忙しい観光
無事にルーイの故郷、ビジョンに3人は到着した。
(ビジョンって確か英語で、理想像とか未来像って意味と、幻影とか幻って意味だっけ?今回当てはまるのは2つ目の方かな?)
遊楽がそんなことを考えていると、アリエスが馬車を村に向かって進め始めた。高い壁が設置された村の中にある1つの門から遊楽一行を乗せた馬車は入ろうとしている。その時、アリエスはある疑問を浮かべた。
「ルーイさん。1つ質問なんですけど、馬って入れるんですか?」
アリエスが不安に思うのも当然である。遊楽とアリエスは、ルーイからもらった腕輪を付けているが、馬車の馬は何もつけていない。正確には蹄鉄という蹄を保護するものが付けてあるくらいだ。
「ご心配は無用ですよ。私たち妖狐も、実態があり血が通っています。村の結界は血液に反応するものです。そして、このお馬さんに限らず、動物は私たちと血液が似ています。なので、入ること自体に問題はありません。もちろん、村自体も見えていますよ。」
アリエスは納得したようで、「なるほど」と言った表情だ。遊楽は、驚くのではなく、その情報を自らに取り入れている。この先の冒険で役に立つかもしれないからである。
「村の中に入っても腕輪は外さないでくださいね。好奇心とかそういうのは全て捨ててください。そうしないと…言わなくても分かりますよね?」
「「はい、承知しました!」」
遊楽とアリエスは同時に声を上げた。
「腕輪か…。なんか忘れてるような…」
「どうしたの遊?何か置いてきた?」
遊楽は腕輪というフレーズに何か突っかかりを覚えていた。
「あー!思い出した!黒牙虎の宝玉だよ!アクセサリーに変えてもらうって言ってたじゃん!」
「確かに!どうしよう?」
遊楽は焦り、アリエスは冷静に考えている。馬の話をしている時と立場は全く持って逆だ。
悩んでいる2人にルーイはある提案をした。
「あのぉ、よろしかったら転移魔法でお送りしましょうか?」
「本当ですか!お願いします。」
遊楽は頭を下げた。アリエスも下げようとはしているが、何せ運転中なので下げる方が危険なため下げられない。
「お、落ち着いてください。送るのは私じゃありませんし。私の知り合いに転移魔法に特化した方がいるんです。」
「なるほど。そういう事でしたか。まったく遊は早とちりしすぎじゃないかしら?」
「焦ってたんだよ…」
遊楽は少し顔を赤くしながら答えた。
「そろそろ入るわよ。」
アリエスの一言で我を取り戻した遊楽は、顔を前に向けた。そこには、数々の家や、店が立ち並んでいた。街の中心と思われる場所には、大きな城が立っていた。ただし、その城は中世ヨーロッパに有りそうな古城ではなく、いかにも武士などが住んでいそうな古風の日本の城だった。
「ここがルーイさんの故郷か~。」
「特にこれと言ったものはないですけど…。」
「まずは馬車を止めたいんですけど、どこに止めればいいですか?」
「一度ここで止めてください。客席を離してから、あそこのお店にお馬さんを預けます。客席は端の方にずらしてもらえますので、荷物を取り忘れないでくださいね。」
アリエスは、なるべく端寄りに馬車を止めた。そのあと、全員が馬車から下車し、馬と客席(荷車)を離し、馬を先ほどルーイが指していた店に連れて行った。
「まず初めに、私の家に寄らせてもらっていいですか?もちろん、知り合いの転移魔法のお店も行きますよ。それでも、家族に無事を知らせたいという気持ちもあるもので…」
「もちろんです。」
ルーイの提案を咎めることは、遊楽もアリエスもしなかった。むしろ、2人ともルーイの家がどんなふうになっているのか気になっていた。
「それでは、行きましょうか。私についてきてください。」
遊楽とアリエスは、ルーイの後ろについて行った。市場と思われる場所を通り1つ目の角を曲がったところにルーイの家は合った。家の作りとしては、日本で言えば、和装建築であり、入り口の扉は横開きの引き戸になっている。
ルーイは、遊楽とアリエスがしっかりとついてきていることを確認してから、家の中に入った。
「ただいま帰りました。」
ルーイが帰りの挨拶をすると、奥から激しい足音が聞こえてきた。
その正体は、1人の妖狐だった。
「姉貴―!やっと帰ってきたか!それとその隣の人は…」
(誰?弟かな?)
弟と思わしき人物は、遊楽のことをじっくりと観察している。特に痛い視線というわけではないが、優しい視線でもない。
「そうか。そういう事だな。おーい母さん、姉貴が男連れてきてるぞ!」
「男だってー!」
女性らしき声が聞こえたと思ったら、奥からまた足跡が聞こえてきた。ただし、今度は少し小さめの音だ。
「ほほぅ、あんたがうちのルーイの男か~。」
次に現れた妖狐は、身長が140~150センチ代の少し低めの女性だった。しかし、弟と思わしき人物が「母さん」と言ってるからには、母親なのだろうと、遊楽は考えていた。その反面、顔立ちがかなり若いと、遊楽は思っていた。声も高めだ。
「お母さん、違います!この方たちは、私の依頼を受けてくれた方たちです!」
「「どうも。」」
遊楽とアリエスは、1度礼をした。浅すぎず、深すぎず、常識の範囲内のレベルで。
「そういう事だったのか。あら残念。立ち話もなんだから、どうぞ中に。」
「「おじゃまします」」
遊楽とアリエスは、靴を脱ぎ早速失礼したが、ルーイは玄関で疲れたように溜め息をついた。
通された部屋は、居間だ。家の外見通り、日本の古い伝統とよく似ており、中も大変よく似ている。なぜなら畳人になっていたからである。遊楽としては、日本を思い出させる、嬉しいような、少し悲しいような複雑な心情にさせる部屋だった。それに比べてアリエスは、畳部屋のあちこちを見渡している。普段見ることがないようで、興味津々である。
遊楽とアリエスは、ルーイの家族に断りを入れ、座らせてもらった。畳なので、当然のように遊楽たちは床に直で座った。
全員が座ったことを確認したルーイは、自らが司会として、話を進行し始めた。
「それでは改めまして、こちらの2人が今回私の依頼を受けて下さった、遊楽さんと、アリエスさんです。」
「どうも。最近冒険者を始めました、安井遊楽と申します。」
「私も最近冒険者を始めた、アリエス・レイ・ランゼルと申します。」
2人が挨拶をすると、アニメやゲームでは稀にある台詞が、母親から流れてきた。
「そんな固い言葉じゃなくていいよ。うちのルーがお世話になってるんだから。」
ルーイの母親は、笑顔でそう答えた。ルーとは、ルーイのことらしい。
「こっちの2人が、私の母と弟です。」
ルーイは2人を指した。
「どうも、ルーイの母親やってます、スシリ・メルンです。」
彼女の母親のスシリは、かなり明るい性格で、遊楽たちとは初対面ではあるが笑顔でいる。かなり人付き合いがいい。髪の毛の色は、ルーイと同じく黄色だ。不自由に見えるほどではないが、尻尾が少し体の大きさに比べて長い。
「弟やってます。ロウガ・メルンっす!」
弟のロウガもかなりの笑顔の持ち主だ。元気強く、弟という立場でも、かなり頼りになりそうな雰囲気を醸し出している。また、敬語が苦手なようで、「です。」「ます。」調ではない。だが、遊楽もアリエスもその口調に関しては特に文句はない。彼の毛の色は黄色の割合が多いが、茶色の毛も交じっている。比率で言うと黄色が7割程で、茶色が3割程だ。
「それと、お母さん!念押ししておきますけど、遊楽さんは依頼を受けてくれただけで、なんの関係もありませんから!」
「分かってるよ。今はそういう事にしとくよ。」
「もういいです…」
ルーイはかなり疲れたように再度溜め息をついた。体力的な疲労ではなく、精神的な疲労であろう。
彼女の母親、スシリを説得しているルーイを見て、アリエスは1つ疑問が浮かんだ。
「あのぉ、お父様はどうなされたのですか?先ほどから見当たりませんけど…」
その瞬間、空気が重くなったように感じられた。その理由は、メルン一家が、少し暗めの表情になったからである。
説明を始めたのは母親であるスシリだ。
「1年前に、さらわれました。相手が、かなりの人数を連れてきまして、他の古式魔法の使い手を守るために犠牲になりました。けれど、必ず生きてます。」
「何も知らずにそんなことを聞いてすいませんでした…。」
アリエスは暗めの表情で答えた。しかし、それに対するスシリの回答は、少しばかり朗報と言えるものだった。
「そんなに気にしないでください。家族全員、行方の手がかりはつかんでますから。」
「もしかして、今回の僕たちが倒すべき相手の本拠地ですか?」
「その通りです」
遊楽の予想は見事に的中した。少なからず、今の会話の流れから見たら、よほど頭の回転が遅くなければわかるだろう。無関係な家族の事情は、どこの家庭でもよっぽどなことがなければ話さない。今回はそのよっぽどな事例だったということだ。
「それでは、行きますか。時間は有効に使いませんと。」
遊楽はゆっくりと立ち上がった。しかしそこで、移動しようとした遊楽の足は止まった。
「ちょっと待ってほしいっす。」
声を掛けたの、弟のロウガだ。
「なんでしょうか?」
遊楽は静かに振り返った。気付けば先ほどまで座っていたロウガも立っている。
「俺と、1度勝負してはくれませんか。今回、本当にあなたに任せていいのか確かめておきたいんで。おなしゃす!」
ロウガは勢いよく腰を折った。その横では、ルーイは頭を抱え、スシリは溜め息をついていた。この2人にも予想外な出来事だったらしい。
「それは別にかまいませんけど、どこかやれる場所があるんですか?」
「それなら心配ご無用っす!近くにそこそこな闘技場があるですよ。なんかちょっとした模擬戦とかで使うんっすよ。割と普段からそこ使ってるんで、管理人の親仁さんに頼めば使わせてもらえると思います。」
遊楽は、話を理解し、ロウガの申し込みに承諾した。
ロウガが引き戸を手を掛けたタイミングで、アリエス、ルーイ、スシリは立ち上がった。遊楽は既にロウガの後ろをついて行っている。
ロウガは全員が家から出たことを確認してから、「こっちっす」と一言いい、全員を案内した、どうやらルーイは全く知らないらしい。スシリは、どうやら知っているようで、目が様々な場所に向いている。
数分を歩くと、工房が出てきた。正面の入り口は完全に開いている。工房の入り口とは別に、休憩室のドアも存在している。
「クーパの親仁、どもっす!」
ロウガは片手をあげ、軽くあいさつした。
クーパと呼ばれた男性は、身長が高く185センチメートルは確実にあると遊楽やアリエスにもわかる。しかし、表情は実に豊かで、一目で温厚な性格の持ち主だと分かる。
工房なのでもちろん様々な物を生産している。武器や防具と言った冒険者向けの物から、椅子やテーブルと言った生活用品、インテリアも交じっている。そして、その奥に闘技場の扉が存在している。本来の使用目的としては、試作武器などの実験場として使っているらしいが、今では模擬戦や、試合会場として使われている。現在、観客席と変わってしまった周りの広大な座り場は、実験の過程を見る為に設けたものらしい。試作武器の試しをするのはクーパ本人ではなく、この村でのギルドで希望者を募集するそうだ。理由としては、本人があまり運動が得意ではないというのが1つ。もう1つは、第三者の立場で見たほうが、改良するべき場所が見つかるらしい。
「今日は連れさんがたくさんだな。実験室なら空いてるぜ。」
ロウガは一足先に実験室に足を運んだ。ロウガを除いた遊楽、アリエス、ルーイ、スシリは軽くクーパに礼をし、実験室に足を運んだ。
実験室の形としては、丸いドーム型になっている。窓がかなり付けられており、所々空いている。しかし、風があまり強くないため、支障が出るようなことはない。
実験室を一望した遊楽は、中心の砂場になっている場所に向かった。その際、遊楽はアリエスに上着を渡して、半袖になっていた。
既にロウガはスタンバイ済みだ。残りの2人は観客席に向かった。クーパは、現在も職務時間なので、工房で働いている。
「それじゃあ、今回のルールとしては、武器や、相手を死亡させる魔法、後は解除不能な魔法も駄目っす。ルールはこんな感じでいいっすか。」
「もちろん。どうぞお手柔らかに。」
「今回の審判は、姉貴に任せたいと思うんですけどいいっすか?」
「構わないよ。アリエスには冷をまかせたいしね。」
「冷って言うのは、あの狼のことですか。」
「そう。その通り。」
遊楽とロウガが会話している間に、ルーイは二人の中心に立っていた。しかし、完全に真ん中というわけではなく、少し離れている。距離的な関係で言えば、まんなかというだけだ。
「それでは始めたいと思います。1つだけ言わせてもらいますけど、遅くても明日には乗り込みに行きたいんですから、お互い重傷とかやめてくださいね。」
ルーイが声を掛けた瞬間、遊楽とロウガが戦闘態勢になった。
準備が終わったこと確認したルーイは、口を開けた。
「それでは、初め!」
お互いが相手めがけて走り始めた。しかし先に攻撃を入れたのはロウガだ。それは一瞬だった。ロウガの体に稲妻が走り、一瞬で遊楽への距離を縮めた。
遊楽はかろうじて防御をしたが、かなり危なかった。狙われたのは脇腹だ。
「今の攻撃を防御できるんっすか!さすがっすね。」
「それより今の速さの秘訣をおしえてもらえないかな。身体能力とか言うのはなしだからね。」
ロウガは、にやっと笑った。ただしその笑みは悪巧みの笑みではなく、楽しんでいるときの笑みに近い。
「これも魔法ですよ。雷の原理と同じっす。うまい具合にそれを再現してるんっすよ。」
「そうか。まったくわからん。」
「まぁ、そんな深く考えなくても、移動が速いことを考えておけばいいんですよっ!」
ロウガはまた一瞬で遊楽に距離を縮めた。しかし、遊楽に攻撃は当たらなかった。なぜなら、ロウガの上を遊楽が飛んだからである。
直線に進んできたのだから、上に飛べばいいだけ。
遊楽はそう考えたのだ。
その後、ロウガは移動のパターンを変えてきた。当然だ。このまま行っても避けられるだけだからである。
(魔法を動きに付け加える、か。ロケットのイメージで出来るか?)
遊楽は一瞬だけそのことを考えた。長く考えていると隙が出来るからである。
遊楽は、肘の中心にジェットの噴出している炎を想像した。
(暴発しないイメージで!)
その瞬間、遊楽は右肘に力を入れ、魔力を籠めた。ロウガは遊楽の左側からきている。遊楽の想像通りに行けば、肘からのブーストで、ロウガに一発入れられる計算だ。
「そいやっ!」
遊楽は、右手の拳を握り突進してくるロウガに振った。イメージ通り、魔法はジェットのような推進力増加の役割を果たした。しかし、攻撃自体は不発に終わった。その理由は、遊楽のブーストが成功したところから、ロウガは減速を開始し、近づくをやめたからである。体のどこにもかすっていない。
遊楽はもう一度ブーストを挑戦しようとした。しかしその前にロウガが両手を上げた。
「降参っす。魔法を自分の強化に回す方法を一瞬で行えたってことは、それなりの強さを持ってる。だからこの勝負は終いでいいっす。ありがとうございました!」
「こちらこそ。ロウガさんの戦い方には、見習う事だらけだったからね。本当にありがとう。」
ルーイは少し迷いを見せたが、審判として試合を終わらせた。
「それでは、これにて勝負を終了します。今回は引き分けってことでいいですよね。」
「遊楽さんがそれでいいなら。」
「引き分けにしてくれてむしろありがたいですよ。このままいけば確実に負けてましたし。」
遊楽とロウガの試合は、これにて閉幕。遊楽にとっては、かなり経験値が増えた。魔法の他の使い道から、魔法の感知が可能なことまで。
遊楽は、満足してアリエスから上着を受け取り、実験室から出ようとしていた。既に観客席にいたスシリとアリエスは出ている。アリエスはもちろん冷を抱えている。試合の途中で目を開けたらしいが、またすぐに眠りについたそうだ。
出入り口に着いた遊楽は、出ようとしていた。そこで、ロウガから呼びかけが入った。
「遊楽さん!」
「はい!」
急な呼び出しだったので、反射的に遊楽も声を大きくして返事をした。
「あのですね、これから兄貴って呼んでもいいっすか!あなたの戦闘能力はすごいです。正直に言って、憧れましたっす!どうかお願いします!」
「別に構いませんけど…。ルーイさんとスシリさん的にはいいんですか?」
質問の理由は簡単なことだ。まったく違う人種の遊楽に、自分たちの身内がこんなに馴れ馴れしくていいのかということだ。
最初に応えたのはルーイ。
「ロウガと遊楽さんが良いのなら。」
続いてスシリ。
「私もルーに同じだよ。」
どうやら、断れる雰囲気ではないと悟った遊楽は、
「という事らしいですよ」
と、一言。それに対してロウガは、笑みを浮かべた。
「それじゃあ兄貴と呼ばせて頂きます!俺のことはロウガでいいっす。それと、俺に対しては全然タメ口でいいんで!」
「それじゃあロウガ、これからよろしく。」
「ハイっす!」
ロウガはかなりうれしいようで、ご満悦な表情だ。遊楽にとってはも、仲間が増えたような感覚でうれしかった。
ひとまず一行は、実験室から退出し、クーパに礼を告げてその場を去った。
「それでは、一度二手に別れましょう。」
発案したのは、ルーイだ。遊楽達の中で一番しっかりしている為、全体をまとめないという気持ちが出たのだろう。
「私とアリエスさんチーム、お母さんとロウガと遊楽さんチームで別れましょう。遊楽さんは冷ちゃんの怪我の治療に行ってください。私はアリエスさんを知り合いの転送屋に連れて行きますから。それでいいですか?」
「もちろんです。そっちは頼みます。」
「それじゃあ、集合場所は私の家ってことで」
集合場所の提案をしたのはスシリだ。
「それじゃあ、また後で。」
遊楽の一言で、二手に分かれ、互いの目的地を目指した。
遊楽チームは、スシリの案内で腕の立つ回復魔術師の元へ向かった。ロウガも、「自分の知っている中では、一番の回復術師っす!」というほどだ。少なくとも、この2人が頷くという事ならば、遊楽の中でも安心できるものがあった。
その頃のアリエス、ルーイチームは、遊楽チームの真逆の方向に進んでいった。移動中は、街の案内もあったが、基本世間話だった。アリエスは遊楽とは違い、元からこの世界の住人なのだから、話が成立するのは当然である。
「そういえばアリエスさん。遊楽さんとはどこで出会ったんですか?」
「まぁ色々ありまして、敵に追われているところを助けてもらいました。その先はお互いの意見が一致していたので、それだったら仲間にならないかーって感じですね。そんなに深い理由はありませんよ。がっかりしましたか?」
アリエスはルーイの様子を窺っている。
「そんなことないですよ。敵に追われている中ですか…。王子様みたいですね。」
ルーイは素の笑顔をアリエスに見せた。
「そんな感じじゃないですよ。そう思えるのは、実際の現場を見てないからですよ…」
「そうですか?それでも、そこで出会ったってことは何かしら運命があったんでしょうね。」
「運命ですか。敵に追われるような運命ですか。考えたくないですね。」
「あっ、少し無神経でしたね…。すみません」
「気にしないでください!そんな気にしてませんから」
こんな、出会いの話をするほどまでに、アリエスとルーイの間は縮まっていた。出発時から既に2人の友好関係は良かった。それがさらに良くなったという感じだ。
遊楽チームは、無事に回復述師がいる場所に着いた。そこは、店というわけでも、病院というわけでもない。誰がどこからどう見てもただの家だ。周りの家と比べると、少しでかいように感じられた。遊楽は、本当にここが目的の場所なのかと疑い始めた。しかし、だからと言って、2人を信用していないわけではないので、おとなしくついて行った。
スシリは引き戸の前に立つと、軽く2、3回ノックした。
すると中から、「はーい」と言う1人の男子の声が聞こえてきた。遊楽が男子と考えた理由は、こちらに向かって来たシルエットが成人より低かったのと、声が男寄りの声で、まだトーンが高かったからである。
「はーい、どちら様でしょうかって、お前か。また怪我したのかよ…」
出てきた少年と、ロウガは知り合いの様だ。
「ちげーよ!今回は俺じゃねぇ。兄貴、どうぞ」
ロウガは、静かに後ろに移動した。
「こんにちは。この子なんですけど、診てもらえますか?」
遊楽は、軽く挨拶をして、冷を彼に見せた。
「酷い怪我だなこりゃ。少し待っててくれ。師匠に聞いてくる。」
(師匠?)
遊楽はすっかり彼が治療をすると思っていたので、師匠と聞いて、少し戸惑っている。そこに、ロウガが彼についての説明を入れてきた。
「あいつはセルア、俺の幼馴染っす。認めたくはないっすけど、治療の腕に関しては、昔から学校では上位に入るレベルでした。」
「そして、ロウガの怪我を良く治すのも、セルアなんだよね」
「なっ!母さん、余計なこと言わないでくれよ!」
ロウガは本気で悔しそうで恥ずかしそうだ。そのすぐ隣でスシリは笑っていた。
話している間に、セルアが引き戸から再度で出てきた。
「どうぞ中へ。」
一言そういうと再度中へ入って行った。しかし、今度は案内を含めているためゆっくりとだ。
遊楽達は靴を脱ぎ中に入って行った。
家の外見自体は他の家と変わらなかったが、内装はそうでもないらしく、一階は部屋が1つしかない。しかもその部屋には様々な医療器具や医療用薬品が棚にきれいに整頓されている。
「師匠、連れてきました」
セルアが師匠と呼ぶ人物は、女性だった。
「やあやあ、君が今回の依頼人君だね。私はライト・サガ。君の名前は?」
遊楽の予想に反して、セルアの師匠は医者としてはかなり声量がでかく、活発だ。
「ど、どうも、安井遊楽です。」
「どうも遊楽くん。そんでもって、診てほしいのはどのこだい?」
「この子です。」
遊楽は、冷に衝撃を与えないようにそっと見せた。
「こりゃ珍しい。スノーウルフとはねぇ。どこでこの子を?」
「この村に来るときの野宿で、怪我をしているところを見つけたんです。」
「それはそれは。この子はだいぶ幸運だったようだね。」
サガの声の大きさは変わっていないが、彼女の眼は確実に医師の眼になっている。
「それじゃあ、今日一日預からせてもらうわー。それでいいかい?」
「お願いします!」
一日で済ませられるという驚きと、心から治ることを願って、遊楽は力強く返事をした。スシリとロウガは、それを後ろからそっと見ている。
サガとセルアを除く3人は、家を出た。治療の邪魔になると言われたわけではないが、普通に考えればこのような行動に出るだろう。
「それじゃあ、一度我が家に戻りますか。」
提案者はスシリ。
「僕はこの村を回りたいんで、後で行きますよ。」
「そういう事でしたらお供しますぜ、兄貴。案内が必要でしょう。」
「それじゃあ、お願いしようかな。スシリさんはどうします?」
「私は帰ってるよ。」
こうして、遊楽チームの仕事は一時的に終わった。
アリエス、ルーイのペアは、遊楽チームが治療を頼み始めたころに、転移魔法の店に着いた。
店というだけあって、外装からかなり違う。表には堂々と「転移魔法」という看板が立っている。ドアもこの村では珍しい両開き戸(観音開き)になっている。
「それじゃあ入りましょうか。」
「は、はい」
アリエスは少しばかり緊張している。始めての場所に対するものだろう。
先にドアを開けたのはルーイだ。両開き戸の右側に鈴がついており、開いたと同時にきれいな音が流れた。
「なんかすごい…」
アリエスは店の内装に圧倒されていた。内装は洋風になっているが、かなり分かりにくくなっている。その理由は、全面と言っていい程、壁という壁が本で埋まっているからである。どれも、古い書物で、アリエスの歴史欲をくすぐるものだらけだった。
しかし、アリエスにも礼儀というものはある。さすがに無許可で他人の物を触るのはしない。しかし、かなりそわそわしている様子で、第三者としてみているルーイは、目的を忘れていないか不安になっていた。
する遠くから、歩く跡が聞こえてきた。
「いらっしゃっせー。ようこそ、私の店へ。」
「久しぶりね、レイル。」
「なーんだ、ルーか。久しぶり。今日はどうしたの。もしかして、そっちの人が依頼人かな?」
「どうも、あなたがルーイさんの知り合いの転移魔法を使えるって方でしょうか?」
「知り合いじゃないさ。しっかりとした友達だよ。親友と言っても過言ではないね。」
レイルは、セーターを着ている。この世界では珍しい眼鏡もかけている。カウンターに隠れてズボンは見にくいが、簡単に見た感じ、緩めのズボンを穿いていた。
「そのぉ、仕事とは関係がないのですが、2つ質問させてもらっていいですか?」
「どうぞどうぞ」
「1つ目は眼鏡がものすごく気になるのですけど、もしよろしければ教えてもらえますか?」
レイルは、最初はきょとんとしていたが、すぐに笑い始めた。
「そんなことだったのね。理由はズバリ、頭が良さそうに見えるからだよ!」
「実際に頭いいじゃない。」
ルーイは、褒め言葉と受け止められるツッコミを返した。
「えへへ、照れますなぁ。それで、2つ目は?」
「それともう1つ、ものすごく個人的なことなのですが、私の依頼が終わったら…」
「終わったら、なんだい?」
アリエスは興奮を抑えつつ質問をしようと思い、1度息を整えた。
「終わったら、ここの本を読ませていただけませんか!ここにあるのは様々な歴史書の数々。どれも私の歴史への探求心をくすぐるものだらけです。一度でいいんです。読ませてください!」
アリエスは腰を折って懇願した。その想いは、簡単にレイルに伝わったようで、再度笑いながら返答した。
「あはは!面白いね、君!名前は?」
「アリエスです。」
「それじゃあ、アリエス。君に返答を言い渡そう。じゃんじゃんこの店に来てくれ。本が目的で構わないよ。私も歴史についてはかなり興味があるからね。お互いの知識を存分に語り合おうじゃないか!」
そういうと、レイルはアリエスの手をつかんだ。同時にアリエスの顔は緩み、笑顔で満ちていた。本来の目的を忘れてしまうほどに。
それを見ていたルーイは、咳払いをした。よくある合図だろう。
その咳を聞いて、アリエスはやっと我に返り、この店に来た本来の目的を思い出した。
「あっ、そうでした。転移魔法をお願いしに来たんでした。」
「そういう事ならお任せあれ。今回はサービスで無料だよ。その代りに、歴史についての話はたっぷりじっくり聞かせてもらうから。」
「了解です。帰ってきたら存分に話し合いましょう。」
店に到着してからかなりかかったが、これでリーンの街に一時的に帰ることが出来る様になった。
一安心したルーイは胸を撫で下ろした。アリエスは興奮でそれどころではない。
リーンの街に帰るよりも、その先の話し合いが楽しみで仕方がないようだ。
「はいそれじゃ、私と手をつないでー。ルーイは分かってると思うけど、私の運べる限界は1人だけだから、ルーイは店番頼むよ。」
「お客さんは返しちゃっていいの?」
「あぁ、それでいいよ。どうせ来ないだろうけどねー。それじゃあ、アリエスさんは奥に来てー。」
アリエスとレイルは手をつなぎながら奥の部屋へ向かった。手をつなぎながら行ったのは、レイルが特殊な性癖を持っているからではなく、アリエスの魔力を知るためだ。転移魔法に限らず、他の誰かに関与する古式魔法は、基本相手の魔力を細かく知っていないといけない。(攻撃魔法は別物)そのため、手をつなぎながら移動した。
奥の部屋には、一つ魔方陣があった。
「詠唱魔法ではないんですか?」
「まぁ詠唱でも行けるんだけど、そういうのめんどくさいって思っちゃうからさ。魔方陣なら一度書けばずっと作用するじゃない。」
「それじゃあ帰りは?」
アリエスは不安そうに尋ねたが、答えは安心するものだった。
「帰りに関しては大丈夫。私の魔方陣は、出発地点を設定しとけば、簡単に戻れるから。その副作用で30分で強制的にここに戻されるんだけどね」
アリエスは納得したようで、縦にうんうんと頷いている。関心と驚き、納得の3つが混じっている。
「行先は?」
「リーンの街です。」
「具体的には?」
「えーとですね、リーンの街の、ブリックスという武器屋さんです」
「りょーかい。それじゃあ行こうか。」
レイルは1つ深呼吸をすると、転移を始めた。
「転移 リーンの街 武器屋ブリックス」
2人の体が光に包まれる。魔方陣から放出されている光だ。入り口の方までは光漏れしていないが、2人がいる部屋は青白く光っている。
その瞬間アリエスは目をギュッと閉じた。
「はーい、到着。着いたよ、アリエスさん」
アリエスはレイルのその言葉を聞いてそっと目を開けた。彼女にとっても初の体験だったのだろう。だが、かなり貴重な体験だ。
そして、目の前にはブリックスの店がある。
アリエスは、ただ驚くだけでその場に立っている。
レイルは「どう?どう?」と言わんばかりにアリエスの顔を見つめている。
「すごい…。これもあの歴史書を参考に?」
「その通り、なんといってもあの魔方陣には術者の負担を減らす細工をしてあったり、一緒に来る人の体に不快感が行かないように工夫がしてあったり…って説明してる場合じゃないよ!早く行って、用事を済ませてきちゃいな。この話はあとでゆっくりしよう。」
「そうですね。それじゃあ入りましょうか。もしかしたらここにある武器を応用できるかもしれませんから、一緒に行きましょう?」
「確かにそれは一理あるかも。武器関係の歴史書や、使用報告書もあったからね。それじゃあお付き合いしようかな」
結局、レイルも店に入ることになり、2人は扉を開けて、入店した。
奥のカウンターにアリエスは向かい、ブリックスを呼んだ。その間レイルは様々な武器を見ている。一番興味を示しているのは太刀だ。
「ブリックスさーん。いますかー?」
アリエスが問いかけると、奥からガタガタという音がした。その後、ずっしりとした足音がカウンターに向かい始めた。
奥の扉からブリックスが出てきた。片手には皮手袋をしていて、その手にもう片方の皮手袋を持っている。アリエスが呼ぶまで作業をしていたらしい。
「あの時の嬢さんか。宝玉の件だろう?」
「はい!忘れていてすいません…」
「がっはは!そう気にするな!実際さっきまで俺も忘れちまってたからよ。」
最初は笑っていたが、当の本人も最後の言葉は真顔だった。
「奥にあるからちょっと待っててくれ。すぐとってくるからよ。」
そういうと、ブリックスは再度奥の扉を開けて入って行った。その間、アリエスはカウンターの前でしっかりと待っていた。
レイルはまだ武器をまじまじと見ている。しかし今度は弓を、それも本体ではなく矢を見ている。時々ボウガンと比較しているようだ。
数十秒後、ブリックスが奥から出てきた。その手には、1つの箱があった。
「ハイよ、お待たせ。」
そういうと箱をカウンターに置き、中身をアリエスに見せた。中には一つの指輪とネックレスが入っていた。どちらも元は黒い宝玉だったが、ブリックスの加工のおかげか、少し紫が混じっていて、美しく輝いている。
「このネックレスがあんたのだ。こっちの指輪はあの坊主に渡してやってくれ」
「はい。ありがとうございます。また頼むと思いますので、これからもよろしくお願いしますね。」
「おうよ。これからも加工のやりがいがありそうな材料待ってるぜ」
アリエスは、この場でネックレスを付けようとも思ったが、帰ってからつけることに決めた。女性同士で話がしたいというのもあるだろうが、今はあと何分で強制転移されるか分からないからやめたのが本当の理由だ。
「レイルさん。終わりましたよ…ってまだ見てたんですか?」
「うんにゃ。でも収穫は十分。帰ったらちょっと話があるかなー。とりあえず外に出ますかね。」
レイルは先に出口に向かい、そのあとをアリエスがついて行った。
出口を出たら、レイルは足を止めた。
「それじゃあ帰りますか。また手をつないでもらえるかな?」
「はい。お願いしますね。」
アリエスがレイルと手をつなぐと、レイルは手をつないでいない方の手を上げ、指をパチンと1度ならした。指を鳴らして1秒もかからないうちに、2人は店についていた。今回は青白い光も、転移場所の指定もなしに一瞬にして移動が終了した。また、アリエスは驚きのあまり呆然としている。
「こっちの方が驚いたかな?すごろくの原理と一緒。行くのは難しいわりに、出発地点に戻るのは一瞬。何度これで負けてきたことか…」
レイルはかなり悔しがっている様子を見せた。それに構わず我を取り戻したアリエスは、入り口に戻った。
入り口では、ルーイが本を読んでいた。召喚魔法に関しての歴史書を読んでおり、数冊カウンターに積み重なっていた。
2人に気づいたルーイは本を閉じ、2人の方を向いた。
「お帰りなさい。物はありましたか?」
「この通り無事にありました。私はネックレスだったんですけど、付けてもらえますか?」
「えぇ、もちろん」
「ちょっと待って!私やりたい!」
付けようとしていたルーイを止め、レイルは自分の意見を主張した。
「いつまでたっても、人のことをやろうとするんだから…。まぁ、慣れたけどね。はい、どうぞ」
ルーイは、先ほどまで持っていたネックレスをレイルに渡した。
「いやはや、どうも。」
アリエスは後ろ髪を軽く上げた。レイルは慣れた手つきでアリエスにネックレスを取り付けた。
「はい完了。こっち向いて。」
アリエスは、少し恥ずかしながら2人の方向に向いた。首には、美しいネックレスが取り付けられていた。
「ど、どうですかね?」
「似合ってますよ。」
「私もルーに同じく」
「良かったです。レイルさん、ありがとうございました。」
「いえいえ、そーんなことないですよ―」
レイルは、アリエスの感謝に返答しつつ、その場に倒れた。顔から落ちうつ伏せの状態でその場に倒れている。
「レイルさん!大丈夫ですか!?」
アリエスは焦った表情でレイルに欠け寄ったが、ルーイはカウンターに向かい、毛布を取り出している。
「アリエスさん、安心してください。レイルはあの魔法を使うと眠くなっちゃうんです。でも今回は長く起きてたかもしれませんね。」
「そうなんですか…。焦りました」
アリエスは安心して溜め息をついた。その姿を見てルーイはクスッと静かに笑った。アリエスの姿が初々(ういうい)しかったのだろう。
ルーイとアリエスは、レイルの体を持ち上げ、先ほどまでルーイが座っていたいた椅子に移動させた。その上にルーイはそっと毛布を掛けた。
「これからどうしましょうか?このまま無断で立ち去るのもなんか悪い気がしますし…」
「それじゃあ待っていましょうか。大体15分もすれば起きますから。」
ルーイはカウンターの奥から椅子を2つ取り出してきた。かなりこの店に来ているようで、様々な物の位置をルーイは把握している。
取り出された椅子にルーイが先に座り、先ほどまで読んでいた本を読み始めた。アリエスは座る前に本棚の様々な歴史書をじっくりとみている。どの本も、街中では滅多にみられる代物ではなく、貴重なものが並んでいる。基本、カテゴリー別に並んでいて、小さな歴史資料館と言っても過言ではないほど貴重なものが存在している。
アリエスは棚から3冊の本を取り出して、椅子に座った。1冊は古式魔法について、もう一冊は魔方陣について、最後の一つは表紙に何も題名がなく、中身を読まなければ分からないものだ。
1冊目の古式魔法の歴史書には、主に魔法の名前、種類、効果、効果範囲など、1つ1つの魔法に細かく記載されていた。
当然の如く、古式魔法のため、アリエスが使える魔法は一つもない。主に参考資料としてこの本は見るしかない。
この、歴史書に載っている魔法の属性に、光と闇が入っていない。これだけ本が並んでいても、危険度の高い代物だからというのが、普通に考えたら導き出せる答えだ。
1冊目の本を読み切るまでに、アリエスはちょうど15分を使い果たした。アリエスが次の本を取ろうとした瞬間、レイルは目を開けた。
それに素早く気づいたのは、アリエスだった。
「おはようございます、レイルさん」
「おはよー」
まだぱっとしない返事だったが、意識はしっかりとしている。
「いやー、急に寝ちゃってごめんね。この睡魔にはやっぱ勝てないなぁー」
レイルは笑いながらそう言う。冗談を言えるぐらいに覚醒しているようだ。彼女の目覚めはかなりいい方だ。
毛布を取り、畳みながらレイルはカウンターの方に移動した。そしてそのまま毛布を仕舞い、奥の部屋の1つ前の部屋に入った。
しばらく待っていると、ティーポットと人数分のティーカップをお盆において持ってきているレイルが目に入った。
カウンターに置くと、レイルはアリエスを正面から見た。
「話、するよ!」
「はい!もちろんです。ルーイさんいいですか?」
アリエスは時間の都合を尋ねた。
「それじゃあ、私は先に帰って、皆さんに多少遅れると伝えてきますね。程々(ほどほど)に楽しんでくださいね」
ルーイはアリエスにそう返事をすると、店の外に出て行った。
「ありゃま。それじゃあカップは2つで良かったかな?」
用意したのは3つだが、幸いなことにまだ茶は注いでいない。1つ多くカップを洗う事にはならなさそうだ。
「それじゃあ始めますか。っとその前に、この本どこにあった?」
レイルがこの本というのは、表紙に題名などの記載が一切ないものだ。
レイルの顔は少し強張っている。
「あそこですけど…。どうかしましたか?」
アリエスは本があった場所を指した。
「いや、この本は結構危ない本だから。しっかり仕舞ってたはずなんだけどなって思ってさ。まあ、普通にはこの本は読めないからね。」
「何か魔法が?」
アリエスはグイッとレイルに近ずいた。
「歴史仲間として教えてあげたいところもあるけど、こればっかりは教えられないかなー」
「そうですか…」
あからさまにアリエスは落ち込んだが、すぐに立て直した。結局は様々な歴史話を聞くことになるからである。
そうして、2人の歴史愛好家の雑談会が始まった。
アリエスとレイルが話し合いを始めたその頃、ロウガと遊楽は観光を始めだした。
基本ロウガが遊楽を先導して村の観光名所などを回ろうというのが、2人の決めた内容である。
しかし、その前にロウガの提案で、この村のギルドに行くことになった。ビジョンの村のギルドがあらかじめ分かっていれば、何か依頼に不都合が生じても解決できるかもしれないという考えだ。
「ギルドに向かう途中で何かあったら言ってくださいっす。わかるところは教えますっす!」
「それじゃあ、遠慮なく言おうかな?」
ロウガの発言は、実はかなり危険なものだったりする。ただでさえ、この世界の物が珍品だらけでまずそこから説明を求めたい遊楽。さらにこの村だけと思われるものの説明までロウガは行わないといけないからだ。こんなことでへばるロウガではないと遊楽は思っているが、表には出さないだけで、精神的な疲れはすごいことになっているかもしれない。
あまり負担を掛けない程度に遊楽は観光を楽しみ、観光の邪魔にならないようにロウガは案内をしている。
そこで遊楽は気になる店を発見した。
「ロウガ」
「なんでしょう兄貴?」
遊楽が指した店は占いを行っている店だった。
「あそこは?」
「俺もあんまわかんないっすけど、最近できたらしいっすよ。なんでもタロットカード?で占うとかなんとか」
「ちょっと寄って行っていい?」
「俺は兄貴についていきますから。」
「ありがとう」
店の外装はいかにもな紫色だ。しっかりとした建築物ではなく、テントで仮建てのような感じだ。ロールアップスクリーンのテントになっており、常に入り口は開いている。しかし中は暗くなっていて、入らない事には内装は分からない。
占いはあくまでも占いであって、絶対的根拠はどこにもない。しかし、当たる占いも少ないわけではない。それが偶然だったのか、仕組まれていたのか、それとも本当の才能なのかは神のみぞ知る世界。そのため、遊楽は今までしっかりとした占いは行ったことがない。朝のニュース番組で行われている星座占いを見るくらいだ。今回はこの異世界の占いへの好奇心よりも、ただ単に占いに興味を持っただけだ。
遊楽とロウガは、足を踏み入れた。
「こんにちは…」
遊楽は恐る恐る中に向かって挨拶をした。挨拶と同時に、2本の蠟燭に火がついた。机の両端に1本ずつ置いてある。机の真ん中にはまとめられたカードが置いてある。机の入り口側には1つ椅子が置いてある。対しておくには、1人の椅子に座っている。フード付きの上着を着ているが、フードは被っていない。
「ようこそ、私の店へ」
占い師は女性だ。彼女は僅かにに笑った。歯は見せていない。女性は遊楽だけでなく、ロウガの存在に気付くと、机を軽く2回叩いた。すると机の中からもう1つ椅子が現れた。
2人はお互いに目を合わせると奥に進み、椅子に腰かけた。
「それで、占ってほしいのはどちらのお方ですか?」
「僕です…」
遊楽はそっと手を挙げた、一方ロウガは、占い師を見つめている。
「何を占ってほしいですか?」
「何を、ですか…。それじゃあ、これからの冒険でのことでお願いします。」
「承知しました。今回は、大アルカナ22枚を使わせてもらいます」
そういうと彼女は、積まれていたタロットカードの山を崩し、全体的に混ぜ始めた。(シャッフル)混ぜ終わると、それを再度1つの束にした。すると次は、山札を3つに分け、それを分けた時の順番と変えて1つに戻した。(カット)これで、一通り終わったらしい。
彼女は、机にタロットカードを横一列になるように広げた。その中から、一枚引き出した。
上下が逆にならないように占い師はカードを返した。(タロット―カードでは、正位置と、逆位置が存在するため、上下が反転するようなめくり方はタブーだ。)
出たカードは、塔のアルカナ。それも逆位置だ。
「どうやら、この先試練があるようですね。ですが、上りきれないものではありません。あなたの努力次第で、希望にも絶望にも変わるでしょう。」
「ありがとうございました。頑張ってみます。代金はいくらでしょうか?」
「お代はいりません。あくまで占いですから。」
彼女はまたしても僅かに笑った。
遊楽とロウガは軽く礼をして、テントから出て行った。2人は日差しを眩しく感じていた。そのため、目が半開きになっていた。
「ロウガはさっきから占い師さんを見てたけど何か気になったの?」
「気になったって程じゃあないんですけど、何か裏がありそうな笑いだったんでつい…。ですが、兄貴が満足したなら充分っす。ギルドに向かいましょうか」
そういうと、2人は足をギルドの方に進めた。
道中、遊楽は何度か足を止めたが、どれも基本飲食店で、先にギルドを優先させた。
この村のギルドは、最初に見えた城のような場所だった。下に入り口があり、水堀になっている。日本の古城とまったくと言っていい程似ている造りがそっくりだ。
入り口に向かっての橋は何時でも開いている。誰でも入れるようで、特に見張りや門番がいるわけではない。
遊楽とロウガは、橋を渡り始めた。橋は木製で、これまた日本の物に似ている。これに遊楽はどこか親近感を覚えていた。
入り口を抜けると、少ししたところにギルドが存在した。中はリーンの街と同じような作りになっていて、和の要素は1つもなかった。
遊楽は多少は落ち込んだが、それを周りに見せるほどではなかった。少なからず予想はしていたからだ。
「こんなギルドですけど、どうっすか?リーンの街と比べて」
「特に大差はないかな。むしろそのまんまだよ。ゲームの休憩所みたいである意味、安心かな。」
「げーむ?は良く分かんないっすけど、まぁそれなら説明が楽っすね。基本は、カウンターでクエスト受注。終了後もカウンターで報告。あとは酒場もあるんで、息抜きにはぴったりな場所っすね」
再確認するために辺りを見渡していると、2階で何やらイベントが起きていること遊楽は見逃さなかった。
無言で階段に足を進める遊楽にロウガが気付くと、少し急ぎ足でついて行った。
2階では、商品の奪い合いが起きていた。奪い合いと言っても、まだ口論だけで住んでいる。店員は女性で、口論をしているのは女性と男性だ。店員の女性はかなり困っているが、口論している女性の勢いは止まらない。男性も勢いは負けていない。
このままではまずいと判断した遊楽とロウガは仲裁しようと思い歩を進めたが、そこで予想外の出来事が起きた。
「あの!この商品の見つかる場所を教えますので、お引き取りしてくれませんか?」
店員は勇気を振り絞って、自ら仲裁に入ったのだった。それに対して、口論していた女性が話しかける。
「ありがとなお嬢ちゃん!これでこのおっさんと揉めずに済むなぁ!」
「誰がおっさんだ!」
どうやら女性の言葉は、男性の怒りをより膨らませただけだったようだ。しかし、第三者として聞いていた遊楽には、挑発しているようにも聞こえた。
女性は地図をもらうと、すぐさまギルドから出て行った。問題が起きる前に出て行ったようで、店員はほっとしていた。
男性は、結局は商品を買ってからギルドから出て行った。
終わったことを確認してから、遊楽はロウガに何の場所尋ねた。
「ここはまぁ、雑貨屋みたいなもんっすかね。基本何でも売ってて、高価な物じゃなかったら最低限の物は揃う感じっす。見て行きます?」
「いや。大丈夫。ギルドがどんな感じか分かったし、街に出てもっと観光しよう。また案内、頼むよ」
「ハイっす!」
そうして2人はギルドを後にした。
一方のアリエスとレイルは、歴史の話がヒートアップしていた。
「この魔方陣の鍵はここの印が重要になっていてね!」
「でもそれならこっちをもう少しずらしたほうがいいんじゃないですか?」
「確かにそうかも…。これは一本取られたね!」
「やっぱいいですね、こういう話!あまりこんな話ができる相手がいませんし…」
「激しく同意」
2人は、話し合いを始めてからかなり時間がたっているが、勢いはいまだに止まらない。むしろ上がっているくらいだ。
先ほどまでは、主に魔法の発動について話していたが、今はこの時代に珍しい魔方陣の話をしている。
魔方陣の印や、印を書く場所によって、初動までの時間や、効果の時間まで決まる。それほど繊細な物と言うのを、街や都市では中々聞くことがないため、あまり外部には知られていない。その中、アリエスがなぜ知っているかと言うのは、もちろん歴史書をかなりの量読んできたからである。
現在2人が話していたのは、先ほど使った転移魔法の構造についてだ。
アリエスの歴史に関する記憶力はとび抜けている。そのため、魔方陣について無知だったアリエスも、説明を受けた今では話について行っている。
「やっぱ、ここまで話についてきてくれる人がいるって言うのは、いいものだねー」
「そうですね。お互いの趣味が話せる機会なんて滅多にありませんからね」
「うーん…これだったらアリエスにも教えていいかな。」
レイルは軽く悩んでいる。
それを横からアリエスは覗いている。
「良し決めた!さっきの禁書について教えてあげる。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「た・だ・し!絶対他言無用だからね。それを守れるなら教えてあげる」
「もちろんです。誰にも言いません!」
レイルは1度頷くと、先ほどしまった本を再度取り出してきた。
相変わらず表紙に題名などの記載はなく、何について書かれているのか、まったく想像がつかない。
レイルは、取り出した本を開いた。しかし、中にも何も書いてはいない。
アリエスは、何もわからないまま、レイルと本を交互に見ていた。
それに気づいたレイルは、「あっそうか」と何かに納得したように頷いた。
すると眼鏡を外して、アリエスに渡した。
「この禁書とこの眼鏡は2つで1つの物なんだ」
「かけていいですか?」
「どうぞどうぞ」
アリエスは、レイルから許可をもらうと、早速眼鏡をかけた。
するとその瞬間、部屋全体に様々な文字が浮かび上がってきた。
「!?」
アリエスは何が起こっているか認識できず、眼鏡を外しては掛け、外しては再度掛けていた。
「やっぱその反応するよねー」
「これは一体…?」
「説明しよう。この禁書は、この眼鏡が存在してやっと見れる代物なんだ。その眼鏡には術式が埋め込まれてるんだ。1つはその本が読めるようになる術式。もう1つは、空中に文字を浮かび上がらせるための術式。そしてなんと!この浮かび上がった文字には触ることが出来てしまうのです。いやーすごい時代なったもんだねー」
「確かにすごいです!でも、これが禁書ってことは、内容はかなり危ないものなんですよね?」
「その通り。中身は今でも使用禁止な術式ばっかだよ。役に立つものもあるから私はちょくちょく読んでるんだけどね。」
アリエスは、部屋全体を見渡した。部屋には様々な魔法が浮いている。魔法の詠唱文だけでなく、魔方陣も浮いている。魔方陣に手を伸ばしたアリエスは、そのまま魔法の文章に触れた。そのまま横にスライドすると、文章も一緒に動き始めた。改めて触れられるということをアリエスは確認した。
1度自分の世界に嵌りだすと、中々アリエスは出てこない。レイルはただ静かに横で本を読んで過ごしていた。
10分後、アリエスはようやく自分の世界から戻ってきた。その間にレイルは5冊本を読んでいた。
「お待たせしてしまってすいません。あっ、眼鏡お返しします。」
「別にそんな待ってないから気にしないで。何か参考になる物はあったかい?」
レイルは、かなり素に近い笑顔で尋ねた。
「それはもちろん!私に使えるかは端に置いとくとしてどれもいいものでした。でも確かにこれは禁書ですね…危ない魔法や魔方陣だらけで驚きました」
「禁書を見せた代わりりに、アリエスさん武器貸して!お願い!」
アリエスは、ただ単に驚いただけだが、その発言にすぐには回答できなかった。
しかし、アリエスは貸すことに関して拒む理由がない。むしろ禁書を読ませてくれた礼をしようと思っていたので、これぐらいでいいのかと逆に不安になっていた。
幸いなことにアリエスは武器を持ち歩いている。背中から鞘ごと太刀を取ると、アリエスはレイルに太刀を渡した。
「どうぞ。」
「はい、どうも。…っおも!こんなもん毎日ぶら下げてるのかぁー。女性冒険者ってすごいなー」
「私なんかまだまだですよ」
「そんな風には見えないけどねぇ。それじゃあお借りしますよ~。……これさぁ、ちょっと手加えてもいい?悪いようにはしないから。」
「いいですよ。壊さなければですけどね」
アリエスは冗談にならない顔で笑った。さすがに仕事として必要な道具は大事に手入れをしているので、壊されたくはない。こう思うのは自然なことだ。
しかし、アリエスは禁書のことをかなりありがたく思っているため、レイルに任せることにした。
レイルは太刀の柄の部分を何やらいじっている。そこに小さな魔方陣を書いているようだ。
アリエスは何度か止めようとも思ったが、魔方陣の内容を見る限り、自らの戦闘が優位になることは間違いないと踏んだから、アリエスはただ見ていた。
「ハイ、終わり。お待たせしちゃって悪かったね。」
先ほどまで弄っていた柄には何も書かれてはいない。
「とりあえず、柄には書かず茎に魔方陣は書いといたから。効果は軽量化と耐久度が上がる物。この先役に立つこと間違いなしだよ。」
「ありがとうございます。本来なら私からのお礼のはずなのに、さらに良くしてもらって」
「まぁ気にしないで。武器に魔方陣を掘るの初めてだから、何か不具合があったらいつでもいらっしゃい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
茎とは、柄に収まっている部分だ。そこであれば人の目に着くことはないので、効果を読み取られる心配はない。相手が透視などの能力を持っていなければの話だが。
「それじゃあ、また来ますね」
「はいはい。お客としてでも、友達としてでも、いつでも歓迎するから。またお茶しよーね。」
「はい。それじゃあ失礼します。」
こうしてアリエスもルーイの家に帰り始めた。レイルは、アリエスが曲がり見えなくなるまで見送っていた。かなりアリエスのことが気に入ったらしく、既に次を楽しみに待っていると手に取るようにわかるぐらいだった。
アリエスが帰り始めたころ、遊楽たちはまだ見回っていた。
遊楽が特に行きたい場所が思いつかなかったので、全体をぶらぶら歩きまわっている。
嫌な顔1つも見せずにロウガはついて行ってる。
悩んでいるうちに、遊楽はふと行きたい場所を思いついた。
「そうだロウガ、風呂に行こう。」
「温泉ならすぐ近くに有りますね。それじゃあ出発っす!」
温泉までロウガが前、遊楽が後ろについて行く形だ。道が分からないので当然である。
温泉に着くまでの道のりでも、遊楽は周りを見ている。そこに少し少しロウガが補足説明を入れている。様々な店があり、薬草だけを売っている店や、武器屋、雑貨屋も存在している。足を止めるほどの物はなかったが、1日中周っていても飽きが来なさそうだ。
温泉までは幸運なことに本当に近く、5分もかからなかった。
温泉と言っても、外装は旅館の様な作りだ。実際看板を見てみると、旅館だった。
「ロウガ、旅館って書いてあるけど?」
「ここは日帰り温泉的なことも大丈夫なんっす。」
「そういうことだったのか。説明ありがと。」
「いえいえお構いなくっす。それじゃあ行きましょうか」
中に入ると、そこにはかなりの空間が広がっていた。入り口付近には下駄箱まで用意されている。日本と大差がないようなつくりだ。
遊楽は、この村は安心感の塊だと確信していた。何かと日本と似ているため、親近感があり、遊楽はほっとしていた。
ロウガは受付に着くと、自分から話を進め、遊楽分の代金まで払った。
「ちょま、さすがにお金は出すよ!」
「まぁまぁそこは気にしないでください。次からはお願いしますから」
「それじゃあ今回はお言葉に甘えて…」
ロウガは会計を終えると、店員から風呂に必要なものが一式入った藍色のカバンを2つ受け取った。中身は、大小それぞれのバスタオル。しかし小さめのバスタオルは2枚ある。シャンプーとリンスが1つずつ。石鹸1つも入っている。
受け取ったカバンの1つをロウガは遊楽に渡した。
そのまま、2人は奥に向かった。エレベーターなどの機械類はさすがに存在せず、階段で2階に上がった。
昇って道を進んだ先には、男湯と女湯、2つの暖簾があった。もちろん進んだのは男湯だ。
暖簾の先には、マス目がかなりある棚があり、1つ1つに籠が置いてあった。
もちろん他の客もいる為、幾つかの籠はすでに埋まっていた。
遊楽とロウガは空いていた籠を見つけ、荷物を置き、服を脱いだ。
小さめのバスタオルの1つを腰に巻き、もう1つを手に取り、シャンプー、リンス、石鹸を持ち2人は風呂場に入って行った。
中には他の獣人がいる。その中で遊楽は1人だけの人間なので、周りからかなりみられている。
しかし遊楽は気にせず、シャワーに向かった。もちろん後ろにはロウガがついている。
シャワーの前には椅子と桶が1つずつ置いてあった。
遊楽とロウガは髪を洗い、流していた。その際、ずっと動いていたロウガの耳に遊楽は目が行っていた。
髪を流し終えたところで、遊楽はロウガに質問をした。
「なぁロウガ、耳触っていい?」
「別にいいっすよ。減るもんじゃないですし」
許可をもらったところで、遊楽はロウガの耳を触った。
「おぉ!ふさふさ…、もこもこ…、めっちゃいい」
「いやー喜んでもらえてよかったっす。こっちとしても、気持ちいいんで、いつでも言ってください!」
「それじゃあまた遠慮なく言わせてもらうよ」
遊楽はいったん耳を触るのをやめ、体を洗い始めた。石鹸からはほのかに花の香りがしており、リラックスできる。
1通り終わった遊楽とロウガは、温泉に浸かった。温度は約40度。ちょうどいい温度だ。他にも45度以上の高温風呂があれば、炭酸風呂など変わり種もある。奥にはサウナがあり、ここもまた日本と似ている。
その隣には、混浴風呂と書かれた扉が設置されている。
混浴風呂の扉が目に入った遊楽は、ロウガに即質問した。
「混浴ってどんな感じなの?」
「混浴って言っても、水着着用厳守なんで、今日の俺たちには無理っす。水着さえ持ってれば泳ぎ放題っす!」
「あぁ、温水プールってことか~。世の中甘くない」
遊楽は落ち込んではいないが、喜ぶことでもなかった。ロウガはそれを不思議そうに見つめている。
「なぁロウガ」
「なんっすか?」
「ズバリ、今回の敵はどんな奴だと思う?」
「どんな奴って言うのは?」
「歴史家とか、暗殺者とか、そういう感じの。」
「研究員とか博士じゃないっすかねー。俺らの情報は道端に落ちている物じゃありませんし」
「やっぱそうかー」
遊楽は、話をした後、ゆっくりと温泉を堪能した。
数10分後、遊楽とロウガは温泉を出た。
その時にまた遊楽は周りから見られていたが、今回も気にせずに外に出た。
大きめのバスタオルで髪と体を拭き、服を着た。荷物の忘れがないか確認して、暖簾をくぐった。
先ほど入ってきた出入り口に向かって、階段を下りて行った。風呂上がりの牛乳はなく、飲み物は持参だということだ。
遊楽とロウガは受付の店員にお礼を言い、温泉兼旅館を出た。
「とりあえずやりたいことは終わったし、帰ろうか。僕は帰り道覚えられてないから案内よろしく」
「了解っす!間違ってても許してくださいね」
「もちのろん」
こうして遊楽、ロウガペアも帰路に就いた。
次の投稿は少し遅れるかもしれません。
申し訳ない(≧≦)
しっかり書いてくるので、待ってください!