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ゲーマー主人公の悪魔攻略  作者: 狛太郎
6/11

出陣

※本編には関係ありません。

大変長らくお待たせしました!すいません!現実側が少し忙しくって…。

前回、救出に行くと話しましたが、今回で完結出来ませんでした。面目ない。

なので、次こそ今回の救出劇を終わらせます。

ですが、恐らく次話の投稿も遅くなると思います。

理由は2つ。プライベートの問題と、パソコンの問題です。

最近パソコンの調子が悪くてですね、いつ壊れるかわかりません。できればそのまま投稿しますが、壊れてデータが飛ぶ場合は、より時間がかかるかも知れません。御承知ください。

さて、長ったらしく話してしまいましたね。それでは本編です。どうぞ。

アリエスとルーイが帰った数時間前。遊楽、ロウガ、スシリは特訓進行中だった。

カシオ・フォルズが使用していた、矢の出現魔法を練習している遊楽は、スシリから受け取った4本のマジックポーションの内、既に3本使っていた。矢の出現本数は10本まで増えていた。多いことには多いが、あまり順調とは言えないレベルだ。魔法技能を生まれて持っていたわけではないので当然である。まだ他の転移者と会っていないため、比較することは難しいが。

少しずつではあるが、確実に遊楽は手応えをつかんでいた。

ひたすらに魔法を連発させていた遊楽は、とうとう矢の火から地面に火移りしてしまった。

「やばいやばい!とうとうやっちゃった!あぁぁどうしよう!」

焦っている遊楽の声を聞いて、冷は目覚めた。瞬時に状況を把握した冷は、冷却魔法を発動させた。初見の遊楽は驚いていたが、そんなことを冷は気にせず、鎮火させた。

発動時の冷の回りには冷気が漂っていた。鎮火までの時間は僅か0.5秒。アリエスや遊楽のような人間が魔法を使用すると、少なからず1秒はかかる。冷や、ロウガのような動物に由縁のある血液が混ざっていると直感的に魔法を発動させるため、時間があまりかからない。エルフのような妖精や精霊は、魔法に一番特化している種族は発動までにタイムラグはない。思ったときには既に発動している。

鎮火した冷の近くに寄った遊楽は、頭を撫でながら話しかけた。

「冷、ありがとねー。火を消す手段をあんまり考えて無かったから本当に助かったよ。消せてなかったら何を言われるか…」

遊楽が不安に思っているのは、説教されることよりも、スシリによってこの事件をいじられることだ。恐らくスシリの性格上、この事について見つかっていたら、笑い話にされるどころか、長期に渡ってネタにされることだろ。そう言った意味で遊楽は安心していた。

その頃ロウガは走り続けていた。ロウガも遊楽と同じくマジックポーションを3本飲みきっていた。ひたすらにブーストを使用していたので当然だ。ロウガの特訓は遊楽と同じくあまりスムーズに入っていなかった。それもそのはず。ロウガの伸び代は残りが限られている。今回の特訓のお陰でそれもあと少しで限界値に達する。そのためロウガもあまりスムーズにいっていなかったのである。

スシリはすべてのマジックポーションを飲みきっていた。スシリは他の2人と違い、かなりの速度で技能的に成長していた。

スシリが戦闘のために特訓をするのはかなり久しぶりのことだ。そもそも、魔法を使うことが久しぶりなのである。説明した通り、固有魔法は生まれながら持っているものなので、使っていなかったからと言って魔法技能を失うことはない。しかし、魔法の使い具合を忘れてしまうことは多々ある。個人差はあるが、久しぶりに魔法を使うと出にくくなることもある。

しかし、スシリはそれにあてはまらない。

ロウガと違い、固有魔法にまだまだ伸び代があった為、特訓がスムーズに進んでいたのだ。

「やっぱりしばらく使ってないときついねー」

スシリは自分の現状を口に出し確認していた。しかし、彼女の言葉と裏腹に、魔法は申し分ないほどに発動していた。彼女の満足いく結果になっていない為、このような発言をしたのだ。

各自が特訓していた時間はあっという間に過ぎていった。ロウガは誰より先に集合場所にたどり着いていた。自分の疲労度を考えての結果だ。ロウガ自身、今回の特訓でかなりの疲れが溜まっていた。そのため、先に来て休憩をしていようと言う考えだ。

スシリと遊楽、冷ペアは一緒に戻ってきた。そこまで遠くまで離れていたわけではないので当然と言えば当然である。

「それじゃあ全員おつかれさん。時間も時間だから帰ろうか」

こうして3人も帰路についた。

帰りに遊楽はふと思い出した様にスシリに質問した。

「そういえば、どうしてスシリさんは僕が魔法の感知ができないことを知っていたんですか?」

「簡単なことだよ。それはずばり、昨日アリエスちゃんから聞いていたからさ!」

スシリは振り向きそう言い放った。それに対して遊楽もロウガもこれと言った特別な反応はしていなかった。


話を聞いていたのは、昨晩のことだ。遊楽とロウガが眠っていた頃に、アリエス、ルーイ、スシリは上の階で女子(?)トークを始めていた。

「2人とも今夜は寝かせないよ~」

「明日もあるんですから寝てください」

ルーイは既にスシリの発言に呆れていた。疲労も溜まっているので早めにルーイは就寝した。そんなルーイを起さないよう静かに眠ろうとしていたアリエスをスシリは見逃さなかった。

しかし、引き留めたその顔は真面目な顔だった。

「ちょっとアリエスちゃんに質問したいんだけど、遊楽君が転生者って言うのは本当のこと?」

「本当だと思いますよ。一応本人からは聞きましたが、実際のところはよく分かってないです。ですが私は同じ仲間として信じています」

偶然であったがスシリは幾つかの転生者(正確には遊楽は転移者)の事例を知っていた為、そういう面で驚くことはなかった。スシリは遊楽に対しての驚きをアリエスに質問したのではなく、実際それが真実か否かを確かめるために質問したのだ。これを知らなかったからと言って、なにか支障が出るわけではないが。


「まぁそうだよねー。ありがと。明日の特訓内容詰められそうだよ」

「それはよかったです。おやすみなさい」

「おやすみねー」

こうして2人は眠りについた。


「これが、理由だよ」

「なるほど…。大体わかりました」

遊楽は口では「大体」と言っていたが、実際には完全に理解していた。スシリは言動こそふざけているものの、頭脳は間違いなく優秀なものだ。アリエスの話でいかにして遊楽の特訓メニューを組むかしっかり考えていたのがその証拠だ。

遊楽はなぜ知っていたのか納得したようで、顔をそっと前に戻し、歩き始めた。2人が話していた間、ロウガは蚊帳の外だった。

帰りの道では、これ以上の内容の話は出なかった。お互いの特訓の話もそれほどしなかった。

そもそも、他者の魔法の詮索はマナー違反だ。そのためしなかったというのも無くはない。

「そうだ。兄貴―。サガさんがちょっとでいいから寄ってほしいって言ってましたよ。」

「そうか。それじゃあ行きますか。スシリさんはどうします?」

「私も行こうかな。」

こうして3人はスシリの家ではなく、サガの家へと向かった。

サガ宅につくまで、十数分かかるところを、走りながら向かった。素早く終わらせるということもあるが、ちょっとした特訓を兼ねて走っている。

「失礼しまーす」

到着後、遊楽は扉を開け入っていた。

「はいはーい。来たねー。入って入ってー」

中からはセルアではなく、サガ本人の声が返ってきた。

遊楽達は靴を脱ぎ中へと入って行った。

中には正座で座った状態のサガがいた。そこにセルアの姿はなかった。

「私だけでごめんねー。セルアは今上で勉強中だから勘弁ねー」

「全然いいですよ。それより話って?」

「とりあえず座って座って。」

サガは手で座るように促した。それに従うように全員が座った。丁寧に人数分の座布団が用意されていた。冷は遊楽の膝の上に座っていた。

「話っていうのはね、冷ちゃんの話だよ。まずは怪我の状態について話そうかね。と言ってももう全治してるよ。遊楽君も怪我したらぜひここに来てちょうだいね」

「お世話になります」

遊楽はその場で軽く礼をした。サガはそれを笑顔で受け止めた。スシリは後ろで少し不満げな表情で座っていた。ロウガは少し眠そうに話を聞いていた。

「もう1つは、冷ちゃんとの契約についてだよ。」

「契約ですか?」

「そう、スシリさんなら知ってるよね?」

「そりゃあもちろん。」

その瞬間、スシリの表情は雲ひとつない青空のように晴れた。やはり喋ることが好きなようだ。

「冷ちゃんと遊楽君には、契約をしてもらいます。と言っても簡単なものだよ。これをつけてもらえばいいから。」

そういうとサガは冷サイズの腕輪を差し出してきた。そこにはキー語で「冷」と書かれていた。

「これを遊楽君につけてもらうよ。それだけ。いい?」

「了解です。」

遊楽が腕輪を受け取ると、冷は立ち上がり右手を前足を差し出した。そこに遊楽は腕輪をつけると一瞬、冷の体が光った。

「はい、これで終了。契約には色々いいことがあってね。冷ちゃんの魔力上昇だったり、身体能力全般のちょっとした強化だったり。あとは、どこでも呼び出しができるようになったよ。」

「色々とありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」

「うむ、苦しゅうない。なんてね。こちらこそよろしくね。」

こうしてサガとの話が終わった。

サガの家を後にした遊楽達は、スシリの家へと帰って行った。


「ただいまー」

スシリがそう言っても、返事は返ってこなかった。

特に気にすることなく部屋に進んだ先には、既に帰還していたアリエスとルーイが居間に座っていた。しかしルーイは机で寝てしまっていた。その上には1枚の毛布が掛けられていた。

現状を把握したスシリは手振りでロウガに指示を出した。意味は遊楽にもアリエスにもわかった。『ルーを上に運んであげて』と言ったところだろう。

指示されたとおりにロウガはルーイの体を持ち上げ、毛布をかけたまま上の階に運んで行った。

ロウガは、最初おぶって運ぶことを考えたが、女性の胸部が当たることを考えて、横抱きで連れて行った。世に言うお姫様抱っこだ。さすがに血のつながった兄弟といえ、普通の男子なら意識せずにはいられないだろう。ロウガはしっかりと考えて行動していた。

ロウガが階段を上がる前にアリエスが先に階段を上がった。ルーイが寝るための蒲団を敷いておくためだ。さすがに床で寝かせるわけにはいかない。ロウガが敷くにしても、結局1度床に下ろさなければいけない。さらに、敷いた後に再度抱き上げ布団に移動させていると、ルーイを起こしてしまうかもしれない。その可能性を考慮してアリエスもついていった、というわけだ。

その頃、遊楽とスシリは夕飯の支度をしていた。正確にはスシリが移動したのに遊楽がついていったという形だ。

「今日の夜は何にしようかなー?」

「悩んでいるのでしたら、僕が作りましょうか?」

「ほんと?ありがたいねー。さっすが家庭科男子~。頼りになる~」

「煽ててもなにも変わりませんよ。」

遊楽は完全にスシリの言葉に対しての返答を完全に取得したようで、既に調味料の場所や道具の場所を確認していた。返答しながら行動していたということだが、それに対してスシリはムスッとした表情だった。

今回遊楽が作ろうとしているのは、酢豚だ。

「材料とかは適当に使っていいからね。そいじゃよろしく」

そう言ってスシリは居間に移動していった。

台所には、家庭三種の神器の一つ、冷蔵庫が設備されていた。サイトの話からすると、この世界は少なくとも5000年以上は存在している。そう考えると冷蔵庫があっても不思議はない。しかし、ほかの電化製品は見当たらないことから、まだ科学的に発展しているわけではないことが遊楽にもわかった。電気の代わりに魔法があるといったところか、と遊楽は考えていた。

遊楽が調理中、アリエスとロウガが階段から降りてきた。足音をたてないようにゆっくりと降りてきた。

「2人ともありがとねー。夕飯ができる頃には起きてくるといいけどね~」

スシリは口ではそう言っているが、実際はかなり心配していた。明日の行動に関してではなく、自分の子供として。

ロウガも自分の姉としてすこしばかり心配していた。

決して体調不良というわけではないが、この街を出たことによる疲労が溜まったいたのではないかという心配だ。

アリエスは心配というよりは、申し訳ないという気持ちが強かった。しかし、心配の念がないというわけではもちろんない。50:50といったところだ。

そのころ遊楽は着々と料理を進めていた。現在、肉を揚げるところまで進んでいた。揚げている間にはそのほかの準備をしていた。本人にとっては久しぶりの料理だが、予想以上の手ごたえを感じていた。

料理を開始して約30分、遊楽は仕上げに取り掛かっていた。何度か、米を炊きにスシリが来ていたが、特に話すこともなく、お互い特に気にしている様子は無かった。

冷はあまり食欲がないようで、心配はしたものの、体長はよく鳴き声も元気だったため、今回遊楽は冷の分の料理を作らなかった。

同じ頃にルーイが上から降りてきた。彼女の顔色、血色は良くなり、足取りもしっかりしているようだ。スシリ、ロウガ、アリエスは同時に安堵の溜息をついた。それを見たルーイは不思議そうな顔と、なぜ自分が降りてきたタイミングで溜息をついた理由を見つけ、ありがたいという顔の中間の表情を浮かべた。

「遊楽さんは?」

「私の代わりに料理してるよ。楽しみにしておくのが吉なんじゃないかな?」

「そうしておきます」

ルーイの対応はいつものものだった。特別疲れているといった雰囲気は受け取れない。

約10分後、遊楽は開始時につけていなかったエプロンを着用して、完成した料理を持ってきた。一緒に冷の分の水が入った器も持っていった。エプロンは、スシリが米を炊きに来た時に渡したものだ。

大きめの皿には、大量の酢豚が乗っていた。しかし、この世界では酢豚という料理がないようで、遊楽以外の最初からこの世界の住人である4人は「これはなんだ?」という顔をしていた。遊楽は、少し得意気な顔をしていた。

「兄貴、この料理は?」

「これは酢豚だ!僕の故郷の料理って言ったら若干嘘になる気がする。けど、おいしいことには間違いないぞー。」

スシリはその説明を聞くと、先程炊いていた米を取りに行っていた。後ろにルーイもついていこうとしていたが、ロウガが代わりに行くっと言ってルーイを座らせた。アリエスは、机の上を片づけていて。と言っても特に片付けるものは無く、ルーイが布団に行く前に使っていたもう一枚の毛布ぐらいだ。冷は少し疲れたように眠っていた。

全員が席に着き準備が整ったところで、挨拶をかけた。

「そいじゃ、いただきますー」

「「「いただきます」」」

「召し上がれー」

こうして、先日のような団欒(だんらん)とした食事が始まった。それと同時に、冷も起き上がった。

相変わらずロウガの食事のスピードは速い。さらに、酢豚の味が好みだったようで、よりスピードが上がっている。

アリエス、ルーイ、スシリはいかにも女性らしいといった食事の取り方だ。

遊楽は、ロウガよりもスピードは遅いが、それなりの量を食べていた。

「そういえば、ルーとアリエスちゃんは今日何してたの?」

スシリは食事中の会話として話しかけた。

「私はこの街の案内をしてもらいました。」

「私が案内してました。」

「結局レイルさんの店に行っていたんですけどね。私が頼んだんです。」

すると遊楽は質問を投げかけた。

「レイルさんって?」

遊楽からすれば当然である。ロウガはともかく、スシリは親なのでそれなりにルーイの友人情報は知っているようだ。

「この街に来た時に話した、転移魔法の使える友人です。彼女の店にはたくさんの歴史書があって、アリエスさんの興味を惹いたみたいです」

説明をしたのはルーイだ。このメンバーの中で一番レイルのことについて知っているのはもちろんルーイなので、ルーイが説明しても不思議なことはない。

当の本人であるアリエスは顔を赤らめていた。そんなアリエスを見ていた遊楽は何も言わなかった。自分も「歴史書」の部分を「ゲーム」に入れ替わっていたら同じような反応をしていたと思ったからだ。

「レイルさんのお店にはいろんな本があって、いくらでも居られそうだったんですよ」

「それはよかったねー。アリエスちゃんにもそんな趣味があったとはねー。実にいいことだと思うよー、私は。」

「ありがとうございます?」

アリエスは遊楽とは違い、まだスシリに対しての耐性を持っておらず、返答にまだ戸惑いが手に取るようにわかっていた。それを見ていた遊楽は、同じ状況下にあった自分を思い浮かべ、同情していた。それに気づいたアリエスは、より一層顔を赤くし、手で顔を隠していた。

食事中だったというのもあり、早く立ち直ったアリエスであったが、仮にも通常通りだったらより長い時間顔を隠していただろう。

先日よりも団欒とした食事には遊楽だけでなく、全員が頬を緩めていた。そんな食事も終わりが来た。

始めと同様、終わりもスシリが挨拶で絞めた。

「それでは全員手を合わせてー、御馳走様でしたー」

「「「御馳走様でした」」」

「はい、御粗末さまでした」

食器を片づけ始めたのはルーイだった。ロウガはそれを制止しようとしていたが、スシリがそれを静止した。

スシリもロウガと同様に心配はしていたが、何もかもを心配しているからと言って代わりにやるというのは違うとスシリは思っていた。

その気持ちがロウガにも伝わったようで、ロウガは静止しようとした手を止めた。その代りに、手伝う方向性に切り替えていた。

当の本人であるルーイは何か気に掛ける素振りは見せなかった。というより、何も気づいていなかったため、何も反応を示さなかった。

ルーイの体調は万全。行動にも特にぎこちない様な動きも見せなかった。そんなルーイを見兼ねて、ロウガを止めたのである。

遊楽は、誰よりも積極的に行動していた。料理を作った本人としての何かが遊楽にはあったのだろう。

スシリは居間でお茶を飲んでいた。特に誰かがそれを咎めることはしなかった。

アリエスはと言うと、上の階に行き、既に布団を敷いていた。早いと思われるかもしれないが、アリエスなりの明日のための下準備といった所だ。

各自のすべきことが終わったところで、全員が居間に集合した。すると先日同様、ルーイが会議を始めた。

「それでは今度こそ、明日の作戦会議を始めたいと思います。今回の依頼は、ギルドを通してないため、援助はないと思ってください。」

依頼にも2つ種類があり、ギルドを通して募集し、ギルドを通して報酬を支払う方法が1つ。稀に、ギルドへの援助要請が受理されることもある。その場合は、ギルド(もしくは軍)からの援助を受けることができる。しかし、報酬の一部も持っていかれてしまうため、援助を求める人は、緊急時ぐらいだ。

もう1つの依頼方法は、依頼人から直接依頼を受けるものだ。直接的な依頼は、ギルドでの手続きがいらないため、素早く依頼を開始することができる。しかし、もちろんデメリット(短所)も存在している。直接的な依頼では、後払いが可能なため、本当に報酬が支払われるかの信用がない。その点、ギルドは前払いでギルドが受け取っているため、報酬の受け渡しは確かなものだ。

もう1つのデメリットは、援助要請ができないことだ。しかし、それが絶対というわけではない。極稀に、慈善(じぜん)者、もしくは慈善団体が協力してもらえることがある。その場合の報酬の支払いは不要なため、ありがたい話ではある。しかし賭けの要素が強いため、あまり頼りにする依頼人(もしくは請負人)はいない。

「装備は各自のもので。回復薬などは私が請け負いますので。それ以外に必要だと思ったものは、私に言うか、それぞれで買ってください。と言っても、もう時間はありませんが。出発に関しては水の刻と風の刻の切り替わる時には行きたいです。あっ、もちろん陽側のですよ。なるべく朝のうちに言って、相手の隙を突いていきたいですね。報酬の支払いについては、依頼を達成して、こちらに帰ってきたら渡したいと思います。それでいいですか?」

ルーイは全員に回答を求めていたが、視線の先には遊楽とアリエスがいた。

そんな中で、アリエスは1つルーイに問いかけた。

「質問なんですけど、その説明だとルーイさんも行くみたいですけど?」

「当り前じゃないですか。私だけでなくロウガとお母さんも行きますよ」

これに対してアリエスは驚いていたが、遊楽はこれといった反応は示さなかった。ロウガとスシリ、2人と合同で特訓をしていたのだから、ある程度の予想はついていた。

そんな遊楽の肩を掴んで次は遊楽にアリエスは尋ねた。

「本当にいいのかしら。依頼を受けて、報酬を受け取る立場としては協力してもらえるのはありがたいけど、それじゃあ損ばかりじゃない?」

遊楽は肩を掴まれた手を(ほど)きながら、受け答えした。

「ルーイさんたちがそれでいいならいいんじゃないの?それを僕たちが止める理由は何1つないでしょ?」

「それはそうだけど…」

遊楽に丸め込まれたアリエスはその場で黙りこんでしまった。

本来ならルーイもそんなアリエスを慰めるか、立ち直りを待っていたが、今はそんなこともあまりできる状況ではないため、話を続行した。

「何かほかに質問ありますか?」

しばらく、全員が考えた後に、遊楽が挙手した。

「作戦的なものは何かありますか?」

「特にはありません。何かあった場合は、その場での各自の判断に任せます。重要なことがあれば話していただければ幸いです。」

「分りました」

回答を受けとめた遊楽は手を下げた。

その頃丁度アリエスも立ち直り、話に参戦していた。

再度ルーイは全員に質問がないか尋ねたが、今度こそ全員が黙り込み、質問はないと判断したルーイが、話を閉じた。

「それでは、これで終わりたいと思います。今日の残りの生活に私からはいうことはないですが、明日に影響の出ないようにお願いしますね。」

会議が終わったところで、全員がそれぞれに行動に移動しようとしたとき、スシリが全員に呼びかけた。

「よーし、全員風呂入るぞー!」

「「?」」

遊楽とアリエスは、お互いに謎めいた表情になっていた。ロウガとルーイは、2人同時に頭を抱えていた。さすが兄弟といったところだ。

そんな反応には目もくれず、勝手に話を進めていった。

「風呂だよ風ー呂。みんな入るでしょ?」

「それは、入りますけど…ねぇ?」

遊楽は視線でアリエスに応援を求めた。

「男女ですよ?」

「あぁー。そこら辺はタオルまけば大丈夫でしょう。仲を深めるってことでさぁー」

そんなスシリの提案に腹を括ったロウガは、遊楽の肩を軽く2回叩いた。

「あのですね、兄貴…。ここまで来たらもう止まらないっす…。」

ルーイはアリエスの肩を掴み、アリエスに話しかけた。

そのルーイは今にも呆れ倒れそうに片手で頭を抱えている。

「ごめんなさいアリエスさん。ここまで来てしまったら覚悟するしかないみたいです…」

「…もう覚悟決めました!もう諦めて入ります。それではお先に!」

するとアリエスは率先して風呂場へと向かった。

遊楽の頭には、男女の関係以前に、風呂場の大きさに関して問題視していた。

「ねぇロウガ。ここのお風呂ってそんなに広いの?」

「まぁ、それなりにあるっすね。少しぐらいなら泳げそうなくらいに」

「それはかなりでかいな…。あぁー!もう入る、入るぞ。悩んでても仕方ない。」

混浴で入るとなると、普通の男子なら興奮するはずだ。しかし、遊楽の場合はこういった成り行きで起こるラッキーイベントはあまり好みではなく、割としっかりとした手順を踏んでからのイベントを好んでいる。そのため、恥ずかしさはあるものの、うれしさはあまりない。ただし、ないと言えば嘘になる。

そんな2人の後ろにルーイとロウガもついていき、一番後ろにスシリがいた。スシリは満面の笑みで歩いてきた。そんなスシリを見て、ルーイとロウガは再度頭を抱え、ルーイのみ溜息をついた。

風呂の前の更衣室は分かれていた。ここまで来れば、銭湯として営業もできそうな程だ。

アリエスは何の躊躇(ためら)いもなく更衣室に入って行ったが、遊楽は入口を目の前にして、その場で留まった。呼吸を整え、改めて気合いを入れてから入るために。

「フンッ!」

遊楽は自分の頬を両手で叩いた。その音はロウガとルーイ、スシリには聞こえていなかった。

覚悟を決めなおした遊楽は更衣室へと入って行った。

遊楽、アリエスが更衣室に入った数秒後、残りの3人が更衣室の前に着いた。

「本当に入るんですか?」

「あったりまえよー。それに、もう今更止めるーなんて言ったら遊楽君とアリエスちゃんは赤面で帰ってくるだろうねー」

スシリはにやにやしながらそう答えた。

「結局全員赤面で帰ってくることになる思いますけどね…」

ルーイは無意識に呟いていたが、その声が誰かに聞こえることはなかった。

ロウガは先に更衣室へ入って行ったが、ルーイはその場に留まっていた。そんなルーイを押し込むようにスシリとルーイの2人も更衣室に入って行った。

更衣室の中には、部屋は違えど遊楽もアリエスも着替え終わった状態で座っていた。

座っていた遊楽にロウガは話しかけた。

「あの、兄貴。大丈夫っすか?」

「気合入れたものの、やっぱいざ考えるともう後戻りできない様な所に来ちゃってる気がするんだよな…」

「まぁ、死ぬ時も今回も一緒っすよ!」

ロウガなりの助け船だったが、遊楽に到着することはなかった。

同じく座っていたアリエスは、ルーイとスシリが入ってくる少し前に立ちあがり、風呂場へと出て行った。

ルーイとスシリは入った瞬間は少し不思議そうな顔になっていたが、脱いである服を見て、合点がいったようで、特に何事もなく着替え始めた。

アリエス、ルーイ、スシリの全員が鎖骨辺りまで体をタオルで巻いていた。

遊楽とロウガは腰辺りまで体をタオルで巻いていた。

着替え終わったルーイとスシリが出てきた数秒後に、3回目の気合いの入れなおしを行った遊楽と、ロウガが出てきた。

その瞬間、体は寒気に覆われた。

理由はただ1つ。室内風呂ではなく、露天風呂だったからだ。風呂というよりもはや温泉だ。それはもう、やろうと思えばここで商売だって出来そうな程に立派なものだった。

全員がバラバラに体を洗ったあと、中央にある風呂に入って行った。体を洗っている際は、お互いがお互いに異性を見ないように注意していた。同姓は別の話だ。だからと言ってじろじろ見ていたわけではない。

入浴する際も、基本的にはあまり見ないようにはしていた。が、結局入った暁には全員が見ることになるため、あまり意識はしていなかった。

遊楽はロウガを手で招き自分の前に座らせて耳を触っていた。触りたいだけでロウガを呼んだわけではないのは一目瞭然だろう。

仲間と言っても、まだ日が浅すぎる。さらに、地球での女子生徒との関わりが少なかった遊楽には、タオルを巻いた半裸状態であっても、刺激が強すぎた。ルーイに関しては、いま居る女性陣の中で一番スタイルが良い。

様々なことが未体験の遊楽はロウガを壁にせざるを得なかった。

ロウガはその意図が読めなかったようで、移動した後に気づいてしまった。そのため、耳どころか尻尾まで力が入っていた。そんなロウガをみた遊楽は自分と同じ状況で、ある意味安心していた。

そんな2人を見たスシリはからかうような顔で2人の元により近づいて行った。

スシリは一番体格が小さい。ロウガからしたら母親という面もある。そのため、ロウガの体からは少し力が抜けたようで、遊楽が感じていた耳のさわり心地が変わっていた。

「そういえば遊楽君。興奮していることは置いといて、詠唱破棄はできるようになったかい?」

「いやっ!別に興奮なんてしてないですから!」

「まぁまぁ、男の子なんだからそういう反応するよねー。んで、どうなの?」

「何度か試してみましたけど結局駄目でした。本数を増やすのが精一杯でした。それでもせいぜい25本ぐらいでした。」

「そんだけあれば十分じゃないっすか?」

後ろ向きな遊楽の発言に先ほど届かなかった助け船を再度ロウガが出した。今回の助け船は届いたようで、それに続いてアリエスもフォローをしていた。

「あのカシオさんが大体50本だったから、もう少しで追いつけるんじゃない?」

「そうだよなー。前向きに考えるか。」

「そうそう。その調子で今のこの状況を前向きに考えるんだよ。」

その発言で遊楽のみならず、後ろで静かに座っていたルーイまでも顔が赤くなっていた。そのまま、顔の半分を湯に浸けていた。

ロウガの耳も再度力が入っていた。

そして、遊楽は顔を赤くしながらより一層ロウガの耳を触っていた。

アリエスは顔の全体で留まらず、耳の端まで真っ赤になっていた。

平常運転なのはスシリだけだった。そのスシリは全員の表情を見て「あっはっはー!」と大きな声で笑っていた。しかし誰もそれに対しての突っ込みを入れなかった。入れる余裕など無かった。

全員が緊張していた為、これ以上の会話はなかった。スシリは不満そうだったが、スシリを除く全員は、会話ができるような状態ではなかった。

風呂に入ってから約30分後、順々に風呂を出て行った。順としては、スシリ、ルーイ、アリエス、ロウガ、遊楽だ。

スシリはつまらなくなったのか、一番先に風呂を出て行った。遊楽は、風呂事態を出たのは3番目だが、頭を冷やすといってしばらく端で座っていたため、一番最後になった。

湯上りの時には、ルーイの予想通り全員が赤面だった。もちろんスシリを除いた4人だが。

しかし、遊楽の顔の赤色は少し引いていた。逆にルーイはかなり赤かった。こういった話に一番慣れていなかったようだ。

更衣室の中では、遊楽がふと思った疑問をロウガに質問していた。

「…なぁ、ロウガ…」

「…はい、なんっすか?」

「スシリさんっていつもあんな風なの…?」

「大体あんな感じっすね。もう慣れたつもりだったんすけど、慣れていた域を超えてきたというかなんというか…」

「「はぁ…」」

2人は着替えながらそんな話をしていたが、溜息のタイミングは一緒だった。

その頃、スシリ、アリエス、ルーイはすでに着替え終わり、既に居間に戻っていた。そこには風呂に入らず眠っていた冷もいた。今だに寝ていたため、起こさないよう、静かに座った。

ルーイの顔はまだ少し赤かった。今までにこういった話の経験がなかったらしい。

遊楽とロウガが戻ってきたころには、寝ている冷につられて眠くなったアリエスがいた。ルーイとスシリはまだ元気そうだ。

「明日もありますし、寝ましょうか」

アリエスの眠気を悟ったルーイはそう提案した。既に話半分だったアリエスは、こくこくと頭を動かし頷いた。遊楽もロウガもスシリも特に何も言わなかった。その話を聞いていた冷は目を覚まし、立っていた遊楽の近くに寄っていた。

寝る場所は先日と変わらなかった。違いと言えば、冷が増えたことだ。冷が寝る場所はもちろん遊楽と一緒だった。

女性陣は上の階へと移動しようとしたが、その時遊楽はスシリを呼び止めた。ルーイとアリエスは先に行き布団を引いておくと言って階段を上って行った。

「何だい遊楽君。ルーかアリエスちゃんの体に興奮したから探って欲しいって?」

「ちょっ、誰もそんなこと言ってません!風呂関係ではありますけど。さっきの風呂って、明らかにこの家に入ってませんよね?家の外から見た感じでも入りきっている感じがしないんですけど。」

遊楽が話している間に、ロウガと冷は布団の準備をしていた。主にロウガが布団を敷き、冷は枕のような小さな物を口で運んでいた。

「あれはねぇ、レイルちゃんに特注で頼んだんだよ。あの風呂を作ったところに飛ぶように魔方陣を組んでもらったんだー。お金無くなったらこれで商売でもしようかなと考えられるぐらいにすごくいいものを組んでもらったからねー。ほぼほぼ違和感はなかったと思うよー。満足かい?」

「はい。もう満足です。寝る前でしたのにありがとうございます。それではお休みなさい。」

「はいはい、お休みねー」

2人が話し終えた頃にはロウガ、冷ペアも、アリエス、ルーイペアも準備が終わっていた。

スシリが階段を上った頃にはアリエスとルーイは既に寝ていた。明かりは消えたいてため、2人を踏まないようにスシリは自分の布団まで移動し、そのまま就寝した。

ロウガと冷は終わるまで待っていた。

「それじゃあ寝ようか。」

「はいっす。お休みなさいっす。」

「はい、お休み」

「ワンっ!」

ロウガが明かりを消し、遊楽達も眠りについた。冷は遊楽の布団で寝ていた。その冷を遊楽は抱きしめながら寝ていた。


翌朝、遊楽は階段からそっと降りてくる人の気配を感じ、目を覚ました。降りてきたのはスシリだった。

スシリは、先日のように腹に飛び込もうとしたため、遊楽はそれを冷を抱えた状態で横に転がり、ひらりとかわした。

「今日は避けるのね。だけど飛びこませろー!」

そういうと、スシリは横に転がって行った遊楽に再度飛び込んだ。遊楽は、一緒に転がって行った布団に引っ掛かり、2回目を避けることができなかった。冷は遊楽の胸の辺りにいたお陰で被害に巻き込まれることはなかった。

「ゴッホ、ゲホッ…。…結局今日も飛び込みですか…。起こすならせめて飛び込みはやめてください。」

そのちょっとした騒動で、ロウガも目が覚めたようで、掛け布団をはいで起き上った。

「…おはようっすー。何事ですかー?ふぁー」

ロウガは寝起きがあまり良くないようで、しばらくの間ずっと眠そうにあくびをしていた。

スシリはそんなことお構いなしに成功したことに対して嬉しそうに笑っていた。遊楽はロウガとは別の意味で目が開いていなかった。眠いというのも少なからずあったが、痛みで半目だったのが殆どだ。

遊楽の咳き込みで起きたのか、ルーイとアリエスも階段から降りてきた。

「朝から遊楽さんに迷惑かけてるんですか?」

「迷惑なんて失礼な。起こそうとしただけだよ~。ねっ。」

スシリは遊楽に目を向けたが、その視線を遊楽はそっと回避した。

早朝からルーイは溜息をついて頭を抱えていた。

「準備が終わり次第、もう行こう!殴りこみは素早く行ってちゃっちゃと終わらす。いいね!」

「最初からそのつもりですから…。忘れ物しないでくださいね。」

「はいはーい。」

各自は、準備に取り掛かった。

今回遊楽は鞄を置いていくことにした。手で持っていくことしかできないタイプの物だったので、戦闘時には邪魔になる。上着も脱いで行くことにしていた。今の季節、ワイシャツ一枚でも平気とは正直に言える状態ではないが、遊楽はこちらの世界に来る前に来ていたインナーウェアを着ていたため、ある程度の寒さは紛れていた。防御力的な面では、遊楽の中では諦めていたため、造形魔法に専念することに決めていた。武器は、変わらずダブルキルサーが使われている片手剣だ。ズボンのポケットには片方にはマジックポーション、もう片方には薬草などを使ったライフポーションを入れていた。指には宝玉を加工した指輪をはめていた。腰には少し大きめの小袋をぶら下げていた。それについて誰かが問う事はなかった。

アリエスは、レイルに魔方陣を掘ってもらった太刀を装備し、今まで使っていた斜めがけの鞄を用意していた。中には遊楽と同様にマジックポーションとライフポーションを入れていた。ネックレスに加工された宝玉をルーイにつけてもらい、アリエスの準備は終わった。

ルーイは、背中に弓を、腰辺りに斜めにした矢筒を装備した。両足の太ももには、各ポーションを入れたホルスターを装備していた。ポーションが入っている容器は、試験管の様に長細いものだったため、それなりの本数を収納していた。服は袴とワンピースを複合したようなもので、袴には切り込みが一直線に入っていた。そこからポーションを取り出そうとしている。しかし、ルーイの性格上、少し恥ずかしがっている一面があった。ルーイは攻撃魔法をあまり得意とはしていないため、召喚魔法による攻撃がメインになるだろう。

ロウガは短剣を2本、腰の左右に装備した。そして、耳に術式の掘られたイヤーカフのような耳に穴を開けずに済むピアスをつけていた。効果は、移動速度上昇だけだが、今のロウガのスピードにさらに上乗せすると考えると、かなりのものになること間違いなしだ。手には指先の空いているグローブをつけていた。グローブには何も術式は掘られていかった。

スシリは、腰に5つほどの煙玉をつけていたが、それ以外に目立った装備はしていなかった。武器を買う金がないわけではない。自分に合うサイズのものが少なかっただけだ。そのため魔法、もしくは造形魔法による攻撃になる。スシリの持つ属性はロウガと同じ雷。仮に相手が電撃に耐性があるとなると、厳し戦いになると予想された。

全員が準備を終えたところで、スシリは全員を招集した。

「それじゃあ、気合い入れと行こうか。といっても言ってもらうのは遊楽君です。どうぞー。」

「はい?そんな急に言われましても…。うーん、それでは。とりあえず、生きて帰りましょう。以上!」

「以外にくさいこと言うんだね。」

遊楽は先日のルーイ程ではないが、顔が赤くなっていた。

(まさかこんなセリフを言う日が来るとは…。ゲームの主人公はどうなってるんだ…。)

そんな遊楽を置いて行くように全員は外へと出て行った。冷は遊楽の頭の上に絶妙なバランスで乗っかっていた。

そのあとをついて行くように遊楽も顔を赤くしながらも付いて行った。しかし、通常の顔色になるまでの時間はそこまで掛からなかった。移動したのにも相変わらず冷は遊楽の頭上に乗っていた。遊楽が特に気にすることはなかった。

移動した先は、遊楽達がビジョンに入ってきたときと同じ玄関口だ。

辿り着いてすぐにルーイは馬を2頭、ロウガは4人席付きの客車を借りていた。待っている間スシリとアリエスはあくびをしていた。そんな2人を見ていた遊楽は早くも幸先が不安になっていた。

無事に馬を借りれたルーイはまずロウガの元へ向かった。そして馬と客車を括り付け、遊楽達が待っている元へと向かった行った。

「それじゃあ皆さん行きましょうか。特に大きい荷物はないですし、そのまま乗り込んでください。御者は私でいいですよね。」

「異議なーし。安全に頼むよ、ルー」

スシリはそう言い、中へと入って行った。ルーイは背負っていた弓を客車の上に置き、御者の席へと向かった。遊楽、アリエス、ロウガは特に上へ置くものはないため、スシリと同様そのまま客車の中へと入って行った。

「それじゃあ今日もお願いします。いつか僕もその席にいけるよう頑張りますから…」

「それじゃあ待っておきます。出発しますよ」

そうして遊楽一行を乗せた馬車は出発し始めた。

ビジョンを出る時に、遊楽は少し違和感を感じた。驚くままにあたりを見渡すと、遊楽と同じように周りを見ているアリエスがいたため、人間だけが感じる違和感だと遊楽は判断した。しばらくした後にアリエスも同じように判断した。

道中(車中)で各自それぞれが別々のことをしていた。遊楽は冷の頬を摘まんでいた。その頬はよく伸び縮みしている。アリエスはうつらうつらとしていて今にも寝そうな状態だ。スシリは手の平に小さなナイフを造形しては消し、造形しては消しを繰り返していた。スシリはある程度慣れているようで、造形する時の魔力を再度自分に取り入れることで、消費魔力を±(プラスマイナス)0にしている。魔力の流れを読めるようになった今なら遊楽にも分かる。ロウガは落ち着かない様子でずっとそわそわしていた。

そんなロウガを見兼ねて遊楽は声をかけた。

「ロウガ。」

「はっはいー!」

急な呼びかけに戸惑っていたロウガは、声が裏返りそうになりながら返事をした。

「いや、まぁ、そわそわしてる理由は分るよ。だから落ち着けーって言うつもりはないけど、ベストを…じゃなかった、自分の最善を尽くそうな」

「はいっす!精一杯やらせてもらうっす!」

少しは落ち着いたロウガを見て、遊楽は苦笑半分、安心した笑顔も見せていた

しばらく造形魔法の練習を繰り返していたスシリは、1度中断し、どこからともなく現れた人数分のおにぎりを持っていた。海苔付きのもので遊楽は驚いた反面、この世界にも地球にある食物が多数存在していることに安心感があった。

スシリは特に何も言わず全員の手に押し付けてきた。冷の分も用意されており、遊楽は2つ受け取った。

「スシリさんも転移魔法使えるんですか?」

「ほんのちょびっとだけどねー。まぁ、今回の場合は家にいた時に魔方陣組んどいただけなんだけどね。」

改めて遊楽は魔法の可能性を実感していた。

そんなことには目もくれなかったスシリは御者席に座っているルーイの隣に移動し、全員と同じようにおにぎりを手渡した。ルーイはそれを片手で受け取り

、口に運んだ。それをきっかけに全員が食べ始めた。大きさはかなりある。正直遊楽は胃の中に入りきるか心配だった。朝はあまり調子が出ないからだ。それに比べてロウガは朝からよく食べていた。何時でもそれなりの量を食べるらしい。

いち早く食べ終わったルーイは、あくびを抑えながら再度運転を開始した。スシリは食べ終えても戻らず、ルーイの隣に居座った。ルーイは何も言わなかった。

移動時間は約30分。その間の各自のやることはあまり変わらなかった。強いて言えば、ゴールへと近づくごとに緊張が高まっていた。

「皆さん、着きましたよ。」

ルーイが告げると、スシリは誰よりも早く下りて行った。その次は誰がどう見てもただの一軒家にしか見えない場所へ一目散に駆けて行った。

すぐにその後を追っていた遊楽は、そのままのことを口にした。

「これは誰がどう見ても一軒家としか言いようがないな、うん。なんか疑うようで申し訳ないんですけど、本当にここですか?」

「合ってるよ。試しに中に入ってみれば分るよ。」

遊楽は言われるがままに中へとはいって行った。しかし、中には壁や窓しかない。内装の色は白で統一されている。家具などは何一つとして置かれていない。仕切りの壁もなく、台所、小部屋などは1つも存在していない。窓にカーテンがかかっていたが、外から中を見られないようについているとこの場のだれもが思った。

遊楽は一通り見終わり、外に出て行った。

「確かに中には何もないですし、怪しさしかないですけど、特に入口らしいのは何一つなかったですよ?」

「そりゃあそうだよ。人目に付く場所に入口を作ってどうするのさぁ。」

「これは、人の目を欺くためのものですよ。」

スシリ、ルーイのダブル説得で遊楽はなるほどと手をポンっとならし納得していた。後ろではロウガとアリエスも納得したような顔をしていた。

「よし、ロウガー、ぶっ飛ばしちゃっていいよ~。」

「ぶっ飛ばすって何を。」

「この一軒家。魔力使いすぎないでね。それじゃあ私たちは下がろうか」

そうしてロウガ以外の4人が後ろへと下がっていった。自主的にではなく、スシリに押される形でだが。

「それじゃあやるぞー。」

ロウガは、その場で勢いよく手を合わせた。その瞬間、ロウガの周りに4つ黄色の魔法陣が浮かんだ。

『我が身に宿りし精霊よ。我が呼びかけに応え、崩壊を(もたら)せ。電気砲(エレキキャノン)!』

詠唱が終わった瞬間、爆音と共に4つの魔法陣からレーザーに稲妻が纏わりついたようなものが(ほとばし)った。それは、カモフラージュの一軒家を跡形もなく吹き飛ばした。

後ろで待機していた遊楽達にも、魔法の余波が届き、凄まじい威力を伝えてきた。跳ね返りの風も凄まじいもので、相変わらず頭の上に座っている冷は吹き飛ばされそうになり、必死にしがみ付いていた。そんな冷に気づいた遊楽は互いの頭を押さえるように飛ばされないようにしていた。

「おぉー。凄いなこりゃあ。」

「ふぅ、一丁上がりっす!」

ロウガは満足げな顔で残りの4人に振り返った。今だにロウガの周りには電気が少し走っていた。

壊した家の地面から、取って付きの鉄の扉が出てきた。遊楽はロウガの周りの電気が落ち着いたことを確認した後、思うがままに扉に近づき、全員に「開ける」と合図した。

全員が頷いた所で、武器に手をかけながら扉を上に上げた。ルーイは急いで弓を取りに行き、小走りで戻ってきた。

扉の先には階段になっていた。人が横並びで4人入る程度の大きさはあった。しかし今回は前衛3人、後衛2人と一匹で入ることにした。

前衛の三人は遊楽、ルーイ、ロウガの3人。後衛は、残りのアリエスとスシリの2人と冷の一匹だ。

階段の段数はかなりある。照明は見た限り見当たらないため、遊楽が指に火を(おこ)し歩いて行った。あまり魔力を使わない最小限に抑えられるように少し小さめの明りだったが、歩く分には十分な明るさは確保していた。

道中、不意打ちになるべく対処できるよう、全員武器を装備していた。

遊楽は明かりを片手に、もう片方に片手剣を。

ロウガは短剣を片手に、もう片方の手に魔力を流し、電気を出していた。

ルーイは妖狐を2匹召喚し、両肩に乗せていた。いくら横に5人分あるとはいえ、この場で弓を引いた状態で待っていると身動きがとりずらくなる。周りにもあまりいい状態とは言えないため、魔法の準備をしていた。

アリエスも太刀を装備するには少し狭い。そのため造形で短剣を作り、逆手で装備していた。造形魔法は魔力を固めるもの。攻撃魔法が少ない水属性でも出来ない訳ではない。

スシリは造形で作った剣を、魔力の鎖で繋いでいた。例えるなら鎖鎌のような状態だ。あまり大きく振り回すことはできないが、中距離攻撃ならできる。また、魔力造形の鎖なら、自由自在に長さを変えられるため、引き戻すだけなら素早く行える。

冷は、いつでも冷却が使えるよう、全身に魔力を通わせていた。

しかし、不測の事故は何1つ起きず階段を下り終えた。何もないに越したことはないと全員が思っていたため、結果的にはよかったのかもしれない。

また、階段を降り終えたと同時に、一本道の廊下にも照明が点いた。明かりを確認した遊楽は手のひらを丸めて火を消した。これといった理由は何もない行動だった。

(こんな廊下は、罠がありますよって言ってるようなもんじゃないか。だけど、言っといた方がいいよな。)

「恐らく罠があると思いますか―」

「いざ出陣」

遊楽が言おうとした時にはもう遅かった。

スシリが一歩前進したと同時に、カチッという音が響き渡った。すると階段の段差が引っ込み、完全な坂に早変わりした。

「だぁぁぁ!今罠があると思うからって言おうと思ったのに、早すぎるんですよ!」

遊楽はスシリが女性という事を忘れ、自分より身長の低いスシリの肩をつかみぐらぐらと揺すった。

「だぁってぇはぁやぁくぅいぃきぃたぁいじゃぁん。」

遊楽が揺すっていたため、スシリの返事は揺れたものになっていた。それに対してのルーイの反応は相変わらずの溜息だ。

「こうなったらもうどうなったっていい。とにかく全員走れー!」

「えぇなんだってー」

「いいから!」

今回は遊楽がスシリの背中を押す形で走り始めた。その後に続いて残りの3人も走り始めた。しかし、またその頃には遅かった。後ろからはゴロゴロと何かが転がってくる音がしていた。

「あぁ…。終わったな」

遊楽は既にこれから何が起こるかわかっていた。

「兄貴―!鉄球!巨大な鉄球が落ちて来たっすよー!」

「とにかく走れー!」

遊楽はこうするしかないと思い、全員に指示した。

遊楽の悪い予想は見事に大的中。閉所ではお決まりのトラップだ。

遊楽の頭の中には走りという考えしか出てこなかった。唯一予想外の出来事は、転がってきたのが岩ではなく、鉄球だったことだ。岩であれば、上手くやれば壊す、もしくは少しでも速度を落とすことが出来たかも知れない。しかし巨大鉄球となれば話は別だ。あの質量となれば壊すことは(おろ)か、速度を落とすことさえ出来ないだろう。そのため、遊楽達はとにかく走ることしか出来なかった。

しかし、迫りくる鉄球の速度を上回ることは出来ず、かなり近くまで寄ってきた。

「あぁー。もう、お母さんが話聞かないから!」

ルーイは全力で走りながらも心の中の言葉を漏らした。

「それはホントごめんって!これは予想よりも危ないかもねー!」

そういいながらも、スシリは笑顔で走っていた。

ここで遊楽は一か八かの賭けに出た。

「ロウガ!」

「ハイっす!」

「ルーイさんとスシリさん担いでブーストできるか!」

「速度は落ちるかもですけど出来ないことはないっす!」

「それじゃあさっさと担いで行かんかい!僕はアリエスと冷連れて行くから!」

「了解っすー!」

ロウガは、ルーイとスシリを両手で軽々と抱えた。

「行っけぇえ!『ブースター』!」

そうしてロウガは普段使わない詠唱によりブーストを使用した。するとロウガの体は閃光に包まれ、徐々に加速していき、距離を広げた。

「ちょっと遊!私たちは!」

「今から言うけど恥ずかしいとか言わないでよなー!僕がアリエスを背負って、そのアリエスに冷がしがみ付く。はい、来て!」

「恥ずかしいけどもういいわよー!」

アリエスは泣き半分で速度を上げ、遊楽の背中にしがみついた。

「冷も来て!」

すると冷は一瞬消え、遊楽の目の前に現れた。そのまま遊楽の顔に流れてきた。これが契約によって得た効果のうちの1つの、遠距離からの呼び出しだ。

「もうこの際これでいいや!使えるか分らないけど、失敗したらごめんね!」

遊楽はアリエスから手を放し、両手の平を後ろに向けた。その手からは赤い光が滲んでいた。

「頼むから成功してくれよ…。『ブースター』!」

遊楽はロウガの見よう見まねで『ブースター』を使用した。

すると遊楽の手の平で光っていた個所から、高威力の炎が噴出した。ロケットと同じように炎を噴出した結果は見事に成功。爆発的にスピード上げて鉄球からの距離が勢いよく離れていった。

爆発的にスピードを上げた遊楽だったが、10秒経った時には威力が弱まっていた。

「ちょ、ちょっと遊!速度落ちてきてない!?」

「あぁー、次から次へと!冷、アリエスに掴まって!」

冷は急ぎながらも慎重にアリエスの肩に移動して行った。移動したことを確認した遊楽は、ブーストを止め、背負っているアリエスの背中を掴み、片腕に力を入れ前に運んだ。

丁度その頃にロウガ、ルーイ、スシリは廊下の先にあった大きめの部屋に到着していた。

遊楽は到着したロウガを大声で呼んだ。

「ロウガー!」

「ハイー!」

ロウガは両手に抱えていたルーイとスシリを降ろしながら返事をしていた。どちらの声も辺り一面に響く程の大声だった。

振り向いたロウガを確認した遊楽は、アリエスに詫びを入れた。

「アリエス、歯ぁ食いしばっといてね!後で嫌になるほど謝るから我慢しててね。そりゃあぁー!」

アリエスと冷が食いしばったと同時に、遊楽は一度そこで回転し、ハンマー投げと同じ要領でアリエスを投げた。

幸いなことに廊下はそこそこの高さがあった。そのため、投げられたアリエスはきれいな放物線を描いて行った。

予想外の出来事にロウガは焦り、アリエスの元まで駆け寄って行った。

ロウガと遊楽の考えと判断は見事に功を成し、遊楽を除く4人と一匹が無事奥の部屋へとたどり着いた。

残りは遊楽のみだ。

このまま行けば、速度的には十分間に合う距離だった。しかし、さらに遊楽の予想の斜め上を行く障害が現れた。

奥の部屋の入口から、シャッターらしきものが降りてきた。そのため間に合うか分らなくなっていた。

「はぁ…。もう一発頼むぞぉー…。『ブースター』!」

遊楽は再度『ブースター』を使用した。諦め半分に使用したものだったが、無事に発揮した。速度的には申し分ない。一番の問題は扉と床の隙間だ。速度が足りたとしても、隙間が足りない可能性が大だった。

「遊楽さん!あと少しです!頑張ってください!」

ルーイは自分には何もできない悔しさを、応援しながらも噛み殺していた。

「間に合えやぁー!」

遊楽は大声を出し威力を上げる作戦で、噴出威力を上げた。その影響で、挟まれる可能性は低くなった。しかし、低くなっただけで、まだ雲行きは怪しい。

遊楽は決死の覚悟で、扉との隙間に滑り込んだ。その瞬間、扉が完全に閉まりきり、鉄球が扉に当たりドゴンッという轟音が響いた。

「死ぬかと思った…。」

「お疲れさん!」

「元はと言えば、スシリさんが原因ですからね…」

遊楽には、今反論する体力がなかった。また、過度の魔法使用によるオーバーヒートが両手に起こっていた。現在痺れが走り、動かなくなっていた。

そんな状態の遊楽を見かね、アリエスは隣に寄り、遊楽の両手を掴んだ。

「痛みは?痺れだけで済んでる?」

「まぁ、何とかね。それより、さっきのこと怒ってないの?」

当然の疑問を遊楽は直接ぶつけた。

それを聞いたアリエスは少し眉を動かしたが、それ以上の表情は見せなかった。

「怒ってないわけじゃないけど、助けてもらった身だしね。私もできることならしてあげないと。」

そういうとアリエスは遊楽の両手に魔力を流し込んだ。これはアリエスだから効果の有るものだった。

この場で水属性の適正を持っているのはアリエスのみ。仮にロウガが魔力を流すことになったら、魔力を供給するだけだ。だが、今この状況でそんなことをしたら、回復どころか、逆効果になってしまう。魔法の過度の使用でのオーバーヒートに魔力を流し込んだら。より悪化する。軽ければしばらくの硬直、もしくは痺れの強さが増す。最悪の場合は、永久に動かなくなる。そして、滅多には起きないが酷い時にはその箇所が内側から破裂することもある。しかし、水の魔力は別だ。攻撃魔法として基本使われない水属性には知っての通り癒しの力がある。そのため、オーバーヒートの箇所に魔力を流すと、ある程度の症状を緩和することができる。この場では賢明な判断だった。ルーイもその姿をみて感心していた。

遊楽の手からは無事に痺れが取れ、機敏に動くようになった。

「おぉ、あんがと。それとさっきはホントごめん!」

遊楽は治療によって治った手を合せ合唱の状態で謝礼した。その手をアリエスは丁寧に下した。

「さっきも言った通り、私はあれでも助けてもらった身なんだから。もう怒ってないよ。」

「それに、兄貴は謝るべきじゃなくって、謝れるべきなんじゃないっすかね?」

そう言いながらロウガはスシリに方向を見た。スシリは驚いたと同時に体を震わせた。

遊楽は心の内を押し殺し、スシリに話しかけた。

「スシリさん、弁解があるなら今のうちですよ。」

「ありません!さーせんしたー!」

スシリは言い訳せず、その場で勢いよく礼をした。その勢いは風を切る音が聞こえるほどだった。後ろではルーイも一緒に礼をしていた。それに遅れてロウガも一緒に礼をした。メルン一家総員での謝罪だった。

それに対してこちらが悪いように感じてしまった遊楽は頭を上げるように言った。

「色々危なかったですけど、結果的に全員助かったんですし、いいですよ。」

その一言を聞いて、安心した顔で顔をあげた。

その場の勢いでスシリは遊楽に全力で走り、抱きついた。

「さっすが遊楽君。心が広いねー!ぬおぉうっと!」

遊楽は飛びついてきたスシリを反射的にほどいてしまった。そのため投げてしまう形になり、着地したと同時に謎の声が出たのであった。

こうして一通りの問題が片付いた一行は、改めて新たに出現したこの部屋を一望した。

置いてある物は本棚が数多く。中央に大きめの机1つ置いてあった。その机には研究の文書と思わしき紙がいくつも置いてあった。そしてもう1つ、何に使うかわからない小型の機械だと思われるものが置いてあった。本棚には、丁寧にタイトルが書かれた研究のファイルが幾つも入っていた。所々に抜けている場所もあるが、机に置いてある物をしまえば、タイトル的にも、隙間的にもピッタリのものだった。

もう1つの特徴は、これ以上の扉がないことだ。上でカモフラージュしていた仮一軒家と同じように、全体が真っ白だった。

遊楽は幾つかファイルに挟まっていた文書を閲覧した。その内容は、古式魔法と血液の関連性を書き記したものだった。大半はその内容しか書かれていなかった。

「これは、相当なものっすよ。あんま頭の良くない俺でもやばさはわかるっす」

ロウガは遊楽が開いたファイルの内容を横から覗いていた。読み始めたロウガにファイルを渡し、遊楽は机に向かった。

そして机の上にあった小型の機械を手に取り、じっくり眺めた。

それが何か、分かる者はいなかった。しかし、遊楽はこの形を知っていた。

(明らかにイヤホンだよな。この世界にあるとは思えないんだけど)

インナーイヤーヘッドホン、通称イヤホンと呼ばれるものだ。有線のタイプではなく、無線のタイプで、左右で別々になっている完全ワイヤレスイヤホンだ。

しかし、机に置いてあった個数は1つ。右耳用のものだった。

「それは?私にはただの物体にしか見えませんけど。」

「僕もよくは分りませんけど、使い方は分かります。試しに使ってみてもいいですか?」

「何かもわからないのにですか?これも何かの罠じゃないんですか?もうさっきのような展開は嫌ですよ?」

「信用して。」

そうして、遊楽は何も躊躇せずに耳に嵌めようとした。

(来いっ!僕の補正!)

こうして遊楽は耳に嵌めた。ルーイと冷は心配そうに見つめていた。アリエス、ロウガ、スシリは2人に気づかず、黙々と書物を漁っていた。

イヤホンからは、機械音声に近い声が流れてきた。

[承認開始。該当しません。新たに作成します。登録完了]

「どうでしたか?」

「少なくとも罠ではなさそうです。何か機械音声みたいな」

耳を押さえながら遊楽はそう説明した。ルーイはじっと遊楽の耳を見つめていた。

[新たな言語が該当しました。適応します。]

「早っ!今の一瞬でか。抜けてる科学力があるのか…。いや、でもあの眼鏡は脳から直接だしな。いや、でもあれは魔法か…。」

遊楽はその場でぶつぶつと1人で呟いていた。その為ルーイは取り残されたようにポカンとしていた。その間に文書を読んでいた3人も集まっていた。

「どうでしたか?それは役に立ちそうですか。」

「それはもう。多分、本当に多分だけどこれは補助です。基本装着者の言ったことをできる限り教えてくれるかも。」

[その通りです。私はユーザーの命令に答えます]

答えはルーイやアリエスからではなく、イヤホンの中の音声からだった。その音声には、英語が混じっていた。

先ほど言っていた新たな言語というのは英語や、中二病の時に少しかじっていたラテン語などだ。しかし、あくまで遊楽の頭の中に入っている物だけだ。

「ちょっと全員待っててくれますか?気になるものがあったら読んでていいですよ、僕のじゃないですけど。あっ、でも先に行くとかやめてくださいね」

遊楽は全員にそう言いながらもスシリの方向を見た。

「わ、分かってるよ。今回はちゃんと待ってるから安心したまえ。」

そういうと、遊楽以外はそれぞれバラバラに行動し始めた。

遊楽は机の前に置かれていた椅子に座り、イヤホンの機械音と対峙していた。

前を向きながら独り言のように喋り始めた。

「それじゃああることないこと喋ってもらおうかね。名前から教えてもらっていいかな?」

[私に名前はありません。また実際のことしか私は喋ることしかできません。]

「例えだよ。それにしても名前が無いのは不便だよなぁ。うーん…」

遊楽は冷の名前を決める時のように、じっと悩んでいた。今回は外見が分らないため、眉間に(しわ)寄せながら悩んでいた。

「よし、今日から君はポートだ。補助のサポートからサを取っただけだけど。」

[ポートですか。ありがとうございます。]

「早速だけど、僕の体をスキャンできるんだよね。それじゃあ一通りのことをスキャンしてくれ。」

[了解です。…様々な情報が出てきました。マスター、主、主様、お兄ちゃん、兄さま、好みの呼び方はありますでしょうか?]

「最後の2つは突っ込まないでおくよ…。まぁ、無難にマスターでお願いしようかな。スキャンで、頭の柔軟性とか出てきたでしょ?もっと打ち解けた感じでいいんだよ。」

[了解です、マスター]

この瞬間、ポートの声のトーンが少し上がった。機械音からより人間味の強い声になった。

「そういやポートは何ができるの?出来ないことぐらいあるでしょ?」

[主に索敵や、隠し部屋などの詮索です。マスターの許可さえあれば、魔力の干渉によってブースターの持続時間の計算や、残りの魔力量などを表示できます。]

「表示ってどうやって?干渉許可するから見せてもらってもいい?」

[了解です。表示します]

すると、遊楽の視界の右下に青色のバーが現れた。その周りには薄い白い四角の線で囲まれていた。バーと囲まれていた線には隙間があった。囲まれている線は魔力量の限界値を示したものだった。

「おぉこれがそうか。しっかし、凄いな。便利すぎる。これからもよろしくね。そうだもう1つ。隠し部屋の詮索って言ってたよね?」

[はい、可能です。現在のマスターの視線から前方右斜めの方向に鉄製の扉で補強されています。スイッチや取っ手のようなものは見つかりませんでした。電線で連動している場所も見つかりませんでした。]

「了解。それじゃあ行こうか。扉はぶっ飛ばそう。みんなー、集まって。」

遊楽は召集をかけると、予想以上に素早く全員が集まった。全員既に半分読み終えていたというのもあり、ほとんど近くまで寄っていた。

遊楽は全員が集まった中で、ロウガを手招きした。

ロウガは不思議そうに遊楽を見つめながら近くに寄った。

「なぁロウガ、ここに扉があるんだけど吹き飛ばせるか?」

「もちろん…って言いたいところっすけど、この広さじゃ無理っすね。さっきの電気砲(エレキキャノン)は威力こそありますけど、周りの影響も大きいんですよ。その分少し消費魔力が少ないというか。多分ここで使ったら紙に燃え移るか、俺以外の全員が感電っすかね」

「さらっとすごいこと言うな…。それ以外だと消費魔力が多いって捉えていいんだよね?」

ロウガは無言で2回頷いた。

「そうか…。ねぇポート、なんかいい案ない?」

「ポートって、先程の音声さんですか?」

「そうだよ。それで、なんかいい案ある?」

[はい。ヒートショック現象と呼ばれる温度差によるひび割れによって壊すことが可能だと思われます。]

ヒートショック現象は、急激な温度差によって、物体にひび割れが生じる現象。一般的なヒートショック現象は、人体に影響することの方が多い。人体に対してのヒートショック現象は、急激な温度差によって血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、体への悪影響を及ぼすことを指す。

「それじゃあ、冷、やろっか。」

「ワンっ!」

手順としては、遊楽が燃やし、冷が冷やすという単純な作業だ。消費魔力を極力減らすために、1部分に集中して行使し始めた。

詠唱を使うような魔法は使用しない。今回はそれが注意すべきことだったのかもしれないが、特別意識したことは何もなかった。

回数にして約20回、全体にひびが廻り後ろに大きな音を立てながら倒れて行った。その音の大きさは、扉に鉄球が当たった時と同じ、もしくわそれ以上の音だった。いい加減気付かれてもおかしくなかったが、刺客や奇襲が来ることはなかった。

「よし、開通した。多分もうこの先は本拠地でしょうし、気合入れていきましょう。」

遊楽が一言そういうと、ルーイは足に付けていたマジックポーションの内の3本を取り出し遊楽に1本、ロウガに1本渡し、もう1本を冷に飲ませてあげた。

「ロウガは1回、遊楽さんは計3回、冷さんも使用しましたし、しっかり回復していきましょう。」

遊楽とロウガは同時に飲み始めた。するとポートによって表示されている魔力のゲージが最後まで伸びきった。最後まで回復した証拠だ。

「それじゃあ、行こうか。」

遊楽が戦闘となって、今度こそ進み始めた。

再度道なりに進んでいくような形になっている。一番最初の廊下と変わり映えないものだった。

しかし今回は罠を探しながら進むことができた。

「ここら辺に罠みたいなのある?」

[危険視すべきものは見当たりませんでした。この先に一つの扉があり、その奥に熱反応がありました。]

「この施設の中ボスみたいなもんかな。」

ポートという存在は大きなものとなっていた。

結局扉の前につくまで、トラップが発動することはなかった。また、遊楽が懸念していたスシリは、無事に何も問題を起こさなかった。ここまでくればさすがにふざけることはしなかった。先ほどの鉄球に懲りたというのもなくはなかったのかもしれない。

扉は鉄製。しかし今回は丁寧にハンドルが設置されていた。ドアノブではなくハンドルだった。例えるならば、船の舵のような物だ。

遊楽はハンドルに手を掛け、ゆっくりと右に回した。そのハンドルは滑らかに動いた。

最後まで回した後、遊楽だけでなくロウガも一緒に唾を飲んだ。

全員に合図した後に、遊楽は扉を勢いよく押しきった。

中には白衣を着用し、後ろを向いた状態で座っている人影があった。しかし、この場でそれが人と思った者は誰一人としていなかった。

その理由はただ1つ。魔力の質の違いだった。

遊楽とアリエスはその魔力の正体を知っていた。それは紛れもなく悪魔特有の魔力だった。相変わらず魔力は瘴気に近い。初見でもいかに危険な物か聞くまでもないほどに伝わってくる。

そんな事を気にしていると、背中を向けていた状態から反転させ、遊楽の方向に向いた。その顔は整っていて、世に言うイケメンという部類になるのかもしれない。少なくとも遊楽はそう思っていた。

座っていた男は全員の顔を見ると、遊楽を見ながら話し始めた。

「ようこそ、我が研究所に。ここまで来れたのは君達が初めてだ。そんな君達にいいものを見せよう」

すると男は手を前に突き出し、指を1回、パチンと鳴らした。

音に意味があったのか真相は分らないが、その音と同時に男の後ろにあった壁に1つ穴があいた。その穴には階段が繋がっていた。しかし、その階段の先は暗く、見えなかった。

「恐らく、君達が求めているものはこの先にあるだろう。しかし、私は、はいどうぞと言って譲ることができない立場でね。だから、君達にはあの罠で倒れてほしかったんだ。だがそれに抗いここまで来た。この先は言わなくても分かってもらえるよね。」

男は、敵となる遊楽に一方的に、それでいて流暢に話しかけてきた。しかし、その声にはあまり敵意が感じられなかった。

一方的な会話に返答を求められ、遊楽は一瞬戸惑いを見せたが、直ぐに立ち直り、会話を続けた。

「まぁ大体はね。どっちにせよ、僕たち冒険者としては、捕まえるにしても倒すにしても、一回はぶっ飛ばさないといけないんでね。そこらへん、覚悟してよね」

その瞬間、遊楽以外の4人が完全な戦闘態勢に入った。それに釣られるように遊楽も武器を装備した。

それを見た男は、笑いながら再度話しかけた。

「話が早くて助かるよ。生憎時間がないんでね、早急に倒させてもらおう。特に後ろの3人はいい実験材料になりそうだ。」

後ろの3人はロウガ、スシリ、ルーイの3人だ。その3人はより警戒度を高めた。

「ただ、簡単にいきそうな感じでもなさそうだ。姑息な手を使わせてもらうよ」

すると、又しても指を鳴らした。すると、遊楽から見て、男から見ても目の前に大量の人物が現れた。しかしその体は黒く淀み、所々皮膚が欠けている。ゾディアの部下のような灰化とは違い、そこから再度欠けるようなことはなさそうだ。そして、全員に共通するものがもう1つあり、真中に数字の書かれた服を着用していた。この時点で遊楽はあることに勘付き始めたが、ここで話しているような暇はなかった。

「兄貴、これはやばいっすね」

「とにかくやるしかないね。各自全力で、自分第一で行きましょう!」

「久々にやっちゃうよー!」

スシリはいつもとは違う高揚の声を出していた。ルーイは妖孤2匹から6匹に増やし、フルの状態だった。同じくロウガも全力を出していた。階段の時には片手だった電気が、全身に走っていた。近づき過ぎれば仲間であろうと感電しそうな程に。スシリは両手に短剣を造形し、魔力の鎖で繋ぎ、威力を高めるように回転させていた。アリエスは先ほどまで装備できていなかった太刀を出し、構えていた。それと同時に魔方陣による補助の効果を実感していた。そして遊楽は両手に剣を装備していた。片方は買った片手剣。もう片方は風の魔力での造形だ。燃え広がる懸念性をなくすためだ。

装備してる間にも、現れた人影は襲いかかってきた。こうして遊楽達の戦闘は幕を上げた。


ロウガ「兄貴、なんでも今回から俺達が次回予告担当になるそうっすよ!」

遊楽「まぁ周回方式だから次いつ来るかわからないけどね。早速次回予告しようか」

ロウガ「ハイっす!今回から研究所に乗り込んだ俺達は、色々ありつつも親玉の元までたどり着いたっすね」

遊楽「そして、その親玉と戦闘になるとおもいきや、大勢手下が現れたんだよね」

ロウガ「そういやあの時何か気付いた感じだったすよね?」

遊楽「はいはい、これ以上は禁句だよ。」

ロウガ「そうっすね。じゃあ次回予告に戻るっす。次はとうとう親玉と激突!兄貴が活躍するっす!」

遊楽「そしてメルン一家の父親ともご対面!?」

ロウガ「次回も読んで欲しいっすね!」

遊楽「そうだね。それじゃあ最後は一緒に?せーのっ!」

遊楽&ロウガ「次回もお楽しみに!」

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