特訓
楽しんでねヾ(*´∀`*)ノ
ルーイの家に着いた遊楽、ロウガペアは、先に帰っていたアリエス、ルーイ、スシリと合流した。
遊楽とロウガは靴を脱ぎ、部屋に向かった。
「観光はどうでした?ロウガは役に立ちましたか?」
質問をしてきたのはルーイだ。
「ロウガには頼りっぱなしでした。しっかり案内してくれましたし、楽しかったですよ」
「それは良かったです」
ロウガは後ろで喜んでいる。ルーイはほっとした顔だ。スシリは特に表情を変えていない。
「それじゃあみんな帰ってきたことですし、作戦会議しましょう。」
提案したのはアリエスだが、遊楽はそれに意見した。
「3人は風呂良いんですか?」
「お先に入らせてもらったよ」
答えたのはスシリ。
遊楽達が観光している間に入っていたという。
「それじゃあいいか。始めよう」
こうして、ルーイからの依頼について作戦会議が始まった。
司会進行役は、依頼人であるルーイだ。そこに関しては誰も反対しなかった。
「それじゃあ予定から決めましょう。できれば明日にでも行きたいのですがいいですか?」
「1日遊楽君借りられないかな?」
提案者はスシリ。提案については全員がきょとんとしていた。
それについて追及したのは遊楽だった。
「と言いますと?」
「いやーちょっとね、遊楽君はまだまだ伸び代がありそうだから、1日だけ特訓させたいんだけど、どうかね?」
「僕はいいですけど、ルーイさんはどうですか?1日だけならいいですか?」
「1日だけならいいです。ですが、それ以上は待てません。お母さんもそれでいいですか?」
「1日もらえれば十分だよ。ありがとね。」
「それじゃあ、私たちは明日自由行動でいいですか。」
「私は構わないですよ」
「俺もそれでいいっす」
こうして、明日は出発ではなく、出発に向けての準備期間になった。
作戦会議はこうして終わり、夜の行動に移った。
今晩、遊楽とアリエスはルーイの家に泊まらせてもらうことになった。
食事は、女性3人組、準備は男性2組になった。
と言っても、野宿とは違い机は当たり前のように設置されている。準備と言ったら、人数分の皿と箸を用意するくらいだ。
しかし、大半はロウガが行っている。食器の位置がわからないので当然である。遊楽はロウガが持ってきた食器を机に並べただけだった。
(このままでは、僕だけまったく仕事をしないことになる!料理でも手伝うか?いや、3人もいるしな…。がぁ゛ぁ゛ぁ゛どうすりゃいいんだ!)
遊楽は心の中が荒れていた。そして焦っていた。
急に家に上がらせてもらった上に、食事までご馳走になって何もしないというのは遊楽の良心が許さなかった。
その頃遊楽が焦っていることを知る由もない料理班は、スシリの的確な指示によってスムーズに進んでいた。
「今晩はから揚げで行こうと思う。タレはもう作っておいたから、後は揉み込んで、揚げるだけ」
ここで遊楽は行動に出た。
急ぎ足で調理場に向かい
「ちょっと待ったぁ!」
と大声で乱入してきた。
「そんなに急いでどうしたの?」
「から揚げなんでしょ?それなら、揚げるときに米粉を使うといいよ。サクサクに仕上がるから!」
「なになに、遊楽君は意外に家庭科男子?ルーもやるようになったなー」
「もうそのくだりはやりませんよ」
遊楽は、ひとまず少しは役に立てたと思い、調理場を後にした。
そのあと、しばらくすることもなく、遊楽は鞄の整理をしていた。ロウガは睡眠中だ。
荷物が入っている鞄は、学校の物だ。
遊楽はスマホを取り出し、電源を付けた。
(日付、時刻は機能してるけど、ネットはやっぱないよな…)
ネットのないこの世界で、どうスマホが使えるか、遊楽は試行錯誤していた。
その時丁度、調理場の方から揚げる音がしてきた。
(後でまた確認するか)
遊楽は反射的にスマホを鞄に仕舞い、ロウガは眠りから覚めた。
2人とも調理場に向かい、持っていくものがないか尋ねる。
するとスシリは、器に盛りつけられた大量のきんぴらごぼうを渡してきた。
きんぴらごぼうを運んだ2人は、後はおとなしく待っていた。
数分後、料理チームが大量のから揚げを机に置いた。
「多すぎやしませんか?」
素直な遊楽の質問。
「まぁ、大半はロウガが持ってくと思いますよ」
それに対するルーイの回答。
遊楽は「ロウガが大半食べる=食べ盛り」と判断した。大体の理由はこんなところと遊楽が考えた結果だ。
当の本人は机に姿勢よく待っている。よっぽど早く食べたいのであろう。
全員が机に座ったことを確認したスシリは、挨拶を掛けた。
「それじゃあ、手を合わせていーたーだーきまーすー」
「「いただきます」」
スシリの次に全員が挨拶をし、食事が始まった。
ロウガはものすごいスピードでから揚げの数を減らしている。
疲れていたというのもあり、遊楽もロウガに負けていないスピードで食べている。
しかし、早い理由はそれだけでなく、もちろん美味なものだからだ。
「作り手としては、そんなに食べてもらってうれしいよー。ルーもアリエスちゃんもそうでしょ?」
「まぁ、確かにそうですね」
「お母さん、あまりアリエスさんを困らせないでくださいね」
数10分後、こうした団欒とした食事は幕を閉じた。
食器を片付け終え、時間が空いたことを確認して、スシリは遊楽に声を掛けた。
「遊ー楽くーん。明日のことなんだけど今暇~?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
遊楽はスシリの謎のテンションに慣れてきたので、通常通り会話が成立するようになってきた。
「明日は、裏山に行くよ。開始は私が起きたらね。特訓ついでに少し話もあるから。」
「分かりました。とりあえず、覚悟しておきます…」
遊楽は、1つ不安を抱いた状態で、この日を終えた。
残るアリエス、ロウガ、ルーイは各自、自由行動ということになったらしい。
買い物をするもよし。特訓をするもよしということだ。
就寝場所は、女性3人は2階で。男2人は1階の居間で寝ることになった。
布団は、いくらか余っているらしく、困ることにはならなかった。
また、遊楽は布団で寝ることに懐かしさを覚えていた。
日本に住んでいた時は、布団ではなく、ベッドで寝ていたからだ。
布団を持ってきたのはロウガだが、敷いたのは遊楽だ。泊らせてもらう身で何もしないというのは遊楽自信が許さないからだ。
「それじゃあ、寝ますか。先に言っておきますけど、多分母さんの朝は早いので、想像以上にきついっすよ。」
「よし、それならもう寝よう」
遊楽の決断はかなり早いものだった。
布団に入る遊楽に続き、ロウガも布団に入っていた。
女性3人組は、既に電気を消していたので、寝ていると遊楽とロウガは判断した。
ルーイの故郷であるビジョンでの生活1日目はこうして終わった。
「うがっ!」
次の日、遊楽は何かが勢いよく上に乗りかかった衝撃で不本意な目覚めを遂げた。
「やぁやぁ遊楽君。朝だよ。裏山行くよ」
「滞在させてもらっている身で言うのもあれなんですけど、もっとまともな起こし方ありませんでしたか…?」
「これなら1発で目覚めるでしょう?」
「それはそうなんですけど…」
遊楽はまだ頭が完全に回らない状態でスシリと話していたので、うまく反論が出てこなかったため、このことに関しての会話はここで終了。
遊楽はロウガを起こさないようにゆっくりと布団を畳んだ。そして素早く着替え、武器などの持ち物一式を整え、スシリに行けることを示した。
するとスシリは扉を指しそのまま出て行った。遊楽はその背中に続いて家から出て行った。
外に出た2人は裏山へと向かった。
その間、遊楽は特に話の話題がなくしばらく黙っていたが、ふと思った疑問を問いかけた。
「スシリさん」
「どうした?」
「朝食はどうしますか?この時間じゃどのお店も開いてなさそうですけど」
「私が朝作ってきたから大丈夫」
スシリが遊楽を起こしたのが日本時間でちょうど朝6時。つまり、スシリはその前から起き、朝食を作っていたということだ。
目覚ましのような音がしなかったということは、それがスシリの習慣と言う事だ。
それを想像した遊楽は、すごいとも思ったが同時にそんな生活は自分にはできないと思っていた。
「と言うことは昼もですか?」
「いんや、昼はロウガに持ってきてもらう。その時に冷ちゃんも引き取ってきてもらうけどいいかな?」
「僕は全然かまいませんよ。元気になっていればそれで満足です。」
「そっか。それじゃあさっさと行って始めようか」
スシリは駆け足になった。その後を追うように遊楽も駆け出した。
その時、スシリは遊楽に竹皮(竹の子の外側を鱗片状に包んでいる皮)に包まれた2つのおむすびを受け取った。
遊楽は食べながら行けというスシリの意図を読み取り、食べながらスシリの後ろについて行った。
裏山までの道のりでかかった時間は約20分。
近くもなく遠くもない距離だ。
しかしあくまでも麓までの話だ。スシリの話によれば、ここからさらに20分歩くらしい。こんなところで音を上げていては特訓は当分出来そうもないということで、遊楽には火がついていた。
しかし、予想に反して坂は急な物ではなく、そこまでの疲労感はなく、頂上に着いたと同時に遊楽の特訓は開始された。
「それじゃあ特訓開始……と言いたいところなんだけど、その前にいろいろ話しておこうと思う。適当に座って」
遊楽はスシリの言われるまま、近くに有ったベンチに腰かけた。その隣にスシリも座った。
「明日のことなんだけど、おそらく行く場所には私の夫、ルーとロウガの父親がいる。」
「それは承知してます。それがどうしましたか?」
「おそらくだけど、ルーはともかく、ロウガは父親の顔をまったく知らない。多分ルーも、良く言ってうろ覚えだと思う」
スシリは重い顔になっている。その気持ちは遊楽にも伝わっている。
遊楽は母子家庭だ。スシリの気持ちは伝わってくるだけでなく、痛いほど分かっている。
「そこで1つお願いしたいんだけど」
「僕に出来る事であれば」
遊楽は真剣な眼差しでスシリを見つめた。
「そんな固くなんなくていいよ。ただ、2人に再開の時間をあげてくれないかい?」
「お安い御用ですよ。積もる話もあるでしょうし」
「ありがとう。話が早くて助かるよ」
お互い力が少し抜けた。強張った顔にも少し和らぎが見える。
スシリは素早く次の話に切り替えた。
「それじゃあ次の話。この世には3種類魔法がある」
「3種類?2種類じゃなくてですか?」
「そう3種類。1つは簡易魔法。2つ目は難易魔法。もう1つは固有魔法」
「固有魔法ですか?」
遊楽はもう1つの魔法の存在に驚いていた。
固有魔法に対して驚いていたわけではない。もう1つ知らない魔法があったことに驚いている。
サイトの説明では、2つと言う事だったので遊楽はすっかり油断していた。
「固有魔法は生まれつきの物。ない人は持ってないし、持ってる人は生まれた時から持ってる。だから、途中から習得することはもちろんできないし、使えなくなることもない。ただしその魔法は人それぞれ。国1つ根絶やしにすることが出来る魔法の時もあれば、戦闘には役に立たない魔法もある。固有魔法で職業を決める人もいるって言う噂だよ」
「それで、その固有魔法がどうかしたんですか?」
なぜこのタイミングで固有魔法について説明したのかは遊楽にとっては謎でしかなかった。
説明で合った通り、途中から習得できるものではない。それなら特訓関連ではないと思っていた。
「今回の特訓で、2つ行うんだけど、そのうち私と組み手をしてもらうよ。ただし、私は固有魔法じゃんじゃか使うから」
「!?」
その言葉が衝撃だった。組み手に使うということに対しても、スシリが固有魔法を使えることに対しても。
しかし1番気になったのは、スシリの固有魔法だ。
「スシリさんの固有魔法は?」
「さーてなんでしょうか?」
この時、遊楽はサイトとの会話を思い出した。
サイトもこの世界に着いたばかりの遊楽を焦らしていた。そのおかげか、特に不快感はなかった。
プラス、ルーイのスシリに対してのあしらい方を目で見て学んだおかげで、対応にも困らなかった。
「答えはなんなんですか?」
「意外とせっかちだねー。まぁ良いんだけどー。正解は【認識阻害】。正確に言っちゃうと【認識遮断】かな。」
「効果は?」
「その名の通り、人の認識から自分の存在を遮断する。存在自体はあるけどね。こっちから接触したりすると、一瞬解除されるけど、すぐに復帰可能。視覚、聴覚、嗅覚、味覚の全てを遮断する」
(むちゃくちゃな固有魔法だな。これは絶対に敵にまわしちゃいけないタイプだ)
しかし、遊楽の敵に回さないという考えは組手をするためすぐさま消えた。
「今回は、【認識遮断】している私に攻撃を当ててもらうよ」
「…?もう1度お願いしても?」
「だーかーらー、【認識遮断】してる私に触れればいいの!」
「無理がありません?認識できないんでしょう?」
「誰も魔力を感知できないとは言ってないけど?」
「あっ…」
その瞬間、スシリはにやっと笑った。
その後、スシリは本格的に笑い始めた。
遊楽が引っ掛かったことがよほど面白かったのであろう。
逆に遊楽は悔しがっていた。笑われれば当然である。
「…それで、もう1つの特訓は?」
「あれあれ、もう終わっちゃうの?つれないねぇ。まっ、気にしないけど。もう1つは、短縮詠唱を身に着けてもらう。正直これは簡単。ひたすら詠唱魔法ぶっ放してればいいから」
「分かりました。それじゃあもう始めましょうか」
「それじゃあ、私に攻撃を当てるところからね。タッチでもいいから触れる事。それじゃあはじめ」
そういうと、スシリは何の動作もなく、遊楽の目の前から消えて行った。
(これが、【認識遮断】か。これはこれでチートだな…)
遊楽は、サイトの記憶を知覚できる能力と比べていた。
誰が見てもスシリを認識することは出来ない。
しかし本人から説明が合った通り、術がないわけではない。
それには、魔力感知が出来る体質にならなければいけない。この世界では、魔法の適性を持って入れば、自然と出来る様になっているらしいが、それはあくまでも生まれた時から魔法の適性を持っている人に限る。
固有魔法とは違い、途中から習得することは可能だが、それなりに時間がかかる。その分、遊楽は本気になっていた。
ロウガとの戦闘で多少は感知出来る様になっているため、かなり苦労することはない。
魔力の感知の仕方は、裏山への道の途中で教えてもらっていた。
「魔力を感知するには、魔力全体を観ようとするんじゃなくて、先端を探すんだよ」
「先端ですか?」
「そう。魔力の形は人それぞれだけど、必ず周りにはとげとげしたところがある。それを見つけられたらあとはそれがどこにつながっているのかを見つければいいんだよ。」
「でも、それを見つけるのが難しいのでは?」
「こっちから少し魔力を放出するんだ。そうすれば、他の魔力が反応して見やすくなる。普通なら見ようと思えば見えるんだけど、初心者にはこれがおすすめかな?」
簡単にではあるが、教えてもらった感知の仕方を、遊楽は必死に思い出し、実行しようとしている。
(魔力を放出…。属性にとらわれずに…)
遊楽は一度脱力した。
次の瞬間目をカッと開き、一瞬全身に力を入れて、自分を中心に物を吹き飛ばすイメージを持った。
すると、刹那の瞬間ではあったが、遊楽には魔力の流れを感知することが出来る様になった。
しかし、この1回で成功できなかったのは、かなりの痛手だ。
時間的な物もあるが、魔力放出は極端に大量の魔力を使う。体全体から放出させるので、大量に使うのだ。
魔力の量を減らしてしまうと、感知しにくくなるため、一切の妥協が許されない。
そのため、魔力感知習得には時間がかかるのだ。
だが、ここで音を上げるような遊楽ではない。
すぐさま次の準備をした。
先ほどと同じように脱力した。今回は1回目よりも力を入れ、より多く魔力を放出することにした。その分、集中する時間は長い。
ある程度魔力が溜まったところで、再度目を開き、全身に力を入れた。
魔力の量を多くしたおかげか、スシリの魔力は色濃く、鮮明に見えている。一瞬で途切れることもなく、無事遊楽はスシリに触れることができた。
遊楽が触れた瞬間、スシリは【認識遮断】を解いた。
「少しやり方が荒っぽかったけど。見えるようになったからいいとしよう。次からは、自分で思えば見たいときに見れるはずだよ」
「ありがとうございます!!」
「それじゃあ、ついでに魔力の抑え方も教えておこうかな。」
「魔力って、自分の意思で抑えられるものなんですか?」
「自分の体から出てるものなんだから、もちろん出来る様になるよ。今度は少しかかるかもしれないけどね。」
遊楽は再度張り切り始めたが、スシリは中断を申し出た。
何かと思っていた遊楽を置いて、スシリは下り道の方に目を向けた。
数秒後、道からロウガと治療を終えた冷が昇ってきた。
冷の体には包帯が一切巻かれていない。傷も1つとして見つからない。体調も良好な様子だ。
遊楽と冷は、お互いがお互いに駆け寄った。
遊楽は冷を抱き上げ1回回り下ろし、頭を撫でた。
「治ってよかったね。これからは僕と君は家族だよ。よろしく!」
「ワンッ!」
冷は力強く吠え、返事を返した。
安心した遊楽は再度冷の頭を撫でた。冷は勢いよく尻尾を振っている。心なしか、お互いに顔がゆるんでいるように見える。
それを放っておくことにしたスシリとロウガは、別の話をしていた。
「それにしてもロウガ。早すぎない?まだ水の刻に変わったばっかだけど?」
「少し早めに目ぇ覚めちまったしな。それに、あの犬の引取りもあったし。あいつとは気が合いまくりだったから、こっちに来るまで退屈しなかったなぁ」
ロウガは頭を掻きながらそう答えた。
「そういえば気になってたんだけど、なんかロウガから人の匂いがするんだけど、誰かと会った?」
「あぁ…。山の道のりでちょっとな」
時間は遡ること1時間前。
ロウガは、外から差し込む光に気が付き、目が覚めた。時刻は地球時間にして約7時。早くもなく遅くもない時間帯だ。ロウガは洗面所に向かい顔を洗い、完全に目を覚ました。
上の女性陣を起こさないように、そっと布団を仕舞い、スシリが多めに作っていたおむすびを4つ取り、外に出る準備をしながら食べた。
ロウガの持ち物は特になく、携帯用の時間石と、クーパの店で買った、短剣だ。短剣はあくまでも緊急時にしか使わない。ロウガには圧倒的運動能力と、魔法による補助があるため、基本の戦闘スタイルは格闘だ。
準備が終わったロウガは、素早く3人分のサンドイッチを作り、鞄に入れた。素早く作った物にしては、かなり形が整っており、男としては、かなりの器用なようだ。
一通りの持ち物と、昼食を持ったロウガは、静かに外に出た。そして、思いっきり息を吸い込み、吐き出し、朝の空気を感じていた。
数秒後、思い出したように歩きだし、サガとセルアの元に向かった。
サガの家は、この村唯一の病院のようなものだ。朝だろうと夜だろうと、来客が来れば即起床。それがある意味、売りでもある。
何もなくサガの家に着いたロウガは、戸をノックした。
中から出てきたのはセルアではなく、サガ本人だ。
「おはようさん。引取りかな?ほぼ完治してるから問題ないよ。ほぉら、入った入った。セルアくんなら寝てるから安心しときー」
「お気遣いどうも…」
中には、既に起きている冷が待っていた。外傷の後もなく、体調も絶好調と言ったところだ。かなり元気になっている。
「今回は何とか間に合ったからよかったけど、もう少し遅かったら完全には治らないどころか、命だってなかっただろうね。」
「毎回思ってることがあるんっすけど、ほとんど1日か2日で治療が終わるじゃないっすか。どういう治療法したらそんな早く終わるんっすか?」
ロウガは、今まで様々な患者たちの治った姿を見てきたからならではの質問である。今回が初めての遊楽がいたとしたら、こんな質問はしないだろう。
「私の魔法だよ。【医療補助】この魔法は、相手の怪我の情報が細かく分かるんだよ。まぁ、私の目だけじゃ追いつけないから、さらに補助を使ってるんだけどね」
そういうと、サガは白衣のポケットから、眼鏡を取り出した。
眼鏡の補助効果は、情報の提示場所の拡大、情報をより深く知る、の2つだ。
彼女の目だけでも十分な情報量だが、より素早く、的確に治療するためにはさらなる補助が必要と言う事だ。
「そうだ、あの遊楽って子に伝えといて。時間があるときでいいからここに寄ってくれって。出来るだけ早い方がいいけどね」
「了解っす。それじゃあ恐らくまた。」
「はいはーい。またねー」
こうしてロウガと冷は家を出て、裏山に向かった。
裏山までの道中、2人(正確には1人と1匹)はかなりのスピードで打ち解けていた。
「ワンワン!」
「そりゃあ、大変だったな。にしても、軍の奴らもひでぇことするもんだな。」
2人の話は、冷が怪我に至るまでの話だった。
冷を含めたスノーウルフは、基本人には敵対せず、中立状態を保っている。時には協力するほどに。
また、魔法を持ち合わせているが魔物として認定されることはなく、冒険者から命を狙われることもなかった。
しかし、王都の軍の決定で、少しでも疑わしいものがあれば排除と言う方針に決まってしまったため、冷のいたスノーウルフの群れは襲われてしまった。不幸中の幸いで、何とか生き残ったのが冷と言う事だ。
「他に生き残りはいねえのか?」
「クゥゥン…」
「いるかも知れないけど、分かんねぇのか…。きっと話せば兄貴たちが探してくれるさ。依頼としてはだせねえもんな。生き残りがいるってことが軍の連中に分かられたら、確実にやられちまうもんな」
冷は表情こそ暗いが、探すための覚悟と熱意を持ち合わせている。あとは遊楽が承諾するだけ。既に冷の心の準備は終わっていた。
「ワンッ!」
「俺はそこまで話はねぇぞ。強いて言えば、親父の顔がわからないってことぐらいだ。物心つく前に、親父は悪魔どもにさらわれちまってな。母さんを庇った結果らしいけど、実際はどうか知らねえ。まぁ、俺の親父だ。きっと強いんだろうし、まだ生きてるだろう。そう信じてぇよ。」
お互いの過去を話し合い、完全に心を開いた。これからの戦闘でも、コンビネーションがかなりとれたことになるだろう。
そのあとは、明るい話で持ち切りだった。
しかし、すぐに話も終わった。違和感に気づいて話をやめたのだ。位置的には、裏山の中腹あたり。1人の人間の女性が、植物などの採取をしている。足を止めたことに冷は不思議そうにしているが、ロウガは気づかずに、女性の方に足を進めた。
「なぁ、そこのあんた」
「あんたって私のこと?」
女性が振り向いたことで、顔がわかり、その顔にロウガは見覚えがあった。先日、ギルドで揉めてた2人の内の1人だ。もちろん、冷は知らずに、いまだにきょとんとしている。
ロウガが彼女に話し掛けたのは、怪しかったからではなく、匂いが怪しかったからだ。
「あんた、昨日俺と面合わせたよな。占いの時に」
そう、この女性は、占い師とまったく同じ匂いがしていたのであった。
「それだったらどうするの?私が君たちに迷惑するようなことをしたかい?」
彼女のいう事はもっともだ。占いは無料で行い、ギルドでは特に接触はなかった。今のところ、何も悪いことがない。
「いや、あの占いの時と今の雰囲気が違ぇもんだから、気になっただけだ。」
「そういう事ね。職業上仕方ないのよ。なんか占い師は謎深いって言う謎の噂が広まっちゃってね。まぁ、気になったらなまた来てみてよ。私は、ロッカだよ。またね、ロウガ君」
彼女は下山しながらそういった。
「なんで俺の名前知ってんだ!」
ロウガの質問には返事をしなかった。
ロウガにとってはその対応は不服だったが、時間をかけて遅れるわけにはいかないという考えで、追跡は断念した。
「へぇ、そんなことがあったのかー。じゃあロウガの匂いはそのロッカって人の匂いか。」
狐は犬と同じように十分に鼻が利く。そのため、ロウガの体の匂いに気づいたのだ。
遊楽と冷はいまだにじゃれていた為、ここでスシリの制止が入った。
「ほらほら、始めるよ。折角時間が多くあるんだから」
「そうですね。それじゃあ指導お願いします」
「それじゃあロウガ宜しく」
「は?」
ロウガは声に出して、遊楽は言葉に出さずに驚いていた。
ロウガにとっては、なぜ自分が教えるのかよりも、何を教えるのかと言うところに疑問を持っていた。教える事自体に問題はない。それなりの技量もある上、魔法の知識もそれなりにある。問題は何を足えるかだけだった。
遊楽は、ロウガが教えることになったことではなく、教えられるかだ。
信用していないわけではないが、敬語も完璧でないロウガの説明を、果たして自分に理解できるだろうか、と言うのが遊楽の悩みだ。
「正直に言うけど、私は魔力の抑制が全くできない。抑えるのも人によって出来る、出来ないがあるからね。ロウガは魔力抑制に関しては、ほとんど完璧だから、安心していいと思う」
「分かりました。それじゃ、ロウガ宜しく」
「ハイっす!僭越ながら、俺が魔力の抑え方を教えるっす。それじゃあまずは…、うーん?」
「どうした?」
ロウガは何かに違和感を覚えたようで、不思議そうな顔をしている。
「いや、そのなんというか、改めて兄貴の魔力を見ると異様な形をしているなーと思ったんで。ちょくちょくそういう人を見るんですけど、珍しいもんで。俺の遣り方じゃあ、少しやりづらいかもしれないっすけど、頑張ってください」
「どーんと任せておき!出来るかは別の話だけど」
「それじゃあ始めるっす」
ロウガは的確に細かく説明を始めた。
遊楽とロウガは、その場に座り、胡坐をかいた。
「まずは、自分なりに魔力を抑えてみてくださいっす。そこで、どうやって教えるか判断するっす」
「了―解」
遊楽は、脱力した状態で、自分の周りの魔力に意識を向け、中心に寄せるイメージをした。
遊楽のイメージ通り、魔力自体は体の中心によったが、抑えるまではいかなかった。
それをみたロウガは、うんうんと頷きながら遊楽に話し掛けた。
「大体分かったっす。そのっすね、兄貴は抑えようとすることに力を入れすぎなんっすよ」
「?」
遊楽は不思議そうな顔になった。それを見たロウガは、慌てて分かりやすく再説明しようとする。
「いやえっと…抑えようなきゃっていうのが強すぎて、あと少しの所で力が入っちゃってるんっすよ。中心に集めるって考えはまったく悪いものじゃないんっすよ。だから、こうもうちょっとだけ力を抜く感じでできますか?」
「大体分かった。出来るかは分からないけど、やるだけやってみるよ。」
魔力を抑えるための練習は、時間以外は消費するものがないため、身体的な負担はない。魔力感知に比べると、大分楽な練習にはなっている。
だからと言って簡単なものではない。ロウガ言うには、筋がいいらしいが、遊楽本人にとっては、楽なものではなかった。
2回目の遊楽は、体から力を抜いた。しかしそれは遊楽にとってはのことだ。周りから見たら、全く変わっていない。多少は抜けているように見えなくもないが、大差はないため、時間がかかることは目に見えていた。
それから遊楽は数回、数十回と魔力を必死に抑えようとしているが、全く進歩がない。
「これは、適性がないかもしれないねー。私も同じ感じだったし。いくらやっても力が抜けない感じ~」
「もうちょっとなんっすけどね。こればっかりは、こうした方がいいとか言える問題じゃないっすから。」
「あと少しだけやらせて。あと少しでお昼時だし、昼食の時間になっても無理だったら諦めるよ」
昼食までは、あと30分~40分程度。少しずつの進歩はあるが、あと3,40分で完全に抑えられるようになるかは、怪しい所だ。
残り数分で終わらせるために、遊楽は考えを変えた。今までは、頭の中のイメージだけで行っていたが、自分の目で自分の魔力の形を見ながら抑えることにした。プラス、ロウガやスシリに抑えようとしている時の魔力の形を教えられながらやることにした。
考えを改め、協力を受けてやり始めたおかげか、順調に魔力の抑制が出来る様になっていた。完璧にまでとは言えないが、2人が言うには「これぐらいの魔力量だったら感知もされにくいはず」と言う事だ。あとは、それを移動しながらも行えるかと言う事だ。しかし、今回時間をとれるのはここまでだった。そのため、後は遊楽本人の時間が空いているときに自己練習するしかなかった。
得られた経験は十分なものだったので、遊楽1人でもそれなりの練習が出来ることは、全員が分かっていた。
「それじゃあ、区切りもいいし、昼にしようか。ロウガ、忘れてないよね?」
「そりゃあもちろん」
そういうと、持ってきた鞄から6つのサンドイッチを取り出した。1人2つの様だ。
挟まっている具はあまり日本と変わらず、レタスやハムだ。味付けは特にされていなかったが、少し塩気が効いていた。
ロウガは一番早くに食べ終えた。次に遊楽、最後にスシリだ。
全員が食べ終わったのを見て、スシリは再び特訓を開始した。
「それじゃあ再開しよう。まず、短縮詠唱を覚えてもらうよ、と言いたいところなんだけで、ロウガも来たからもう一回模擬戦してみてくれないかな?」
「最初からそのつもりだったのでは?」
「ぶっちゃければそうなんだけど。ほら、始めるよ。ロウガも位置について。」
指示自体は急なものだったが、別に苦痛なことではなかった。そのため、遊楽もロウガも互いに間隔を取り、準備をした。
準備が完了した2人にスシリは木刀を渡した。しかし、ロウガの物は遊楽の物よりも多少短めだ。ハンデを付けたわけではない。ロウガはこの長さが丁度いいのだ。
「怪我をさせないように気を付けてくれるなら、その木刀は自由に使っていいよ。魔法もじゃんじゃん使っちゃっていい。ただし、ブーストとしてだけ。それ以外は禁止。了解?」
「了解です」
「まぁ、了解だ」
「そいじゃはじめ。」
「っ!」
スシリの開始合図は唐突なものだったため、遊楽は初撃を逃し、ロウガの一撃を先制攻撃として食らった。
(相変わらず速いなっ!)
ロウガの一撃は何とか防ぐことができたが、第2、第3とロウガの攻撃はやまない。
防戦一方だった遊楽は、反撃の隙を見つけ、攻撃に移動した。運動能力ではロウガが圧倒的に勝っているが、遊楽にはゲームで鍛えた知識と、実際に鍛えた体がある。そこが唯一の遊楽の勝機だ。
スシリは後ろで2人の動きを観察している。
ロウガは時々木刀を逆手で持ち、攻撃をしている。逆手での攻撃を見ることが初めてな遊楽は防御に戸惑っていたが、何回か攻撃を受けている内に慣れ始め、対処も出来る様になっていた。
模擬戦をすること15分。スシリは止めの合図を告げた。
「それじゃやめー」
模擬戦を終えた遊楽とロウガは互いに軽く礼をした。そしてスシリは手振りで2人を集めた。
「それじゃあ、まずお疲れさん。次に2人に助言をしようかな。まずロウガ。考える前に動く癖を何とかしなって毎回言ってない?」
「いや、まぁ、そうなんだけど…」
「まぁ別にロウガの場合はその後の行動に支障がないからいいけど、今回は他の人もいるからねー。まぁもう時間ないしどうしようもないけど。」
「うっ…」
ロウガは縮こまっている。遊楽はその姿を見て宥めようとしたが、すぐさまスシリが話しかけてきた。
「次に遊楽君だね。」
「はいっ!」
理由は分からず遊楽は緊張した声で返事をした。幸いなことに声は裏返らなかった。
「遊楽君も動きは悪くないと思う。ロウガよりも考えて攻撃してるみたいだし。た・だ・し!悪いところもある。」
「悪いところとは…?」
「まず、足までに意識が行ってない事だね。なんていうか、下半身の動きが固いよね。動きはいいのにもったいないね。」
「まずってことはもう1つ?」
「あるよー。もう1つは、ブーストの仕方がなってない。ロウガの説明はちょっと欠けてたから私が再説明すると、ロウガのブーストは自らの体を出来る限り電気に近づけてるからあそこまで早くなるんだ。遊楽君の場合は、推進力を増やすことしかできないから、難しいかもしれないけど頑張って。だからこれは悪いところではあるけど、そんなに厳しくは言わないよ。実際私もそこまでうまいわけじゃないしー。お疲れー。しばらく休んでていいよー」
遊楽は少し行った先の芝生で腕を組んで頭の下に敷き、横になった。気温は暖かく、疲労もたまっているので、すぐにも眠れそうな状況だ。遊楽は睡魔と幾分か戦闘したが、最終的には誘惑に負け、そのまま眠りについた。ロウガも寝てしまっているが、横になってではなく、胡坐をかいた状態で寝ている。
寝ている間、遊楽は夢を見た。光に包まれた真っ白な白い部屋に遊楽は1人で立っている。部屋ではなく、何かの場所でもない。辺りを見る限り、壁や扉、窓も見当たらない。そんな場所を遊楽は歩き始めた。
歩いた先にあった物は、1つの黒い球体だ。球体と言っても、形だけであって、その謎の物体の周りは謎のオーラで包まれている。この場では、闇と言ったほうが正解に近い。
しばらく観察していた遊楽は、目に光が無くなり、何かに取り憑かれたかのようにフラフラと歩き、闇に触れた。
すると、闇は遊楽の腕に纏わり付き、体まで浸食していった。体は闇に飲み込まれ、精神は蝕まれていた。
「うわぁぁ!…夢だよな。お決まりの取り憑かれルートか…?やだなぁ…」
遊楽は悪夢により目を覚まし、その内容を脳内で整理した。結果、遊楽の中では暗い考えになってしまった。
遊楽の叫びを聞いたスシリとロウガが様子を見に来た。
「大丈夫?特訓はここまでにしておく?」
スシリが不安そうに遊楽に問う。
「いや、大丈夫です。ご心配おかけしました」
それに対して、遊楽の答えはこうだった。ロウガは隣でそっと見つめてる。ロウガの足元にいた冷は、遊楽の方に歩み寄っていた。
冷に気づいた遊楽は、冷の頭をなでながら顔を緩ませた。冷は尻尾を振っている。
「それじゃあ特訓再開しようか。と言っても、後はじゃんじゃか魔法打つだけだから。これからやるのは、詠唱破棄の為の特訓。使い慣れた魔法なら1部分だけの詠唱で済むんだ。そもそも詠唱って言うのは、本来、体が覚えてるはずの魔法を言霊として出現させるものなんだ。だから、慣れって言うよりも、思い出すって言うほうが正しいのか。ささっとやらないと帰れないかもよ~。」
そういうと、1つの巻物をスシリは遊楽に投げ渡した。
中身はカシオ・フォルズが使っていた、魔力を矢として具現化させ攻撃する魔法と同じものだ。詠唱の『雷精』の部分が、『炎精』に差し替わり、属性が変わった物だ。矢の本数は、最初こそは少ないが、使えば使うほど魔法に慣れ、自分の意のままの本数まで増やすことが出来る様になる。
「多分ちょっと進んだところにそれなりの大きさの岩があるから、それに向けて打てばいいと思うよ。火が燃え移ったら適当に消しといて。」
「そんな雑な…」
「冷ちゃんは遊楽君の付き添いねー」
「ワンッ!」
冷はスシリの言葉を理解して、スシリに対して返事をした。ロウガ同様、同じイヌ科同士お互いに意思疎通ができる。この場では、遊楽のみが冷の言葉が分からない。気持ちを受け取ることは出来る。鳴き声や表情で言いたいことを読み取ることもできなくはない為、言葉以外による意思疎通は可能である。
遊楽と冷は、スシリの言っていた岩を探しに歩き始めた。少し歩いた先に、スシリが言っていたものだと思われる岩が出てきた。
「確かに大きいけど…いくらなんでも大きすぎないか!?」
その岩は、遊楽の身長の4倍ほどの高さがある。横幅は遊楽の身長の3倍ほどだ。形もある程度整っているものだ。
「こんな立派なものに攻撃でもしたら祟りでも起こるんじゃないかな…?まぁ結局はやらないといけないんだけどなぁ…」
遊楽はスシリからもらった巻物を渋々(しぶしぶ)広げ、詠唱を開始した。
『炎精よ、数多の矢を持て、敵を討ち取れ』
矢は出現したが、出現した本数はまだ2本。戦闘で使える魔法としては程遠い。
「こりゃあ、きついぞ…。昼である手度魔力は回復したけど、またかなり使うだろうなー…」
辛いとはわかっていても、遊楽はひたすら魔法を打ち続けた。冷は少し離れた場所で丸くなってる。スシリの話では、遊楽がオーバーヒートや魔力切れで倒れた時、護衛、または、誘導の為におとなしくさせておくという事だ。
遊楽が魔法の練習をしている間、ロウガは裏山周辺を走っていた。スシリ曰く、体力の向上、速さにより磨きをかけるための特訓だそうだ。ブーストも頻繁に使いながらの特訓だった為、魔力量の向上、ブースト適応までの時間短縮にもなっていた。時刻は約14時。ほとんどの人が外に出ているため、あちこちでロウガの目撃情報が挙がっていた。
スシリは、平たい岩に座っていた。【認識遮断】を使った状態で。この魔法は、相当便利な固有魔法だが、その分、相応の魔力を伴う。そのため、あまり長時間は持続し続けることができない。スシリの特訓内容は、魔力の拡大ではなく、【認識遮断】使用時の魔力を、最小限に抑える物だ。放出系統の魔法ならば、威力を抑える、または範囲を狭めることで消費魔力は抑えることができる。しかし、援護系統の魔法は、効果を薄めるほかに魔力を抑える方法はない。そのため、スシリは【認識遮断】が起動する魔力量と、起動しない魔力量の境目を探している。特訓と言えども、消費魔力量は計り知れない。そのため、座っている岩の隣には、ロウガが持ってきた鞄にスシリがあらかじめ入れておいたマジックポーションが置いてあった。遊楽とロウガにも配布済みだ。
集合場所は、遊楽が寝ていた芝生が一面に広がった場所だ。集合時間は水の刻が風の刻に変わる頃。地球の時刻では約18時だ。その時間に集合することになっていた。
集合時間までは、残り4時間程余っている。その間、3人は特訓に励んでいた。
今回も、最後まで読んでいただいてありがとうございますー。狛太郎です。
今回は、3人の特訓回だったので、次回はアリエス、ルーイペアについて書きますのでお楽しみに。
また、私ごとではありますが、リアルの方が忙しくなってきたので、投稿ペースが落ちると思います。
気ままに待っていてもらえると助かります…
それでは、また次回。
バィビィー☆(´ゝ∀・`)ノ