアリエスは判断していたため、ロウガにみているように頼んだのである。
その間にアリエスは遊楽の体を確認していた。魔力は最低限の量を確保している。動く分には十分な量だ。また、腕の傷跡を確認していた。しかし、アリエスはそれに対して驚くことしかできなかった。
「これって…、どうして傷跡が跡形もなく消えてるのかしら。私の知ってる医療術師でもあの傷跡を治せる人はいないんじゃ…」
アリエスが言うとおり、遊楽の傷跡はきれいに消えていた。よく研がれた剣による傷の場合、真っ直ぐ綺麗な断面になるため、傷痕は目立たないぐらいまで直すことができるらしい。だがそれでも完全に消すことは困難を極める。つまり、今回の再生は魔法とはまた違うものによって起きた現象だとアリエスは考えていた。だからと言ってこれが何によって引き起こされたものなのかは分らなかった。
その場で悩んでいると、無事に遊楽は目覚めた。
「うーん?こりゃあ成功かな…。あぁー、頭痛いなー。」
遊楽は両手で頭を抱えていた。
「すまん、もっかい寝る」
「ちょまちー」
声の元はスシリだった。
「なるべく手短におなしゃす。結構キツイので」
「それじゃあ単刀直入に聞くよ。今のは自分の意思なの?それとも自我はなかったのかな?」
今のというのは先ほどの戦闘のことだ。
「無意識と言えば無意識ですかね。でも意識がなかったわけじゃないです。薄らありました。でも何かできるわけじゃなくて、見てるだけでした。」
「それじゃあもう1つ。成功って何のこと?今の話を聞いた限りじゃ意識はなかったのに何が成功なのかな?」
スシリだけでなく、アリエスもそれを疑問に思っていた。ロウガも疑問に思っていたが、ブレイのこともあるため正面から聞くようなことはしていなかった。
「成功したのは、賭けです。僕が予想したとおりになってくれたから成功です。じゃあもう寝ます。何かあったら、言ってください。じゃ」
言い終えた瞬間遊楽はその場に倒れこんだ。ゴツっという頭をぶつけた音を響かせながら。見張りをしていたロウガもさすがにその音には驚いたようで遊楽の方へ振り向いた。ブレイは何もしなかった。何も出来なかったというべきなのかもしれない。だが、表情を不気味な笑みに変えていた。しかし変えていたのはほんの一瞬。変化に気づいた者はいなかった。
アリエスは、その場で正座し、遊楽の頭を自分の膝の上に置いた。膝枕というやつだ。しかし、それに遊楽が気付く事はなった。
「アリエスちゃんは積極的だねー」
「まぁ頑張ってくれたのは事実ですしね。けど起きたら一発叩くか殴りますけどね。」
アリエスは少し怒りの籠った笑顔でそう答えた。それにはさすがのスシリもある種別の恐怖を感じていた。アリエスの怒りの原因は、遊楽が自分の身を犠牲にして前線に出たからである。
ゾンビ発生の問題で、まだ完治していない遊楽に対してアリエスは
「皆を守れれば自分は犠牲になってもいいとか考えないで」
と確かに言った。にも関わらず遊楽は思いっきり自分の身を投げた。それに対して怒っていたのだ。寝ている間に叩かないのはまだ自制心が残っていたからだ。
そんなアリエスには触れないようにスシリはブレイに近寄った。
「さてと、そろそろさっきの階段を開けてもらおうかね?」
「あぁいいだろう」
スシリの要求に対してブレイはすんなりと受け入れた。そのまま指をならし、階段への道を開けた。それにはロウガも不信感を抱いた。いくらなんでも簡単に開けすぎる。負けたからと言って何の抵抗も見せないのは明らかに怪しい。ロウガはそう判断した。
「私を怪しんでいるようだね。」
「そりゃあそうだろ。俺がバカっていうのを押すわけじゃねぇけど、さすがに俺でも疑うぜ。」
「それじゃあ率直に言ってやろう。この先には私の研究結果が全て置いてある。だが、君らが見ることは出来ないだろうな。」
ブレイがそう言うとスシリは無言で階段に向かった。そして手を出すと、その手は結界によって弾かれた。
「っ!」
「だから言っただろう。そこは、私のような上位の悪魔にしか入れない結界を張っておいた。君らには幾ら時間が掛かろうと先に行くことはできな―」
「その話、ちょっと待った」
話を遮ったのは遊楽だった。
「ちょっと遊、起きて大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない。けどいい話聞いたから。」
「それは私の話かい?だとしたら君でも入れないことは分かっただろう。」
「さーてそれはどうかな」
遊楽はニヤリと笑い、立ち上がった。しかし、動きはふらふらとした物だった。
「本当に大丈夫?」
「うーん分らん。しばらくしても戻ってこなかったら応援とか呼んできて。」
そうして遊楽は謎の確信を持って階段の前に移動した。スシリは横に捌けた。
「何かあったら呼んでください。できればすぐに戻ってきますから。」
「ほいほい。遊楽君も気をつけてね。私は残念なことに行けないから。」
スシリの表情はいつものはっちゃけた明るい顔ではなく、真面目な堅い表情だった。
遊楽は荒くなった息を整え、結界の中に入って行った。
スシリが入った時とは違い、遊楽は結界に弾かれなかった。何もないよう、普段通りにすっと入った。
しかし、違和感はあった。
「ちょっと体がビリビリするというか何というか…。ポート、僕の体再認識して原因突き止めたりできる?」
[はい、可能です。再認識を始めます。]
遊楽は進みながら話していた。その後ろ姿を見ていたブレイを含めた全員がその姿に唖然としていた。一番衝撃が大きかったのはブレイだ。
「あいつは本当に何者なんだ…?あれは悪魔だろうと下級のものは入れないように作ってあるはず…」
「兄貴はそんなじゃぁ測れないってこと」
ロウガは遊楽を肯定するように言っていたが、実際は不可解なこともあり、完全に肯定することはできていなかった。それはアリエスとスシリも同じだ。
待っている間、誰も動く者はいなかった。冷は階段の前でじっと静かに待っていた。さすがに契約を交わしたといっても、種族の壁は越えられなかったということだ。
一方の遊楽は長い階段をただ黙々と降りていた。ポートの再認識が終わったのは降り始めてから3分ほどたった後だった。
[再認識終了しました。マスターの体からは悪魔に似た力を感じました。恐らく先程の戦闘で覚醒したものだと]
「大体予想はついてたけど、まさか本当に的中するとは…。比率的にはどれくらいかわかる?」
[大凡7対3です。現在のマスターの状態でこの結界内に入っていられるのは30分が限界だと思います]
「人が7って考えていいんだよね?それじゃあちゃちゃっと終わらせようか。」
遊楽は階段を降りる足を速めた。ゴールは一向に見えない。そのため急ぎ足をさらに速めた。
[マスター。無詠唱のブーストの使用を推奨します。風属性です]
「了解。風属性のブーストは初めてだけど、頑張るか」
遊楽はブーストをすることにした。その際、1つ工夫をしていた。初めに自分の足下にスノーボードのような板を魔法で造形した。その後ろにブーストを使用し、推進力を上げ、歩きよりも早く下段していった。しかし、途中から螺旋階段となっており細かく速度調整をしていた。
「地味に難しいな…。そろそろ終点かな?」
[ここから先に大きな魔法妨害が生じています。魔法の使用は不能だと思われます。また、私のサポートも限りが付くと予測されます]
「了解。最低限でいいからサポートよろしくね」
長い階段を下りていると、ようやく広い部屋が見えてきた。そこには明かりがついておらず、広いということしか分らなかった。
遊楽はブーストを切るのを忘れそのまま部屋に突っ込むと、造形で作った板が消え、慣性に従い急停止することなく前に飛んでいき、顔から着地した。
[……大丈夫ですか?]
「シンプルに痛い…。」
顔を抑えながら遊楽は立ち上がった。ポートが察知したようにこの部屋の中では魔法が使えない。試しに遊楽は手に炎を浮かべようとしたが、一瞬ついただけで、すぐに消えてしまった。
それと同時に、部屋に明かりがついた。そこには、獣人が入ったカプセルが規則性を持って配置されていた。いずれもルーイのような狐のような耳がついていた。つまり、ここにいるのは悪魔によってさらわれた同胞ということだ。中に入っている妖孤達は全員眠っている。そして、もう1つ全員に共通することがある。それは、さきほど戦闘になった人と思わしき輩と服が統一されていたことだ。
これを見た遊楽は、戦闘中の疑問が確信に変わった。そして、低いトーンの声でポートに訪ねた。
「…ポート。さっきの戦いの記録って僕の記憶から引っ張り出せる?」
[可能です。表示します。現像度はマスターの記憶次第です。]
ポートは遊楽の視界の左上に先程の戦闘シーンを表示した。改めて確認したところ、先程の人が来ていた服と、ここに眠っている妖狐が来ている服。それは同じものだった。
「つまり、さっきの人達は元妖孤で、実験対象だった。そんでもって、多分あの人達は失敗…」
[マスターの予測を肯定します。]
遊楽は勢いよく床を踏み付けた。それは怒りによるものと、変わり果てた姿になったといっても妖狐を自分の手で殺めてしまったことにより自分の不甲斐無さと後悔によるものだった。
しかし、それは一瞬のこと。遊楽はすぐ気持ちを入れ替え、頭を使い、ここにいる全員を救出する方法を考えた。
そこで遊楽は、1つの考えにたどり着いた。
(こういうところは決まってコンソールみたいな操作盤があるはず。そもそもこの世界の技術がどこまで行ってるか分らないけど、ポートみたいなのがいるってことは、それを作る物があるはず。だったらコンソールの1つや2つあると思うけどな…)
遊楽は部屋をひたすら走りまわり、操作コンソールを探した。それ以外にもここに関する書物や、あればパソコンの様なものを探していた。
部屋は予想よりも広く、かなりの距離を走りまわっていた。しかし無情にも時間は刻一刻と過ぎていく。気づけば耐久予想時間は残り15分に迫っていた。
血眼になってひたすら探し回っていた遊楽にも、とうとう運が向いたようで、あるものを見つけた。それはコンソールではなく以外にもパソコンだった。
「まさかのこっちか~。…ポート、もしかしてこの中見調べたりできる?」
[はい、可能です。すぐ近くに丸い形のスタンドがあります。そこに私を置いていただければ、あとは私が行います。1つ私から願いがあります。携帯をおいていってください。そうすれば、データを移しておきます。]
「OK。それじゃあ置いていくよ。ついでに操作盤とかの場所が分かれば教えてちょうだい」
そうして遊楽は耳からポートを取り外し、スマホを置き、スタンドにポートを設置し再度コンソールを探しに行った。
しかし、その脚はすぐに止めることになった。
ポートの音声がスピーカーから流れて来た為だ。
[マスター、すべてのカプセルはこの端末から操作されています。これ以上探しに行くのは無駄かと。]
「ってことはもうデータは閲覧済みかな?」
遊楽はポートの元まで走りながら問いかけた。
[既にコピーも終わっています。しかし、カプセル操作の権限があるのはキーボードからの直接入力だったため、そこまではできませんでした。申し訳ありません]
「気にしてないから気にしないで。それに、ポートがいなきゃ今頃も血眼になって探し回ってたよ。むしろありがとう。それじゃ始めようか。」
遊楽はキーボードに手を伸ばし、操作を始めた。しかし、ここで致命的なトラブルが生じた。それは、まだ遊楽がキー語に慣れていないということだった。
[マスター。推測耐久時間が残り10分を切っています。早急に戻ることを推奨します。]
「僕がここの全員をおいて1人で逃げてくと思う?」
[それでは、私がサポートさせていただきます。まず左上の四角い枠に囲まれた文字を押してください。]
不幸中の幸い、ポートが遊楽の動きを誘導することはできた。それでも時間は待ってくれない。
[次に真中にある丸い所を押してください。そうすればここにあるカプセルのロックがすべて外れ、解放することができるかと]
「助かったよポート。それじゃあささっと呼びかけて、逃げるか。」
[その必要はないかと。データの奥にさらに隠されたデータがありました。それによるとパソコンの下に魔力妨害の発生源と特殊結界の発生源があります。停止、又は破壊することによってどちらもなくなります。そうすれば残りの方もここに入ることができます。]
「そろそろ痛みが限界だから助かるよ。これか…。」
遊楽はパソコンが置かれている机の下を覗いた。そこには、黒い物体が2つ置かれていた。それを勢いよく片手剣で刺した。すると、遊楽の体から痛みが引いた。確認のために手に炎を浮かべても、一瞬で消えることはなく、持続して燃え続けている。炎を消し、再度キーボードを遊楽はいじり始めた。
[何を行っているのですか?データのコピーなら既に終わっていますが?]
「データ削除だよ。」
[それなら、壊す方が手早いのではないですか?魔法が使えるようになった今なら容易なことかと。]
「あぁ…。そういやそうや。えいさ。」
遊楽は両手に炎を纏い、両挟みになるように思いっきり殴った。それによって散った部品を風の魔法を使い、ミキサーの要領で切り刻んだ。パソコンは原型を留めておらず、データ所かパソコンも削除された。
その間に、すべてのカプセルから妖孤達が出てきていた。男性、女性、子供までいた。恐らく歳をとっていない。遊楽はそう判断した。
全員が戸惑い、顔を顰めていた。そんな時に、遊楽は大声で全員に話しかけた。
「皆さん!あそこの階段を上ると外に出れます。外と言ってもまだ施設の中ですけど、皆さんと同じ妖狐が3人と僕のような人間が1人います。ですが敵ではありません。信用できないのは分かりますが、ここはどうか信じてください。お願いします。」
呼びかけてもすぐに移動を開始する者はいなかった。元より遊楽はすぐに移動を開始するとは思っていなかった。ここでもう1つ呼びかけた。
「それと、この中にルーイさんとロウガの父兼、スシリさんの夫さんはいらっしゃいませんか?」
ここで、この場の全員がより一層ざわつき始めた。そんな大勢の妖狐の中から1人の男性が出てきた。顔立ちはロウガに似ていた。だが、遊楽が感じた雰囲気はとても温厚そうだと訴えていた。顔は少しやつれていた。疲労や実験による症状だと遊楽は判断した。
「私がそうです。事情を話してもらえますか?それしだいであなたの言うことに従うか決めさせてもらいます。」
「分かりました。」
遊楽はポートを再度耳に付け、スマホを後ろポケットにしまい、先程の男性の元に歩み寄った。遊楽はそうでもないが、男性の方は全身に少し力が入り、顔が強張っていた。しかし、何故か恐怖心はなかった。何も疾しいことなどないからというのもあったのかもしれないが、元からの温厚オーラからだろう。
「それじゃあ、まずは自己紹介からしましょうか。僕は遊楽。安井遊楽です。」
「私はカウト・メルンです。ご存知の通り、ルーイとロウガの父で、スシリの夫です。私達を助けてもらったと考えていいんですよね?こうなった経緯を教えてもらっていいですか?」
「まぁ最初から言うと長いので大分割愛しますけど、今回僕はルーイさんからの依頼で来ました。その時に悪魔とのつるみがあるって聞いてちょっと他人事じゃなく来まして。あなた方を捕まえたと思われる悪魔はさっきある程度は弱らせました。それでそのままここに来たと。そんな感じです。これだけの理由で信用しろとは言えませんけど、とりあえず外に出てもらいたいのが僕の心境です。おわかりいただけますか?」
カウトはその場で悩んでいた。2人が話している間、まわりもざわついていた。初対面であるため信用がないのは当然だ。
遊楽は何もせずただ返答を待っていた。
悩んでいたカウトは息を整え、返答をした。
「分かりました。私はあなたの言う通り、あの階段を昇ります。少しでも家族がいる可能性があるなら、私は行きます。」
「ありがとうございます。それじゃあ僕も上がります。皆さんはどうしますか?僕はここを放っておく気はありません。明日にでもここにある物は全部消去しようと思います。もしかしたら、この施設ごと吹き飛ばすかもしれません。それでも出ませんか?」
ここだけ聞けばただの脅しだが、遊楽は素早く全員を移動させるには、言葉でもなんでも動きたくなるような物を提示しなければならないと考えていた。その効果は絶大なもので、全員がその場から動き、カウトの元へと集まって行った。
「それじゃあ行きましょうか。大分階段が長いので、無理のないように上がってきてください。それと、カウトさんには一番最後に向かってほしいのですけど、大丈夫ですか?」
「別に構いませんが…。理由を聞いても?」
「単純なことですよ。一番最後の方が、話しやすいでしょう?僕ともう1人は先に出てますから。」
「そういうことでしたら」
こうして何とか説得に成功した遊楽は、全員を引連れて階段を昇り始めた。まだ不信の表情を浮かべている者もいたが、しっかり後ろをついてきている。
何度か後ろを振り向きながら階段を進んでいたが、獣人なだけあって体力切れを起こしている人はいなかった。それどころか息を切らしていない人の方がほとんどだ。かなりの段数を登って遊楽はそれなりの疲労感を得ていた。それにも関らず息を切らしていないのはさすがと言った所だ。
「あっ遊!お帰り。ルーイさんがさっき起きたわよ。おぉ、たくさんの人…」
「まだ帰ってないけどね。先に出るぞー。皆さんも連いてきてください。ロウガとスシリさんとルーイさんは待っててください。」
遊楽は、アリエスも一緒に連れて先に研究所の様な施設から出た。ルーイ、ロウガ、スシリ、カウトの4人を除いて。
3人は何故待たされたのか分からず、しばらく戸惑っていた。しかし、その謎は直ぐに無くなり、感動に変わった。
「た、ただいま…」
「お父さん…?」
「親父?」
「…お帰り!」
ロウガとルーイは、再度戸惑い始めたように見えたが、スシリはすぐにカウトの元へと駈け出した。確信を持てたのか、ロウガとルーイもスシリの後に続いてカウトの元へ走り出した。カウトは何も言わず、動かず全員を抱いた。そして嬉しそうに2人の子供に目を向けた。
「2人とも大きくなったな。すっかり立派になって。これも、スシリのお陰だね。」
「あの時カウトさんが守ってくれなかったら、こうも成長してないよ。」
スシリとカウトは普通に話していたが、ロウガとルーイは父の抱擁に感極まって、その場で泣き始めた。そんな2人に気づいたスシリは1人早く抱擁から抜け、改めてカウトは2人を抱いた。ロウガ、ルーイは嗚咽を漏らし、喋れる状況ではなかったため、カウトは何も言わず、愛でていた。
そんな4人を後ろに見ながら、遊楽、アリエス、妖狐たちは外に出ようとしていた。一番前にはブレイがいた。さすがにあの場に置いていてはムードなんてあったものじゃない。それに、今魔力が残っているのは遊楽だけだ。つまり対抗できるのも遊楽だけ。こうするしかなかったと言えばそうなのかもしれない。だが、遊楽はブレイが何かするようなことはないと何所かで確信していた。実際何事もなく施設の外まで出ることができた。
「ビジョンまで少し距離はあります。距離があると言っても歩きで帰れる距離なんですけど、皆さん大丈夫ですか?数人でしたら馬車がありますけど」
遊楽はあるいて帰れる距離であると思っていたし、実際に歩いて距離なのだが、様々なことが久し振りな妖孤達には長い距離だと考えていたが、それは要らない心配だった。
妖孤の1人の男性が遊楽に向けて一言。
「俺達は獣人だ。体力が取り柄なんだ。きっと大丈夫だ。」
その男はしっかり、そして力強く答えた。
「それじゃあ先に皆さん帰宅しといてください。待ってる人がいるでしょうし。僕はあとからいきます。カウトさん達も後で連れて行きます。それじゃアリエスよろしく」
「分かったわ。それでは皆さん連いて来てください。」
アリエスは先導し、全員とビジョンへと帰って行った。
遊楽はブレイを連れて、すこし離れたところで話し始めた。そのトーンは低めだった。
「それじゃあ質問させてもらう。まずは、これを作ったのはあなたですね?」
「あぁそうだ。気に入ってもらえて何より。それは、元から君のものだ。」
「誰に言われて作った?」
遊楽は淡々と質問を続けた。それに対して答えないという行為をしないブレイ。怪しさがあったが、この際気にしていなかった。
「残念だがそれはわからない。差出人不明の手紙が私の元に届いたんだ。この施設を知っているのは、悪魔軍かおそらく一部の冒険者だ。その中の誰かだろう。」
「それじゃあ、もう1つ。誰の命令でこんな実験をしてた。」
「私の独断だ。関わりがあるのは悪魔軍だが、それほどの関わりはない。目指すところが同じだけで会う機会も滅多にない。1つ、ヒントをやる。最近は指導者が現れたようだ。」
「なぜそこまで教える。何か企んでるのか。」
「そんなことはないさ。ただ、君に一目置くことにしただけさ。ただ、今君が私を殺すならそれは終わるだろう。」
「そんなことしない。誰にだって一度ぐらい公正の機会があってもいいと僕は思ってる。次も同じことをしていたら別だけどね。」
その遊楽の発言が面白かったのか、ブレイは笑い始めた。
「フハハ!君はやはり私の想像を超えているようだ。私の力を使うといい。なに、君が不利になるようなことはない。あの悪魔の力が強くなるだけさ。」
「いや、いらん…。ってちょまって…」
ブレイは遊楽の静止を聞かず、影となり、遊楽の影と同化した。それと同時に、遊楽は体の変化に気づいた。魔力が上昇し、体の調子も少し良くなっていた。そして、外見も変化していた。
[マスター。髪の先が黒色に変化しています。また、少しではありますが悪魔の濃度が濃くなっています。恐らく同化したことによる効果かと]
「あれで終わるのか。勝手に進められたけど…。でも本当に力になるならいいのかな…?」
困ったような顔をしながらも、こうなってしまった状況からどうするかを考えながら、遊楽は残りの4人を待っていた。
当の4人は、今だに下で話していた。ロウガとルーイの嗚咽が収まり、話せる状態になっていた為、再度話し始めていた。
「いやー、ルーイはともかくロウガが顔を覚えてくれてて嬉しかったよ。まだ小さかったからね。スシリに迷惑掛けなかったか?」
「まあまあだと思います。ロウガはどうかわからないけど。」
「俺だって大丈夫。…だと思う。少なくとも母さんには迷惑掛けてないよ。」
「ルーイもロウガもいい子だったよ。私が困った事は基本ないよ。」
「そうか、それはよかった」
4人はまだ施設内にも関わらず家と同じような明るい会話を交わしていた。全員が今の立場を忘れて、楽んでいた。
「そういえばロウガは呼び方を統一しないのか?こうなんか親父と母さんって違和感ないかい?それを言うならお袋と親父か、母さん父さんじゃないのか?」
「そういえば確かに。こう2人的にはどっちで呼ばれたいとかあるのか?」
スシリとカウトを互いに顔を合わせ、答えが一緒だということを確認した。
「私としては今のままが良いかな?」
「私も父さんの方がいいな。個人的にしっくり来るというかなんというか、ね?」
「それじゃあその呼び方でこれからは呼ぶよ」
こうしている間にルーイは欠伸をしていた。まだ完全に魔力が回復していないため、眠気というよりも疲労による物だろう。
「ここで話すのもあれですし、まずは帰りませんか?忘れてるかもですけど、まだ安心ってわけじゃ…」
ルーイの言葉にいち早く反応したのはスシリだった。
「それもそうだね。それじゃあ帰るぞー!」
こうしてメルン一家も帰路についた。
待っていた時間は約10分。遊楽は少し肌寒い思いをしていた。まだ多少の寒さがある現在では、ワイシャツ姿の遊楽には厳しかったが、暖を取る物がなければ自分の魔法で暖まることもできない。そのため、馬車の中でおとなしく待っていた。出てきた4人に気づいた遊楽は多少体を震わせながら馬車の中から出てきた。
「大丈夫でしたか?まだ完全に中が安全ってわけではなかったですけど。」
「大丈夫でしたよ。遊楽さんのおかげで無事に家族とも再会できましたし。ロウガとルーイも大きくなって嬉しかったですよ。」
「それはよかったです。それじゃあ中にどうぞ。」
「帰りは私が運転するよ」
運転を名乗り上げたのはスシリだ。さすがに一度魔力が切れ、眠ったルーイにはこれ以上何かさせるわけにはいかない。親としての立場でスシリは判断した。そのため、スシリは御者台に向かった。残る4人は客席に乗り込んだ。
帰りは全員が過度の魔力の使用で眠っていた。しかし、カウトだけは起きていたため、起こさないようスシリの横に移動した。だが、お互いに笑っただけで話すことはしなかった。そのため、何事もなく無事にビジョンの元へと帰って行った。
本当に何事もなくビジョンに着いたと同時に、遊楽は体に感じた違和感で目が覚めた。外では捕えられていた妖孤達がそれぞれの家にすんなり戻って行った。つまり、襲われた時と村の様子が変わっていなかったようだ。そしてアリエスは座って待っていた。
各々に帰っていた姿を見ていた遊楽は、馬車が止まったと同時にある提案を持ちかけた。
「先にスシリさんたちは帰っていてください。まだ積もる話があるでしょう?荷台とかは僕たちが返しておきます」
「それじゃあお願いするよ。よろしくねー」
遊楽は全員が降りたことを確認すると、アリエスを呼び荷台と馬を返しに行った。その間にメルン一家は無事に帰っていた。後ろ姿を確認した遊楽はアリエスを手招きで再度呼んだ。
「ちょっとゆっくり帰るぞ。ないかもだけどまだ家族だけの話があるかもだから。」
「分かったわ。それじゃあのんびり帰りましょうか?」
そして、遊楽とアリエスはゆっくり歩き始めた。
遊楽達がメルン家についたのはおよそ10分後。そっと扉を開き、奥へと進みそっと中を覗くと特に話をせずぐったりしながら待っていた。帰ってきた遊楽に気づいたカウトは声をかけた。その服は普段着のような物に変わっていた。
「あぁ、お帰りなさい。せっかく時間を貰えたのはよかったのですけど、これと言って話すことがなくて…。むしろ遊楽さんとえっとアリエスさんですよね?スシリから聞きました。とにかく2人に話すことの方が多かったので待ってましたよ」
「何か申し訳ないですね。こう時間を設けたのが逆効果になるとは…。」
「それで話って言うのはどういったことでしょうか?」
2人は流れるように座り、話を聞く姿勢をとった。
話の内容はこの村が襲われる前からの話だった。
この村は、昔は開放的で結界のような遮るものなんてなく、様々な国とも貿易や会談なども行っていたらしい。しかし、ある情報が外部に漏れたらしい。その情報というのはもちろん古式魔法についてのことだ。それが、理由もなく起きてしまったことなのか、誰か内通者が漏らしたのかは分からない。だが恐らく後者だろう。その為ビジョンの村が標的となり、襲われたと村全体は考えたそうだ。この村の住人も決して弱い訳ではない。しかし、それ以上の軍勢と奇襲だった為、為す術無く敗れてしまったそうだ。それからというもの、村は壊滅状態のままで途方に暮れていた所。そんな時、1人の人間が現れた。その人間は的確な指示を出しこの村を活性期まで戻したどころか、それ以上の物品の作成から貿易の売上額まで大幅に伸ばした。その功績にビジョンの住人達はその人間を称えた。しかし、称賛しすぎ裏目に出たようだ。その人間はこれ以上の被害を増やさないという名目で結界を作った。しかしその結果はこの村を守ると同時に、外部からこの村を遮断する役割があった。そこからはその人間の独裁が始まった。ギルドの上に自分の城を築き、首位を保った。そこからは村のことはお構いなし。自分の得、自分の利益になることだけに顔を出し、不利益な事はすべて村に回した。1人の人間の為の村に変わり果ててしまった。
この話を聞いて遊楽が思った事は1つ。
(あの和風な城と言い、あの狡賢さと言い…。さては日本人だな。しかも、とびっきりの悪。仮に本当に日本人だったとしたら許さん。それ以外でも許さないけど)
カウトはここからが本題と言うばかりに話を進めた。
「追加でお願いして悪いのですが、この状況を打破してはいただけませんか?報酬なら…」
「いいですよ。やります。報酬とか気にしないでください。何となくそんな気がしてました。端からやろうと思ってたといっても過言じゃないかもですね。」
「ありがとうございます。」
カウトは安心した顔だった。それと比べてルーイは本当にいいのかという顔をしていた。新たな依頼と言い報酬の件と言い、損得で言えば遊楽に得が1つもない。その表情に気づいた遊楽はルーイにも言葉を投げかけた。
「ルーイさん、そんな顔しないでください。元よりルーイさんの報酬も受け取る気はありませんでしたよ。ねっ、アリエス」
視線の先にいたアリエスはうんうんと激しく頷いた。それを見てより一層ルーイは困ったような表情をしていた。
「でもそれでは…。せめて何かお礼をさせてください。」
ルーイの要望に次は遊楽が顔を顰めた。あくまで遊楽は自分に有益な情報があると思いこの依頼を引き受けた。アリエスも自分の興味のある話があったため一緒に引き受けた。見返りは2人とも元から求めていなかった。このような状況になるとはルーイも含めて思っていなかった。
そして報酬を受け取らない理由はもう1つあった。表現は悪いが、このような時に好感度を稼いでおけば、後々何かと役に立つ。そのため受け取る意思はなかった。
悩みに悩んで遊楽は答えを出した。
「それじゃあ、この依頼が終わったらロウガとルーイさんを仲間にさせてもらいたいです。これでどうですか?無理でしたらそれこそ本当に構いません」
遊楽の発言に当の本人であるロウガとルーイは疎か、アリエスまで驚愕の表情をしていた。しかし、スシリとカウトは笑っていた。
「あははは!やっぱり遊楽君は予想外のことを言ってくるね!」
「私は、ロウガとルーイさえ良ければ遊楽さんの仲間になってほしいです。ここにいても宝の持ち腐れです。ぜひとも羽を伸ばしてほしいと思ってます。それで、ロウガとルーイはどうかな?」
投げかけられた質問に2人は互いの顔を見て悩んだ。しかし、考えはどうやら一緒だったようだ。
「ぜひとも、よろしくお願いします。」
ルーイは柔らかな笑顔でそう答えた。
「俺も、これからよろしくっす!」
ロウガは気合いの入った返事で答えた。
その2人の返事を聞いた遊楽とアリエスは喜びと同時に2人だけのパーティーからの解放感を感じていた。
その場の勢いで遊楽はさらに話を進めた。
「それじゃあ、こちらからもお願いです。こう、魔力を回復させるような物ってまだありますか?それとこれは質問ですけど、ルーイさんとロウガはまだ魔力さえあればまだ動ける?」
「私は少し多めに魔力をもらえればまだ動けます。」
「俺は動く分には大丈夫っすね。魔法を使うってなると魔力は要るっす。」
それを聞いたスシリは急ぎ足で2階に上がって行った。その後階段で顔を出し、カウトを手招きで呼んだ。意図を察したカウトはスシリと同様駆け足で階段を昇った。
残された4人は全員共通で不思議そうな顔をしていた。そんな中、冷だけはゆっくりと眠っていた。
2階からドタバタと様々な音が聞こえた末、2人が降りてきた。カウトの手には紙袋、スシリの手には人数分×2本分のマジックポーションがあった。
紙袋には大小様々な大きさの石が入っていた。その石は僅かに光っていた。
「この中には大量の魔法石が入ってます。ぜひとも有効活用してください。」
「まずは魔力回復して、ちゃちゃっと終わらせて来ちゃいな。終わったら呼んでよー。そのまんまギルドで宴にしちゃおう。きっと他の妖孤達も盛り上がりたいだろうし。そいじゃガンバ!」
遊楽達はスシリからポーションを受け取り、勢いよく飲み干した。と言っても、遊楽は受け取るだけで飲まなかった。ブレイとの融合で魔力が全回復していたためだ。しかし、飲まなかったことについて問い質されることはなかった。
作戦については遊楽に丸投げだった。道中で考えるとは言ったが、実際にはある程度作戦は固まっていた。初めてギルドに来た時、上の城には窓が幾つか設置してあった。その窓を割って突入するというものだ。ただ、窓の設置場所はかなり上にある。そこまでどう行くかが今の問題だ。忍者の7つ道具の1つ鍵縄と呼ばれる縄の先に、先が曲がった金属製の器具が取り付けられた物があれば多少は容易になるのだろうが、生憎それを用意する時間も商品になっている物もない。スシリのように造形で鎖を作成できるほどまで造形魔法が上手くなった訳でもない。今の遊楽は残り一歩の所で決まらず悩んでいた。
人は集中しているとあっという間に時間が過ぎるものだ。その為、悩んでいる間にギルドの下まで到達してしまった。
「どうしたもんかなー…。あそこまで届けばいいんだけどなー。あそこまでブーストで飛べたりする?」
[現在のマスターの魔法の習得度では無理かと。半分が限界だと思われます。]
「魔法石使っても?」
[魔力量は問題ありません。出力と持続時間に問題があります。火属性、風属性共に最高継続時間は10秒から15秒です。浮遊だけならブーストを使用した後でも多少は可能です。]
ポートの補助である程度考えが固まってきた遊楽は、今か今かとそわそわしているロウガに話しかけた。
「ロウガロウガ、僕を城の半分くらいまで飛ばせる?全然投げでいいんだけど、どう?」
「うーん?今の力じゃちょい難しいっすね。姉貴の筋力増加魔法があればまぁいけなくはないっす。」
「ということなんだけど、出来ますか?」
城を眺めていたルーイは急な問いかけに一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに返事をした。
「筋力増加でしたら詠唱も要りませんし、なんとか出来ると思います。でも今の私じゃ精々2人が限界です。」
「それで十分ですよ。僕とロウガにお願いします。」
「それではそこに2人とも立ってください。」
遊楽とロウガは横並びに城の前に立った。このシュチュエーションと言い、日本で見れば写真撮影でもしそうな様子だ。そんなことを遊楽は考えていたが、裏返せば多少の余裕があるということだ。
ルーイはその間に1匹、妖孤を召喚した。そして、2人に筋力増加の魔法をかけた。その瞬間、2人の体が一瞬淡く光った。見た目ではあまり変わらないが、身体能力は上昇している。そのことを確認した遊楽はロウガに突撃の方法を教えた。
「作戦て言っても、今回乗り込むのは僕だけで、ロウガには僕を上まで投げてもらいます。分かった?」
「別に構わないっすけど、大丈夫っすか?戦力になると思うっすよ?」
「まぁちょっと諸事情がね。とりあえず半分ぐらいまで投げてくれたらいいからさ。」
「ショジジョウ…?まぁ分かったすよ。行くっすよ!」
ロウガは諸事情の意味が分らなかったようで片言になっていたが、次の瞬間特に気にする素振りも見せずに前に手を組み、遊楽を上に送る準備をした。そこに遊楽は片足を乗せ、目で合図を送った。そしてロウガは1度頷き、勢いよく手を上げ遊楽を飛ばした。その力は増加していたのもあったが遊楽の予想を超えるもので、半分どころかゴールまで到達しそうだった。しかし、そうも行かず結局3分の2程で速度は収まり下降が始まった。
遊楽はブーストを発動させた。具体的には両手から炎を噴出させた。それによる遊楽への熱は自分の魔力の為、まったくない。再度上昇していき、遊楽は窓の位置から少し上にあがり、ブーストを取り消し、風属性の魔法で滞空した。その切り替えの時に少し下降し、丁度窓の横に位置取りした。そのままロウガとの手合せで使用したように肘にブーストを使用し、騒音と一緒に窓を突き破った。
「な、なんだ!」
中には1人の女性、その横に2人の男。そして本来の入口と思われるドア付近には4人の男が立っていた。その衣装は黒スーツで統一されており、ボディーガードのようだった。驚きの声を上げたのは男性の1人だ。
「どーも、侵入者でっす!」
「貴様!やれ!」
女性の右に立っていた1人が指示を出し、スーツの男性が全員遊楽に食って掛かった。その体格はずっしりとしていて、肩幅が広い。人数と言い体格と言い今の遊楽には有利性がない。ただ1つ、遊楽には素早さがあった。そして、部屋の狭さを考慮して移動する余裕があった。相手は奇襲により、心に余裕がなかった。遊楽は1人1人敵を薙ぎ倒していった。
「こんな狭い部屋で団体行動しちゃっていいんですかねー?…誰も聞いてないか。というわけでもないよなぁー」
遊楽はそっと逃げようとしていた女性の方を見た。その瞬間女性の体がブルっと震え、恐る恐る遊楽の方を向いた。この世界では珍しい黒髪黒目だ。その髪には紫色のメッシュが入っていた。
「あなた、何者なのよっ!」
「あなたと同じ日本人ですよ。」
この言葉を聞いた瞬間、女性はポカンとしていた。それは、日本という国が分からない物ではなく、自分と同じ人間がいることに対しての驚きが正解だ。その証拠に彼女は自分が日本人だという事を否定しなかった。
「う、嘘吐き!茶髪はまぁ良いとして…。目が青色じゃない!」
「これは生まれつきですー!理由はわかりませんけども!僕の名前は安井遊楽。これで少しは信じてもらえますか?こんな名前はこの世界にはいないでしょう。そしてなにより、この制服はこの世界にはないでしょう。」
「まぁそうだけど…それじゃあ少し信じる。」
この時点では、なぜか立場が逆転していた。そのことにふと気付いた遊楽は焦って話を戻そうとした。
「そんなことよりも!今すぐこの村の首位を今すぐ退いて欲しいんですけど。」
「ちょっと!どこか話が食い違ってるわよ?別に私はこの村の首位に立ってる偉い人でもないし、この世界についても知ってるわけでもないわ。転移してきたのがこの建物の中で、太ったおっさんにそのまま捕まっちゃったのよ。むしろ私は被害者です!」
その話を聞いて遊楽は1度頭の中が真っ白になった。そのまま動きも止まった。
「つまり、さっき逃げようとしたのは僕からじゃなくてその太ったおじさんからってこと?」
「そういうこと。あのおっさん「この女子は奇麗じゃのう。ぐふふ」みたいなこと言ってて気持ち悪かったのよ。それじゃあ逃げてもいいかしら?」
「少しだけ時間いいですか?まず名前を教えてもらっていいですか?」
女性は特に怪しむ様子もなく、素直に答えた。ただ、からかい混じりに。
「新手のナンパか何か?……嘘よ嘘。私は日暮優華。優しい優に、蓮華の華って書いて優華だよ。よろしくね、遊楽君っ。」
遊楽はこの会話に軽いデジャブを感じていた。スシリと少し似た会話だった為だ。
「はい、お願いします。所で優華さんはこの世界に来て捕まる少し前に誰かに会いました?」
「あのおっさん以外にってことでしょ?えーとね、なんか女の人に会ったわね。なんか大人な感じで女の私でもなんかムラムラしたわ。」
「これ以上言ったらキャラが壊れる…!えっとそれじゃあその人の名前を知ってたら教えてもらっていいですか?」
「人というか神と言うか…。自称なのか分からないけど「私は神エーリュ。」って言ってたわ。」
優華はエーリュという神の自己紹介を胸に手を当てて真似をしながら教えていた。しかし、1つ分からないことが遊楽にはあった。
「優華さんはエーリュっていう神様だったんですか?僕はサイトっていう神様だったんですけど。神様は違えど、魔法の能力は貰えました?」
「まぁ貰ったけど、この足枷の性で魔法が使えないんだ。…そうだ遊楽君。ぶっ壊しちゃって頂戴よ」
「いいですよ」
優華の足枷は両足を鎖で繋げるタイプだった。そのため鎖の真ん中を遊楽は片手剣で切断しようとした。しかし、その手は一瞬で止まってしまった。その理由は、優華がミニスカートだったため、もう少し前に行けば中が見えてしまうためだ。しかし、優華はそのことを気にする気配が一切ない。
「…あのー優華さん?そのスカートがですね…」
「さっすが男の子。やっぱ気になるー?気にしなくていいよー」
「こっちの身にもなってくださいよ…」
「分かったよ~。ほい」
優華はスカートの裾を手で押さえた。これで見える心配はなかったが、それでも遊楽は直視できず、結局目を閉じながら鎖を切った。その瞬間、優華の周りの魔力が激しく動き、共鳴した。閉じられていた魔力が周りに解き放たれた証拠だ。
「おぉスッキリ!なんか力が漲るー!って感じ。」
「それはよかったですね…。はぁ。それで、優華さんはどうしますか?」
「どうするって?」
何を言っているのかと言いたそうに優華は遊楽の方向を向いた。
その表情には特に気にせず遊楽は会話を続けた。
「魔法が使えるようになったってことは、ある程度戦うこともできますよね。それを戦闘に使うか、逃走に使うかって言う話です。一緒に戦うって言うなら、お互いの情報が少なすぎるからある程度交換しておきたいんですけど…。」
「よし、行こう。あのおっさんぶっ飛ばしてやるわ!」
優華は拳をグーにしながら勢い良く即答した。その目は、怒りと一緒に魔法を使うことに対する喜びが混じっていた。その証拠に鼻をフンっと一度鳴らし、シャドーボクシングを遊楽のことなどお構いなしに行っていた。その姿を見ていた遊楽は苦笑しながら、終わるのを静かに待っていた。
しばらくして落ち着いた優華は、話を再開した。
「えっと、情報交換だったわよね。改めて私は日暮優華、現在18歳のピチピチ高校生!好きな食べ物はキャラメル、嫌いな食べ物は苦いもの全般!魔法の属性は雷だよ。よろしくね!」
「予想以外の情報も来たけど、気にしたら負けだ…。そうか、高3っていう事は、学校は違くても僕の先輩ですね。先輩呼びの方がいいですか?」
「その呼び方も捨てがたいけど、さん付の方がいいような気もするのよねぇ。とりあえずさんのままでいいわ。それで、遊楽君はないのかな?」
「あぁそうですね。改めて安井遊楽です。属性は火と風です。」
「…終わり?確かにそれも大事だけど、今の雰囲気から言ったらもっとあるでしょうに」
優華は不服な顔で訴えた。
そんな姿に遊楽は溜息を1つ。その後に渋々答えた。
「…17歳の高校2年生です。好きな食べ物は辛い物全般、嫌いな食べ物は酸っぱい物全般です。」
「大雑把だねー。別に気にしないけどね。それじゃあ作戦的なこと考える?」
「優華さんが良ければですけど、僕はこのまま突撃でもいいと思います。これで水属性が使えるっていうならまた話が変わってくるんですけど、どっちも前衛って感じですし、大丈夫じゃないですかね?」
「それじゃあレッツラゴー!」
優華は勢い良く部屋の扉を突き破り、外に出て行った。ルーイの大変さに同乗していた遊楽は、互いに迷子にならぬよう、後ろをついていった。
スシリ「とうとうやってきたよ私達の出番が!」
カウト「まだ私は初登場なんだけど…」
スシリ「気にしなーい、気にしなーい。それより次回は、あの優華ちゃんって子と遊楽君が城主を倒しに行くらしいね!」
カウト「頑張ってほしいね。そのあとは皆で盛り上がれるといいね」
スシリ「でもそうすると村を出ちゃうんだよね。行先はパチナオとかいう所だっけ?」
カウト「有名な王都の1つらしいね。道中が不安だね。そういうところの方が厄介者が多いそうだし。」
スシリ「まぁあの4人ならきっと大丈夫だよ。それじゃあ締めようか。せーの」
スシリ&カウト「「次回もお楽しみにー!」」
狛太郎「スピンオフとか番外編とか書こうかなとか思ってます。本編とは別にお楽しみに~。」